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第十三章

第236話 壮絶な特訓

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 レイとの試合が終わった。
 結果は引き分けだが、良い戦いができたと思う。
 今のレイを止めるのは至難の業だ。
 リアナはできないと言っていたが、あれくらいのことをやらなければレイに対抗するのは難しい。

 これで大会は終了となり、観客は全て帰らされた。
 騎士たちが、残っている者がいないか厳重にチェックしている。

「えーと、次はレイと隊長の試合だよね?」
「ええ、そうよ。さて……やりましょうか」

 レイはこれから散歩にでも行くかのようにリラックスしながら、両手を頭の上で伸ばしている。

「レイ様、疲れはございませんか?」
「大丈夫よ。アルとの特訓に比べれば全然平気よ」
「そうでしたね。私も参加しましたが、あれは確かにキツかったです」

 レイとジルが珍しく意気投合している。

「ちょ、ちょっと、ジルさんまで!」
「アル君。残念ながら、レイとジル団長の言う通りだよ」
「リマまで!」

 その様子を見ていたヴィクトリアが、笑いながらこちらに向かって歩いてきた。

「さあ、ではレイが大丈夫であれば始めましょう。リマの腕は大丈夫なの?」
「ハッ! 陛下、お気遣い感謝いたします。アタシの腕は動きませんので、辞退させていただきます」
「分かったわ。まあリマはこれからいつでも試合なんてできるでしょうからね」
「ハッ! ご配慮ありがとうございます!」

 続いてヴィクトリアはジルの顔を見る。

「ジル。準備は?」
「ハッ! 観客は全て帰しました。隊長格以外の騎士も外で待機させています」

 その言葉を聞き、疑問が浮かぶ。

「外で待機? ど、どういう意味ですか?」
「ははは、やれば分かりますよ」

 ジルが笑っていた。

 ◇◇◇

 レイ対各隊長の試合が開始となった。
 団長命令で特別にリアナも参加。

 リアナは何もできなかった先程の試合を恥じ、自ら攻撃に出た。
 当然ながら返り討ちに合う。
 だが、レイはその姿勢を評価。

 そして、隊長の試合が行われた。
 各隊長及びジル団長は、レイとリアナほどではないにしろ、明白な実力差があった。
 結局、誰一人としてレイに勝てず終了。

 続いてアルの登場だ。
 歴戦の騎士である隊長たちも、さすがにアルとの対戦は緊張していたようだ。
 もちろん、対人戦闘の経験が少ないアルは、それ以上に緊張していた。

 アルの前に立つヴィクトリア。

「アル、あなたの本気を見せて欲しいの。騎士団のプライドをへし折ってちょうだい。これを機会にクロトエ騎士団はゼロから生まれ変わり、さらなる高みを目指すわ」

 ヴィクトリアはあえて騎士団を追い込むことにした。
 昨今のモンスターが活発になっていることへの警戒や、竜種に対抗できなかった悔しさもあるだろう。
 それに、今後アルたちが国を興すとなると、これまでのようにアルとレイに頼ることができなくなるのは間違いない。

 ヴィクトリアの言葉にレイが頷いたので、アルは了承し各隊長と試合を開始。

 ヴィクトリアの依頼通り、アルは一切の容赦なく、全員に対し一瞬で勝負を終わらせた。
 それも、全員の剣を叩き斬るという離れ業をやってのける。
 アルが使った剣は全員と同じ木製の剣だが、キレとスピードで次々と剣を斬っていった。
 折るのではなく斬るのだ。
 これには各隊長もプライドをへし折られた。
 だが、それで終わる隊長ではない。
 新しい剣を取り出し、何度もアルに立ち向かう。
 それはもうアルによる稽古だった。

 最強を誇る騎士団隊長の惨敗は見せられない。
 観客や騎士を外に出したのは、そのための配慮だった。
 それに、こういったイベントには、必ず他国の諜報員が紛れ込んでいるからだ。

 隊長といえども、苦悶の表情を浮かべ試合という名の稽古が続く。
 ヴィクトリアもそれを許し、日が沈むまで行われた。

 ――

 翌日、王城の地下室に男女二人の姿。

 アルとリアナだ。
 ジルの命令で、アルと丸一日稽古をすることになったリアナ。

 リアナは騎士団上層部から、将来的に近衛隊を率いることを期待されている。
 ゆくゆくは騎士団を背負うことにもなるだろう。
 アルはそれを知っているので、厳しい稽古を行うとジルに約束していた。

 稽古が始まると、リアナは必死についていく。
 だが、そもそもの次元が違う二人だ。
 リアナは何度も心が折れていた。

「はあ、はあ。アンタ、マジでヤバいね。人間じゃないよ。もう無理だよ」
「こんな軽い稽古で何言ってるんだよ。こんなの常識の範囲だぞ? 騎士ってそんなもんなのか? 甘すぎないか?」
「クソッ! バカにするな! まだまだああ!」

 珍しく煽るアルだが、全てリアナのためだった。
 倒されては何度もアルに立ち向かうリアナ。
 食いしばった口からは血が滲み、大粒の涙が頬を濡らす。
 何度も嘔吐した。
 吐きすぎて胃液しか出なくなっていても吐く。
 三十本以上も剣を折られ、手のひらの皮は全て剥け流血、手足には大きなアザができていた。
 それでも、必死の形相でアルに喰らいつくリアナ。

 丸一日続いた地獄の稽古が終了。
 リアナは手足を投げ出し、仰向けで床に倒れ込む。

「リ、リアナ! 大丈夫?」
「ゲホッ、ゲホッ。はあ、はあ」
「ごめんよ! すぐに手当する!」

 救急箱を取り出し、傷だらけのリアナを手当するアル。
 一通りの処置が終わってもリアナは動けない。

 しばらくして、最後の気力を振り絞り、リアナは必死に立ち上がる。
 そのままアルの胸に飛びこみ、大声を上げて泣き始めた。

「うわああああん! アルゥゥ!」
「リ、リアナ。大丈夫かい?」
「アルゥゥ、優しいアンタが。うぐっ。ここまで厳しい稽古をしてくれるなんて。ひぐっ。辛かったよね」
「リアナこそ……。ごめんよ。傷だらけにしてしまった」
「うわああああん! ありがとう!」

 リアナの顔は、血と涙でクシャクシャだ。
 アルも薄っすらと涙を浮かべ、リアナを強く抱きしめる。
 倒れそうになるリアナを支えるためでもあった。
 号泣するリアナの泣き声が部屋に響く。

「あらあら、リアナを泣かしたわね?」
「相当厳しい訓練をしてくださったようですね。感謝します」

 レイとジルが部屋に入ってきた。

「ウチは。ひぐっ。いつか絶対。うぐっ。アンタに勝つよ。うわああああん」
「ああ、いつでも待ってる。俺も負けないよ」
「絶対勝つ! うわああああん」

 その様子を見て、ジルは騎士団の未来が明るいと確信した。
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