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第十三章

第232話 レイの本音

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 その後も試合は続く。
 特に隊長同士の試合は、命がけと思われるほど熾烈だ。
 観客は熱狂し、アルでさえ興奮を抑えられないほどだった。

「これが騎士団の実力……」
「そうよ、あなたやレイは特別って言われているけど、我が騎士団も相当なのよ」
「そうだね。やっぱり騎士団は凄いよ」
「今からでも遅くないわよ。騎士団へ入る? アルのために部隊を新設して隊長で迎え入れるわよ?」
「え? そ、それは……」
「うふふふ、冗談よ」

 そう言いつつも、ヴィクトリアは半分本気だった。

 一回戦の八試合が終了。
 残った八人の中で、レイ以外は全て現役の隊長だ。

 準々決勝のレイの相手は、十二番隊隊長のケイ・シェプセン。
 十二番隊はミラザス地方を守護している。
 ケイは現在の騎士団隊長で最も若い二十七歳で、レイの三つ年上だ。

 ケイが控室でレイの正面に立つ。

「レイ様、負けませんよ?」
「ケイ、あなたのスピードは騎士団一だったけど、それは過去の話よ?」
「先程の試合は見ました。あの程度じゃ私には通用しません」
「へえ、言うようになったじゃない」

 ケイが五年前に入団した時、すでに一番隊隊長だったレイ。
 ケイは自分より若い人間が、それも十九歳という若さで隊長になっていることが信じられず、その美しさで上層部に取り入って、地位を獲得したと決めつけていた。
 正義感が強いケイは、その不正を暴くため、レイに喧嘩を売ったことがある。
 容姿だけの女に、本当の強さを教えてやろうと思ったのだ。

 レイに戦いを挑んだケイは、勝利して事実を公にしようと目論む。
 何人かの騎士に止められたが、ケイは話を聞かなかった。
 止めた騎士たちは、ケイの命が心配だったのは言うまでもない。

 当然ながら、実力で隊長になっていたレイ。
 さらには、騎士団の理念すら変えるほどの圧倒的な力を持っていた。

 当時のレイはまだアルに出会っておらず、自分にも他人にも容赦のない冷酷な性格だった。
 もし、あの時リマが止めてなかったら、ケイは殺されていたかもしれない。
 もちろん騎士殺しは死罪だが、正式な決闘での事故は状況に応じて無罪となる。
 レイの実力ならどうとでもなった。

 決闘後はケイが正式に謝罪。
 それからは、年齢も近く同性ということで、仲良くなっていく二人だった。

 実は性格も似ている二人。
 さらには身長含め、体格もほぼ同じだ。
 ケイはレイとの決闘後から、薄い緑色の長髪をレイと同じように後頭部で一本に結いている。
 白い肌、細くつり上がった目、頬には薄っすらとそばかす、通った鼻筋、薄い唇と異国の顔立ちなのだが、レイとはどことなく雰囲気が似ていた。
 
 ケイはレイに憧れていた。
 あまりにも美しい顔、明晰な頭脳、そして圧倒的な武力。

「自分と同じ体格で、どうしてあれほどまでに強いのだろう」

 ケイはレイを真似た。
 ただひたすらにレイを追いかけたのだった。

「さて、レイ様に今の私を見てもらおうか」

 礼を行い試合開始。
 先手必勝とばかりに、ケイはレイに向かって突きを放つ。

「あれは! レイの突き!」

 観戦席で見学していたアルが叫ぶ。
 アルが見間違えるほど、レイの突きと酷似していた。

「届く!」

 ケイは勝利を確信。
 観衆もレイの喉元に突きが決まると思った。

 だが、レイは突きを剣で弾く。
 これは以前、レイとの稽古でアルが見せた技だった。

 剣を弾かれ体勢を崩したケイは、反撃を警戒し背後へ大きく飛び退く。
 再度対峙する二人。

「はあ、はあ。あの突きを難なく弾き返すとは!」

 ケイは呼吸を整え、次撃の準備をする。
 だが、レイが自分の呼吸を読んでいることに気付いたケイは、レイの突きを警戒。
 レイの突きは、今や死の彗星デ・モールと呼ばれていることを知っている。
 ケイは呼吸法を変え、さらに微妙な動きでフェイントを入れた。

 レイもまたそのことに気付く。
 観客が気付かない中で、高度な駆け引きが行われていた。

 レイが突きを放つ。

「来た! 死の彗星デ・モール!」

 リアナとの戦いで、突きの速度はしっかりと頭に入っているケイ。
 レイの剣を弾こうと剣を出す。
 だが、先程リアナに見せた動きとは違うことに気付く。
 いや、スピードの次元が違う。

「は、速すぎ……」

 右手の剣を飛ばされ、右肩を突かれ、喉元で寸止めされた剣。
 三段突きだった。

「クッ、三段突きとは……完敗です」

 ケイは素直に負けを認めた。

「ふふふ、強くなったのはあなただけじゃないのよ」
「そ、それにしたって、強くなりすぎですよ」
「まだよ。私はこんなものではないわ」
「まだ? これで?」
「だってアルと一緒にいるのよ? あの子と一緒にいたら嫌でも強くなるわ」
「ア、アル殿は、それほどなんですか?」
「そうよ。いくらあなたが強くても、Aランクモンスターの槍豹獣サーべラルを一撃で倒せる? 二週間で二頭のネームドを一人で討伐できる? 竜種だって倒しちゃうのよ? あの子についていくって、本当に、本当に命がけなのよ。あなたにできる?」
「そ、それは大変ですね……。私には……無理です」
「皆私と結婚したアルが大変だって言うけど、アルについていく私の方が一万倍大変なのよ?」
「レイ様が?」
「そうなのよ。弟子だったのに、いつの間にか私を遥かに超えちゃってさ。サポートするのも大変なのよ。でも、アルとの生活は刺激的で楽しいけどね」

 レイが珍しく本音を語った。
 それほどケイとは仲が良いのだろう。

「ハハハ、レイ様。アル殿と離婚したら、いつでも戻ってきてください」
「しないわよ!」

 二人は握手をして試合場を下りた。
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