鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十三章

第225話 女神降臨

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 翌朝、メイドが用意してくれた純白のタキシードに着替え、俺の支度は終わった。
 レイは別室で支度をしている。

 すると、部屋に一人の騎士が入ってきた。
 近衛隊小隊長のリアナだ。

「失礼いたします! アル様! 本日の護衛につかせていただきます」
「リアナが? それは嬉しいな」
「ハッ! リマ様のご配慮であります!」

 最敬礼したリアナ。
 そして、俺の耳元まで顔を近付けてきた。

「アル。レイ様と結婚本当におめでとう。ウチ、アンタと知り合えて本当に良かったよ」

 俺も小声で返す。

「ありがとう、リアナ」
「ねえ。アンタ、レイ様のドレス見たことあんの?」
「昨日見たよ。凄かった」
「だろうね。でもウェディングドレスはまだだよね?」
「ああ、そうだよ」
「死なないようにね……」

 リアナがすぐに俺から離れる。
 そのタイミングで、ドレスを着たレイが戻ってきた。

「う、うわああ!」

 リアナが声を上げた。

「し、失礼いたしました!」

 リアナはすぐに謝罪の言葉を述べ、壁際へ移動し直立不動で待機。
 頬を赤くし、涙で溢れている。

 純白のドレスに身を包むレイ。
 肩から腕にかけて、あらわになった雪のような白い肌。
 胸元はレースで、驚くほど細い腰から、裾に向かって大きく広がったスカート。
 王国の服飾職人が数十人がかりで仕上げたドレスだ。
 服のことは分からない俺でも、糸の一本、縫い目の一つまで美しいと思う。

 レイがベールの下から俺を見ていた。
 床まで届く繊細なベールの下で、絹のような光沢を持つ金色の長髪が輝く。

「ど、どうかしら?」

 俺はウェディングドレスを着たレイに見惚れていた。
 薄っすらと化粧をしているその美しい顔は、女神の降臨かと思わせる。
 言葉が出ない。

「アル?」
「あ……。き、綺麗だよ、レイ。本当に信じられない美しさだ」

 絶世の美女と謳われるレイ。
 俺だってその美しさは知っているし、何度も見ている。
 鎧を着ても、普段着でも、髪を結いていても、おろしていても、笑っていても、冗談を言っていても、怒っていても、戦っていても、昨日のドレスも、いつもレイは綺麗だった。
 だが、今目の前にいるレイは、これまでで最も美しく、神々しいまでの眩さだった。
 俺はこれ以上の美を知らない。

「本当に綺麗だ」

 大きく息を吸い、細くてしなやかなレイの手を取った。

 正装したメイドたちに囲まれながら教会へ移動。
 レイが教会へ入ると、一瞬の静寂が生まれた。
 人はあまりにも衝撃的なことが起こると、反応が止まり声も出ないと聞いたことがある。
 俺もさっき体験したのだが、まさにその通りだった。

 その直後、歓声と溜め息が一気に広がった。

 騎士団を中心に国家の要職が見守る中、俺たちは大司教の前で結婚を宣誓。
 俺は改めて、流星の指輪ステラーをレイの左手の薬指にはめる。
 ヴィクトリアが証人となり、立会人の大司教と宰相が書類にサイン。
 これで正式に結婚が認められた。
 
「アル、レイ。おめでとう。レイ、あなた本当に綺麗よ。嫉妬もできないくらい」

 ヴィクトリアが涙を流しながら祝福してくれた。
 大司教や宰相からも祝言をいただく。

 後ろを振り返ると、騎士団団長のジルを筆頭に、騎士団からの参列者は全員泣いていた。
 リマにいたっては、信じられないほど号泣している。

「レイが……レイが世界で一番綺麗なお嫁さんになったぞ。ついに夢を叶えたぞ。ああ、この姿を見せたかった」

 呟きながらも嗚咽していた。
 式が終わり、俺たちは一旦控室に戻る。

「ふうう、終わったね」
「ええ、素晴らしい式だったわ。ヴィクトリアに感謝しなきゃね」
「レイ、本当に綺麗だったよ。俺、レイと結婚できて幸せだ」
「や、やだ……。私もよ。あの、アル。私の夢を叶えてくれて、本当にありがとう」

 レイの夢とはなんだろうか?
 分からないが、レイが喜んでくれることが一番嬉しい。

 すると、ヴィクトリアが部屋に入ってきた。

「ああ、レイ姉様。本当に、本当におめでとう。レイの幸せは私の幸せだもの。本当に嬉しいわ」

 ヴィクトリアは号泣していた。
 式ではその立場から泣かないように頑張っていたそうだ。
 それでも涙が出てきたとのこと。

「ありがとう、ヴィクトリア。あなたのおかげで、とても素晴らしい結婚式を挙げることができました。あなたと知り合えて、あなたと過ごせて、私は幸せでした。本当に感謝しています」

 ヴィクトリアの両手を握るレイ。

「うぅ、レイ。もっと早く知っていたら、各国に招待状を送ったのにぃ。この姿を世界中に見せたかったのにぃ」
「やめなさい!」

 号泣しながら、恐ろしいことを言っていたヴィクトリア。

「アル様、レイ様、こちらを召し上がってください」

 メイドのマリアが軽食を持ってきてくれた。
 少しだけ休憩し、パーティー用の衣装に着替える。
 なぜかヴィクトリアもレイと一緒に着替えていた。
 本当に仲の良い姉妹のようだ。

 すぐにパーティーの時間となった。
 パーティードレスに身を包んだレイ。
 何度見ても、この世のものとは思えない、まさに天から舞い降りた女神のような美しさだった。

 着替えたヴィクトリアが俺の横に立つ。

「ねえ、アル。あなたレイばかり見てるけど、私はどう?」
「え? も、もちろん綺麗だよ。だって、女王様だよ?」
「何よ、その感想! もう! まったく!」

 ヴィクトリアは怒っていたが、レイは笑っていた。

 俺はレイとヴィクトリアと宴の間へ移動。
 警護のリアナやメイドたちも一緒だ。

 和やかな雰囲気の中、パーティーは開催。
 レイはすぐに貴婦人たちに囲まれた。

 かくいう俺も、貴族や役人たちに囲まれている。
 恐らく俺と面識を持ちたいのだろう。
 家柄だったり、役職を一生懸命説明してくる。
 話しかけてもらえるのはありがたいが、俺にはどれほど高貴なのか分からない。
 数年前まで山で暮らしていた田舎者の俺は、都会のことや、貴族の家柄に関して全くといっていいほど知識を持っていないだった。

 それでも知らない世界の話を聞くのは面白く、貴族たちの話に耳を傾けていた。
 だが、酒が入ってくると、なぜか俺に挑戦状を叩きつけてくる貴族が出てくる。
 それをリマが手慣れたように笑顔で排除。

 実は、そのリマも酒を飲んでいた模様。
 突然、俺に向かって指を差してきた。

「アル君! レイを自分のものにするのは、アタシを倒してからだ!」
「え? ちょっ、ちょっと、リマ?」

 場がざわつく。
 すると、レイがこちらへ歩いてきた。
 さらに、ヴィクトリアまでやってきたのだった。

「こらこら、リマ。あなた何やってるのよ?」
「リマ隊長。いいでしょう。許します」
「ヴィクトリア!」

 レイは怒っているが、ヴィクトリアは楽しんでいるようだ。
 この様子なら、無礼講ということでリマも許されるだろう。
 とはいえ、リマの暴挙は止めたい。

「ちょっと! ヴィクトリア! リマを止めてよ!」

 このパーティーの場で、俺が女王陛下を呼び捨てにしたのはまずかった。
 周囲の貴族、元老院、騎士まで殺気立った。
 レイは苦笑いしている。
 俺も発言直後にことの重大さに気付くが、後悔してももう遅い。

「アルったら、この場で私を名前で呼ぶなんて勇気あるわね。やっぱり私のこと好きなの? 私は別にいいのよ?」
「こうなったら仕方ないわね。アル、私のことを守ってよ?」

 ヴィクトリアが悪乗りを始め、レイまで乗ってきた。
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