鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十三章

第223話 家族の食卓

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 日没を迎え、陛下が部屋にいらした。

「待たせたわね。さあ、食事にしましょう。今日はレイが好きなメニューよ」

 テーブルに並んだのは王国でよく見かける料理で、品数も一般家庭より少し多いくらいだ。
 一般的なレストランで食事をするのとほぼ変わらない。
 少し意外だった。

「アル。レイはね、宮廷の高級料理よりも、こういったイーセ王国の郷土料理が好きなのよ」
「そうだったのですね」
「でも明日の晩餐会は宮廷料理よ。あなたたちに食べてる暇はないと思うけどね。うふふふ」

 陛下の屈託のない笑顔で、俺の緊張はいつの間にか解けていた。
 家族で食卓を囲んでいる雰囲気だ。
 レイが牛鶏クルツのモモ肉ステーキ食べながら、陛下の顔を見つめている。

「もう、ヴィクトリア。マリアから聞いたわよ。好き放題やりすぎよ?」
「いいじゃないの。私にとってレイは姉のような存在だもの。姉のお祝いをして何が悪いの?」
「まったく……」
「ねえ、レイ。今日は一緒に寝ましょう」
「別にいいけど。アル、いい?」

 レイが俺の顔を見た。
 少しだけ不安そうな顔だが、断られると思っているのだろうか?

「もちろんだよ。ゆっくり再会を楽しんで。でも、寝不足には気をつけてね」

 レイが笑顔で「ありがとう」と言うと同時に、陛下も反応した。 

「アルは優しいわね。ねえ、アル。私にもレイと同じように接してもらえないかしら? ヴィクトリアと呼んで?」
「そ、それはさすがにできかねます」
「えー、いいじゃないの。それに建国したら、あなたは国王になるのよ? 立場は対等よ?」
「そ、そうは言っても……」
「今から練習しなきゃ」

 俺は助けを求めるようにレイの顔を見る。
 すると、笑顔で頷いていた。

「か、かしこまりました。公式の場以外では、そのようにいたします」
「うふふふ、じゃあ今からね!」

 陛下が無邪気に笑う。
 そして、何かを思いついたような表情で、胸の前で手を軽く叩いた。

「レイは私の姉で、アルはその夫でしょ? ということは、私の義兄になるのね。年齢は私が上だけど。うふふふ」
「もう、あまりアルを困らせないの!」

 レイが苦笑いしていた。
 陛下は幼い頃から、気軽に接することができる同世代の友人がいない。
 レイと知り合い、初めて対等に付き合える友人を得たと以前伺ったことがある。
 俺がその存在になれるのか分からないが、俺も陛下のことは好きだし、陛下が望むならそのような存在になりたいと思う。

 そんなことを考えていると、レイと視線が合い微笑んでくれた。
 まるで、俺の考えてることなんてお見通しという優しい表情だ。

「そうだ、ヴィクトリア。私たちの婚姻届は王国へ出すわよ」
「本当に? 帝国に住んでたから、向こうへ出すかと思ったわ」
「イーセ王国はアルの母国だもの」
「うふふふ、嬉しいわ。じゃあ、私が証人になるわね」
「え? ダ、ダメよ! 国王陛下が結婚の証人なんて前例がないわよ!」
「いいじゃないの。ね、え、さ、ま」
「宰相や大司教に怒られるわよ?」
「うふふふ。さっきその大司教にレイの結婚を伝えたら、大司教自ら立会人になるって張り切ってたわよ?」
「はああ?」
「あと、役人の方は宰相が立会人になるそうよ」
「は、話が大きくなっていく……」

 珍しくレイが頭を抱えていた。

 イーセ王国での結婚は、証人一名と立会人二名が必要になる。
 証人は、夫婦となる人物の身内や関係者に依頼するのが通例だ。
 立会人は、教会から一名と役場から一名。
 通常はその地区の教団の司教か司祭と、役場の婚姻届対応職員が形式的に行う。

 それを今回は、証人が国王陛下で、立会人は大司教と宰相だという。
 大司教はイーセ王国内の教会でトップの存在だ。
 大司教の地位の上には、教皇しか存在しない。
 その教皇は教皇領を統治しているため、イーセ王国の教会に関しては全て大司教が取り仕切る。

 宰相はイーセ王国で国王に次ぐ位だ。
 俺たちの婚姻届は、イーセ王国のトップたちが認めるという、前例のないものになる模様。

「もし時間に余裕があったら、ザッファー教皇領から教皇猊下もいらしたと思うわよ。猊下はレイを可愛がっていたもの」
「本当に前もってあなたに伝えなくて良かったわ。猊下までいらしたら、国際式典に発展するもの……」
「うふふふ。レイの結婚って、それほどのことなのよ?」

 俺は二人のやり取りを聞いて、とんでもないひとと結婚してしまったような気がしてきた。

 食事が終わると、一旦戻って来たマリアが紅茶を淹れてくれた。
 陛下は、ヴェルギウス討伐やアフラ建設の話を熱心に聞いている。
 ふと窓の外を見ると、月が顔を出していた。

 マリアが陛下にお辞儀をする。

「ヴィクトリア様、お時間でございます」
「え? もうそんな時間なの?」
「左様でございます」

 陛下は名残惜しそうに席を立つ。
 俺は陛下とレイを扉まで見送る。

「アル、レイを借りるわね」
「わ、分かったよ。……ヴィ、ヴィクトリア」
「うふふふ、やっと言ってくれたわね」

 正面に立つ陛下が、突然俺に抱きつき背中に腕を回す。
 そして、その体勢のまま俺の顔を見上げた。

「明日の朝はゆっくりで大丈夫よ。全てメイドたちが行うから、安心して寝てくださいな。に、い、さ、ま」
「ちょ、ちょっと……」

 レイが笑って見ていた。
 さらに、手をこまねいている。

「アル、寂しかったらこっちの部屋に来てもいいからね」
「だ、大丈夫に決まってるだろ!」

 美女二人は、俺をからかいながら部屋を出ていった。
 その後をメイドたちが追う。

 この尋常ではない豪華な部屋に、俺と俺を担当する四人のメイドが残った。
 どうにも落ち着かない。
 特にやることもないので、壁に飾られた絵画やモンスター素材の彫刻を見て回る。
 すると、一人のメイドが近付いてきた。

「アル様、葡萄酒をお出ししますがよろしいですか?」
「え? ありがとうございます。まだ眠るには早いし、やることもないから助かります」
「アル様、私どもに敬語は不要でございます」
「あ、そうか。そりゃ、そうだよね」
「それでは葡萄酒をお持ちいたします」

 初対面では敬語を使ってしまう。
 普通はこれでいいのだけど、状況に応じて変えられるようにしないといけない。

 バルコニーで葡萄酒を飲もうとすると、メイドがすかさず焚き火台を用意してくれた。
 焚き火の暖かさと、冬の冷たい空気が心地良い。

「皆寒いでしょ? 部屋の中にいて。というか、そろそろ仕事が終わる時間でしょ? あとは自分でやるから大丈夫だよ」

 俺はメイドを下がらせた。

 バルコニーで葡萄酒を飲みながら、眼下に広がる街の灯りを眺める。
 座る椅子は、トーマス工房のリクライニングチェアだった。

「凄いな。王城にも採用されたのか。帰ったらトーマス兄弟に報告しなきゃな」

 リクライニングチェアの背もたれを斜めにして、ゆったりと寝そべるように座る。
 久しぶりに一人の夜だ。

 焚き火の揺らめく炎に目をやり、レイと出会う前の生活、レイと出会ってからの旅、冒険者の生活、ネームド討伐、シドとの出会い、始祖との遭遇、竜種討伐、そしてレイとの結婚と、ここまでのことを全て思い返していた。
 無我夢中でやってきたが、今思い返すとどれも信じられない出来事ばかりだ。

 だが、きっとこれからも俺の想像を超える出来事が待っているだろう。
 俺には凄い仲間がいるし、エルウッドがいるし、何よりレイがいる。
 どんなことも乗り越えられるはずだ。

「楽しみだな」

 俺はグラスの葡萄酒を飲み干した。
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