鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十三章

第218話 変わる生活 変わらない価値観

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 アフラを出発して十日。
 サルガはもう目の前だ。
 ここから、ようやく人の領域となる。

「やっと着いたね」
「そうね。これで安心して眠れるわ」
「いやいや、レイはテントでも熟睡していたよ?」
「ちょっと! 何よ!」

 レイは頬を膨らませている。
 街に着いた安心から、冗談も言えるようになっていた。

「まったくもう……。さあ、まずは国境超えよ」

 イーセ王国に入るための入国手続きが必要になる。
 街の城門へ近付くと、街道を警備する騎士五人がこちらに気付いた。

「レ、レイ様! アル様! ど、どうされましたか?」
「これから王都へ向かうのよ。サルガで入国手続きを行うわ」
「王都へ! か、かしこまりました! 少々お待ち下さい!」

 そう言うと、隊員が百メデルト先の出入国の城門へ走った。
 彼はアフラで見たことがある。
 釣りが上手く、よく魚を差し入れてくれた隊員だ。

 俺たちが城門へ近付くと、国境警備隊の小隊長が必死の形相で走ってきた。

「レイ様! アル様! 入国手続は不要です! このままお通りください! 手続きは全てこちらで行います!」
「ありがとう。でも、小隊長は大丈夫なの? そんなことして責任問題にならない?」
「ハッ! ジル・ダズ団長より、皆様に手続きは不要と仰せつかっております!」
「そうなのね。分かったわ。ありがとう、小隊長」
「ハッ! お気遣い感謝いたします!」

 俺たちは手続きすることなく入国。
 サルガに来たのは七ヶ月ぶりほどだが、ヴェルギウスに壊滅された街は見事に復興。
 ジルによって計画的に整備された街道や区画は、驚くほど美しい街並みを演出していた。

「凄いね。ここまで綺麗に復興できたんだ」
「そうね。ジル・ダズの手腕は素晴らしいわね」

 俺たちが市街地へ入ると、噂を聞きつけた住民や冒険者たちが、俺たちを見物に来ていた。
 小隊長が教えてくれたのだが、ヴェルギウス討伐の話はすでに世界へ伝わっているそうだ。
 さらに冒険者ギルドのサルガ支部長や、騎士団十番隊のサルガ区隊長、サルガ首長までも挨拶に来てくれた。

 俺たちは、そのままサルガの最高級宿に宿泊。
 最上級の部屋で、二人で一泊金貨二枚だ。

 部屋に入り、リビングのソファーへ座り込む。

「ふうう、凄い歓迎だったね」
「あなたは今、世界で最も話題の冒険者だもの」
「気軽に街を歩けないな……」
「そうね、私たちは注目されているわ。だからこそ、冒険者として憧れを持たれるような振る舞いが必要なのよ」
「それでも一泊金貨二枚は高いよなあ」
「お金を使えば、それだけ経済も回るのよ?」
「そうか……分かったよ。というか、これからはどこへ行ってもこういう生活になるんだよね」
「ええ、そうよ。正直私は慣れてるけど、あなたは初めてだものね。でも、それもこれも、今まであなたが考えなしにモンスターを討伐しまくったからよ? 自業自得よ」
「う、うるさいな!」
「ふふふ」

 レイにさっきの冗談の仕返しをされたようだ。

 正直、俺はどの宿でも構わないのだが、レイの言うことは理解できる。
 ヴェルギウスを討伐したSランク冒険者として、相応の振る舞いが必要だろう。
 新国家立ち上げのことは当然ながらまだ世間に知られていないが、俺たちの生活が大きく変わっていくのは間違いない。

 ――

 翌日、金貨二枚を支払い出発。

「驚くほど豪華だったけど、やっぱり一泊で金貨二枚って高すぎるよ」
「ふふふ。世界最高金額を稼ぐ冒険者様も、金銭感覚は変わってないのね」
「そりゃそうだよ。そう簡単に価値観は変わらないって」
「そこがアルの良いところね。高ランクになると、金銭感覚が狂って破産する冒険者も少なくないわ」
「そ、そうなんだ。気をつけるよ」
「でもね、あなたはどれだけお金を使っても、破産なんてしないわよ?」

 レイが笑っていた。
 確かに俺の獲得報酬は史上最高と言われている。
 それに、ヴェルギウス討伐にいたっては金貨十万枚の報酬だ。
 だがその報酬は全てユリアが管理し、アフラの建設に使うのだった。

「ねえ、俺はもう自分の資産を把握していないんだけど……。大丈夫かな?」
「大丈夫よ。今は私が管理しているし、ユリアも関与しているもの。心配しないで平気よ」
「そうなんだ。分かったよ。ありがとう」

 サルガを出発し、王都へ向かって街道を北上。
 俺たちの鎧は真紅と紺碧で目立つことから、道中は常にローブを纏い隠していた。
 さらにレイはフードで顔も隠している。
 それでも宿場町や都市に入ると、どうしても噂となり、すぐに見物人が集まるという状態だった。

 ◇◇◇

「レイから手紙が届いたぞ!」

 シドが手紙を握り、アフラの事務所に入った。

 アフラとサルガは約五百キデルト離れているが、連絡用の大鋭爪鷹ハーストを使えば、手紙や軽い荷物は半日もかからず到着する。
 レイはサルガに到着と同時に、シドへ手紙を出していた。

 ちょうど夕食の時間で、オルフェリア、ユリア、ジョージ、ローザと全員揃っている。

「どれどれ……」

 手紙を読み始めたシド。

「は、はあ?」
「ど、どうしたのですか? シド」

 シドが珍しく驚きの声を上げた。

「アルとレイが無事サルガに着いたそうなのだが、途中の森で蕈砦竜サイロン一頭と槍豹獣サーべラルを二頭討伐したそうだ」
「な、なんですと!」

 ジョージが腰を抜かすほど驚いていた。

「サイロンはアルが一撃で首を斬り落とした。サーベラルもアルとレイがそれぞれ一撃ずつで仕留めたと書いてある」
「な、なんですって!」

 オルフェリアも驚いた表情だ。

「サイロンって、あのサイロンですよね? 二十メデルトもある巨体を相手に……。あの二人はどこまで行くのでしょう……」
「森の縄張りを荒らしたことで、サイロンは執拗に追ってきたみたいだな。だが、紅竜の剣イグエルで返り討ちにしたそうだ」

 シドの説明を聞いて、剣を打ったローザが不敵な笑いを浮かべていた。

「ククク、そうでしょう。あの剣は何でも斬りますから」

 シドは再度手紙に目を落とす。

「サーベラルの素材は、偶然遭遇した騎士団の交易隊が持ち帰る。サイロンの素材は放置してあるので、私の指示に委ねると書いてある……。ふむ」

 シドが右手で顎を触る。

「ジョージ、サイロンの研究なんて普通はできないだろう?」
「もちろんですじゃ! シド様! なんとしてでも、サイロンの素材を持ち帰るのです!」
「分かった。騎士団に依頼して、素材の回収隊を編成しよう。私とオルフェリアが同行する。ジョージとローザも来てくれ」

 ローザが驚いた表情を浮かべる。

「ジイさんは分かりますが、私もですか?」
「君は元Bランク冒険者だ。少しでも戦力は欲しい」
「昔のことですよ? でも分かりました。護衛ならできるでしょう。それに、アルが斬り落としたサイロンの傷口を見たいですからね。ククク」

 シドはさっそく回収隊を編成し、素材を回収するために森へ出発。

 道中では全員が何度も驚くことになった。
 サイロンとサーベラルというAランクモンスター以外にも、BランクやCランクモンスターを討伐した痕跡がいくつも残っていたからだ。
 痕跡とは、すなわち死骸である。

「シ、シド。これって全部あの二人の仕業ですよね?」
「剣で切られているからな。しかもこの鋭い切断面は、あの二人以外いないだろう」

 中には腐食獣竜スカベラスなどの腐肉を漁るモンスターや、肉食動物に荒らされた死骸もあったが、原型をとどめていたり、素材として持ち帰ることができる死骸もあった。
 モンスターの素材は貴重だ。
 オルフェルアを中心に解体していった。

 その様子を眺めるシド。

「ここは……死神が住む森モラ・ネイだな」

 森の中で、木々を見上げながらシドが呟いた。

 ◇◇◇
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