鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十二章

第211話 ユリアとジョージ

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 騎士団を見送り、この地に残ったのは俺、レイ、シド、オルフェリア、ユリア、ジョージ、ローザ、トーマス兄弟、トーマス工房の職人二十人。

 合計で二十九人。
 そしてエルウッドだ。

 ちょうど全員揃ったので、そのまま広場で今後のことを話し合った。
 いよいよ本格的に始まる飛空船の建造、新国家の立ち上げ、アフラの街の建設。
 やることは山ほどある。

 シドとトーマス工房は飛行船を担当、さらにシドは街の建設も担当、レイとユリアは新国家担当、オルフェリアとジョージはヴェルギウスの論文執筆、ローザは装備品の製作を担当する。
 俺は特に秀でた能力も経験もないので、皆の手伝いをするという立場だ。
 逆に何でもできるシドは、全ての案件を見る。

 正直、俺にできることは鉱石の採掘と戦いだけだった。
 この中で年齢は一番若く経験もない。
 皆の足を引っ張らないように精一杯頑張るつもりだ。

 ただ、時間はあるので執筆を進めることになった。
 これは新国家の出版事業に直結するので、ユリアはむしろ「早く書きなさい!」と急かしてきたほどだ。
 やるべきことが明確になった俺たちは、これまで以上に一致団結した。

 広場からの帰り道、俺は横を歩くレイの顔を見つめる。

「レイとユリアの新国家の立ち上げ担当って、どう考えても一番大変だよね」
「まあ私は騎士団で団長をやっていたし、政治や議会に関しても経験があるわよ。クロトエ騎士団の団長って、国王、宰相に次いで大国イーセ王国の上から三番手だもの。それなりの経験は積んでいるわ」
「す、凄いんだね」

 改めてレイの凄さを認識した。
 どうやったら俺のたった三つ年上で、それほどの経験ができるのだろうか。

「アル」

 その時、肩を叩かれた。
 振り返ると、絹のような黒髪をなびかせた美しい佇まいの女性が立っている。

「ユリア」
「アル。私もね、冒険者ギルドに入る前は、帝国で政治に携わっていたのよ」
「え! ユリアも!」
「そうなのよ。でもね、シド様にスカウトしていただいたのと、何より当時のレイは本当に危なかったから、この子には私がついていないとダメだと思って、冒険者ギルドに転職したのよ」

 レイの頬が紅潮している。

「ちょっと! それは今関係ないでしょ!」
「ウフフフ、本当のことでしょう?」
「もうっ! でも、当時のユリアは帝国でも評判だったわね。皇帝の懐刀なんて呼ばれていたもの」
「そうね。あの時は私も若かったわ。やりすぎちゃったもの。ウフフフ」

 シドが笑いながら会話に入ってきた。

「うむ、当時のユリアは凄まじかったな。帝国政治の不正を追求し、賄賂まみれだった議会を一掃した。唯一皇帝に意見を言える女傑と恐れられていたほどだ。だが敵も多く、命の危険があった。だから私は冒険者ギルドにスカウトしたのだ」
「シド様に助けられたんです。それにしても、シド様はあの頃から何も変わってませんね。優秀な人材が集まってきますわ。ウフフフ」
「ハッハッハ。私は周りに能力の高い人間を置いて、何もやらない主義だからな」

 そう言っているが、最も働いているのはシドだった。

「じゃあ、新国家担当はレイとユリアで問題ないんだ」
「アルよ、問題ないどころか、他国にとっては喉から手が出るほど欲しい人材だぞ。それに、この二人が揃うなぞ他国にしてみれば脅威だ。もしかしたら今後、他国から引き抜きされるかもしれぬぞ」

 レイが俺の腕を取って、腕を組んできた。

「ふふふ、私には関係ないわよ。アルと人生を共にするもの」
「私はレイの保護者ですもの。この子の幸せを見るのが私の幸せです」
「もう! 私は大人になったのよ!」
「ウフフフ、まだまだ心配よ?」

 ユリアとレイは本当に親子のような関係だった。
 もちろんその美しさも含めて。

 ――

 日没を迎え、事務所に戻ってきた。
 キッチンでは食事の準備が始まっている。

 今日の当番はオルフェリアとジョージだ。
 リビングには、俺とレイとエルウッド、シド、ユリア、ローザがいる。
 俺は珈琲を飲みながら、ふと思い出したことがあった。

「そうだレイ。すっかり忘れていたけど、ウグマにある俺たちの家はどうする?」
「そうね。今もギルドに家賃を払っているものね。私たちの荷物や資産も預けてあるし……」

 シドが珈琲カップをテーブルに置いた。

「うむ、本来はウグマへ戻るつもりだったが、当初と状況が大きく変わってしまったからな。ギルドに説明してあの家は返却しよう。荷物もここへ運ぶように手配する」

 するとユリアが右手を上げた。

「シド様、あの家については全て対応済みです。さらに、執事、二人のメイド、庭師に意思確認を行いました」
「そうか、さすがユリアだ。仕事が速いな」
「四人はギルドを退職して、アルの元で働くことを希望しましたので許可。すでにアフラへ向かっています。冒険者ギルドに護衛を頼んでいますので、護衛クエスト費用と、四人の今後の給与を支払ってくださいませ」
「むっ、わ、分かった。契約はこちらへ来てからでいいのだな?」
「はい、ありがとうございます」

 二人の会話を聞いて俺は驚いた。

「え! あの四人が来てくれるの?」
「そうよアル。あなたの人望よ。ウフフフ」

 ユリアが光沢のある絹のような黒髪をかき上げながら笑っていた。
 あの四人が来てくれるのは嬉しいが、都会からこんな人類が住んでいない場所へ来て大丈夫なのだろうか。

 それにここではイーセ語を使用している。
 フォルド帝国出身の彼らは、ある程度の言語も覚えなければならない。
 大変だろう。

「アルの心配は分かるわよ。でも、そういった点も伝えた上で、彼らは来ると言っているのよ」
「そうなんだ」
「それに、メイドのエルザ・ルーイが書いた薬草の料理本が売れてるのよ。ここでも執筆して欲しいわね」
「いいね。次はモンスター食の本を書こうと思っているから、エルザにも手伝ってもらうよ」

 俺とユリアが話して横で、紅茶を飲みながらレイがシドの顔を見ていた。

「ねえシド。そういえば、ユリアたちの給与はどうなっているの? 払ってないんじゃないの?」
「そこら辺もきっちり整備していかないとな。特にユリア、ジョージ、ローザは新国家で幹部になるのだから、それ相応の報酬が必要だ。しかし……今は収入がないのだ。だから皆の給与は収益を得てからだな。ハッハッハ」

 給料がないと言われたにもかかわらず、ユリアも笑っていた。

「ウフフフ、そういうことなのよレイ。それにギルドを退職する際、十分すぎるほどの退職金を頂いたし、ここではお金を使わないもの。全く問題ないわ。不満なんて一切ないもの」
「我々に収入がないとはいえ、私の資産があるし不自由はしないさ。欲しい物や必要なものはいくらでも用意する。トーマス工房の収益はあるが、今は事業拡大の資金や彼らの給与に使うからな。まあ会計は全てユリアに任せれば問題ない」

 シドは冒険者ギルド時代の部下で、最重要職だった局長三人を心から信頼している。
 三人もそれに応えるかのように、この地で働いていた。

「皆さん、夕食ができましたよ」
「フォフォフォ、今日は黒鱗鮭シュラウトの鍋じゃ。そしてな、ついにアフラの畑で野菜を収穫したのじゃ。樹海で採ったキノコもあるぞ」

 ジョージは、世界最大のモンスター研究機関である研究機関シグ・セブンの元局長だ。
 その研究機関シグ・セブンは、なぜか食材研究を行うことでも有名だった。

 ジョージはヴェルギウスの研究の傍ら、熱心に畑の様子を見ていた。
 土壌の改良、種子の品種選別もジョージが指導。
 さらに、この地で家畜の飼育も開始している。
 ジョージのおかげで、サルガの食材事情は大きく発展していたのだった。
 食事は最も大切だ。
 どれだけ街が発展していても、食料がなければ生きていけない。

 オルフェリアとジョージが夕食を運んでくれた。

「儂らに給与はいらんよ。好きでこの地に来たのじゃ。ここは素晴らしい環境じゃ。それにユリアはの、シド様から全権を任されておる。ローザも驚くほど立派な工房を作ってもらった。儂にだって、素晴らしい研究施設を用意してくださった。だからの、仕事に関しても、衣食住に関しても至れり尽くせりなのじゃ。フォフォフォ」
「そうは言っても国家が形になったら、君たちにはしっかり給与を支給するからな。それまで頑張ってくれ」
「シド様、そのお気持ちだけで十分ですじゃ。ここで好きなことに没頭できることが嬉しいのですじゃ。フォフォフォ」

 ユリアもローザも頷いていた。

「さあ、皆さん。食事にしましょう」

 オルフェリアの一言で、俺たちは鍋を囲んだ。
 俺は採れたばかりの野菜を口にする。

「ジョージ、この野菜美味いよ!」
「フォフォフォ、そうじゃろ」
「アフラは野菜の名産地にもなるよね」
「そうじゃ、まだまだ手をつけてない広大な草原があるからの。この地は可能性の塊じゃ」

 ジョージの言葉に皆が同意する。
 半年前に耕された畑から初収穫となった数々の野菜。
 驚くほど美味い。

「ここまで来たのか。凄いなあ」

 俺は野菜を食べながら、最初に四人でこの地へ来たことを思い出していた。

「アルよ、食べないとなくなるぞ?」
「ちょっと待てシド! それは俺の野菜だ!」
「早い物勝ちなのだよ」
「ウォンウォン!」
「なんだよ! エルウッドまで!」
「もう! あなたたち、落ち着いて食べなさい!」
「フフ、まだまだたくさんありますよ」

 初めてここに来た時は何もない草原だった。
 それが少しずつ発展し、今や小さな街だ。
 ジョージの言う通り、アフラは可能性しかなかった。
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