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第十二章

第210話 騎士団の帰還

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 ヴェルギウス討伐から一週間が経過。
 今日も俺、シド、オルフェリア、ジョージの四人で解体を行う。

 解体は終盤に入り、全長二十メデルトもあったヴェルギウスの巨体は、すでに原型をとどめていない。
 頭部の角、巨大な翼、手足の鋭い爪、溶岩にも耐える鱗、様々な内臓、良質な脂、強固な骨、謎が多い血液など、細かく分類された。
 一つ一つ帳簿を取り厳重に管理された素材は、飛空船用、装備用、研究用など用途で仕分けされている。

「皆そろそろよ。準備して」
「もうそんな時間か。分かった。すぐ行くよ」

 レイが解体現場の飛空船工場に来た。
 今日は騎士団が帰還する日だ。

 我々がこのアフラへ来てから約半年。
 その間、団長ジルと近衛隊隊長リマは責任者として常駐していた。
 騎士団の団員は、一ヶ月ごとに勤務地入れ替えがある。
 だが、団員は全員、レイがいるアフラでの勤務を希望していたそうだ。

 半年も一緒にいると、よく顔を合わせる小隊長クラスや、釣った魚をいつも差し入れてくれる団員など、顔見知りとなった団員も多い。
 その騎士団の帰還は寂しいが、これは決まっていたことだ。
 この地を共に作った仲間たちに感謝し、明るく送り出そうと皆で話し合っていた。

 現在のアフラの街は小規模であるが、なかなかに発展している。
 アフラ湖から水路を引き水源を確保。
 アフラ火山の麓にある樹海から木材を伐採することで、建築資材は豊富だ。
 草原地帯の土壌を調査したところ、耕地に適していることが判明したことで、小麦や野菜を作る畑も耕された。
 家畜の飼育も始まっている。
 湖や樹海で直接食材を調達することも可能だ。
 さらに、足りない資材や食料をサルガから輸入しているので、快適に暮らすことができていた。

 街にある建築物も増えている。
 街の入口には木製の門と、街を大きく取り囲む柵。
 これは今後の発展具合によって補強されたり、立て直されるだろう。

 騎士団の駐屯地には団員三百人が住んでいる平屋。
 士官用の家、騎士団の事務所。
 これだけでも小さな村と同等規模だった。

 さらに、トーマス工房の職人が住む区画。
 ローザの工房。
 我々建国チームの事務所。
 事務所は将来的に、アフラの役所になる予定だ。
 ユリア、ジョージ、ローザの個人宅、俺とレイ、シドとオルフェリアの自宅もある。

 街の中心地には、食材や装備品などの支給小屋に、簡易的な酒場もできていた。
 ゆくゆくは市場や商店街に発展して行くだろう。
 そして、この街のメインである巨大な飛行船工場と、軽い空気の採取工場から一キデルトもの距離を繋ぐパイプと、パイプを守る強固な柵。
 ヴェルギウス討伐を行った一帯は、公園となり記念碑が建てられた。

 その公園に、この街に滞在している全員が揃う。
 騎士団、トーマス工房、我々だ。

 ジルとリマが整列した騎士団の前に立つ。
 ジルが敬礼すると、全団員も敬礼した。
 三百人の一糸乱れぬ騎士団の動きは圧巻だ。

「レイ様、皆様、改めてヴェルギウス討伐ありがとうございました。イーセ王国を代表して感謝いたします」
「こちらこそ、あなたたちがいなかったら、ヴェルギウス討伐はできなかった。それに、この街の建設は騎士団がいなければ不可能だった。感謝しているわ」
「お気遣いありがとうございます」
「ジル・ダズ、リマ。これは騎士団への感謝の印よ」

 レイの合図で、俺は用意していた剣を五本ジルに渡した。

「これはティル・ネロの剣ですね」
「ええそうよ。全員分は渡せなくて申し訳ないけどね」
「とんでもないことでございます。貴重なティル・ネロの素材で、しかも神の金槌シャイオンのローザさんが打った大変貴重な剣です。この剣はサルガやアフラで活躍した騎士へ褒美とします」

 ティル・ネロの素材で作った剣は、元々騎士団へ提供する約束になっていた。
 ジルは素直に受け取る。

「ふふふ。あとこれはあなたたち二人へ、私からの個人的なプレゼントよ」

 レイは二本の剣を取り出した。
 正統派の長剣ロングソードと、通常タイプよりも大きな両手剣グレートソード
 これはジル・ダズとリマのために作られた剣だ。
 ローザが二人の戦い方を分析し、特別に作っていた。

「ま、待ってください! これは一本金貨千枚もする剣ですよ! それに私は購入すると予約したはずです」
「いいのよ。この街の発展に多大なる貢献をしてくれたもの。私の信頼する元部下へ最後のプレゼントよ」
「レ、レイ様……」

 ジルの身体が僅かに震えていた。
 傍から見ても、涙を堪えているのが分かる。

「レイ! アタシはこれからもレイと一緒にいるんだ! だから借金返して自分で買うぞ!」
「はああ、やっぱり借金があるんじゃない。その借金を返す頃には、あなたはお婆ちゃんになっているわよ」
「な、なんだと!」
「遠慮するなんて、珍しいわね?」
「だ、だって、金貨千枚だぞ!? 豪邸も買えるし、一生遊んで暮らしても使い切れない金額だぞ?」
「いいのよ。それにね、もう私はお金を使わないのよ。騎士団を退団した時はアルのために使おうと思ったけど、今やアルは私よりも稼ぐのですもの。あなたたちのために使ってもいいでしょ? ふふふ」

 確かに冒険者を始めた頃、レイは俺の十倍以上の金貨を持っていた。
 だが、すぐに俺の資金と合わせて二人の活動資金としていた。
 レイは金に執着がない。

 ジルがレイの顔を見つめ最敬礼する。

「レイ様。この剣は、クロトエ騎士団団長の剣として、代々伝えていくものとします」
「そんな大げさな。それに、あなたのために作った剣よ?」
「いえ、今後団長になるための資格に、この剣を使いこなせる者を追加します。この剣こそが、クロトエ騎士団の団長の証で、我が騎士団の魂です」
「分かったわ。好きになさい」
「ハッ! 誠にありがとうございます!」

 珍しく興奮しているジルが、身体を反転させ団員の方を向いた。
 そして、レイからもらった剣を掲げる。
 その仕草を見て、団員も全員剣を抜いた。

 三百本の剣が鞘から抜かれる音が響く。
 そして一瞬の静寂。
 ジルが大きく息を吸う。

戦いの琵音を奏でよフォン・ライ・アシュデル! 勝利の笛を鳴らせシュー・アーズ・ベル! 右手に剣レーム・カイ左手に福音持てキリエ・クライフト! 進め騎士たちよクォーズ・ド・エージュ! 我らの道に光差すアズ・セム・ウォー! 皆に祝福をリ・エス・クロトエ!」
我らの道に光差すアズ・セム・ウォー! 我に祝福をリ・アン・クロトエ!」

 団員たちから地鳴りのような歓声が上がる。
 ジルは尊敬するレイの前で、鼓舞トールを行った。

「レイ様、お元気で」
「ふふふ、あなたもね」

 最後に挨拶を交わし、騎士団は全員乗馬。
 そして出発した。

 ジルやリマなどは王都へ帰還するが、サルガがあるマグニ地方を守護する十番隊から、改めて百人ほどアフラへ派遣してもらえることになっている。
 今後も街の建設を担当してくれるのだった。

 騎士団を見送った俺たち。

「しばらく寂しくなるわね」
「そうだね。特にレイは崇拝されていたからね」
「もう、やめてよ。……でも、こんなに団員たちと接したのは初めてよ。楽しかったわ。またいつか会いたいわね」

 横に並ぶレイの顔を見ると、僅かに寂しそうな表情だった。
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