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第十二章

第208話 解体開始

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 巨大なヴェルギウスの死骸は、シドとジルが立ち会い、騎士団によって一日がかりで飛空船工場へ運ばれた。
 討伐の翌日から、シド、オルフェリア、ジョージの三人の手によって解体開始。
 現在この解体現場にいるのは、俺とエルウッド、そして解体担当の三人だけだ。

 人類初の竜種解体とはいえ、今や世界トップの解体師オルフェリアと、モンスター学の第一人者ジョージは、まるで経験があるような速度で解体していく。
 それでも巨体を誇るヴェルギウスの解体には時間はかかるだろう。
 三人は防腐処理を行いながら解体していた。

 ヴェルギウスの解体及び研究結果は、オルフェリアの名前で発表することになった。
 ジョージはすでに、オルフェリアを次世代のモンスター博士として育成しており、自分の知識や経験全てをオルフェリアに継承すると意気込んでいる。
 二人は時折手を止め、オルフェリアはメモを取り、ジョージはイラストを描きながら解体していた。

「ジョージ様、切ります!」
「分かったのじゃ!」

 オルフェリアとジョージが、二枚の巨大な翼を根本から切り落とす。
 そこへ特殊ナイフを用意したシド。

「オルフェリア! 背中を切開するぞ!」
「はい!」

 翼を切り取った背中の部分を切り裂いていく。
 巨大な翼を動かす部位だ。
 想像以上に筋肉がついている。

「これは見事な筋肉だな」
「そうですね。私がこれまで解体したモンスターの中で、最も立派で最も質の良い筋肉です」
「儂もこれほどの筋肉は見たことがないのじゃ」

 この三人が唸るほどの素晴らしい肉質のようだ。
 さらに背中を切開していくと、シドの手が止まった。

「あ、あったぞ! これを見ろ! 文献の通りだ!」

 シドが大興奮している。
 これほど興奮したシドを見るのは初めてだ。

「シド、何を見つけたんだ?」
「アルよ! よくぞ聞いてくれた! 話すと長くなるぞ!」
「え? じゃあいいよ……」
「バカなこと言うな! 聞くがよい!」

 オルフェリアが横で笑っていた。

「フフ、シド。話が長くなるのであれば、昼食にしましょう」
「そうだな。そうするか」
「では、作りますね」

 オルフェリアが昼食を作ってくれた。
 肉汁が滴り落ちる赤身肉の炙り焼きだ。
 パンとスープもある。

「アル、今日は毒味をしてもらいます」
「毒味?」
「はい、この肉はヴェルギウスの肉です」
「なんだって!」
「ヴェルギウスの素材は全て装備品や飛空船に使用します。ですが、こういった生肉は装備に使用できません。廃棄するわけにもいきませんし、流通させるわけにもいきません。考えたのですが、私達で消費するのが最良かと」
「わ、分かった。しかし、竜種を食べて大丈夫なのかな……。始祖が竜種の血を飲んでいたんだ。始祖に促されて、エルウッドも飲んでいたよ?」

 俺はそう言ってシドの顔を見る。

「エルウッドが竜種の血を? そうか……。始祖やエルウッドの長寿と関係があるかもしれぬな。その話はまた後で詳しく聞こう。いずれにしても竜種を食べた人類などいないから、どういう影響があるのか検討もつかん」

 オルフェリアは心配になったようで、ジョージの顔を見た。

「そうですね。ジョージ様は控えたほうがよろしいかも」
「いやいや、オルフェリアよ。竜種じゃぞ? 儂も食べるぞ。こんな機会は二度とないのじゃ。もしそれで死んでも儂は本望じゃ」
「ダ、ダメです! 死ぬくらいなら破棄します!」

 シドが片手をオルフェリアに向けて制した。

「まあ待て。まず私が食べよう」

 シドが肉を一口大に切り口へ運ぶ。

「こ、これは……」
「シド! どうしました! 大丈夫ですか?」
「う、美味い! これほどとは! 何という濃厚さだ。肉の旨味が凝縮されている。臭みも雑味も全くない。透き通るような肉の味だ。これを食べると肉の概念が変わるぞ」

 味を堪能したところで、シドが目をつぶった。
 
「毒は……ないな。食べた際の効果までは分からぬが、私たちパーティーが食べるのであれば問題はないだろう。ただし、私たち以外には提供しない方がいいな」
「はい、分かりました」
「それにしても……美味い」

 俺も一口食べてみた。
 確かにこれまで食べたどんな肉よりも美味い。
 溢れる肉汁に、とろけるような柔らかさ。
 濃縮された旨味。
 それでいて、一切の臭みがない。
 究極の肉と言ってもいいだろう。

「こ、これは本当に凄いぞ。あのティル・ネロ以上の肉だ。美味すぎる」

 オルフェリアもその味に感動しており、ジョージは涙を流して喜んでいた。
 エルウッドも生肉を食べている。

「さて、話の続きをしよう」

 食事が少し落ち着いたところで、シドが先程興奮していた理由について説明を始めた。

「飛空船を設計するうちに、当初の予定よりも数倍も大型になったのだ。そのため、軽い空気だけでは飛べないことが判明した」
「え? じゃあどうするんだ?」
「規模を縮小するしかない」
「設計し直せばいいんじゃないの?」
「まあそうなのだが、せっかく設計した飛空船だ。なんとか飛ばしたい。そこで様々な記憶を辿ったところ、竜種の臓器を思い出したのだ」

 竜種ついて書かれていた古代文明の文献を思い出したそうだ。
 ジョージには不老不死を隠しているので、シドが失われた古代文明の王族だったことは伏せている。

「竜種には振臓アンプという臓器が備わっているのだ」
振臓アンプ? 初めて聞くな」
「ああ、竜種にしかない臓器と言われている」
「その振臓アンプがあれば大型の飛空船も飛ばせるのか」
「うむ、そうだ」
「じゃあ、さっき興奮していたのは……」
「ああ、その振臓アンプを見つけたのだ! 文献の記述通りの位置にあり、形もほぼ同じだった! 興奮せずにはいられまい! これで理想の飛空船を作ることができるのだぞ!」

 シドを落ち着かせるように、オルフェリアが水を渡した。
 その表情は、騒ぐ子供を優しく諭す母親のようだった。
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