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第十二章
第206話 吉報
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ついにヴェルギウスを討伐したアル。
世界に三十一体しかない、生物の頂点に立つ竜種の完全討伐。
それは全世界を揺るがす大事件なのだが、現時点でそのことを知るのは、アフラの街に滞在している騎士団、トーマス工房、そしてアルのパーティーのみだった。
ヴェルギウス討伐を目撃した騎士団団長ジル・ダズは、その日のうちに報告書を作成。
すぐに王都へ、連絡用の大鋭爪鷹を飛ばした。
◇◇◇
討伐の翌日、イーセ王国の王都イエソン。
イエソン城の廊下を速歩きで進む、一番隊隊長ハウ・ギブソンの姿があった。
国王執務室の入出手続きをもどかしく感じながら、入室書に記帳。
「入るぞ!」
ハウが声をかけると、近衛隊の護衛騎士が扉を開ける。
それと同時にハウは部屋へ入り、半ば叫ぶように主へ声を張り上げる。
「ヴィクトリア陛下!」
「どうしたのハウ? 血相変えて」
「アル・パートとレイが、ついに、ついにヴェルギウスを討伐しました!」
「な、なんですって!」
「先程、アフラよりジル団長の報告書と、レイの手紙が届きました。報告書によると今度は撃退ではありません。完全討伐です」
「み、見せなさい!」
「ハッ!」
報告書に目を通すヴィクトリア。
そこにはヴェルギウス討伐クエスト完了、今後の騎士団の予定、サルガ復興業務について記載されていた。
そしてレイの手紙も開封。
この手紙はヴィクトリアに宛てたもので、ハウは当然読んでいない。
「ほ、本当に討伐したのね……。アルとレイはどこまで行くのかしら……」
「名実ともに世界一の冒険者だったアル・パートに、レイも並んだようですね」
「ええ、そうね。本当に凄いわ。これは世界を揺るがす大事件となるでしょう」
「世界会議で議論された、新しい国家という話も進展があるかと」
「そうね。ただ、もしかしたら他国はこの討伐で、アルたちの建国を警戒するかもしれないわ。それほどの大事件よ」
ハウはこの討伐で世論が建国容認へ傾くと思ったが、ヴィクトリアは違うようだ。
だが、ハウもその意図を正確に読み解いた。
「なるほど。確かに彼らは突出し過ぎてます……」
「そうよ。もしかしたら、アルは今後も竜種を討伐するかもしれない。人類未踏地だって踏破するかもしれない。そうなったら、凄まじい勢いで領土を広げていくでしょう」
「はい、仰る通りかと存じます。世界の三分の一は、人類が領地を主張しないモンスター領ですから」
「その土地を次々と彼らの領地として主張したらどうなると思う? 建国は今のところ、イーセ王国とフォルド帝国の二カ国が承認してるけど、あと一カ国は出てこないかもしれないわね……」
建国には現国家から三ヶ国の承認が必要だ。
数ヶ月前の世界会議では、三ヶ国の承認が揃わず議題は持ち越しとなっていた。
ハウが自慢の顎髭を触る。
「もし建国したら、新国家への移民者が増えそうですな。レイの人気は凄まじいですから」
「それは別に気にしないわ。それにね、国境を超えて移住というのは、生半可なものではないのよ。いくらレイの国とはいえ、今の生活を捨てて新天地へ移住する国民はほとんどいないでしょう」
ヴィクトリアは、アルの建国による影響を冷静に捉えていた。
二年前に突然王位を継承した際は、頼りなさが目立っていたヴィクトリアだったが、今や大国の君主として恥じぬほどの判断力や分析力を備えている。
「それにね、もし移住者が増えたとしても、国として様々な条約や同盟を組めばいいだけよ」
そう言いながらも、元臣下とはいえ敬愛する親友のレイが国を興すことに興奮を隠しきれなかったようだ。
「うふふふ。新国家では間違いなくレイが王妃になるのよ? 楽しみで仕方がないわ」
ヴィクトリアの美貌はレイと正反対と言われている。
その表情は柔らかく、とても可愛らしいと評判だ。
ヴィクトリアはウェーブのかかった金色の長髪を耳にかけ、その評判の笑顔でハウを見つめる。
「これで私と王族同士のつき合いができるわね」
「やはり、レイはアル・パートと結婚するのですか?」
「そうよ。本当にアルは良い男なんだから。レイが本当に羨ましいわよ」
独身の君主の発言としては失言になるが、ハウはヴィクトリアが小さい頃から面倒を見ていた。
ヴィクトリアとレイのことを娘のように思っているため、全く気にしない。
「ムハハハ、あのレイが惚れたというアル・パートに会ってみたいものですな」
「うふふふ。レイの手紙には、アルとレイが王都へ来るって書いてあるわよ」
「な、なんですと! それは盛大に迎えねばなりませぬな」
「二人を国賓として迎えなきゃ」
「ハッ! そのように全てを準備いたします。宰相殿や元老院にも伝えましょう」
「ええ。よろしくね、ハウ」
「ハッ! ジル団長やリマも帰還するので、ようやく儂の任務も一番隊のみになりますな。ムハハハ」
「うふふふ、これまでありがとう、ハウ」
ここ数年は明るい話題が少なかったイーセ王国。
表向きはクーデターとなっている国王の暗殺、騎士団隊長の暗殺事件、さらにはヴェルギウスの襲撃で地方都市の壊滅と不幸が続いていたが、久しぶりの吉報となった。
◇◇◇
世界に三十一体しかない、生物の頂点に立つ竜種の完全討伐。
それは全世界を揺るがす大事件なのだが、現時点でそのことを知るのは、アフラの街に滞在している騎士団、トーマス工房、そしてアルのパーティーのみだった。
ヴェルギウス討伐を目撃した騎士団団長ジル・ダズは、その日のうちに報告書を作成。
すぐに王都へ、連絡用の大鋭爪鷹を飛ばした。
◇◇◇
討伐の翌日、イーセ王国の王都イエソン。
イエソン城の廊下を速歩きで進む、一番隊隊長ハウ・ギブソンの姿があった。
国王執務室の入出手続きをもどかしく感じながら、入室書に記帳。
「入るぞ!」
ハウが声をかけると、近衛隊の護衛騎士が扉を開ける。
それと同時にハウは部屋へ入り、半ば叫ぶように主へ声を張り上げる。
「ヴィクトリア陛下!」
「どうしたのハウ? 血相変えて」
「アル・パートとレイが、ついに、ついにヴェルギウスを討伐しました!」
「な、なんですって!」
「先程、アフラよりジル団長の報告書と、レイの手紙が届きました。報告書によると今度は撃退ではありません。完全討伐です」
「み、見せなさい!」
「ハッ!」
報告書に目を通すヴィクトリア。
そこにはヴェルギウス討伐クエスト完了、今後の騎士団の予定、サルガ復興業務について記載されていた。
そしてレイの手紙も開封。
この手紙はヴィクトリアに宛てたもので、ハウは当然読んでいない。
「ほ、本当に討伐したのね……。アルとレイはどこまで行くのかしら……」
「名実ともに世界一の冒険者だったアル・パートに、レイも並んだようですね」
「ええ、そうね。本当に凄いわ。これは世界を揺るがす大事件となるでしょう」
「世界会議で議論された、新しい国家という話も進展があるかと」
「そうね。ただ、もしかしたら他国はこの討伐で、アルたちの建国を警戒するかもしれないわ。それほどの大事件よ」
ハウはこの討伐で世論が建国容認へ傾くと思ったが、ヴィクトリアは違うようだ。
だが、ハウもその意図を正確に読み解いた。
「なるほど。確かに彼らは突出し過ぎてます……」
「そうよ。もしかしたら、アルは今後も竜種を討伐するかもしれない。人類未踏地だって踏破するかもしれない。そうなったら、凄まじい勢いで領土を広げていくでしょう」
「はい、仰る通りかと存じます。世界の三分の一は、人類が領地を主張しないモンスター領ですから」
「その土地を次々と彼らの領地として主張したらどうなると思う? 建国は今のところ、イーセ王国とフォルド帝国の二カ国が承認してるけど、あと一カ国は出てこないかもしれないわね……」
建国には現国家から三ヶ国の承認が必要だ。
数ヶ月前の世界会議では、三ヶ国の承認が揃わず議題は持ち越しとなっていた。
ハウが自慢の顎髭を触る。
「もし建国したら、新国家への移民者が増えそうですな。レイの人気は凄まじいですから」
「それは別に気にしないわ。それにね、国境を超えて移住というのは、生半可なものではないのよ。いくらレイの国とはいえ、今の生活を捨てて新天地へ移住する国民はほとんどいないでしょう」
ヴィクトリアは、アルの建国による影響を冷静に捉えていた。
二年前に突然王位を継承した際は、頼りなさが目立っていたヴィクトリアだったが、今や大国の君主として恥じぬほどの判断力や分析力を備えている。
「それにね、もし移住者が増えたとしても、国として様々な条約や同盟を組めばいいだけよ」
そう言いながらも、元臣下とはいえ敬愛する親友のレイが国を興すことに興奮を隠しきれなかったようだ。
「うふふふ。新国家では間違いなくレイが王妃になるのよ? 楽しみで仕方がないわ」
ヴィクトリアの美貌はレイと正反対と言われている。
その表情は柔らかく、とても可愛らしいと評判だ。
ヴィクトリアはウェーブのかかった金色の長髪を耳にかけ、その評判の笑顔でハウを見つめる。
「これで私と王族同士のつき合いができるわね」
「やはり、レイはアル・パートと結婚するのですか?」
「そうよ。本当にアルは良い男なんだから。レイが本当に羨ましいわよ」
独身の君主の発言としては失言になるが、ハウはヴィクトリアが小さい頃から面倒を見ていた。
ヴィクトリアとレイのことを娘のように思っているため、全く気にしない。
「ムハハハ、あのレイが惚れたというアル・パートに会ってみたいものですな」
「うふふふ。レイの手紙には、アルとレイが王都へ来るって書いてあるわよ」
「な、なんですと! それは盛大に迎えねばなりませぬな」
「二人を国賓として迎えなきゃ」
「ハッ! そのように全てを準備いたします。宰相殿や元老院にも伝えましょう」
「ええ。よろしくね、ハウ」
「ハッ! ジル団長やリマも帰還するので、ようやく儂の任務も一番隊のみになりますな。ムハハハ」
「うふふふ、これまでありがとう、ハウ」
ここ数年は明るい話題が少なかったイーセ王国。
表向きはクーデターとなっている国王の暗殺、騎士団隊長の暗殺事件、さらにはヴェルギウスの襲撃で地方都市の壊滅と不幸が続いていたが、久しぶりの吉報となった。
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