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第十二章

第204話 追い詰められたヴェルギウス

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「グオオォォォォ!」

 咆哮を上げ、隻眼となったヴェルギウスの左目が血の色に変わる。
 予想していた通り、この状態に入った。

 こうなると、ヴェルギウスの能力が底上げされる。
 俺は前回大怪我を負ったので、身を持って知っているのだった。

「レイ! 一旦離れろ!」

 ヴェルギウスは自らの怪我を無視して立ち上がる。
 すると、ヴェルギウスの周りの空気が大きく揺らめく。
 ふらつきながらも、その空気へ乗るかのように身体を浮かせ、大きく翼を羽ばたかせた。

 そのまま上空を大きく旋回し、頭から急降下してくるヴェルギウス。
 口を大きく開き、俺を噛み砕かんと狙っている。

 だが若干遅く感じるのは、傷ついた翼の影響だろう。
 俺は銛を構え、ヴェルギウスの眉間に向かって力一杯投げつけた。
 唸りを上げる真紅の銛。
 猛スピードで降下してくるヴェルギウスと、俺が投げた銛が激しく衝突。
 鉄がぶつかったような激しい音を立て、眉間に命中。
 貫いたかと思いきや、鱗を傷つけただけで弾かれてしまった。

「クソッ! 眉間の鱗は特別硬いぞ!」

 だが、俺への突撃は諦めたようで、一旦空中へ舞い戻るヴェルギウス。
 大きく旋回し、今度は俺を踏み潰そうと足から急降下して来た。
 銛の攻撃を警戒しているのだろう。

 俺は急降下を直撃寸前で飛び退く。
 地面に衝突したヴェルギウス。
 爆発音とともに、その場に大きなクレーターが生まれた。
 ヴェルギウスは攻撃の手を緩めず、俺を叩き潰そうと右手を振りかぶる。

 ヴェルギウスとの距離は五メデルトほど。
 避けている時間はない。
 俺は頭上で両腕を交差させ、歯を食いしばり、防御の姿勢をとった。
 巨大な右手の手のひらが俺の頭上に降ってくる。

 両腕に凄まじい衝撃。
 その衝撃は俺の全身を貫き、足元まで突き抜けた。

「ぐ、ぐうう」

 足元を見ると、足首まで地面に埋まっている。

「グォオオォォ!」

 ヴェルギウスは叫び、もう一度右手を振り下ろす。

 俺は再度両腕を交差させ、歯を食いしばり攻撃を受ける。
 先程よりも凄まじい衝撃で、強化したはずの腕鎧ヴァンブレイスが真っ二つに割れた。

 ヴェルギウスは腕の骨が砕けているはずだ。
 それでも全力で攻撃してくる。
 怒りで痛みを感じないのだろう。
 そして、怒りで我を忘れているのか、意識は俺だけに向いていた。

 俺に攻撃が集中しているということは、レイとエルウッドが自由に動ける。
 当然レイはその隙を見逃さず、左足の古傷へ細剣レイピアを突き刺す。
 さらに、エルウッドが雷の道ログレッシヴを放つ。

 二人の渾身の攻撃が、ヴェルギウスの古傷を抉った。
 竜種といえども耐えられるずがない。
 俺はダメージを推し量るため、ヴェルギウスの顔を見上げる。

「……笑っている?」

 すると、ヴェルギリウスは口を大きく開き、固まっていない溶岩を吐き出した。

「しまっ!」

 俺たち全員が足元に集まる瞬間を狙ったのだろう。
 人間が溶岩を浴びたら死ぬ。
 ヴェルギウスの捨て身の攻撃だ。
 まさに肉を切らせて骨を断つという行動だった。

「ヒヒィィン!」

 その瞬間、火の神アフラ・マーズがヴェルギウスの顎下に飛び込み、全身で溶岩を受け止めた。
 俺たちはその隙にダッシュで離れる。

 振り返ると、俺たちがいた場所に溶岩が溜まっていた。
 もし火の神アフラ・マーズが溶岩の流れを遅らせてくれなかったら、間違いなく焼け死んでいただろう。

「助かった! 火の神アフラ・マーズ!」
 
 溶岩の量から推測するに、三発分残っていたものを全て吐き出したようだ。

「グォオオォォオオォォォォ!」

 叫ぶヴェルギウス。
 いよいよ出し尽くしたのか、動きが止まった。
 だが俺たちも、ヴェルギウスの足元に広がる溶岩の影響で近付けない。

「エルウッド! 銛を投げるぞ!」

 俺は二本目の銛を、ヴェルギウスの眉間目掛けて投げつけた。
 先程の投擲で亀裂が入っていたため、今度は銛の先端が眉間に突き刺さる。

「よし!」
「グォオオォォォォ」

 天を仰ぎ、叫ぶヴェルギウス。
 エルウッドが溶岩を飛び越え大ジャンプ。
 ヴェルギウスの身体を軽やかに駆け上り、眉間の銛に渾身の雷の道ログレッシヴを放つ。

 これまでで最大の雷の道ログレッシヴだ。
 以前アフラ火山で吸収した雷を全てを出したのだろう。
 周辺を真っ白にするほどの閃光と、空気が割れるような轟音を発生させた。
 それは本物の落雷以上の威力だった。

「凄いぞ! エルウッド!」

 ヴェルギウスの額から煙が上がり、瞳の色が血の色から金色の瞳孔に戻っていた。
 相当なダメージを負ったようだ。

 着地したエルウッドが戻ってきた。

「ウォウウォウ」

 もう出し尽くしたと言わんばかりのエルウッドだ。

「グガゥガガ……グガ……」

 ヴェルギウスの動きが鈍く、口からうめき声が漏れている。
 そして翼を大きく広げた。
 先ほどと同じように周辺の空気が揺らぎ、空気へ乗るように翼を羽ばたかせる。

「アル! ヴェルギウスが逃げるわ!」

 ここまで追い詰めて逃がすわけにはいかない。
 今日この場で倒す。

 俺はヴェルギウスに向かって走り出した。
 俺のブーツはヴェルギウスの鱗でコーティングしてある。
 多少の時間なら溶岩の熱も防ぐだろうし、ここまで来たら火傷なんて構わない。

 溶岩の上をダッシュ。
 ブーツから煙が出てるが熱は防いでいる。
 さすがローザが補強したブーツだ。

 俺はヴェルギウスの左足の傷に、最後の一本となった真紅の剣を突き刺す。
 その剣の上に飛び乗り、剣を土台にしてジャンプ。

 先程、俺とレイが左腕に刺した剣を掴み、身体を一回転させ剣の上に飛び乗った。
 ヴェルギウスは左腕を振り払うが、その前に俺は頭部へジャンプし上顎に着地。
 そのまま渾身の力でツルハシを振り下ろす。
 上顎の鱗を砕き、完全にツルハシが突き刺さった。

 ヴェルギウスは首を大きく振る。
 俺は振り落とされないようにツルハシにしがみつく。
 気付くとすでにヴェルギウスは地上から十メデルトほど離れていた。
 もう引き返せない。

 ヴェルギウスは俺を振り落とそうと首を振る。
 俺はツルハシにしがみつき、ひたすら耐える。
 何度か繰り返した後に、ヴェルギウスは俺のことを無視し羽ばたき始めた。

 満身創痍のヴェルギウスだ。
 俺を気にするよりも、逃げることを優先させたのだろう。
 だが俺にはまだ武器が残っている。
 左手でツルハシを掴みながら、右手で最後の一本となった銛を持つ。

「落ちたら死ぬ! 慎重にやるんだ!」

 高度はもう百メデルト近い。
 ヴェルギウスの顎の上でバランスを取りながら、ツルハシから左手を離す。
 先程投擲し、額に刺さった銛を手すり代わりに掴む。

「ふう、ふう」

 上空百メデルトで、飛行するヴェルギウスの頭部に乗っている。
 一瞬のミスが命取りだ。
 だが、早くしないとアフラから離れてしまう。

 慎重にタイミングを見ながら、右手で力一杯握った銛を振りかぶる。

「これで最後だああああ!」

 眉間の中心に、俺の全力で銛を突き刺す。
 深々と刺さった銛は眉間を貫き、脳まで届いただろう。

「グオォオォォ……グガ……ガガ……ガ……」

 ヴェルギウスの叫びが途切れ、隻眼となっていた左目から光が消えた。
 羽ばたきが止まり巨体が落下していく。

「クソッ! このまま着地できるか!」

 銛の柄を掴み、落下の衝撃に備えた。
 何とかヴェルギウスの頭部をクッションにしようと踏ん張る。

 完全に息絶えたヴェルギウスは、ただ落下するだけだ。
 地面まで残り五十メデルト、四十メデルト、三十メデルト。
 凄まじい速度で墜ちていく。

「クソッ! ダメか!」

 目の前に地面が迫る。

「いや、絶対に諦めない!」
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