鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十二章

第200話 強さを求める理由

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 翌日、俺とレイはローザの工房へ足を運んだ。

「これがヴェルギウスの尻尾から作った剣だ」

 ローザは六本の真紅の剣を取り出した。
 そのうちの三本をレイに渡す。

「まずレイの剣だ。以前作ったヴェルギウスの細剣レイピアと同じタイプだが、切れ味を極限まで上げた。恐ろしく切れるが、数回で刃はダメになるだろう。僅かでも切れ味が落ちたと思ったら躊躇せず捨てろ。そして、今持っているレイピアはもう一度コーティングして、切れ味を上げる。レイは合計四本のレイピアを使え」
「分かったわ」

 続いて、ローザは俺に残り三本の剣を渡してきた。

「アルの剣も三本だ。黒爪の剣レリクスと同じ形状にした。こちらも切れ味特化で耐久性はない。捨て時を間違えるなよ」
「分かった」
「とはいえ、アルの武器はツルハシがメインになるはずだ。そして、以前渡したヴェルギウスの銛が三本あるだろう?」
「ああ、持ってるよ」
「基本的な作戦は変わらない。あの銛で仕留めるのだ」
「分かった」
「それとな、今回はヴェルギウスの矢を用意していない。シド様と戦闘を分析したが、尻尾がない状況だと接近戦が有利だ。弓を使うのは開幕時の遠距離攻撃だけだろう。以前シド様が用意した矢をそのまま使用してくれ」
「ああ、まだ四十本以上残ってるよ」

 全ての武器を手にすると、ローザが最終的なチューニングをしてくれた。
 そしてもう一度作戦を確認。

 開幕は矢を撃ち牽制。
 そして接近戦に持ち込み、俺がツルハシで鱗を砕き、レイが突きを打ち、エルウッドが雷の道ログレッシヴを放つ。
 これを繰り返しダメージを蓄積させ、最終的に額の急所へ銛を突き刺す。

 俺は前回の戦いで手応えを掴んでいた。
 今回で戦いを終わらせるつもりだ。

「ローザ、ありがとう」
「ああ。お前たちがヴェルギウスを討伐したら、改めて最高の剣を打つからな。期待して待ってるぞ」

 その後、俺とレイは騎士団本部へ足を運ぶ。
 ヴェルギウスの討伐決行の告知だ。

 ジルの執務室に入室。
 室内にはジルの他にリマもいた。

「ジル・ダズ。一週間後にヴェルギウスを討伐する。街の未開発地に誘い出すことになったわ」
「かしこまりました。レイ様、恐れながら我々に手伝えることはございますか?」
「アルと私とエルウッドで戦う。騎士団はサルガに戻りなさい」
「何を仰いますか。戦闘に参加できなくとも、やるべきことはたくさんあります」
「そう言うと思っていたけど、本当に危険よ? 離れて待機していても、ヴェルギウスが火球を吐き出したら団員は死ぬわ」
「理解しております。それでも在住する騎士三百名全員が残ると言うでしょう。レイ様の戦いを見届けます」
「……分かった。もう何も言わない。好きにしなさい」
「ハッ! ありがとうございます!」

 シドは最敬礼した。
 その横で、リマもレイに向かって最敬礼をしている。

「レイ、手伝えないのは悔しいけど、想いは一緒だ」
「ありがとう。皆の想いを胸に戦うわ」

 続いてトーマス工房へ向かった。
 トーマス兄弟の二人、そして職人二十人にヴェルギウス討伐決行を告知。

 弟のアガスが拳を握っている。

「アルさん、ついにやるんですね!」
「そうです。この街にヴェルギウスを誘い出します。危険なので全員サルガに避難してください」

 兄のマルコは、何かを決意したような表情を浮かべた。

「俺たちは新しい国の国民になるんですよ? 自国の王の伝説を見ないでどうするんですか!」
「そうだ!」
「アルさんの戦いを見るんだ!」
「俺たちの王だぞ!」

 職人も全員同じ意見のようだ。

「わ、分かりました。ただヴェルギウスは本当に危険です。襲われたら間違いなく死にます」
「俺たちはこれから空を飛ぶんです。恐ろしいことなんてたくさん起こります。それに比べたら、ヴェルギウス如きに負けてられません」

 マルコ以下、工房全員の決意は固かった。

 ――

 ヴェルギウス討伐決行の告知を終え、俺とレイとエルウッドは自宅へ歩く。

「やっぱり予想通り、皆残るって言ってたなあ」
「そうでしょうね。逆の立場だったら、私だって絶対に残るもの」
「そうだね。確かに俺も残るって言うか……」

 俺は立ち止まり、正直な気持ちをレイに伝えることにした。

「どうしたの?」
「実はさ……。皆が残ってくれて心強いんだ」
「ふふふ、そうね」
「それに、大切な存在を守る意識を持っていれば、最後まで諦めずに戦える」
「ええ、その気持ちは私もよく分かるわ」
「俺が皆を守るなんておこがましいけど、俺が強ければ皆を守れるんだ」
「それってアルの理想よね? 以前から言っていたもの」

 レイが優しく微笑んでくれた。

「でもさ、レイは俺と同じ強さだから、自分のことは自分で守ってよ?」
「ちょっと! 私を一番に守ってくれるんじゃないの?」
「アハハ」
「ウォウォウォ」
「まったくもう。ふふふ」

 他愛のない会話だが、俺にとってとても幸せな時間だ。
 こういった時間をたくさん過ごすためにも、大切な人を守りたい。

 俺は数年前の王都での事件のことや、ダーク・ゼム・イクリプスとの戦いを思い出していた。
 あの時も俺がもっと強かったら、犠牲は少なかったかもしれない。

 俺はレイの美しい紺碧色の瞳を見つめる。

「なあに?」
「いや、何でもないよ」
「変なアル。ふふふ」

 そして、横にいる最も愛する人を守る。
 それが俺の強さを追求する理由だ。
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