上 下
198 / 352
幕間

第192話 戦士たちの休息4

しおりを挟む
 ついに開催を迎えたアフラ在住者による釣り大会。
 出場は全五チーム。

 アルとレイのSランク冒険者チーム。
 シドとオルフェリアの夫妻チーム。
 マルコとアガスのトーマス工房チーム。
 ジルとリマの騎士団チーム。
 ジョージとローザの師弟チーム。
 そして、審査員はユリアとエルウッド。

 ルールは単純明快。
 正午までに最も大きな魚を釣り上げたチームの勝利。

 賞品はローザとマルコが作り上げた、ヴェルギウスの素材で作った竿とリールのセット。
 この世でたった一つの竿とリールだ。
 金貨千枚は下らないだろう。

 ◇◇◇

「ねえアル。あなたは虫が苦手でしょ?」
「うん、でもこれをつけないと釣りできないからさ。レイは平気?」
「私は大丈夫よ。ただの虫でしょ?」
「アハハ、心強いよ」
「はい、つけたわよ。じゃあアル。教えてもらってもいいかしら?」
「ああ、任せて」

 レイは人生で初めて釣り竿を握る。
 アルに教えてもらいながら投げ釣りを開始。

 だがそのアルも釣り歴は二週間で、まだ一匹しか釣ったことがない素人だった。

 ◇◇◇

「そういえば、ジョージ様の釣り歴は六十年と言っていましたね。強敵ですよ?」
「ハッハッハ、オルフェリアよ。私の釣り歴は千五百年だぞ。歴史が違うのだよ」
「……その割にさっきから釣れてませんが?」
「な! 何を言っておる! 私はこれからなのだ!」

 このチームはオルフェリアがすでに十匹釣っていた。
 だが、まだ大物と言える魚は釣っていない。

 ◇◇◇

「アガス、このリールは少し抵抗が大きいな。少し調整しよう」
「兄さん、この竿はしなりが大きいかもしれない。布を巻いてしなりを抑えよう」

 このチームは釣りよりも道具の調整に余念がなかった。

 ◇◇◇

「ローザよ、どうだ?」
「ダメだ。日が上がって渋くなってきた」
「フォフォフォ、まだまだ若いのう」
「ジイさんはどうなんだよ?」
「儂か? 見てみろ」

 バケツには溢れるほどの魚がいた。

「す、凄いな。さすがだ」
「魚もモンスターも一緒じゃ。習性を理解して、自然に逆らず釣るのじゃ」

 白い髭をなでながら説明するジョージ。
 その姿はまさに釣り仙人だった。

 ◇◇◇

「ねえ、アル。これでいいのかしら?」
「そうそう、浮きが沈んだら釣り上げるんだよ」
「アル! 釣れたわ! 嬉しい、ふふふ」
「初めてでもう釣ったの! 凄い!」
「でもちょっと小さいかしら?」
「これからだよ。時間はまだある。全然大丈夫さ」

 この時のアルは、レイが初めて釣ったことをただ喜んでいた。

 だが、アルは忘れていた。
 レイが神速と呼ばれる人類最速の剣士だということを。

 ◇◇◇

「オルフェリアよ! レイが釣り始めたようだぞ!」
「神速のレイに当たりが出ましたか! 私も負けませんよ!」

 相変わらずシドは釣れていないが、オルフェリアが尋常ではないスピードで釣り上げていた。

 ◇◇◇

「アル! また釣れたわ!」
「凄いじゃないかレイ!」

 レイは浮きが沈むと同時に反応していた。
 恐ろしいほどのスピードだ。

 そのため餌だけ取られるようなことはない。
 それどころか魚にとっては、釣られたことすら理解できていないほどのスピードだった。
 いよいよ、レイの本気が見えてきた。

 ◇◇◇

 観戦している騎士たちがどよめいている。

「おい! レイ様のスピードが凄すぎるぞ!」
「俺の実家は漁業をやってるが、あんなに速い竿さばきは見たことない。竿先が見えない……」
「レイ様って今日が初めての釣りなんだろ?」
「才能がある御方は、何をしても凄いんだな」
「ジル団長の釣りも凄いぞ!」
「それに引き換え、うちの隊長はまだ一匹も釣ってない……」

 ◇◇◇

 トーマス工房の職人たちは大爆笑していた。

「ひーひっひっひ、うちのボスたち釣りしてないぞ!」
「がっはっはっは! ゴホッゴホッ! ダメだ! 笑いすぎて息ができない!」
「あの人たちすぐ開発しちまう。ギャハハハ」
「ひゃはははは! 最高だぜ! あれこそ職人だ! あー、腹いてー!」

 ◇◇◇

「リマ、あなたさっきから何も釣ってませんよ?」

 ジルはすでに二十匹ほど釣っていた。

「アタシは大物狙いだっつーの!」

 次の瞬間、リマの竿が折れるかと思うほどの勢いで曲がった。

「来た来た来たあああっ!」

 リマは力一杯竿を立てる。
 だが竿を引く力は凄まじく、リマの身体が引っ張られていた。
 騎士団でトップレベルの筋力を誇るリマですら引きずられる。

「こ、これはヤバいぞ!」
「リマ! 頑張ってください!」
「ジル団長! これを釣ったら優勝間違いないぞ! 給料上げてくれ!」

 リマはパワーだけの剣士ではない。
 スピードやテクニックも持ち合わせている。

 巧みに竿を動かし、小刻みにリールを巻く。
 竿先の角度を調整し、即座に踏み込む足を切り替える。
 その姿は完全に騎士の一騎打ちだった。
 騎士団からも応援が飛ぶ。

「リマ様! 頑張ってください!」
「隊長! もう少しです!」

 リマは必死でリールを巻く。 

「ぐおおお!」

 大声を上げ、ついに釣り上げたリマだった。

 ◇◇◇

「ローザ! 超大物が来たのじゃ!」

 凄まじい勢いでジョージの竿が曲がる。

「こ、これは凄いぞ! ジイさんでかした!」
「儂らの優勝じゃ!」

 ジョージは一気に竿を立てた。

「グガッ!」
「ジイさん大丈夫か! どうした!」
「こ、腰が……」
「ジイさん! ジイさん!」

 ジョージの竿に超大物がかかったのだが、ジョージの腰は耐えられなかったようだ。
 ジョージは身動きが取れなくなってしまった。

「ユリア! 救護班を!」
「はあ、そんなものないわよ。全く……歳なのに無理しちゃって」

 ローザが叫ぶと、審査員のユリアがジョージの元へ歩み寄る。
 ジョージの腰をさすりマッサージするユリア。

「あとでオルフェリアに診てもらいなさい」

 ◇◇◇

「シド! 今日一番が来ましたよ!」
「いいぞ!」
「レイには負けませんっ!」

 オルフェリアは持てる実力を全て発揮。

「解体師の私を舐めないでいただきたい!」

 世界一の解体師であるオルフェリアは、魚の習性も熟知していた。
 恐らくジョージ以上の知識だろう。

 竿の引き具合や逃げる方向などから瞬時に魚種を特定。
 魚種に合わせた動きで釣り上げた。

 ◇◇◇

「きゃっ! アル! これ大きいわ!」
「レイ! 頑張れ! 糸を緩めると切れるから慎重に!」
「分かったわ!」

 アルもレイも素人過ぎて気付いてないが、凄まじい竿の曲がりに強烈な引き。
 間違いなく超大物だ。

 だが、コツを掴んだレイの敵ではない。
 魚の動きを完璧に読み、呼吸を整え一瞬で釣り上げた。

 ◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...