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第十一章

第187話 回復

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 目を覚ますと俺はベッドに寝ていた。
 オルフェリアがベッドの横に座り本を読んでいる。

「オルフェリア、おはよう」
「アル! 身体は大丈夫ですか?」

 自分の身体を見ると、左腕、左鎖骨、肋骨、左足に固定器具がつけられていた。

「俺はどれくらい寝てたの?」
「五日です」
「そんなに?」
「そんなにって……。全身骨折ですよ? 動かないようにシドが毎日麻酔薬と睡眠薬を打っていたのです」

 身体に力を入れてみる。
 痛みはないようだ。

「大丈夫だ。もう痛みはないよ。力も入る」
「痛みがない? そ、そうですか。良かったです。今日もそろそろ薬の時間なんですが、痛みがないのであれば一旦診察しますね」

 オルフェリアが固定器具を外し、骨折していた部位を診察する。

「お、驚いた。本当に治ってます。後遺症もありません。今日一日安静にして、明日から動いて大丈夫ですよ」

 ちょうどその時、レイとシドが小屋に入ってきた。

「アル! 目を覚ましたのね!」
「アルよ、すまないな。思いのほか骨折が酷かったので、動かないように毎日薬で眠らせていたのだ」
「オルフェリア。アルの状況はどうかしら?」

 オルフェリアが笑顔を浮かべる。

「完治してします。フフ」
「え! もう?」

 レイとシドが、化け物を見るかのような目つきで俺を見ていた。

「俺は一週間も寝てたんだってね。迷惑かけたよ」
「迷惑だと? まあ確かに全身骨折が一週間で治る方が迷惑だな。ハッハッハ」

 シドが笑う横で、レイが肩をすくめていた。

「全身骨折が一週間で治るなんて……。本当にどうなってるのかしらね?」
「そんなこと言われてもなあ」
「ふふふ。アル、珈琲飲む?」

 レイが珈琲を用意していると、ドアをノックする音が聞こえ、二人の男女が入室してきた。

「アルさんは目を覚ましましたか?」
「アル君! 大丈夫かい?」
「え? ジルさん? リマ? どうしてここに?」

 クロトエ騎士団団長のジル・ダズと、近衛隊隊長のリマだった。
 だがこの二人はサルガにいるはずだ。
 驚いている俺に、シドが全ての状況を説明してくれた。

 ヴェルギウス撃退後、俺は何とか自力で組み立て小屋まで戻ってきた。
 そこで麻酔に逆らえず意識を失う。
 シドはサルガに連絡用の大鋭爪鷹ハーストを飛ばし、ヴェルギウス撃退を報告。
 そしてユリア、ジョージ、ローザの招集と、騎士団へ百名ほど人員の派遣を依頼。
 理由は基地建設のためだ。

 ジルは二回目のヴェルギウス撃退を知り、サルガに在中している騎士団から三百人を派遣。
 さらにジル自ら派遣部隊を指揮し、リマも帯同させた。
 騎士団とユリアたちは昨日この地に到着。

 ヴェルギウスの尻尾は、騎士団の手によって火山からこの地へ運び込まれた。 
 尻尾を見たジョージは興奮しすぎて気絶寸前だったそうだ。

 シドの見立てによると、ヴェルギウスは尻尾を失い、左足に致命的な傷を負っている。
 この傷を癒やすには相当な時間がかかるとのこと。

「シド、ヴェルギウスの住処はどうだった?」
「尻尾を拾いに行った時はいなかった。恐らく火山の別の場所で療養しているのだろう」

 シドが水の入ったグラスを手渡してくれた。
 俺は久しぶりに声を出したことで喉が乾き、一気に水を飲み干す。

「アルとレイの戦いを見ていたが、ヴェルギウスにしっかり対抗できていたぞ。私の印象だとほぼ勝っていた」
「いや、でも俺は全身骨折だよ? あのまま続けていたら殺されていたさ」
「それはヴェルギウスも同じだろう。たかが人間に足の骨を砕かれ、尻尾を切られたのだ。もしかしたら恐怖心が芽生えたのかもしれんぞ」
「そうだといいが……。だけどさ、俺はヴェルギウスと戦った後は毎回ベッドの上で起きるんだよ? 本当にいつも大怪我さ」
「あのなあ、竜種だぞ。そもそも人間が敵うわけないのだ。生きてること自体おかしいのだぞ。まったく」

 シドが顔を近付けてきた。

「私が何回竜種に殺されたと思っているのだ」

 誰にも聞こえないように耳元でそっとささやく。
 シドは何度も竜種に遭遇しては、その都度殺されていたのだった。

「アル、珈琲よ」
「ありがとう」

 俺は久しぶりの珈琲を味わう。
 窓から入り込む風が心地良い。
 ベッドの上ではあるが、久しぶりにゆっくりと寛いでいる。

「そうだ、アルよ。ヴェルギウスがサルガを襲った理由が分かったぞ」
「え! 本当に?」
「ああ、ヴェルギウスの尻尾を取りに行った時、採掘の跡を見つけたのだ。アルも言っていただろう。アフラ火山は希少鉱石が豊富だと」
「ああ、そうだよ。高品質の鉱石ばかりだったよ」
「恐らく希少鉱石を求めてあの場所へ行ってしまい、ヴェルギウスの住処と知らずに採掘したのだろう」
「それこそ文字通り、逆鱗に触れたというわけか」

 サルガ襲撃は住処を荒らされた報復だったのか。
 だが、それにしたって、街を一つ壊滅させるとは人間側の被害が大きすぎる。
 やはり人類は、竜種に関わってはいけないのだろうか。

 そんなことを考えていると、またノックの音が響いた。

「シド様はいますか?」
「ローザ!」

 ローザが小屋に入ってきた。

「おお。アルよ、起きたのか。傷は大丈夫か?」
「うん。問題ないよ」

 ローザは先程ヴェルギウスの尻尾を見てきたそうだ。

「あの尻尾から剣を作る。対ヴェルギウス用に特化させるつもりだ。アルとレイにも開発の協力をしてもらうぞ」
「ああ、分かった」

 トーマス工房の組み立て小屋に大勢の人が来た。
 特注で大きく作ってもらったとはいえ、七人も入ると少し狭く感じる。
 それでもみんながわざわざ来てくれたことが嬉しい。

 その後もしばらく全員でヴェルギウスに関する話から、今後の予定、他愛のない話までして過ごした。
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