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第十一章

第185話 ヴェルギウス再び

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 ここまでは普通に歩いてきたが、ここからの足取りは慎重にならざるを得ない。
 俺とレイが前列を歩き、中列にオルフェリア、後列はシドとエルウッドの隊列だ。

 緩やかな斜面を進むと、五百メデルト先に大きく立ち上る噴煙が見えた。
 明らかにこれまでと煙の濃度が違う。
 恐らく溶岩地帯だろう。

 もしかしたら、ヴェルギウスがいるかもしれない。
 俺は背中から弓を取り出す。
 レイは真紅のレイピアを抜く。

 斜面を登り切ると、平坦な場所に出た。
 半径約百メデルトの半円型の平地だ。

 平地の奥は、頂上が見えないほどの崖がそそり立つ。
 崖の手前には煮えたぎった溶岩の池が、半円の平地を取り囲んでいる。
 その様子はまるで城壁と堀のようだ。

 その溶岩池の手前で、背を丸めて寝ている巨大なモンスター。
 真紅の鱗、大きな二枚の翼、長い尻尾。

「ヴェルギウスだ! シド、オルフェリア、下がれ!」
「アル! 牽制だけだぞ! その間に私とオルフェリアでヴェルギウスの状態を確認する! 絶対に無理するな! もう二度と死ぬんじゃないぞ!」
「ああ、もちろんだ!」

 俺は弓を構えヴェルギウスに近付く。
 すると、ヴェルギウスがゆっくりと顔を上げ左目を開いた。
 漆黒の眼球と美しい金色の瞳孔が、俺の姿を捉える。

「グルゥルゥゥ」

 右目は開かない。
 俺に潰されたままだ。 

「グォオオォォオオォォォ!」

 凄まじい咆哮を上げながら身体を起こすヴェルギウス。

 俺は即座にヴェルギウスの顔面に向かって矢を放つ。
 ヴェルギウスは右手で難なく矢を弾くと同時に、火球を吐き出した。
 空気を焼きながら迫りくる火球。
 しかし、こちらの弓が効かないように、俺たちも火球を難なく避ける。

「弓はもう少し近付かないとダメだ!」
「アル! 無茶しないで!」
「大丈夫だ」

 続けざまに火球を吐き出すヴェルギウス。
 六発吐き出した。

 これだけ距離があれば連続でも避けられる。

「全部吐き出したか!」

 すると、ヴェルギウスは背後の溶岩池に口を突っ込んだ。

「よ、溶岩を飲んでいるのか?」

 背中を見せたので俺は弓を放つ。

「クソッ! 鱗で阻止されたか!」

 首筋には無数の突起物があり、鱗は特に厚くて硬いのだろう。
 この距離では通用しないようだ。
 溶岩を飲み終わると、振り返るヴェルギウス。

「グォオオォォオオォォォ!」

 咆哮を上げ、火球を吐き出す。
 完全には固まっておらず少し溶岩に近い状態だ。

 立て続けに火球を吐き出す。
 その数は六発。

「やはり六発が限度か!」

 そしてまた溶岩を飲み込む。
 無限に補給できることで、躊躇なく火球を吐き出すヴェルギウス。

 再度六発吐き出した。
 だが百メデルトも離れていれば避けられる。

「レイ、近付くぞ! 作戦が効くか試すんだ!」
「分かったわ!」
「覚悟はいいか!」
「ええ、もちろんよ! どこまでもついて行くわ!」
「頼もしいよ!」
「エルウッド! 行くぞ!」
「ウォン!」

 俺は弓をその場に起き、背負っていた真紅のツルハシを手にする。

 溶岩を飲み終わり、振り向くヴェルギウス。
 だが俺たちはすでに、ヴェルギウスの足元に張りついていた。
 俺は全力でヴェルギウスの左足にツルハシを振り下ろす。

 まるで鉱石を削るかのように、甲高い音が鳴り響く。
 強固な真紅の鱗が飛び散つ。
 さすがローザが作ったツルハシだ。
 ヴェルギウスの鱗を砕くことに成功した。

 レイがすかさず突きを放つ。
 三段突きだが、全て回転させている。
 えげつない攻撃だ。

 俺のツルハシで鱗が飛び散り、剥き出しとなったヴェルギウスの左足の肉。
 レイの回転突きによって傷口を広げ、肉を裂き、血管や腱まで潰していた。

 レイはすぐさま剣を引き飛び退く。
 そこへ、エルウッドが飛びつき、傷口に強烈な雷の道ログレッシヴを叩き込む。

「グォオオォォオオオオオォォォ!」

 ヴェルギウスが咆哮を上げた。
 明らかにダメージを受けている。

 だが、ヴェルギウスも反撃に出た。

 尻尾を大きく振りかぶり、高速で横に振る薙ぎ払いだ。
 全員ジャンプで避ける。

 ヴェルギウスも必死だ。
 続けざまに尻尾を縦に振り下ろしてきた。
 俺たちはそれを飛び退き、確実に避ける。

 地面を砕く爆発音を立て、岩盤に打ちつけられた尻尾。
 その部分だけ地面が抉れている。
 直撃したら無事では済まない威力だ。

「今だ!」

 しかし、大きな攻撃には隙が出る。
 打ちつけられ無防備となった尻尾の根本に向かって、俺はツルハシを振り下ろす。
 レイは狙いすましたように七段突きを放つ。
 そしてエルウッドが雷の道ログレッシヴを放出。

 俺たちにできる最高の連続攻撃だ。
 さらに俺は、同じ場所へもう一度ツルハシを振り下ろす。
 鱗がないため、肉がごっそりと抉れた。

 太い血管を切ったようで、猛烈に血が吹き出す。
 俺は全身に返り血を浴びた。

「グォォォオォォォオォォォ!」

 首を左右に激しく振りながら、咆哮を上げるヴェルギウス。
 怒りに支配されたその左目が俺を睨みつける。

 ヴェルギウスの口から煙が漏れ出す。
 火球を吐き出すモーションだ。
 この距離で吐き出されると避けられない。

「ヤバい!」

 俺はヴェルギウスの足元へ飛びつく。
 ここまで接近すれば、逆に火球は吐き出せないだろう。
 すると、ヴェルギウスは瞬時に狙いを切り替え、レイに向かって火球を吐き出した。

 一瞬、レイを助けなければと思ったが、俺はレイを信じた。
 これはむしろチャンスだ。
 レイなら大丈夫。
 絶対に避けると信じている。

 ヴェルギウスの意識がレイに向かっている隙に、真紅のツルハシを三度振り下ろした。
 ヴェルギウスの一度目で左足の肉を裂き、二度目で骨まで到達し、三度目で骨を削った。

「グォォォオオオオォォォォォ!」

 ヴェルギウスの口から溶岩が漏れる。

「危ないっ!」

 対応が遅れて、俺の肩に垂れ落ちてしまった。
 肩鎧ショルダーアーマーから煙が上がり、少し焦げた臭いがする。
 だが、ローザが黒靭鎧ウォルムを強化してくれたおかげで無傷だ。
 ヴェルギウスの鱗でコーティングされた黒靭鎧ウォルムは、溶岩の熱すら遮断する。

「ローザ凄いぞ!」

 もう一度ツルハシを振り下ろすと、骨が砕ける音が鳴り響く。
 骨を粉砕した手応えを感じた。

「グボオオオオォォ!」

 ヴェルギウスの口から、大量の溶岩が溢れ出る。
 先程飲み込んだ溶岩を全て吐き出しているようだ。

「グオオオオオオオッ!」

 溶岩を吐ききったヴェルギウスが、これまでで最大の咆哮を上げた。
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