鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十一章

第184話 火山調査

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 異変を感じた場所へ近付くと、岩場に裂け目があった。
 長さは二メデルト、幅は約三十セデルトほどだ。
 その裂け目から風が吹き出している。

 シドがマスクを外す。

「臭いはないな。色もない。だが、明らかに普通の空気とは違う……」

 シドはポケットから一枚の袋を出した。

巨兵蛙ゴラエルの革だ」

 ゴラエルは体長二メデルトのEランクモンスターで、水辺に生息する。
 長く伸びる舌で小動物や魚類を捕獲するが、人間に被害はほとんどない。

 顎から胸の周辺を、体長の数倍膨らますことで有名だ。
 その皮は頑丈でよく伸びるので、様々な製品に使用されている。
 水や空気を通さないため、特に雨具、水筒、テントの素材として人気だった。

 シドがゴラエルの革袋を裂け目にかざすと、大きく膨らむ。
 そして手を離す。

「う、浮いた!」
「これだ! オルフェリア! これが軽い空気だ!」

 俺とレイは驚き、シドは笑顔でオルフェリアに伝える。

「す、凄いです!」

 オルフェリアが両手で口を塞ぎ、歓喜の表情を浮かべていた。
 軽い空気の発生源は、俺たちが小屋を建てた場所から一キデルトも離れていない。

「シド、この軽い空気をどうやって運ぶかだよな」
「袋に詰めて人海戦術で運ぶなんて無理だからな。しっかり考えてあるぞ」

 シドが言うには、まずこの場所に軽い空気の採取工場を建てる。
 そして離れた場所に飛空船工場を建設し、その間をパイプで繋ぐとのこと。

 その距離は約一キデルト。
 一本十メデルトの巨大パイプを作り、それを百本繋げることで採取工場と飛空船工場を繋ぐ。

「なるほど。採取場所と工場をパイプで繋ぐのか」
「うむ、そうだ」
「パイプがモンスターに壊されないように警備が必要だな」
「パイプはヴェルギウスの火球を溶かして作る。簡単には壊れんぞ」
「なるほど、火球を使うのか。それは凄いな」

 シドはしっかりと、採取後のことも考えていた。
 それにしても。到着して初日に軽い空気を発見。
 あっけないというか驚くほど簡単に思えたが、シドのガイドが余程正確だったのだろう。

「シド。口では覚えてないと言いながら、大体の位置は分かってたんだろう?」
「ハッハッハ、野暮なことは言うでない。アルのバカげた視力で発見したのだ。ハッハッハ」
「アハハ、そういうことにしておくよ」

 シドは妙なところで謙遜する癖がある。
 普段の尊大な態度は、照れ隠しなのだろうか。

「さあ、これで目的の半分は達成だ。ユリアに手紙を書いて工場建設の手配をしてもらう。サルガへの街道も作るぞ」
「分かった。じゃあ残り半分の目的、ヴェルギウスの調査に移ろう」
「うむ、明日の朝から行くぞ」

 シドはその後も、他にも軽い空気の発生源がないか、オルフェリアと周辺を調査を続行。
 俺とレイは明日のヴェルギウス調査の準備だ。

 ――

 翌朝、俺たちは一通りの装備品を持って火山へ出発。

「アル、レイ、いいか。今回は調査だ。もしヴェルギウスと遭遇しても、状況を確認して撤退するからな」
「もし弱っていたら?」
「バカなことを言うな。手負いの竜種なんて危険どころじゃないんだぞ?」

 これまで何度も竜種と遭遇し、ヴェルギウスにも殺されたことがあるシド。
 竜種の危険性は熟知している。
 俺も前回はヴェルギウスに心肺停止まで追い込まれた。
 シドの言う通り、慎重に行動すべきだろう。

 広大な岩場を進む。
 足元は溶岩が固まってできた岩盤で、流れ出た水のような模様をしている。
 高温で岩が溶けたと頭では分かっているが、実際に見ると不思議で仕方がない。

「本当に水が流れてるみたいだな」
「うむ、アフラ火山の溶岩は粘性が低いからな。よく流れるんだ」

 そして、所々に巨大な岩がそそり立つ。
 噴火で飛んできた岩だろう。

 振り返ると、かなりの標高まで歩いてきた。
 恐らく標高千メデルトはあるだろう。

「ふうう、それにしても暑いな」
「そうね、火山の地熱でしょう。靴底が熱くなっているもの」

 歩きながらレイと話す。
 標高が上がれば気温は落ちてくると思っていたが、逆に気温が上がってるように感じる。

 さらに進むと、三メデルトほどの崖が現れた。
 まず俺が壁をよじ登り、シドとオルフェリアの手を引く。

 レイとエルウッドは、華麗にジャンプして飛び越えた。

「レイってジャンプ力が尋常じゃないよね?」
「え? そうかしら? 気にしたことないけど」
「だって以前大牙猛象エレモスを討伐した時も、エレモスの頭部にジャンプで飛び乗ってたし」
「それは無我夢中だったから……。アルだって本気を出せば、この崖くらい余裕で飛び越えるでしょ?」
「まあそうだけどさ」

 この会話を聞いていたオルフェリアが苦笑いしていた。

「ねえシド。あの二人の会話って時々人間離れしてますよね? って、シドも人間離れしてました。このパーティーでまともな人間は私だけなんですね。フフ」

 珍しくオルフェリアが毒づいていた。
 みんなで笑う。

 崖に登ると景色が一変。
 黒灰色のゴツゴツした岩場に変わった。
 転んだら傷だけでは済まされないほどの細かい突起だ。

 岩と岩の隙間からは、僅かだが草花が生えている。
 さらに、いくつかの噴煙が薄っすらと立ち上っている
 先程の麓付近は流れ出た溶岩が覆っていたが、恐らくこれが本来のアフラ火山の姿なのだろう。
 俺は周囲の岩壁を見渡す。

「シド、ここは鉱石の採掘場としても凄いんじゃないか? 岩壁に黒深石や竜石が見えるぞ」
「そうだな。良い採掘ポイントだと思うぞ」

 俺とシドは鉱石を見て驚く。

「レイ、見てください。火山草です。あっちは黒蘭が咲いてます」
「本当ね。こんな場所に咲いているなんて凄い生命力だわ」

 オルフェリアはレイと植物を見て驚いていた。

 さらに進むと、また崖が出現。
 今度は五メデルトほどの高さだ。

「オルフェリア、登れるかい?」
「が、頑張ります」

 俺はツルハシで岩を削り、オルフェリアのために足場を作った。

「アルよ、私には聞いてくれないのか?」
「あなたは登れるでしょ!」

 レイがシドに怒っていた。

 俺は勢いをつけ、ダッシュで崖に飛びつき、そのまま壁を蹴り上がった。
 レイも同じように登る。

 俺は崖の上に寝そべり、手を伸ばしてオルフェリアを引き上げた。

「アル、ありがとうございます」

 その様子を見て、腕を組みながらニヤついているシド。
 きっと自分も同じように手伝ってもらえると思っているのだろう。
 仕方がないので、シドの手も引っ張り上げる。

「助かったぞ、アル」
「シドも少しは鍛えた方がいいんじゃないか?」
「無用だ。私にはアルがいるからな。ハッハッハ」

 意味不明なことを言っていた。

 そしてまた岩場を進む。
 すると黒灰色から赤褐色の岩肌に変わってきた。
 先程まで見かけた草花の姿はもうない。
 標高はそろそろ二千メデルトになるだろう。
 一面に広がる赤い岩場は壮観だ。
 こんな景色は見たことがない。

「はあ、はあ、辛くなってきたな。それにこの暑さだ。オルフェリア大丈夫か?」
「ええ……まだ全然大丈夫です。というか、一番心配なのがシドなんですけど……」
「な! そ、そんなことないぞ!」

 この中で唯一、シドだけ息が切れている。
 
「あなたも鍛えないと、オルフェリアに捨てられるわよ」
「う、うるさいぞレイ!」

 反論する元気があれば大丈夫だろう。

「皆、そろそろだぞ」

 俺は目の前に落ちている真紅の鱗を拾った。
 ヴェルギウスの鱗だ。
 全員の緊張感が一気に上がる。
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