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第十一章
第182話 アフラ火山
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翌朝、俺達は改めてヴェルギウスの調査へ出発。
寝台荷車は、ティル・ネロを討伐した地点までノンストップで進む。
「すでにルートは把握したからな。ここまでは問題ない」
シドは完璧にルートを開拓した。
恐らく今後はこのルートに街道を作るだろう。
結局、その日の深夜にティル・ネロ討伐地点へ戻ってくることができた。
「さて、ここからはまた慎重に進むぞ。まあティル・ネロ以上のモンスターは出ないと思うが、剣士の二人には働いてもらう」
「ああ、任せてくれ」
「ひとまず今日はここで寝台荷車を停めて宿泊だ」
――
出発から1週間が経過。
道中では様々なモンスターと遭遇。
こちらから手を出すことはなかったが、当然襲ってくるモンスターはいる。
その都度、俺たちはモンスターを討伐。
モンスターの素材は食用となる部位だけ剥ぎ取り、その他はそのまま放置。
俺とレイはギルドを卒業することが決まり、討伐スコア更新のための討伐証明を採取する必要がなくなったからだ。
正直、俺は討伐スコアの更新を楽しみにしていたので、寂しい気持ちもあった。
「確かに討伐スコアの更新はなくなるが、これからもっと様々なモンスターに遭遇するだろう。世界にはまだ人類の未踏地がある。我々はそういった場所に進出するのだからな」
「ああ、そうだな。ありがとう」
俺の気持ちを察したのか、シドがフォローしてくれた。
その後も草原を進み、雑木林や森林を抜け、湖でキャンプを張る。
そして出発から十日。
サルガから約五百キデルトの距離にある平野と火山の境界線まで来た。
目の前にはアフラ火山がそびえ立つ。
標高は五千メデルトほどだろうか。
完全な独立峰だ。
これほどまでに巨大な独立峰は初めて見たかもしれない。
頂上の火口から、まるで夜を纏うかのように立ち上る黒煙。
斜面からも灰色の細い噴煙がいくつも見える。
山肌は赤く全て岩石だ。
森林どころか木々は一切ない。
「す、凄い。これがアフラ火山か……」
俺は思わず呟いていた。
「私もアフラ火山は初めてよ。本当に凄いわね」
「ええ、私もです」
レイとオルフェリアも、火山に見入っていた。
「この火山は今も活動している。ヴェルギウスの住処であるが、始祖火の神の山でもある。一説によると噴火は竜種と始祖の活動に関連があるそうだ」
レイがシドの顔を見る。
「ねえ、その一説って誰が唱えたの?」
「相変わらず鋭いな。もちろん私だ。ハッハッハ」
シドは世界を旅した際に、竜種や始祖についても研究していたそうだ。
だが、シドでも不明な点が多々ある。
特に始祖のことは住処と名前だけで、詳細は全く不明とのこと。
「ここから先はもう火山だ。ここが火山との境界線で、最後の平野部となる。ちょうど湖もあるし、対岸には樹海が広がる。ここに基地を作る予定だ」
「なるほど。確かに好立地だな」
「この基地は将来的に大きな街に発展させ、アルの国の都市にする予定だ」
「え? じゃあここに新しい国を作るの?」
「一応その予定だ」
シドが言うには、ヴェルギウスの討伐のため、この地は俺たちの管理地として認められる可能性が高いとのこと。
そして、ヴェルギウスを討伐すれば、そのまま領土として主張できる。
そのためにも国が必要になるそうだ。
ただの会社や組織では、領土の主張はできないとのこと。
国を興し領土を主張するには、世界会議で国家の承認が必要になる。
イーセ王国はヴィクトリア女王陛下が承認してくれるようだ。
シドもフォルド帝国には顔が利く。
大国であるイーセ王国と世界最古の国であるフォルド帝国が承認すれば、他国も従う方向へ流れるとシドが説明してくれた。
「アルよ。ここに軽い空気を集め、空飛ぶ乗り物の工場を建設する」
「いよいよだな。空路が発達したら、ここが世界の中心になるかもしれないのか」
「うむ、その通りだ。そのためにこの地へトーマス工房を誘致するぞ」
「なるほど、トーマス工房で乗り物を作る予定だったもんな。誘致に応じてくれるかな」
「おいおい、君が会社のオーナーだろ」
「いや、経営には一切口出しないから」
「まあそれはアルの長所だが、今回は誘致交渉をしてもらうぞ」
「分かったよ」
シドが両手を動かし、空中に船のような形を描いている。
「私は飛空船というものを作ろうと思っているんだ」
「飛空船?」
「そうだ。そのために、トーマス兄弟には船の勉強をするよう伝えたのだ」
「ああ、研究費として金貨百枚渡してあるよ」
それにしても、空を飛ぶのになぜ船なのだろうか?
俺の疑問を察知したかのように、薄っすらと笑みをこぼす。
「厳密には船ではないがな。船の構造を取り入れるんだ。水の抵抗ならぬ空気の抵抗を弱め、大量に物資を運べて、居住区もしっかり作ることができる」
「なるほど」
「私の計画では、この飛空船が完成すれば、一日で千キデルトは移動できるようになるぞ」
「なっ! そ、そんなに! 千キデルトなんて馬車でも二週間以上かかるのに……」
「さらに物資の運搬量も増えるからな。世界の流通は一気に変わるぞ。だから利権に群がる連中が溢れるんだ。我々が確実に航空権を取るためにも、全容を見せる前に国を作る」
「なるほど。シドは凄いな。先の先まで考えているのか」
「まあな。今まで目的もなく死ねない人生を送ってきたが、今は君たちのおかげで生きていることがとても楽しいぞ。ハッハッハ」
「アハハ、良かった。シドのためにも俺たちと過ごした証を残すよ」
「……ああ、ありがとう。君といれば私の夢も叶いそうだ」
「シドの夢?」
「まあそのうち話すさ」
空の移動が現実的となり、いよいよシドの話が具体的になってきた。
しかし、その前にやらなければならないことがある。
軽い空気の発見と、ヴェルギウスの討伐だ。
この二つは絶対に達成しなければならない。
さらに、アフラ火山には始祖火の神もいる。
問題は山積みだが、俺は絶対に達成させるつもりだ。
寝台荷車は、ティル・ネロを討伐した地点までノンストップで進む。
「すでにルートは把握したからな。ここまでは問題ない」
シドは完璧にルートを開拓した。
恐らく今後はこのルートに街道を作るだろう。
結局、その日の深夜にティル・ネロ討伐地点へ戻ってくることができた。
「さて、ここからはまた慎重に進むぞ。まあティル・ネロ以上のモンスターは出ないと思うが、剣士の二人には働いてもらう」
「ああ、任せてくれ」
「ひとまず今日はここで寝台荷車を停めて宿泊だ」
――
出発から1週間が経過。
道中では様々なモンスターと遭遇。
こちらから手を出すことはなかったが、当然襲ってくるモンスターはいる。
その都度、俺たちはモンスターを討伐。
モンスターの素材は食用となる部位だけ剥ぎ取り、その他はそのまま放置。
俺とレイはギルドを卒業することが決まり、討伐スコア更新のための討伐証明を採取する必要がなくなったからだ。
正直、俺は討伐スコアの更新を楽しみにしていたので、寂しい気持ちもあった。
「確かに討伐スコアの更新はなくなるが、これからもっと様々なモンスターに遭遇するだろう。世界にはまだ人類の未踏地がある。我々はそういった場所に進出するのだからな」
「ああ、そうだな。ありがとう」
俺の気持ちを察したのか、シドがフォローしてくれた。
その後も草原を進み、雑木林や森林を抜け、湖でキャンプを張る。
そして出発から十日。
サルガから約五百キデルトの距離にある平野と火山の境界線まで来た。
目の前にはアフラ火山がそびえ立つ。
標高は五千メデルトほどだろうか。
完全な独立峰だ。
これほどまでに巨大な独立峰は初めて見たかもしれない。
頂上の火口から、まるで夜を纏うかのように立ち上る黒煙。
斜面からも灰色の細い噴煙がいくつも見える。
山肌は赤く全て岩石だ。
森林どころか木々は一切ない。
「す、凄い。これがアフラ火山か……」
俺は思わず呟いていた。
「私もアフラ火山は初めてよ。本当に凄いわね」
「ええ、私もです」
レイとオルフェリアも、火山に見入っていた。
「この火山は今も活動している。ヴェルギウスの住処であるが、始祖火の神の山でもある。一説によると噴火は竜種と始祖の活動に関連があるそうだ」
レイがシドの顔を見る。
「ねえ、その一説って誰が唱えたの?」
「相変わらず鋭いな。もちろん私だ。ハッハッハ」
シドは世界を旅した際に、竜種や始祖についても研究していたそうだ。
だが、シドでも不明な点が多々ある。
特に始祖のことは住処と名前だけで、詳細は全く不明とのこと。
「ここから先はもう火山だ。ここが火山との境界線で、最後の平野部となる。ちょうど湖もあるし、対岸には樹海が広がる。ここに基地を作る予定だ」
「なるほど。確かに好立地だな」
「この基地は将来的に大きな街に発展させ、アルの国の都市にする予定だ」
「え? じゃあここに新しい国を作るの?」
「一応その予定だ」
シドが言うには、ヴェルギウスの討伐のため、この地は俺たちの管理地として認められる可能性が高いとのこと。
そして、ヴェルギウスを討伐すれば、そのまま領土として主張できる。
そのためにも国が必要になるそうだ。
ただの会社や組織では、領土の主張はできないとのこと。
国を興し領土を主張するには、世界会議で国家の承認が必要になる。
イーセ王国はヴィクトリア女王陛下が承認してくれるようだ。
シドもフォルド帝国には顔が利く。
大国であるイーセ王国と世界最古の国であるフォルド帝国が承認すれば、他国も従う方向へ流れるとシドが説明してくれた。
「アルよ。ここに軽い空気を集め、空飛ぶ乗り物の工場を建設する」
「いよいよだな。空路が発達したら、ここが世界の中心になるかもしれないのか」
「うむ、その通りだ。そのためにこの地へトーマス工房を誘致するぞ」
「なるほど、トーマス工房で乗り物を作る予定だったもんな。誘致に応じてくれるかな」
「おいおい、君が会社のオーナーだろ」
「いや、経営には一切口出しないから」
「まあそれはアルの長所だが、今回は誘致交渉をしてもらうぞ」
「分かったよ」
シドが両手を動かし、空中に船のような形を描いている。
「私は飛空船というものを作ろうと思っているんだ」
「飛空船?」
「そうだ。そのために、トーマス兄弟には船の勉強をするよう伝えたのだ」
「ああ、研究費として金貨百枚渡してあるよ」
それにしても、空を飛ぶのになぜ船なのだろうか?
俺の疑問を察知したかのように、薄っすらと笑みをこぼす。
「厳密には船ではないがな。船の構造を取り入れるんだ。水の抵抗ならぬ空気の抵抗を弱め、大量に物資を運べて、居住区もしっかり作ることができる」
「なるほど」
「私の計画では、この飛空船が完成すれば、一日で千キデルトは移動できるようになるぞ」
「なっ! そ、そんなに! 千キデルトなんて馬車でも二週間以上かかるのに……」
「さらに物資の運搬量も増えるからな。世界の流通は一気に変わるぞ。だから利権に群がる連中が溢れるんだ。我々が確実に航空権を取るためにも、全容を見せる前に国を作る」
「なるほど。シドは凄いな。先の先まで考えているのか」
「まあな。今まで目的もなく死ねない人生を送ってきたが、今は君たちのおかげで生きていることがとても楽しいぞ。ハッハッハ」
「アハハ、良かった。シドのためにも俺たちと過ごした証を残すよ」
「……ああ、ありがとう。君といれば私の夢も叶いそうだ」
「シドの夢?」
「まあそのうち話すさ」
空の移動が現実的となり、いよいよシドの話が具体的になってきた。
しかし、その前にやらなければならないことがある。
軽い空気の発見と、ヴェルギウスの討伐だ。
この二つは絶対に達成しなければならない。
さらに、アフラ火山には始祖火の神もいる。
問題は山積みだが、俺は絶対に達成させるつもりだ。
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