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第十一章

第181話 ローザの剣

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 レイと目が合った俺は、その美しい顔を見つめながら、思わず苦笑いを浮かべた。
 レイの言う通り、こうなってしまったら何を言っても無駄だろう。

 それに国を興すための理由も納得できる。
 俺は覚悟を決めた。

「分かった。空路開拓は俺たちの目標だからな。そのためだったら国を興すことに異論はないよ。でも俺は冒険をやめないよ? レイと世界を旅するのが夢なんだから」
「覚えてくれていたのねアル。嬉しいわ。もちろん私たちは旅を続けるわよ」
「全て任せろ。私だって君たちと旅は続ける。そのためにヴェルギウスを討伐して、空飛ぶ乗り物を作るんだからな。ハッハッハ」

 ティル・ネロの死骸を送り届けただけなのに、国を興すことになってしまった。
 もうシドを止めることはできないだろう。

 冒険者ギルドの創設者で不老不死のシドは、現存するどの国よりも長く生きており、その知識量は膨大だ。
 そしてユリア、ジョージ、ローザとギルドでトップだった優秀な人材がいる。
 さらに騎士団団長だったレイ。
 冒険者ギルドで歴代最高クラスの頭脳を持つと言われるユリアですら、レイには敵わないと言っているほどだ。
 本当に国を作ることができるだろう。

 俺は正直、国や国王に興味はない。
 いや、確かに幼少の頃は「大きくなったら王様になる」と言っていた。
 だがそれは、子供なら誰しも一度は言うことであって本気なわけがない。

 俺はシドの顔を見る。
 二千年の時を生きるシド。
 レイやユリアと話す今のシドは、とても生き生きとして若々しい。
 建国より、王になることより、俺はシドが楽しそうにしていることが何よりも嬉しかった。
 俺と一緒に生きている時代くらい孤独を解消して欲しい。
 シドは本当に辛い人生を送ってきたのだ。
 シドが楽しんでくれるなら、俺は喜んで何でもする。
 俺はシドを心の底から親友だと思うようになっていた。

 続いて俺は、レイとローザと騎士団駐屯地へ赴きティル・ネロ討伐を報告。
 ジルやリマは声が出ないほど驚いていた。

 ティル・ネロはジョージの研究が終わり次第、ローザが素材から剣を作る予定だ。

「ティル・ネロの素材で装備品を作れる機会なんてないからな。腕が鳴るぞ」

 ローザの見立てでは素材から六十本の剣、五十本の短剣、二十着の鎧、解体師用の道具セットが百セットは製作できるとのこと。

 そのため、ティル・ネロの剣を数本ほど騎士団へ提供することになった。
 サルガ復興では色々と融通を効かせてくれているので、その返礼の意味もある。
 提供する剣は、サルガ復興で活躍した騎士に褒美で出すそうだ。

 そして、ティル・ネロの食用可能な部位を提供。
 モンスター食の文化がないイーセ王国では抵抗があったようだが、試食したところ認識を改めたようで大変喜んでいた。
 今後は騎士団でもモンスター食を推進するとのことだった。

 それ以外のティル・ネロ装備は販売する。
 超貴重なティル・ネロの素材な上に、世界一の鍛冶師神の金槌シャイオンのローザの剣だ。
 この剣は一本金貨千枚で販売するとローザが言っている。

「い、一本金貨千枚だって! そ、そんなの売れないでしょ!」
「アル。ローザの剣というだけでも、金貨五百枚や千枚を出す冒険者や王侯貴族がいるのよ。しかもティル・ネロの素材よ? 破格の安さよ? この剣なら私だって買うわ」

 レイの発言を聞いたローザが笑みを浮かべている。

「レイがそんなことを言うなんてな。嬉しいじゃないか。お前とアルにはいくらでも作ってやる。だが、お前たちの剣はヴェルギウスの素材で作るんだ。これではないぞ。ククク」

 レイの発言を聞いて、ジルが右手を上げた。

「ティル・ネロの素材で、さらに神の金槌シャイオンのローザさんの剣を持てるなんて剣士として最高の誉れです。恐れ入りますが、私の分を一本注文させていただくことは可能ですか? 購入したいと思います」
「騎士団団長からの依頼ですか? もちろん受けましょう。ククク」

 ジルが珍しく興奮していた。
 レイがリマの顔を見る。

「ねえ、リマはいいの?」
「ア、アタシはこの剣でいいんだよ!」
「もしかして、またギャンブルに使ったの?」
「うるさいな」
「まったく、しょうがないわね。私が一本両手剣グレートソードを予約しておくから、お金ができたら持って来なさい」
「え? いいのか!」
「今回だけ特別よ。だからギャンブルはやめなさい」

 レイは呆れながらも優しく笑っていた。

 ティル・ネロから制作するローザの装備品で、金貨十万以上を売り上げる予定だ。
 こちろん原価や人件費もあるのが、収益は全て建国の費用にあてることになる。
 こういった現実的な話になると、本当に国を興すということを実感するのだった。

 ――

 全ての用事を終え帰宅。
 この日は興国メンバー全員で夕食を取る。

 メニューはティル・ネロのフルコース。
 オルフェリアが腕をふるった。

 なお、肉の焼き方に最も厳しいのはローザだった。
 ローザの指導のおかげで、極上のティル・ネロの鉄板焼を堪能。
 これまで食べたどんな肉より美味かった。

 シドは焼き方が下手だと怒られていたが……。

 食後に改めて興国について意思確認。
 俺、レイ、シド、オルフェリア、ユリア、ジョージ、ローザの七人全員が新しい国造りに賛同した。
 当初と予定が激変したが、俺達は興国に向けて本格的に活動することになった。

 もちろん、そのためにはヴェルギウスの討伐が大前提だ。
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