鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十一章

第177話 本番で練習

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「ん? 何かいる?」

 赤く染まる空を映す草原に、俺は生き物の気配を感じた。
 三百メデルト先にある雑木林の方角だ。

「レイ、雑木林だ。何かいる。行ってみよう」
「分かったわ」

 警戒しながら、ゆっくりと雑木林に近付く。
 あと百メデルトほどの距離だ。

「ギャオォォアァァァァァ!」
「きゃっ!」

 突然の咆哮にレイが驚く。

「レイ、大丈夫?」
「ええ、少し驚いただけ。大丈夫よ」

 雑木林の方角から木々が折れる音と、大きな足音が地鳴りとなって響く。

「足音から推測すると二足歩行ね。大型の竜骨型脚類かしら」
「どうする? もう来るぞ」
「完全に狙われてるようだし、戦うしかないようね」
「分かった。エルウッド、やるぞ!」
「ウォウ!」

 大量の木々をなぎ倒しながら、こちらへ向かってきている。
 爆発が起こったかのように、雑木林から木々が飛び散った。
 その瞬間、巨体が出現。

「ギャオォォアァァァァァ!」

 その巨体が、頭部を空に向け咆哮を上げる。
 自分の縄張りに侵入されて、激怒しているようだ。

「あ、あれは暴王竜ティラキノクス!」

 レイが叫んだ。

 ◇◇◇

 暴王竜ティラキノクス

 階級 Aランク
 分類 竜骨型脚類

 体長約十五メデルト。
 超大型の脚類モンスター。

 草原や森林に生息する二足歩行のモンスター。
 全身を黒緑色の強固な鱗に覆われている。
 巨大な頭部には強靭な顎を持ち、数百本の牙は岩すら噛み砕く。

 二足歩行のため、太くて長い尻尾で身体を支えバランスを取っている。
 顎と足が異常に発達した結果、手を使わなくなり小さく退化。

 肉食モンスターで食物連鎖の頂点に立つ存在。
 性格は獰猛かつ凶暴で、あまりの凶暴さから暴君と呼ばれる。

 目に映る生物は見境なく攻撃を行い、何でも喰らう。
 Aランクモンスターですら捕食の対象としており、攻撃力と防御力の高さからAランク以上と言われている。

 人の生息地に出現することは非常に珍しいが、過去の文献では何度か村や街を壊滅させた記録がある。

 ◇◇◇

「レイ! ティラキノクスなんて大物中の大物だぞ!」
「でももう狙われてるわ!」
「やるしかないか!」

 巨体とは思えないほどのスピードで迫りくるティラキノクス。

「クオォォォォォォン!」

 エルウッドの遠吠えだ。
 シドに危険を知らせたのだろう。

 レイは真紅の細剣レイピアを抜き、俺は真紅のツルハシを構えた。

「レイ、ヴェルギウスを想定してみよう。まず俺が鱗を砕く、そこを狙ってくれ」
「ティラキノクスで練習するの?」
「練習には最適なモンスターじゃないか?」
「確かにそうね。可能な限りやりましょう」
「エルウッド、しばらく手を出さず見ていてくれ」
「ウォン」

 目前に迫るティラキノクス。
 竜種ヴェルギウスにも見劣りしない巨体だ。

 巨大な顎を開き、俺に向かって突進してくる。
 俺は突進を右に避け、ティラキノクスの左足にツルハシを振り下ろす。
 ツルハシは平たい部分を使用。

 岩壁を削ったような感触の後、甲高い破壊音が鳴り響く。
 すると、三十セデルトほどの範囲で鱗が砕け散った。

「レイ! 今だ!」

 そこへレイが突きを放つ。
 レイのえげつないところは、ただ突き刺すだけではなく、突きに回転を加えているところだ。

 回転を加えることで突進力と破壊力を上げる。
 さらに傷口を広げ、肉を裂き、血管や腱まで潰してしまうのだった。

「グギャアァァァァ!」

 ティラキノクスが叫ぶ。
 しかし、ティラキノクスも最強モンスターの一角だ。
 傷を負っても攻撃の手は緩めない。

 レイに向かって、巨大な尻尾を猛烈な勢いで振り下ろす。

「レイ!」

 レイは突きを放った直後で隙が生まれた状態だ。
 直撃するかと思ったが、レイは後ろに飛び退き、余裕を持って避けていた。

「レイ、凄いぞ!」

 俺は続いて尻尾の付け根にツルハシを振り下ろす。
 飛び散る鱗。
 そこへレイが七段突きを放った。
 
「信じられないほど正確な攻撃だ」

 俺は思わず見惚れてしまった。

 その後も俺が鱗を砕いた場所に対し、正確に突きを放つレイ。
 神がかった正確性とスピード。
 人間業とは思えない攻撃を繰り出していた。

「そろそろか」

 ティラキノクスは満身創痍の状態だ。
 俺が尻尾の付け根にツルハシを打ち下ろし、レイが七段突きを放つ。

「グギャアァァァァァァ!」

 極太の尻尾を付け根から切り落とした。
 ティラキノクスは、直立するために巨大な尻尾でバランスを取っている。
 その尻尾が突然なくなったことで、前のめりに倒れた。

 手は退化し小さくなっている。
 当然受け身は取れず、顔面から地面に衝突。
 激しい衝突音と地響きが広がり、俺たちの前に横たわるティラキノクス。
 巨大な頭部は目の前だ。

「レイ! とどめだ! 行くぞ!」

 俺は額の中心に向かってツルハシを振り下ろす。
 鱗が弾け飛んだ場所に、レイが正確無比の回転突きを放つ。

「グギャッ!」

 短い叫び声を上げティラキノクスは絶命した。

 レイが真紅の細剣レイピアについた血を払い、鞘に納める。

「レイ! 凄いじゃないか!」
「ふふふ、アルのおかげよ」

 俺とレイは健闘を称え合う。
 そこへシドが操縦する寝台荷車キャラバンが来た。

「おいおい。エルウッドに呼ばれて来たが、まさかティラキノクスだったとはな」
「しかも、尻尾が切れてます。討伐中にティラキノクスの尻尾を切った冒険者は……確か……いないはずです」
「そうだな。しかも、鱗が剥がれてる場所に突きを放った痕がある。君たちはヴェルギウス討伐の練習をしただろ」

 シドは完全に見抜いていた。

「ちょうどいい練習相手だったからさ」
「ティラキノクスが練習相手って……」

 シドは驚愕しながらも、呆れた表情を浮かべている。

「シド、素材はどうしますか? ティラキノクスの狩猟なんて滅多にないので、素材は高値で売れますが」
「ふむ、確かに惜しいが今回はやめておこう。偵察を優先したい。だが、討伐スコア更新のために討伐証明だけは持ち帰ろう」
「分かりました。では、尻尾の先端を一メデルトほどを切り落とすので、防腐処理だけお願いします」
「分かった。むっ、そうだ。オルフェリア。ティラキノクスの肉はなかなか美味いぞ」
「そうなんですね! 実はまだ食べたことがありません」
「食料として持てる分だけ解体しよう」

 オルフェリアが素晴らしい手際で、ティラキノクスを解体していく。
 そして食べられる部位を丁寧に切り出す。

 この解体処理が下手だと、肉に臭みが残ってしまうらしい。
 オルフェリアはその処理が抜群に上手いそうだ。
 解体の様子を見ながらシドが感心している。

 さらにシドがニヤついた表情で俺を見ていた。

「それにしても、Aランクモンスター最強と名高いティラキノクスで練習とはな。恐ろしい夫婦だ」
「まだ結婚してないよ!」

 シドがからかってきた。

「シド! バカなこと言ってないでオルフェリアを手伝いなさい!」
「わ、分かったよレイ」

 レイに怒られ解体を手伝うシド。

「レイは本当に怖いな。アルの今後が心配だ……」

 俺にはシドの呟きがはっきりと聞こえていた。

 だが、レイは普段からとても優しい。
 どう考えてもシドが悪いのであった。
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