上 下
181 / 352
第十一章

第175話 準備完了

しおりを挟む
 俺の剣がレイの喉元で止まった。
 それと同時に、レイの剣も俺の喉元に止まっている。

「レイ! 凄いよ!」
「はあ、はあ。ようやく、ようやくできたわ。これが今の私の完成形よ」

 俺とレイは剣を下ろす。

 レイは三段突きを五段突きへ進化させていた。
 今日の稽古で、それをついに七段突きまで昇華させた。

「アル、ここまでつき合ってくれてありがとう」
「何言ってるんだ。レイのおかげで、俺もさらに強くなったよ」

 今のレイは俺でも互角だ。
 スピードに関しては俺を超えているかもしれない。
 何度か稽古に参加したジルやリマは、もはや人の領域を超えた稽古に参加する意味がないと嘆いていた。

 稽古を見ていたシドとオルフェリア。

「凄いじゃないかレイ。七段突きなんて見たことがないぞ。しかも全て急所を狙う正確性。恐ろしいな」
「今や人類でアルと互角に戦えるのはレイだけでしょうね」

 二人が感嘆の声を上げていた。

「いや、オルフェリア。俺も人類なんだけど……」

 俺がオルフェリアに反論すると、皆笑っていた。

 ――

 季節は初春。

 イーセ王国の最南部マグニ地方の都市サルガ。
 温暖な気候のサルガでは気持ち良さを通り越し、時折強い日差しを感じるほどだった。

 シドは騎士団に交渉し、サルガの土地を安く買い上げ、自ら設計した事務所兼住居を建設。
 俺たちは現在そこに住んでいる。

 今日はミーティングが予定されており、事務所のロビーにメンバー全員が揃った。
 俺とレイとエルウッド、シドとオルフェリア、ユリア、ジョージ、ローザだ。
 シドが全員の顔を見渡す。

「さて、当初予定していた準備期間の二ヶ月が経過した。今後について話し合おう」
「ヴェルギウスの様子が分からないわね。サルガ襲撃の気配はないようだけど、どうなのかしら?」

 レイが問いかけた。

「そうだな。私の予想だと、ヴェルギウスのダメージ回復期間は、少なくとも半年と見ている。あと三ヶ月くらいだろう」
「シドの準備は整ったのかしら?」
「うむ、ローザと開発していた装備は完成した」

 こちらの準備は全て完了と言っていいだろう。
 俺はシドに、今後の計画を提案することにした。

「アフラ火山へ偵察に行こう。ヴェルギウス討伐基地を建てる必要もあるでしょ? その土地も決めなきゃいけないし。それに、ヴェルギウスが回復する前に討伐したい」
「うむ、私が言いたかったことを全て代弁してくれたな」

 ヴェルギウスが住むアフラ火山は、サルガから約五百キデルトの距離にある。
 我々の寝台荷車キャラバンであれば、五百キデルトの距離は三日で走破可能だ。
 だが、サルガの国境を越えると、そこはもう人が住む世界ではない。
 どんなモンスターがいるのか分からない。

「アフラ火山までの道のりを開拓する必要がある。慎重に進むから火山まで一週間以上かかるだろう。往復で三週間の予定だ。今回は調査のみで、まず私たち四人で行く。結果次第となるが、次回は君たち三人も同行を願うかもしれんぞ」
「「「かしこまりました」」」

 シドが発言すると、ユリア、ジョージ、ローザが答えた。


「出発は1週間後だ。騎士団にはレイから伝えてくれ」
「分かったわ」

 シドが改めて全員の顔を見渡す。

「それでは、このチームで本格的にヴェルギウス討伐に入る。これは人類の歴史でも初めてのことだ。絶対に成功させるぞ」
「はい!」

 ミーティングが終わると、俺とレイはシドに呼び止められた。

「さて、アルとレイには新武器を見てもらおう」

 俺とレイ、シドとローザは、事務所の敷地内にある離れに移動。

 シドはこの離れにローザ専用の工房を作った。
 世界的な鍛冶師であるローザの工房だ。
 かなり本格的な内容となっている。

 ローザが俺の顔を見た。

「火球を分析したところ、成分は隕鉄石に近いことが分かった。隕鉄石の硬度は八。だが、この火球は限りなく硬度十に近い。ヴェルギウスの体内生成で硬度が上がったのだろう。そして、ヴェルギウスの鱗は火球をしのぐ硬度十だったぞ」
「硬度十なんて最高ランクじゃないか!」
「そうだ。だがまあ、正直このレベルになると硬度法は当てにならん。既存の計測方法では対応できなくなっているんだ」

 ローザは話しながら一本の剣を取り出した。

「まずはレイの細剣レイピアだ。完全に突きに特化させたぞ」

 ローザがレイに細剣レイピアを渡すと鞘から抜いた。
 ヴェルギウスの鱗と同じ色をした真紅の剣身だ。

 全長は約百五十セデルト。
 刃の身幅は約五セデルトで、両刃の直刀だ。
 柄の部分は黒色で、火球を加工したものだろう。

「これは凄いわね。でも、長さも重さも星爪の剣ライックよりもかなりあるわ」
「ああ、通常の細剣レイピアは長さが百二十セデルトほどだが、これは百五十セデルトだ。当然重量も増してる。だが、重心を柄に置いたので軽く感じるだろう」

 レイは細剣レイピアを振り、突きを試す。

「そうね、確かに突きに特化してるわ」
「実験したが、ヴェルギウスの鱗も突き通すほどだ」
「あの鱗を突き通すのね」
「そうだ。とはいえヴェルギウスの鱗も強固だ。折れたり刃こぼれのリスクもある。そこで考えたのがアルの武器だ」

 次にローザが取り出したのは、柄が黒い、真紅のツルハシのような武器だった。
 俺が使用していたツルハシと同じ形状で、ツルハシの片方は尖っており、もう一方は平たくなっている。

「こ、これは……どう見てもツルハシだよね?」
「そうだ。ツルハシと同じ形状だ。だが、ヴェルギウスの素材を使用している上に、長さは通常の倍で重さは三十キルク。世界で最も重く、頑丈なツルハシだぞ。ククク」

 武器ではなく完全にツルハシだが、ヴェルギウスの強固な鱗には効果的だろう。

「なるほど。俺がこのツルハシで鱗を砕き、レイの細剣レイピアで突き刺すのか」
「基本戦術はその通りだ。理解が早くて助かる。ククク」

 ついに鉱夫の俺の武器がツルハシになった。
 長年使ってきたツルハシだ。
 扱いは慣れている。

 続いてローザは鎧を取り出した。

「防具についてだが、黒靭鎧ウォルム碧靭鎧アズールにヴェルギウスの鱗をコーティングした。防御力はかなり上がったはずだ」

 漆黒のウォルムと碧のアズールだったが、ヴェルギウスと同じ真紅になっている。

「色は時間がなくてそのままだ。ヴェルギウスを討伐したら、改めてパーソナルカラーで作るぞ」

 そして、ローザが真紅の弓と矢、銛を取り出した。

「弓を一張、矢を五十本。さらに仕留めるための銛を三本用意した。これが我々の武器全てだ」
「作戦はこうだ。まずは弓で牽制。その後、接近戦に持ち込みアルがツルハシで鱗を粉砕。レイが肉へ直接攻撃を行う。少しずつダメージを与え、最後は奴の急所をこじ開け、このヴェルギウスの銛を投擲して仕留めるのだ」

 作戦を説明したシドから、長さ約二メデルトの銛を受け取った。
 銛刃はヴェルギウスの鱗で作られいる。
 柄は火球の素材を棒状に伸ばしたもので、銛としては恐ろしく重い。
 恐らく重量は一本十キルク近くあるだろう。

「急所って?」
「額の中心だ。竜種に限らず、ほとんどの生物はここが急所になる」
「分かった」
「銛を投げるのはアル、君だぞ。最後は君の破壊力で仕留めるのだ」

 プレッシャーを感じるがやるしかない。
 そんな俺の様子に気付いたのか、ローザが俺の肩を軽く叩いた。

「アルよ。今回の武具は完全にヴェルギウス討伐に特化したものだ。ヴェルギウスを討伐したら、竜種の素材で改めて武具を開発する。お前のために世界最高の剣を作ってやる。だからお前たちの討伐を楽しみにしているぞ」
「ああ、頑張るよ。それにツルハシは使い慣れてるからね。大丈夫さ。ローザありがとう」

 俺とレイは新しい武器を受け取り、出発直前まで稽古に励んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...