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第十一章

第175話 準備完了

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 俺の剣がレイの喉元で止まった。
 それと同時に、レイの剣も俺の喉元に止まっている。

「レイ! 凄いよ!」
「はあ、はあ。ようやく、ようやくできたわ。これが今の私の完成形よ」

 俺とレイは剣を下ろす。

 レイは三段突きを五段突きへ進化させていた。
 今日の稽古で、それをついに七段突きまで昇華させた。

「アル、ここまでつき合ってくれてありがとう」
「何言ってるんだ。レイのおかげで、俺もさらに強くなったよ」

 今のレイは俺でも互角だ。
 スピードに関しては俺を超えているかもしれない。
 何度か稽古に参加したジルやリマは、もはや人の領域を超えた稽古に参加する意味がないと嘆いていた。

 稽古を見ていたシドとオルフェリア。

「凄いじゃないかレイ。七段突きなんて見たことがないぞ。しかも全て急所を狙う正確性。恐ろしいな」
「今や人類でアルと互角に戦えるのはレイだけでしょうね」

 二人が感嘆の声を上げていた。

「いや、オルフェリア。俺も人類なんだけど……」

 俺がオルフェリアに反論すると、皆笑っていた。

 ――

 季節は初春。

 イーセ王国の最南部マグニ地方の都市サルガ。
 温暖な気候のサルガでは気持ち良さを通り越し、時折強い日差しを感じるほどだった。

 シドは騎士団に交渉し、サルガの土地を安く買い上げ、自ら設計した事務所兼住居を建設。
 俺たちは現在そこに住んでいる。

 今日はミーティングが予定されており、事務所のロビーにメンバー全員が揃った。
 俺とレイとエルウッド、シドとオルフェリア、ユリア、ジョージ、ローザだ。
 シドが全員の顔を見渡す。

「さて、当初予定していた準備期間の二ヶ月が経過した。今後について話し合おう」
「ヴェルギウスの様子が分からないわね。サルガ襲撃の気配はないようだけど、どうなのかしら?」

 レイが問いかけた。

「そうだな。私の予想だと、ヴェルギウスのダメージ回復期間は、少なくとも半年と見ている。あと三ヶ月くらいだろう」
「シドの準備は整ったのかしら?」
「うむ、ローザと開発していた装備は完成した」

 こちらの準備は全て完了と言っていいだろう。
 俺はシドに、今後の計画を提案することにした。

「アフラ火山へ偵察に行こう。ヴェルギウス討伐基地を建てる必要もあるでしょ? その土地も決めなきゃいけないし。それに、ヴェルギウスが回復する前に討伐したい」
「うむ、私が言いたかったことを全て代弁してくれたな」

 ヴェルギウスが住むアフラ火山は、サルガから約五百キデルトの距離にある。
 我々の寝台荷車キャラバンであれば、五百キデルトの距離は三日で走破可能だ。
 だが、サルガの国境を越えると、そこはもう人が住む世界ではない。
 どんなモンスターがいるのか分からない。

「アフラ火山までの道のりを開拓する必要がある。慎重に進むから火山まで一週間以上かかるだろう。往復で三週間の予定だ。今回は調査のみで、まず私たち四人で行く。結果次第となるが、次回は君たち三人も同行を願うかもしれんぞ」
「「「かしこまりました」」」

 シドが発言すると、ユリア、ジョージ、ローザが答えた。


「出発は1週間後だ。騎士団にはレイから伝えてくれ」
「分かったわ」

 シドが改めて全員の顔を見渡す。

「それでは、このチームで本格的にヴェルギウス討伐に入る。これは人類の歴史でも初めてのことだ。絶対に成功させるぞ」
「はい!」

 ミーティングが終わると、俺とレイはシドに呼び止められた。

「さて、アルとレイには新武器を見てもらおう」

 俺とレイ、シドとローザは、事務所の敷地内にある離れに移動。

 シドはこの離れにローザ専用の工房を作った。
 世界的な鍛冶師であるローザの工房だ。
 かなり本格的な内容となっている。

 ローザが俺の顔を見た。

「火球を分析したところ、成分は隕鉄石に近いことが分かった。隕鉄石の硬度は八。だが、この火球は限りなく硬度十に近い。ヴェルギウスの体内生成で硬度が上がったのだろう。そして、ヴェルギウスの鱗は火球をしのぐ硬度十だったぞ」
「硬度十なんて最高ランクじゃないか!」
「そうだ。だがまあ、正直このレベルになると硬度法は当てにならん。既存の計測方法では対応できなくなっているんだ」

 ローザは話しながら一本の剣を取り出した。

「まずはレイの細剣レイピアだ。完全に突きに特化させたぞ」

 ローザがレイに細剣レイピアを渡すと鞘から抜いた。
 ヴェルギウスの鱗と同じ色をした真紅の剣身だ。

 全長は約百五十セデルト。
 刃の身幅は約五セデルトで、両刃の直刀だ。
 柄の部分は黒色で、火球を加工したものだろう。

「これは凄いわね。でも、長さも重さも星爪の剣ライックよりもかなりあるわ」
「ああ、通常の細剣レイピアは長さが百二十セデルトほどだが、これは百五十セデルトだ。当然重量も増してる。だが、重心を柄に置いたので軽く感じるだろう」

 レイは細剣レイピアを振り、突きを試す。

「そうね、確かに突きに特化してるわ」
「実験したが、ヴェルギウスの鱗も突き通すほどだ」
「あの鱗を突き通すのね」
「そうだ。とはいえヴェルギウスの鱗も強固だ。折れたり刃こぼれのリスクもある。そこで考えたのがアルの武器だ」

 次にローザが取り出したのは、柄が黒い、真紅のツルハシのような武器だった。
 俺が使用していたツルハシと同じ形状で、ツルハシの片方は尖っており、もう一方は平たくなっている。

「こ、これは……どう見てもツルハシだよね?」
「そうだ。ツルハシと同じ形状だ。だが、ヴェルギウスの素材を使用している上に、長さは通常の倍で重さは三十キルク。世界で最も重く、頑丈なツルハシだぞ。ククク」

 武器ではなく完全にツルハシだが、ヴェルギウスの強固な鱗には効果的だろう。

「なるほど。俺がこのツルハシで鱗を砕き、レイの細剣レイピアで突き刺すのか」
「基本戦術はその通りだ。理解が早くて助かる。ククク」

 ついに鉱夫の俺の武器がツルハシになった。
 長年使ってきたツルハシだ。
 扱いは慣れている。

 続いてローザは鎧を取り出した。

「防具についてだが、黒靭鎧ウォルム碧靭鎧アズールにヴェルギウスの鱗をコーティングした。防御力はかなり上がったはずだ」

 漆黒のウォルムと碧のアズールだったが、ヴェルギウスと同じ真紅になっている。

「色は時間がなくてそのままだ。ヴェルギウスを討伐したら、改めてパーソナルカラーで作るぞ」

 そして、ローザが真紅の弓と矢、銛を取り出した。

「弓を一張、矢を五十本。さらに仕留めるための銛を三本用意した。これが我々の武器全てだ」
「作戦はこうだ。まずは弓で牽制。その後、接近戦に持ち込みアルがツルハシで鱗を粉砕。レイが肉へ直接攻撃を行う。少しずつダメージを与え、最後は奴の急所をこじ開け、このヴェルギウスの銛を投擲して仕留めるのだ」

 作戦を説明したシドから、長さ約二メデルトの銛を受け取った。
 銛刃はヴェルギウスの鱗で作られいる。
 柄は火球の素材を棒状に伸ばしたもので、銛としては恐ろしく重い。
 恐らく重量は一本十キルク近くあるだろう。

「急所って?」
「額の中心だ。竜種に限らず、ほとんどの生物はここが急所になる」
「分かった」
「銛を投げるのはアル、君だぞ。最後は君の破壊力で仕留めるのだ」

 プレッシャーを感じるがやるしかない。
 そんな俺の様子に気付いたのか、ローザが俺の肩を軽く叩いた。

「アルよ。今回の武具は完全にヴェルギウス討伐に特化したものだ。ヴェルギウスを討伐したら、竜種の素材で改めて武具を開発する。お前のために世界最高の剣を作ってやる。だからお前たちの討伐を楽しみにしているぞ」
「ああ、頑張るよ。それにツルハシは使い慣れてるからね。大丈夫さ。ローザありがとう」

 俺とレイは新しい武器を受け取り、出発直前まで稽古に励んだ。
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