鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十一章

第174話 それぞれの準備

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 シドの結婚を聞き、三人が同時に驚く。

「シド様が結婚ですって! レイ一筋だったのではないのですか?」
「まああれはレイをからかって遊んでいたのだよ。ちゃんと謝罪したぞ。ハッハッハ」

 シドはユリアに説明した。

「まさかシド様に恋愛感情があるとは。人の感情があったのですね?」
「おいおいローザ。君は私を何だと思っているのだ?」

 ローザの発言に不満を漏らすシド。

「シド様は年齢不詳じゃから結婚なぞしないと思っておりましたのじゃ。しかしオルフェリアとは、良い娘を選びましたな」
「うむ、私を結婚する気にさせたオルフェリアは素晴らしいぞ」

 そして、ジョージに誇らしく語った。

 シドは一旦珈琲を飲み、ユリアとジョージの顔を交互に見る。

「しかし、ユリアもジョージも辞めてしまったものは仕方がない。それに……まあ正直に言うとだな。君たちがいるのは心強いぞ。ハッハッハ」
「シド様からお礼? どうしたのですか?」
「私もアルと接していたらな、人に感謝するようになったのだよ。ハッハッハ」

 レイが呆れた顔をしている。

「それ威張って言うことじゃないわよ。まったく……」

 そこでローザが右手を小さく上げた。

「シド様、言い忘れてましたが、私も退職したんですよ。ククク」
「な、なんだと! ローザまで?」

 シドが目を見開いて驚いている。

「むしろ、最初にローザが辞めたのですよ」
「そうじゃ。それを聞いて儂らも退職を決心したのですじゃ」

 ユリアとジョージが、笑顔を見せながら説明していた。

「そうは言ってもな、局長が同時に三人も退職なんてギルドの歴史でも初めてのことだぞ」

 困惑するシド。
 すると、レイがいたずらな表情を浮かべた。

「ふふふ、あなたにも人望ってものがあったようね」
「私というより、皆がついていきたいのはアルだろう? ハッハッハ」

 突然俺の名前が出て、珈琲を吹き出しそうになった。

 そして今後のことを話し合い、宿の空き部屋に三人の個室を用意。
 しばらくの間、この宿で活動することになった。
 シドは近いうちに、このサルガに事務所兼住居を建てるそうだ。

 夕食後、俺とレイは自室に戻る。

「ねえレイ。あの三人ってギルドで重要な立場にいたんでしょ? 辞めちゃって大丈夫なの?」
「ギルドには他にも優秀な人材はいるわ。ギルマスのルイスさんが退職を認めたのであれば大丈夫でしょう。とは言え、あの三人はギルドの歴史を見ても特に優秀だったもの。当面は大変でしょうね」

 ギルドでも突出した処理能力を持つユリアは、会計を担当することになった。
 ヴェルギウスの討伐で、基地を作る際に十万枚もの金貨を使う予定だ。
 ユリアがその全てを管理する。
 シドはこれ以上の適任者はいないと喜んでいた。

 ジョージはモンスターの世界的権威だ。
 オルフェリアにこのことを伝えると大興奮していた。
 さらにジョージは元解体師だった。
 今後はオルフェリアとジョージが、俺達の狩猟に情報や指示を出してくれるだろう。

 そしてローザだ。
 以前から俺の専属鍛冶師と言ってくれていたが、これで本当に俺たちパーティーの専属鍛冶師となった。
 世界的な鍛冶師で、さらにローザは元Bランクの冒険者だ。
 クエストも一緒にできるかもしれない。

「バカか。お前たちと一緒にクエストなどできるわけなかろう。どう考えても無理だ」

 その旨を伝えるとローザは呆れていた。

「私はお前の専属鍛冶師で十分だ。ククク」

 シドは「ローザが専属鍛冶師なんて、世界中の剣士から垂涎の的になるだろう」と言っていた。
 ローザは以前、帝国から宮廷鍛冶師の打診があったが断ったそうだ。
 神の金槌シャイオンのローザはそれほどまでに世界的名声と、それに見合う腕を持っていた。

 翌日、シドやローザと合流。
 倉庫へ向かい、保管しているヴェルギウスの鱗と火球を見せた。

「これがヴェルギウスの鱗……。この大きさで五十枚もあれば武器を作るには十分な量だ。問題ない。この火球も凄いな」

 ローザは鱗を手に持ち確認。
 そして、巨大な火球の表面を何度も触っていた。

「よし、では、さっそく取り掛かる。シド様も手伝って頂けますか?」
「もちろんだ。工房を用意した。今後はそこで私と作業だ」
「いたれりつくせりですね。ありがとうございます」
「アルとレイの鎧も強化したい」
「分かりました」

 そこで、ローザが俺の顔を一瞥した。

「それにしてもアルには以前、竜種に遭遇したら逃げろと伝えたんですけどね。まさか戦うことになるとは。ククク」
「ハッハッハ、我々の夢のためだ」
「その夢とやらに、私も参加させてくださいよ?」
「もちろんだ、ローザ」

 ローザの可愛らしい顔が、不敵な笑みに変わっていた。

 ――

 それからローザは工房に籠もり、新装備開発の日々を送っている。
 シドも時間が許す限り手伝っているようだ。

 ユリアはシドが先に用意した金貨十万枚を元に、今後の事務所兼住居や、ヴェルギウス討伐のための基地の会計を始めた。
 さらにそれだけでは暇だと、シドと話し合い何やら怪しい計画を練っている模様。

 ジョージは復帰したオルフェリアと、ヴェルギウスについて研究を開始。
 サルガに残る痕跡、鱗や火球を徹底的に分析していた。

 俺とレイは稽古だ。
 今のレイは日々レベルが上がっていた。
 すなわち、日々稽古の危険度も上がっていることになる。

 もはや稽古と呼べない壮絶な内容になっていた。
 そして、稽古開始から当初の予定である二ヶ月が経過した。
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