鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十一章

第171話 アルの本気

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 俺たちがサルガに到着して約二ヶ月が経過。

 そろそろ冬の終わりが見えてきた。
 王国南部に位置する温暖な気候のサルガは、冬といえども日差しで汗ばむほどの気温だ。

 ヴェルギウスに対抗するため、俺とレイは稽古の日々。
 すでにこの稽古を一ヶ月続けている。
 いや、稽古という名の真剣勝負だった。

 今日もレイと剣を交える。
 レイは得意の三段突きを俺に放つ。
 全ての突きが、正確に俺の急所を狙っていた。
 正確性、スピード共に申し分ない。

 人間であればこれで終わりだ。
 ネームドにも通用するだろう。

 だが、俺はその突きを全て黒爪の剣レリクスで受ける。

「レイ、遅い! そんな突きじゃ無理だ!」
「クッ!」

 レイの突きの動作を見てから、全てを剣で弾き返す余裕が俺にはある。
 予測や勘ではない。
 単純に俺のスピードが勝ってるというだけだ。

 そして、突きを放ったことで隙きが生まれたレイに向かって、俺は上段からレリクスを振り下ろす。
 レイは辛うじて星爪の剣ライックを横に向け受けた。
 火花が散り、甲高い衝突音が響く。

 だがレイは、速度と力と重さに勝る俺の剣を受け流すことができない。
 俺はそのまま剣を振り下ろし、レイの美しい顔に向かって直撃……させずに直前で剣を止めた。

 俺とレイの剣の素材は全く同じだ。
 剣の性能は互角。
 そのため、単純に実力の差となる。

「今の俺の攻撃なんて、ヴェルギウスの尻尾攻撃よりも遅くて弱いぞ!」
「はい!」
「それすら受けきれないのだから、レイの力じゃヴェルギウスの攻撃を剣で受けてはダメだ! 避けるしかない! スピードで翻弄するんだ!」
「はい!」

 レイ必殺の三段突きも俺は余裕で対処できる。
 俺ごときでも防げるのだ。
 ヴェルギウスになんて一切通用しない。

 防具に関しても、俺の黒靭鎧ウォルムと同じ素材の碧靭鎧アズールを着ているとはいえ、ヴェルギウスの尻尾が直撃すれば無事では済まされない。
 火球なんて間違いなく死ぬだろう。
 レイは攻守に渡ってさらにスピードを上げないと、ヴェルギウスに対抗できない。

 午前中の稽古を終え、レイと昼食を取る。

「ねえレイ。厳しくないかな? もう一ヶ月もこの稽古だよ? 身体は平気?」
「いいのよ。あなたについて行くためだもの。でもまだ手を抜いてるでしょう? やめて。私を潰すつもりで攻撃して」
「そんなの無理だよ」
「いいの。命がけの中で生まれるものもあるのよ」
「かといって、俺はレイを殺す気で攻撃なんてできない」
「分かってるわ。でも、この特訓は私の命を守ることにも繋がるのよ?」
「それはそうだけど……。分かったよ。次は俺の全力を出す」

 午後の稽古が始まった。

「じゃあレイ。本気で行くよ」
「ええ、お願い」

 剣を構え、一騎打ちの礼。
 開始と同時にタイミングを図る。
 俺はレイの呼吸を読み、目線や細かい動きのフェイントを織り交ぜ隙を誘う。

 人は息を吐くと一瞬だけ反応が遅れる。
 そのタイミングを狙う。

 レイが息を吐くと同時に、俺はわずかに身体を沈め、溜め込んだ右足の力を開放。
 蹴り出すと地面で爆発が発生。

 俺は本気の突きを放った。
 レイに教わった神速の突きだ。
 俺はレイのような多彩な技も手数もない。
 だが、一撃に全力を込めている。

 突きを放った瞬間、すでに切先はレイの喉元にピタリとついていた。
 レイは全く対応できず、何も動けない。

「これが俺の本気だ。それでもヴェルギウスの鱗に傷はつけられなかったよ」
「こ、これが今のアルの本気……。何も……何も見えなかった……」
「まずは俺の突きを対処できるようにならないと話にならない」
「はい!」

 その後も、日没まで稽古を続けた。

 ◇◇◇

 アルとレイの稽古は極秘で行われていた。
 名誉団長リ・テインであるレイの特訓姿を、騎士団に見せられないという配慮だ。

 だが、ジルとリマは見学していた。
 金貨十万枚のクエストの依頼主ということで、進捗確認のためだ。

「これはもう稽古ってレベルじゃないな……」
「そうですね。私はレイ様の稽古を初めて見ましたが、これはもう殺し合いです。いつもこれほど激しいのですか?」
「まあ実際アタシもレイの稽古を見るの初めてだ。レイは冒険者時代から剣を教えることがなかったからな。唯一の弟子がアル君だ」
「弟子とはいえ、今はアルさんに教えられてますよね」
「そうだな。アル君の実力は知っていたつもりだが、これほどとは思わなかった……」

 稽古を見学しながら、小さな声で会話するジルとリマ。

「レイの三段突きはアタシでも対処不可能だ」
「そうですね。私も無理でしょう。放たれたが最後、人間なら躱すことは不可能です」
「それをアル君はいとも簡単に、それも全ての突きを剣で弾いたぞ」
「尋常ではありません。あの特殊な大剣で突きを捌くなんて……。それもまだまだ余裕があります」

 二人は剣士として、常軌を逸したアルの実力に背筋が凍る思いをしていた。

「それにしても、アルさんの突きは私も全く見えませんでした」
「アタシもだ。冒険者時代も、騎士団時代もあれほどの攻撃は見たことがない。蹴り足で地面が爆発したんだぞ」
「ええ、もはや人間ではありませんね」

 二人とも額から汗が出ていることに気付いていない。
 それほどアルの剣技に畏怖の念を抱いていた。

「ジル団長はアル君に勝てるか?」
「言わなければいけませんか?」
「いや、愚問だったね。アタシたち隊長クラスではレイにも勝てないのに、その遥か上を行くアル君に敵うわけないか……」
「とはいえ、私たちも指を咥えて見てるだけではいけません」
「そうだな。騎士団でも訓練をしよう」
「時間をみて、私もアルさんに稽古をつけてもらいますよ」
「ジル団長が稽古? 珍しいな」
「まあ私も剣士なのでね。あの強さに恐怖を覚えると同時に、チャレンジしてみたい気持ちも湧きます。ははは」

 周辺国でも最強と名高いクロトエ騎士団の最高戦力の二人でも、アルに遠く及ばないことを痛感していた。

 だが、これほど身近に人類最高の剣士がいるのだ。
 二人の騎士は自らを研鑽すべく、アルの一挙手一投足から目を離さなかった。

 ◇◇◇
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