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第十章

第169話 対抗

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 続いてヴェルギウスの現在の状態を確認。
 シドが矢を構える仕草をした。

「今回唯一ダメージを与えた攻撃はヴェルギウスの矢だ。しかも右目を潰したのだ。竜種といえども破裂した眼球は復活せんだろう」
「目撃した騎士によると、ヴェルギウスはふらつきながら火山へ飛んでいったそうだ」
「うむ。人間でも眼球破裂は地獄のように激痛だ。恐らく竜種とはいえダメージは大きいだろう。矢も刺さったままだ。もしかしたら痛みは一生続くかもしれん。半年は行動不能といったところか」

 シドは眼球破裂の経験もある。
 全ての痛みという痛みを知っているはずだ。

「なあシド。俺やエルウッドもそうだけど、ヴェルギウスの回復だって早いかもしれないぞ?」
「そうだな。念のためにその可能性も考えて、こちらも可能な限り早く動けるようにしよう」
「じゃあ、まず最短の目標を決めよう。俺とレイは二ヶ月間徹底的に鍛える。その間にレベルを上げるよ」
「分かった。いいだろう」
「もしヴェルギウスの復活が遅くなりそうなら、さらに期間を伸ばしていくのはどう?」
「問題ない。それでいいぞ。こちらも準備に時間がかかるからな」
「準備って何するの?」

 シドが一冊のノートを出した。
 旅に関する様々なことをメモしているノートだ。

「まずはヴェルギウスの鱗を回収して矢を作る」
「そうだな。唯一効く攻撃だしな」
「それとな、ギルドに連絡して開発機関シグ・ナインのローザを呼んだ」
「ローザを?」
「ああ、ヴェルギウスの鱗しかないが、ネームドの素材より遥かに硬い。これで奴に効く武器を作る。できれば爪や骨が欲しいところだが贅沢は言うまい」
「なるほど。ローザが作るのであれば、鱗からでも凄い武器を作れそうだ」
「急いで来てくれるから一ヶ月ほどで到着するだろう」

 ローザはシグ・ナイン局長で、世界最高の鍛冶師の証でもある神の金槌シャイオンの称号を持つ。
 局長のローザを呼ぶなんて、元ギルマスのシドにしかできないだろう。
 ローザが来てくれるなんて心強いし、どんな武器を作ってくれるのか楽しみだ。

 そこで俺はふとヴェルギウスの火球を思い出した。

「あっ、そうだシド。ヴェルギウスの火球は溶岩を固めたものだけど、あの溶岩は鉱石の観点から見ると希少鉱石の部類に入ると思う」
「そうか! それは盲点だった!」
「俺の印象では隕鉄石に近い。隕鉄石といえば、前陛下のジョンアー・イーセ国王が使ってた剣がそうだった」

 俺はレイの顔を見た。

「そうね。前陛下の王の一撃ヴァリクスの素材は隕鉄石だったわね」
「俺は前陛下と戦って知ってるけど、あの剣は本当に凄かった。とにかく固い。剛の剣と呼べるほどの業物だったよ」
「ええ、イーセ王国の国宝だもの」
「火球はヴェルギウスの体内に入ったものだから、もしかしたらそれ以上かもしれない。ウォール・エレ・シャットも体内生成で黒深石を作ると強度は上がってたからね」

 以前討伐した岩食竜ディプロクスのネームドであるウォール・エレ・シャットは、希少鉱石の黒深石を主食としていた。
 黒深石の硬度は六。
 だが体内生成された黒深石の硬度は七以上になった。

「だから火球を集めておけば何かに使えるかもしれない。ローザなら上手く加工してくれるはずだ」
「うむ、そうだな。非常に有益な情報をありがとう。さすがは元鉱夫だ。ハッハッハ」
「いや、今も鉱夫のつもりだよ。アハハ」

 これでヴェルギウスの素材は、鱗と火球となった。
 正直なところ俺にはこの素材で何ができるか分からないが、ローザならきっと素晴らしい武器を作ってくれるだろう。

 ローザが来るまでの一ヶ月で、鱗と火球を集めることになった。
 しかしレイと稽古をしながら、それらを探すのは大変かもしれない。
 オルフェリアはまだ安静が必要だしシドも看病がある。
 すると俺の考えを悟ったかのように、レイが皆を見渡す。

「火球の重量は一つ数百キルクでしょうね。私たちだけで運ぶのは無理よ。騎士団に連絡して火球を集めてもらうわ」
「助かるぞ。最初の襲撃と先日の分で、恐らく十発以上はあるはずだ」
「分かったわ。それと鱗も集めるように一緒に指示を出しておくわね」
「よろしく頼む」

 これでヴェルギウスに対する俺たちの方向性が決まった。
 まずは二ヶ月の間、レイと稽古を行う。
 あの悪魔のようなヴェルギウスに対抗するための稽古だ。
 厳しい内容になるのは間違いない。
 だが竜種といえども、俺は二度とモンスターに負けたくない。

「レイ、頑張ろう」
「ええ、よろしく」

 そして、二度とレイを残して死なないと、俺は心の中で誓った。
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