鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十章

第168話 覚悟

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 俺は全員の顔を見渡す。

「俺はもちろんレイと結婚する。でも、あの……タイミングというものがあると思うんだ。その、い、今じゃない……というか……」
「ふふふ、分かってるわよ。私たちはずっと一緒だもの。いつでも大丈夫よ」

 レイが気を使ってくれた。

「だけど……そうだよな、はっきりさせなくちゃいけないよな……」

 俺は少し考え、決意を表明することにした。

「レイ。俺はヴェルギウスを倒す。そしてレイに結婚を申し込むよ」
「アル!」

 レイが抱きついてきた。

「……嬉しい」
「俺はレイと絶対に結婚する。だからヴェルギウスにはもう負けない」

 結婚すると決めたからには、別に今この場で結婚してもいいと思う。
 そもそも俺は、レイと人生を共にするつもりである。
 だがレイは騎士団の名誉団長リ・テインだ。
 これほどの死者を出した王国の今の状況で、慶事は控えるべきだろう。

 それに俺はヴェルギウスに全く敵わなかった。
 だからヴェルギウスを完全討伐し、誰もが安心できる状況でレイと結婚する。
 これが最善だろう。

「アル、私の状況まで考えてくれてありがとう」
「アハハ、レイには全てお見通しだな」

 シドがすかさず俺の顔を見る。

「アルよ、一応念の為に聞くがレイだぞ? 世界一強くて恐ろしい女だぞ? 浮気も一瞬でバレるぞ?」
「うるさいわね!!」

 これまで言われ放題だったシドがやり返した。
 皆の笑い声が病室に響く。
 突然のことだったが、俺たちパーティーは一組が結婚、一組が婚約となった。

 ――

 祝福ムードではあるが、俺はヴェルギウスと戦った情報を皆に共有した。

 ヴェルギウスの主な直接攻撃は、尻尾の振り下ろしと薙ぎ払い。
 とはいえ、今回はほとんど中距離で戦っていた。
 そのため、接近戦では何が来るか分からない。

 さらに溶岩を固めた火球を吐き出す。
 大きさは直径約二メデルト。
 これが厄介極まりない。

 今回の戦いで吐き出した火球は六発だった。
 吐き出せる正確な数は不明だが、戦った印象では多用はできないと思われる。
 火球は猛スピードのため、吐き出してから避けることは不可能。
 吐き出すモーションを捉えた瞬間に、避ける準備が必要だ。

 俺は黒靭鎧ウォルムのおかげで尻尾の直撃を耐えられたが、それでも一発か二発が限度。
 それ以上は身体が持たない。

 火球は一発だけ耐えたが奇跡に近い。
 次も耐えられる自信はない。
 正直、俺以外だったら即死するだろう。

 あの轟音の咆哮にも注意が必要だと思われる。
 至近距離では建物が崩壊するレベルだ。

 こちらの攻撃は、俺の黒爪の剣レリクスでも通用しない。
 今のところ効果がある武器は、シドが削り出したヴェルギウスの矢のみとなる。

 シドは真剣な眼差しで、俺の話を聞いていた。

「戦いながら、よくぞそこまでの情報を……。アルは本当に凄いな。感謝する」
「シドならこれくらいの情報は持ってるだでしょ?」
「いや、そんなことはない。竜種と戦った記録はゼロではないが、ここまで詳しいものは初めてだ。これは人類にとって貴重な資料だ」

 レイも俺の話を神妙な表情で聞いていた。

「尻尾の攻撃はアルでも一、二発しか耐えられないということは、普通の人間に防御は無理よね。火球なんて当たったら即死でしょう」
「そうだな。結局、アル以外はヴェルギウスの攻撃を避けるしかない。で、アル以外というのはレイ、君のことだぞ」
「ええ、分かってるわ。私はスピードで対抗するしかない」

 レイは戦う決意を持った表情だった。
 その顔は凛としている。
 だが俺はレイに事実を伝えることにした。

「待ってレイ。やはり竜種は危険だ。正直に言うと俺でも危ない。レイでは……無理だと思う」
「正直にありがとう。でも、もうあんな思いはしたくないの。私も戦うわ」

 レイの覚悟をシドが後押しする。

「アルも覚悟を決めろ。我々は全員でヴェルギウスを倒すのだ。アルとレイが戦う。私とオルフェリアは全力でサポートする。私たちパーティーは最後までこれで行く。これ以外なない」
「……そうだな。分かったよ」

 レイの想いはよく分かる。
 もし逆の立場だったら、俺もレイと同じ行動を取るだろう。

「レイ、討伐まで時間がある。それまで鍛えよう」
「ふふふ、ついに私があなたから稽古を受ける時が来たのね」
「何言ってるんだ。俺の師匠はいつまでもレイだよ」

 俺も覚悟を決めた。
 一人で戦うのではなく、パーティー全員で一丸となって戦う。
 準備も含めて全員で、あの恐ろしい竜種ヴェルギウスに立ち向かうのだ。
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