鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十章

第163話 命をかけた一矢

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 剣でヴェルギウスに傷を与え、怯んだタイミングで弓を射るしかない。
 そのためには強固な鱗を突き破る必要がある。

 俺に考える時間を与えないかのように、ヴェルギウスは強烈な尻尾の振り下ろしを繰り出す。
 必死に躱すと、尻尾は爆音とともに地面に打ちつけられた。
 尻尾の長さだけ、地面が抉れている。

 恐ろしい。
 だが俺は恐怖心をねじ伏せ、尻尾に向かって全力で黒爪の剣レリクスを振り下した。
 甲高い音が鳴り響く。

「グッ!」

 手応えとしては、鉄や鉱石よりも遥かに硬い。
 鱗に薄っすら傷とも言えない僅かな痕がつくだけだ。
 両腕の骨折の影響もあるかもしれない。
 その腕には激痛が走った。
 この状況では何度か攻撃が必要だろう。

 またしても尻尾の振り下ろし。
 同じように避け、次は突きを放つ。
 レイ直伝の神速の突きだ。

「クッ! これでもダメか!」

 しかし、鱗を僅かに傷つけただけだった。
 同じ場所を突き続ければ、この鱗を突破できるかもしれない。
 だが、腕が折れているこの状況で、全く同じ場所を突き続けるのは至難の業だ。
 腕の痛みも酷くなっている。
 正直剣を握るのも辛い状態だ。

「クソッ! どうすれば!」

 ヴェルギウスの顔を見ると、邪悪な表情を見せている。
 これはダーク・ゼム・イクリプスの時にも感じた空気だ。
 恐らくヴェルギウスはまだ全力を出してない。
 遊びながら殺戮を楽しんでいる。

 今の俺では黒爪の剣レリクスでヴェルギウスを傷つけることができない。

「矢を直接打ち込んでやる!」

 俺は剣を鞘に収め、矢筒からヴェルギウスの矢を一本掴む。
 ヴェルギウスは身体にまとわりつく小虫を殺すように、何度も尻尾の薙ぎ払いを繰り出す。
 それを全て避け隙を探す。

「はあ、はあ」

 腕の痛みで顔が歪む。
 そこへ尻尾の打ち下ろしがきた。
 間一髪で避け、両手で握った矢を思い切り尻尾に突き刺す。

「グォオォォ!」

 鱗を完全に貫き、肉に届いた。
 ヴェルギウスが苦痛の声を上げる。

「シドの言う通りだ!」

 ヴェルギウスの鱗で作った矢だけが通用することが分かった。
 現状では攻撃手段は弓しかない。

「ふうぅぅぅぅ」

 俺は大きく息を吐き、覚悟を決めた。
 背負っていた弓を左手で取り、右手に矢を持つ。
 俺の腕はもう限界を迎えていた。

「チャンスは一回」

 ヴェルギウスは尻尾を傷付けられたことで激昂している。
 暴れるように尻尾を振り回す。
 その攻撃を必死に避けつつ、動作の大きい一撃を待つ。
 すると思惑通り、尻尾を大きく振り下ろしてきた。
 ヴェルギウスが俺を本気で叩き潰そうとしているのが分かる。

 その攻撃を間一髪で避けると、尻尾は激しく地響きを発生させ、地面に打ちつけられた。

「はあ、はあ。い、今だ!」

 一瞬だけ生まれた大きな隙。
 この瞬間を狙っていた。
 俺は弓を構える。

 俺が矢を構えた姿を見たヴェルギウスは、すぐに尻尾を振り上げ、もう一度振り下ろしてきた。

「遅いんだよ!」

 すでに弓を撃つ準備ができている。
 あとは直前まで狙いを定め、ヴェルギウスの顔が止まる瞬間を待つだけだ。

 極限まで集中すると、迫り来る尻尾がゆっくりと見えた。
 今なら振り下ろされる尻尾の鱗の数も数えられる。

「ここだぁぁぁ!」

 ヴェルギウスの顔面に矢を放つ。

 俺はこの一矢に……文字通り命をかけた。

 ◇◇◇

 アルが放った矢は、音を置き去りにしながら空気を引き裂く。
 人類史上、最も速度を出した矢だろう。

 矢を発射した弓が反動で砕け散る。
 ネームドの素材で作られた強固な弓にもかかわらず、力を出し尽くしたかのように最後を迎えた。

 赤い流星となった矢は、ヴェルギウスの右目に直撃。
 漆黒の眼球、美しい金色の瞳孔。
 その巨大な眼球が破裂した。

「グォオオォォォオォォォ!」

 凄まじい咆哮を上げるヴェルギウス。
 アルの弓の威力と、自らの強固な鱗で作られた矢は、ヴェルギウスに通用した。

「グォォォオォォォ!」

 矢は眼球を破裂させてなお、目の奥に突き刺さった。
 右目は完全に潰れている。
 悠久の時を生きてきた神の如きヴェルギウスにとって、初めての屈辱。
 たかが人間に目を潰され、自身の鱗で作った矢が刺さったのだ。

 この矢は二度と抜けないだろう。
 尻尾にも矢が刺さったままだ。
 激しい痛みに襲われるヴェルギウス。

「グォオオオォォオオオォォォ!」

 轟音の咆哮は空気を大きく振動させた。
 崩壊寸前だった周囲の建物が完全に崩れ落ちる。

 怒り狂うヴェルギウス。
 目の前の人間を叩き潰そうと怒りを向ける。
 だがその小さな人間は、先ほどの攻撃で倒れて動かない。

 それよりも、この痛みを癒やすほうが先だと判断。
 もう一度咆哮を轟かせ、ヴェルギウスは翼を広げた。
 周囲の空気が揺らぐと同時に、ヴェルギウスの巨体が宙に浮く。
 片目を失ったヴェルギウスはまっすぐ飛べない。
 ふらつきながら、住処であるアフラ火山へ飛び去った。

 ◇◇◇
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