鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十章

第160話 厄災振りまく悪魔

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 明らかに異常事態だ。

「ま、まさか!」
「そのまさかだろう。アルよ、これを持っていけ」

 シドがネームドの弓と、赤いやじりの矢を渡してきた。

「私は大昔に拾った竜種の鱗で、加工用道具一式を作っていてな。それを使えばヴェルギウスの鱗も加工できるのだ。いざという時のために、ヴェルギウスの鱗で矢を作っておいた」
「ヴェルギウスの矢?」
「そうだ。恐らく現時点ではこの矢しか通用しないだろう。今のところ五本しかない。一本作るのにもかなりの時間がかかるのだ。無駄撃ちするなよ」
「分かった」
「それとまだ加工していないこの鱗も持っていけ。プライドの高いヴェルギウスは、自分の鱗を持っている君を標的とするだろう」
「わ、分かった」
「アル……死ぬなよ」

 シドの表情がいつになく真剣だ。
 本気で心配している。
 それだけで竜種の恐ろしさが理解できた。

「ああ、もちろんだ!」

 俺は強がってみせたが、額から流れ落ちる汗を感じた。
 こんなことは初めてだ。
 だが、覚悟を決める。

「私もすぐ追いかける! オルフェリアを頼んだぞ!」
「分かった!」

 俺は猛ダッシュで街の中心地へ走った。
 街中で騎士たちが慌ただしく動いている。

「オルフェリア! エルウッド! どこだ!」

 行方が分からないので、とにかく叫ぶ。

「オルフェリア! エルウッド!」
「アル!」

 知った声が聞こえた。

「レイ! オルフェリアとエルウッドを探してる!」
「見かけてないわ!」
「これはヴェルギウスの出現なのか?」
「分からない! でも緊急事態よ! 陛下にはジル・ダズとリマがついている」
「分かった。俺たちはオルフェリアを探そう」

 その時、凄まじい咆哮が街を襲った。 

「グォオオォオオオオォ!」

 空気の振動で崩れかかっていた建物が崩壊。
 思わず耳を塞いだほどだ。

「あっちだ!」

 俺とレイは走った。
 すると、五百メデルトほど先に、空に浮かぶ巨大なモンスターの姿が見えた。
 さらに走って近寄る。
 徐々に明確になっていくモンスターの姿。
 巨大な翼を羽ばたかせ、地上から三十メデルトほどの空中で静止している。

 体長は二十メデルト以上。
 全身を覆う真紅の鱗。
 顎下から腹部全体は淡黄色。
 二枚の巨大な翼は、全長三十メデルト近くあるだろう。
 翼の先端には、大きな角のような突起物が見える。

 二本の腕。
 指は四本で、三本の鋭い鉤爪と親指のような一本の鉤爪。
 鉤爪は一本一本が人間よりも大きい。
 二本の大きく太い脚にも、鋭く巨大な三本の鉤爪と踵に一本の鉤爪。
 そして十メデルトはある長い尻尾。
 後頭部から、背中、尻尾の先端まで、多くの突起物が無造作に生えている。

 頭部には巨大な曲がりくねった角が二本。
 口の中は鮮血のように赤く、数百本の鋭い牙が見える。
 眼球は黒く、縦長の瞳孔は金色に輝いてた。
 その目で地上を見下ろす姿は、厄災を振りまく悪魔そのものだ。

「ヴェ、ヴェルギウス!」

 レイが叫ぶ。

「あ、あれに……人が敵うのか?」

 俺はヴェルギウスを見て、討伐するイメージが全く湧かなかった。
 これまでネームドと対峙しても、戦うイメージはできたし、自分の力は届くと思っていた。

 だが、竜種は別格だ。
 人間が敵うものではない。
 全身から吹き出る冷たい汗。

「アル! やるしかないわ! この街にはエルウッドもオルフェリアも、シドもヴィクトリアも、大切な仲間が大勢いるのよ!」

 レイの言葉で我に返った。

「そうだった! レイありがとう!」

 レイの言葉で我に返る。
 それと同時に遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

「アル! レイ!」
「ウォン!」

 エルウッドとオルフェリアが走ってきた。

「二人とも無事だったか?」
「ええ、大丈夫です。それより、どうするんですか?」
「オルフェリアとレイは離れるんだ! 俺はエルウッドと奴を牽制する」
「ウォン!」

 エルウッドが答えた。
 本当に心強い相棒だ。

「ダメよ! 私もやる!」
「違うんだレイ。今は見極める時だ。とにかく奴の情報が欲しい。俺が牽制するから、レイとオルフェリアはヴェルギウスの情報を入手してくれ! 役割分担だ!」
「クッ、分かったわ」

 こういう時のレイは、俺の意図を瞬時に汲み取ってくれる。
 議論の余地なんてないことを理解しているのだ。

「オルフェリア! この場を離れるわよ!」
「分かりました!」

 ヴェルギウスがこちらに気付いた。
 上空から俺たちを見つめている。
 その瞬間、大きな口を開け火球を吐き出した。
 火球の大きさは直径二メデルトほどだ。

「しまった!」

 シドに聞いていた岩石だ。
 ヴェルギウスは体内に溶岩を溜め込んでおり、溶岩を球状に固めたものを吐き出す。
 とっさにレイとオルフェリアを抱きかかえ地面にダイブ。

 空気を焼きながら、超高速で飛んでくる火球。
 凄まじい爆音を上げ地面に衝突。
 爆発の熱風を受け、顔が焼けたかと思うほどの灼熱の熱風を浴びた。

 地面を大きく抉った球体の溶岩。
 その三分の一が地面に埋まっている。
 完全には固まっておらず、表面の小さい穴から火が吹き出し、いくつもの細い白煙を上げていた。
 間一髪で火球の直撃は避けたが、あんなものが当たったら間違いなく死ぬだろう。

「うぐ……ううううう」

 オルフェリアが唸っている。

「オルフェリア! 怪我か?」

 だが、オルフェリアの状況を見ている余裕がない。

「アル! ここは私に任せて!」
「分かった! ヴェルギウスを引きつける! 行くぞ! エルウッド!」

 俺はポケットからヴェルギウスの鱗を取り出し、ヴェルギウスに見せつけた。
 シドの話だと、プライドの高いヴェルギウスは、自身の鱗を持つ者を標的とするようだ。

「アル! あなたならできるわ!」
「ありがとう!」

 俺はヴェルギウスの鱗を掲げ走り出す。
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