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第十章

第155話 騎士団からの調査依頼

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 騎士団は街の中心地にある広場にキャンプを設営。
 どうやらここを対策本部にするようだ。
 騎士たちが手際良くテントを建てていく。

 俺たちもひとまず騎士団キャンプ地の近くに寝台荷車キャラバンを停めた。
 レイが騎士団から戻る。

「皆聞いて。十番隊は国家レベルの被害と判断して、王都へ緊急救助を申請したわ。王都から現団長のジル・ダズと、近隣の都市から救護隊が来る。最速で向かってるけど十日程かかる。申し訳ないけど、それまで私が陣頭指示を取ることになったの」
「分かった。緊急事態だしね。俺たちも手伝えることがあったら言って」
「ありがとう」

 これほどの事態だ。
 俺は全面的に協力するつもりだった。
 しかし、シドは違うようだ。

「ふむ。王国出身の君たちはそうだろう。だが私は特に関係性もなく、協力する義務もないぞ?」
「分かってるわ。それは当然のことよシド。だから騎士団から、あなたたちにクエスト依頼するわ。直請けクエストよ」
「なるほど。名誉団長リ・テインの権限を使うのか」
「そうよ。騎士団の予算を使う。まずは十日間サルガで襲撃の調査をお願いするわ。報酬は金貨十枚。その後は結果次第で決める」
「ふむ、一日金貨一枚か。調査クエストでは破格の報酬だな。いいだろう。受注しよう。直請けの書類はレイが作ってくれ」
「ええ、用意しておくわ。じゃあさっそく活動開始よ。何かあったら本部へ来て。私は本部のテントにいるから」

 名誉団長リ・テインとして、今でも団長権限を持っているレイ。
 退任したが、未だに冒険者ギルドへ高い影響力を持つ元ギルマスのシド。
 実質的な団体トップの二人がいることで、話の展開が早い。

「レイも無理しないように!」
「ふふふ、ありがとうアル」

 レイと別れ、俺たちはサルガの調査を開始。
 オルフェリアがシドの様子をうかがっていた。

「シド、こういう時こそ協力するべきなのでは?」
「うむ、オルフェリアの言う通りだ。だがな、善意で飯は食えないのだよ。ギルド設立の話は知っているだろう? 私も王国の理念は素晴らしいと思っている。しかしギルドの理念は真逆だ。安全は金で買う。金は信用だし評価だ。覚えておくがよい」
「は、はい」
「厳しいようだが、これが崩れると冒険者ギルドは崩壊する。ここだけの話、世界の安全は金で保たれている。私は人間の闇や負の部分を嫌というほど見てきた。人間こそ最も信頼できん生き物だ」
「わ、分かりました」
「とはいえ、オルフェリアの言うことはもっともだ。モラル的には圧倒的に正しい。だからその気持ちを忘れないで欲しい。私がいないところでは自由にするがよい」
「はい!」

 シドは不老不死になったことで、数々の壮絶な拷問を受けた。
 人間の闇を嫌というほど見てきたはずだ。
 人を信じ、人に裏切られたことも山ほどあるだろう。
 それでも人の心を持ち、人類に絶望せずに生き続けている。
 シドこそ本当に素晴らしい人間だ。
 俺はシドと友人でいることが誇らしい。

「ではさっそく調査に入ろう」
「はい。それにしても酷い状況ですね……」
「うむ、初日は調査よりも片付けがメインになりそうだな」

 シドの言う通り、クエスト受注初日は調査どころではなかった。
 救護や瓦礫の除去で一日が終わったのだった。
 何人の死体を片付けただろうか……。

 街の中で辛うじて破壊されてない建物は、怪我人を収容している。
 騎士団はテント泊や野宿だ。
 俺たちは寝台荷車キャラバンに宿泊。

 こんな状態で言うことではないが、トーマス工房の組み立て式の小屋や風呂はこういう時に大活躍するはずだ。
 国家に営業をかけてもいいだろう。

 ――

 俺たちがサルガに到着して三日が経過。
 未だにまともな調査ができない状況だ。
 そんな中、近隣の街から大量の救援物資が届く。
 内容は食料や水が中心だ。
 とにかく水が大切で、水がないと疫病が発生するとシドが説明してくれた。
 また、怪我人の治療で大量の湯を沸かす必要もある。

「アル、私たちが空路を開拓すれば、こういった時も迅速に救助ができますよね?」
「確かに! 空路だと移動も短縮できるし、物資も運べる」

 オルフェリアと話していると、シドがこちらに歩いてきた。

「その点も色々と考えているのだが、また後日説明しよう。空路を実現させれば、それこそ世界が変わる。権利に群がる亡者共が後を絶たないだろう。なので先に我々の権利や公正なルールを作り、明確にしておくのだ」
「なるほど。ただ乗り物を作ればいいだけではないのか」

 世界の空はまだ誰も権利を主張していない。
 しかし、国家の上空を飛ぶのだ。
 国境を越えることもあるだろう。
 様々な問題が発生するのは目に見えている。
 先に問題点を潰そうとするシドはさすがだった。

 翌日、さらに大量の救援物資や大勢の救助隊が来たことで、俺たちは本格的に調査を開始。

「騎士団の予想通り、この襲撃は竜種の仕業だろう」
「やはり竜種の襲撃なのか」
「それにしても、ここまで街を壊滅させるとはな。冒険者あたりが竜種に干渉、もしくは接触して報復されたのではないか?」
「バカな! 竜種に干渉って。そんなことする人間なんていないだろう?」
「現に我々も、竜種の住処である火山へ行くではないか」
「そ、そうか……」
「それにこの街は冒険者の街だからな。可能性はゼロではない」

 そのタイミングで、オルフェリアが赤い板を見つけた。

「これはアルが拾った鱗と同じじゃないですか?」

 俺は鱗を手に取る。

「色も形も硬さも同じだ。ということは、この襲撃は……」
「うむ、ヴェルギウスの襲撃で間違いない。あれを見てみろ」

 シドが指差す。
 破壊された建物の石壁に、三本の大きく深い引っかき傷がついていた。

「これはヴェルギウスの爪跡だな。ヤツの手足の三本の鉤爪は岩をも切り裂く。そして、尻尾の攻撃は石の建物でも一撃で破壊する」

 シドが石壁の傷を触りながら説明している。
 すると、少し先にいたエルウッドが吠えた。

「ムッ、見つけたか。さすがだエルウッド」

 全員でエルウッドが吠えた場所へ行く。
 そこには直径二メデルトほどの球体型の黒い岩が、地面にクレーターを作っていた。
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