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第九章

第151話 霧の正体

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「じゃあ、ギルドで素材を売って、クリスの鍛冶屋へ納品してくるよ」
「うむ、我々は出発の支度をしておくぞ」
「ありがとうシド」

 俺とレイは冒険者ギルドへ行き、鉤爪鷲竜アトルスの素材を買い取ってもらった。
 クチバシで金貨五枚、羽で金貨五枚となった。

 もし全ての素材を持ち帰っていたら、金貨百枚はくだらないとのこと。
 それほど大陸に出現するアトルスは珍しく、また討伐難易度が高いものだった。
 討伐証明のクチバシを見せたことで討伐スコアも更新。
 そして、ギルドに預けていた寝台荷車キャラバンを引き取る。

 そのまま寝台荷車キャラバンを操縦し、クリスの鍛冶屋へ向かう。
 店に到着すると、クリスとシーラが出迎えてくれた。

「おおアル! 無事だったか! 今回は無理言ってすまなかったな」
「アハハ、大丈夫だよ。それより、俺が見てもかなりの高品質な鉱石が採掘できたよ」

 さっそく採掘した竜石と緑鉱石を納品。
 今回採掘した重量は合計で二十キデルトほどだ。
 クリスが入念にチェックする。

「これは凄いな。これまででトップレベルの品質だ。こりゃあ良い剣が打てるぞ!」
「力になれて良かった」
「料金はそうだな……。今回は金貨二十枚払う」
「え! そんなにいらないよ! 相場じゃ金貨二枚だよ?」
「Sランク冒険者のアル・パートが採掘したとなれば価値は十倍だ。お前が採掘してる間に依頼主の貴族へ伝えたら、アルが採掘するならいくらでも出すと大喜びしていたぞ。ガハハハ」
「そうなんだ。まあクリスが損しなきゃいいよ。アハハ」
「アルのおかげで儲けさせてもらうぞ。ガハハハ」

 シーラから金貨が二十枚入った革袋を受け取った。

「本当に君は凄いね。さっきお客さんから聞いたよ。採掘のついでにアトルスも討伐したって。どうやったらそんなことができるの?」
黒爪の剣レリクスのおかげさ。一瞬で首を斬り落とせたんだから」
「あのねえ。空の王者のアトルスを地上で迎え撃ち、剣で斬れる状態に持っていくことが凄いんだよ? それが一流冒険者と三流冒険者の違いだね」

 シーラ曰く、凄腕の冒険者は自分が有利になるように戦いを運んでいくとのこと。
 俺はそれが恐ろしく上手いと褒めてくれた。
 その後も少し雑談。
 シーラはクリスの元で、鍛冶師として修行に励んでるそうだ。

「じゃあ行くね。二人ともありがとう」
「おう、気をつけてな! 活躍期待してるぞ! ガハハハ」
「アル、レイ、本当にありがとう」
「ふふふ。シーラ、たまにはウグマへ帰りなさいよ?」

 納品が終わり、俺たちは宿へ戻る。
 シドが補給物をまとめていてくれた。

「アル、積み込みを手伝ってくれ」
「了解!」

 大量の水や食料を寝台荷車キャラバンの荷台に積み込む。
 これで補給は完了だ。

「それでは出発するぞ」

 シドが御者席に座り、甲犀獣ケラモウムのジャオ・ロンを歩かせる。
 ラバウトの入口まで行くと、幼馴染のセレナ、鍛冶屋のクリスとシーラ、偶然帰っていた商人のトニーが待っていた。

「皆ありがとう! また来るね!」

 知った顔が見送ってくれる中、俺たちはラバウトを出発。
 標高千メデルトのラバウトから峠道を下る。
 俺も御者席に座った。
 山で遭遇した生き物について質問するためだ。

「シド。フラル山で不思議な生き物に遭遇したんだ」
「不思議な生き物? 鉤爪鷲竜アトルスのことか?」
「違うよ。アトルスを討伐した後、標高七千メデルト付近で遭遇した」
「どんな生き物だ?」
「突然霧が出たんだ。そしたら帝角鹿エルースのような、でも帝角鹿エルースより大きい生き物が出現した」
「標高七千メデルトに帝角鹿エルースだと?」

 シドが考え込んでしまった。
 そして少し経ってから、俺の顔を見る。

「アルよ、フラル山が世界一高い山だというのは知っているな?」
「もちろんだよ。俺はその山頂で採掘してたんだから」
「そうだったな。標高九千メデルトを越える場所で採掘なんてできるのは、世界でも君だけだ。ハッハッハ」
「それと何か関係あるの?」
「世界にはな、特徴的な地域があるのだよ。広大な海、極寒の雪や氷の世界、世界一広い森、世界一広い砂漠、世界一大きい湖、巨大洞窟、古代の地下迷宮もある」
「世界事典で読んだことがあるよ」
「私たちの目的地である灼熱の火山地帯、アフラ火山もそうだ。そしてそこは始祖である火の神アフラ・マーズの住処だ。そういった特徴的な地域に始祖が住んでいる」
「え?」
「話は戻るが、フラル山は世界一高い山だ」
「ま、まさか?」
「理解が早くて助かるぞ。ハッハッハ」

 シドが脈絡のない話をしていると思ったが、一つに繋がった。

「君はフラル山に長年住んでいたが、実はフラル山も始祖の住処なのだよ」
「う、嘘でしょ? だって、一度も見たことがないよ?」
「始祖がフラル山のどの標高に存在するのか私も知らないが、世界一高い山だ。尋常ではないほど広い。それに始祖であれば君の存在を察知するのは容易いだろう。だからこれまで遭遇しなかったのではないか?」
「じゃあ、なぜ今俺の前に現れたんだ?」
「それは分からない。なにせ神の如き始祖だ。人間の考えなんて遠く及ばんよ」
「それはそうだな……」

 シドは手綱を握りながら説明してくれた。

「ところでシド。フラル山に住む始祖の名前は知ってるの?」
「うむ、山の神ル・ヴァティだ。私はまだ遭遇したことがない」
山の神ル・ヴァティ……」

 まさか、自分が住んでた山が始祖の住処だとは思わなかった。 
 これまで一度も遭遇していなかったのは偶然なのか必然なのか。
 だが、シドの言う通り始祖の考えることなんて分からない。
 それに現状では特に害がないので、気にすることでもないだろう。

 それよりも次の街だ。
 寝台荷車キャラバンはイーセ王国の南西にあるサルガの街を目指す。
 サルガが最後の補給地だ。
 その補給地を過ぎると、ついに人の領地ではなくなる。

 俺は初めて人が住む領地を出る。
 これまで以上に気を引き締めなければならない。

 俺たちは街道を西へと進む。
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