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第九章
第149話 標高七千メデルト
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鉤爪鷲竜は両足の鉤爪を開き、俺たち目がけて急下降。
「今だ!」
二十メデルトほどに近付いたところで、俺は全力で石を投げつけた。
肉と石がぶつかる鈍い音が聞こえると同時に、羽と胴体の境目に命中。
衝撃で抜けた群青色の羽が宙を舞う。
それでもアトルスは、すでに十メデルトの距離に近付いていた。
俺はもう一つの岩もすぐに投げる。
岩は喉に直撃し、骨が折れたような鈍い音が響く。
喉周りの小さな白い羽が抜け落ちた。
「ギィィィイイィィ!」
アトルスは叫び声を上げ、そのまま落下。
地面に叩きつけられたところへ、すかさずレイが突きを放つ。
しかし、アトルスはレイに向かって巨大な翼を羽ばたかせ、突きを防いだ。
レイが一旦飛び退く。
「まさか! 防がれるなんて!」
叫ぶレイ。
それに対し、再度上空へ羽ばたこうと必死で翼を動かすアトルス。
俺はその隙を見逃さず、黒爪の剣を抜きながら大きくジャンプ。
剣を振りかぶり、アトルス目がけて振り下ろす。
大量の鮮血が吹き出す。
首がなくなったアトルスの胴体が、ただの肉塊となり地面に横たわる。
俺は首と胴体を一刀両断した。
「アル! 大丈夫?」
「ああ、俺は問題ない。レイは? 翼の攻撃は当たってない?」
「私も大丈夫よ。それにしても、まさか翼で突きを防ぐとはね」
「ああ、戦い慣れしているモンスターだった」
「とはいえ、アルにかかっては瞬殺だったわね。アトルスを投石で叩き落とすなんて、人類史上初じゃないかしら?」
「絶対そんなことないって!」
「アルってもう弓はいらないわね」
「いるよ! 今回だって弓があればもっと楽に倒せたでしょ?」
「どうかしら。アトルスは翼で風を起こして矢を防ぐから、本来は弓を使っても討伐するのは難しいのよ。とはいえ、弓がないと戦うことすらできないのだけどね」
「そ、そうなんだ」
「アトルスはAランクモンスターなのよ? それも空の王と呼ばれ竜骨型の中で最強格。討伐の難易度は異常に高いし、普通はもっと時間がかかるわ。襲われたからってこれほど簡単に、それも一瞬で討伐なんてできないのよ」
Aランクモンスターをこんな短時間で討伐する冒険者はいないと、レイが呆れていた。
呆れられようが、せっかく倒したモンスターだ。
素材を持ち帰りたい。
だが、ここは標高六千メデルトの山中。
「素材を持って帰るのは無理か」
「そうね。仕方がないわね。討伐証明の持ち帰りも厳しいかもしれない。持てるのは羽くらいかしら」
「討伐証明はどこの部位?」
「クチバシよ」
「クチバシだけでも一メデルトあるな。持てるかな」
「無理なら今回は諦めましょう」
「分かった。……こういう時に空を飛べれば、全ての素材を持って帰れるのになあ」
「ふふふ、そうね。そのためにも軽い空気を探さなきゃね」
討伐証明となるクチバシを剥ぎ取る。
幅三十セデルト、高さ五十セデルト、長さ一メデルトとかなり大きいが、想像以上に軽いものだった。
そして持てる量の羽も抜き取る。
アトルスの羽は高級な服飾や、貴族が狩猟で使う高級矢など道具類に使われるため、非常に高値で取引されるのだった。
俺は羽を籐かごに入れ採掘へ戻る。
だが、残念ながら目的の鉱石は発見できず。
太陽が頭上に来たので昼食。
「それにしてもさ。この山に十九年間住んでたけど、アトルスが出現することなんて一度もなかったよ?」
「モンスターの活動が活発になってるのかしら」
「シドもそんなこと言っていたなあ。モンスターが活発化してるけど、不自然とかなんとか」
「そうなのね。いずれにしても、モンスターの世界で何かが起こっているということでしょうね」
休憩を終え採掘再開。
標高を上げ、七千メデルトまで来た。
「レイ、無理する必要はない。ここは呼吸が辛いはずだ」
「そう……ね。はあ……はあ。ちょっと……キツい……かも」
「むしろここまで来られる方が凄いよ」
「アル……エルウッド……ごめん……なさい。はあ……はあ。私は……さっきの……場所で……待ってるわ」
「レイ、自宅に戻って! 夕方には帰るから夕食を作って待っていて欲しい。エルウッド、レイと帰るんだ」
「ウォン!」
レイとエルウッドが下山を始めた。
ここはもう人間が滞在できる場所ではない。
空気は薄く、気温もかなり低い。
そもそも標高六千メデルトでモンスターと戦えるレイが凄いのだ。
だが、そのレイですら動きはかなり鈍くなっていた。
アトルスがレイの攻撃を防いだのもそのせいだろう。
地上であれば、レイの突きが決まっていたのは間違いない。
シド曰く、俺は心臓の鼓動が極端に低いため、空気が薄くても全く問題ないそうだ。
実はシドからこの話を聞いたあと、密かに風呂で呼吸を止める実験をした。
すると、あまりにも長風呂ということで、執事のステムが心配になって浴室へ来たほどだった。
「さて、掘るか」
俺はツルハシを振る。
静寂に包まれた天空の世界に、岩と鉄が衝突する甲高い音が鳴り響く。
「お、竜石だ! やっぱりフラル山の鉱石は高品質だな」
場所を変え、緑鉱石を探すとすぐに発見。
「よし、採掘終了だ。帰ろう」
これで目的の鉱石を採り終えた。
俺は自宅へ帰ろうと、岩場の山道を歩く。
すると、突然霧が出てきた。
晴天が多く、安定した天候のフラル山で霧が出ることは珍しい。
「今だ!」
二十メデルトほどに近付いたところで、俺は全力で石を投げつけた。
肉と石がぶつかる鈍い音が聞こえると同時に、羽と胴体の境目に命中。
衝撃で抜けた群青色の羽が宙を舞う。
それでもアトルスは、すでに十メデルトの距離に近付いていた。
俺はもう一つの岩もすぐに投げる。
岩は喉に直撃し、骨が折れたような鈍い音が響く。
喉周りの小さな白い羽が抜け落ちた。
「ギィィィイイィィ!」
アトルスは叫び声を上げ、そのまま落下。
地面に叩きつけられたところへ、すかさずレイが突きを放つ。
しかし、アトルスはレイに向かって巨大な翼を羽ばたかせ、突きを防いだ。
レイが一旦飛び退く。
「まさか! 防がれるなんて!」
叫ぶレイ。
それに対し、再度上空へ羽ばたこうと必死で翼を動かすアトルス。
俺はその隙を見逃さず、黒爪の剣を抜きながら大きくジャンプ。
剣を振りかぶり、アトルス目がけて振り下ろす。
大量の鮮血が吹き出す。
首がなくなったアトルスの胴体が、ただの肉塊となり地面に横たわる。
俺は首と胴体を一刀両断した。
「アル! 大丈夫?」
「ああ、俺は問題ない。レイは? 翼の攻撃は当たってない?」
「私も大丈夫よ。それにしても、まさか翼で突きを防ぐとはね」
「ああ、戦い慣れしているモンスターだった」
「とはいえ、アルにかかっては瞬殺だったわね。アトルスを投石で叩き落とすなんて、人類史上初じゃないかしら?」
「絶対そんなことないって!」
「アルってもう弓はいらないわね」
「いるよ! 今回だって弓があればもっと楽に倒せたでしょ?」
「どうかしら。アトルスは翼で風を起こして矢を防ぐから、本来は弓を使っても討伐するのは難しいのよ。とはいえ、弓がないと戦うことすらできないのだけどね」
「そ、そうなんだ」
「アトルスはAランクモンスターなのよ? それも空の王と呼ばれ竜骨型の中で最強格。討伐の難易度は異常に高いし、普通はもっと時間がかかるわ。襲われたからってこれほど簡単に、それも一瞬で討伐なんてできないのよ」
Aランクモンスターをこんな短時間で討伐する冒険者はいないと、レイが呆れていた。
呆れられようが、せっかく倒したモンスターだ。
素材を持ち帰りたい。
だが、ここは標高六千メデルトの山中。
「素材を持って帰るのは無理か」
「そうね。仕方がないわね。討伐証明の持ち帰りも厳しいかもしれない。持てるのは羽くらいかしら」
「討伐証明はどこの部位?」
「クチバシよ」
「クチバシだけでも一メデルトあるな。持てるかな」
「無理なら今回は諦めましょう」
「分かった。……こういう時に空を飛べれば、全ての素材を持って帰れるのになあ」
「ふふふ、そうね。そのためにも軽い空気を探さなきゃね」
討伐証明となるクチバシを剥ぎ取る。
幅三十セデルト、高さ五十セデルト、長さ一メデルトとかなり大きいが、想像以上に軽いものだった。
そして持てる量の羽も抜き取る。
アトルスの羽は高級な服飾や、貴族が狩猟で使う高級矢など道具類に使われるため、非常に高値で取引されるのだった。
俺は羽を籐かごに入れ採掘へ戻る。
だが、残念ながら目的の鉱石は発見できず。
太陽が頭上に来たので昼食。
「それにしてもさ。この山に十九年間住んでたけど、アトルスが出現することなんて一度もなかったよ?」
「モンスターの活動が活発になってるのかしら」
「シドもそんなこと言っていたなあ。モンスターが活発化してるけど、不自然とかなんとか」
「そうなのね。いずれにしても、モンスターの世界で何かが起こっているということでしょうね」
休憩を終え採掘再開。
標高を上げ、七千メデルトまで来た。
「レイ、無理する必要はない。ここは呼吸が辛いはずだ」
「そう……ね。はあ……はあ。ちょっと……キツい……かも」
「むしろここまで来られる方が凄いよ」
「アル……エルウッド……ごめん……なさい。はあ……はあ。私は……さっきの……場所で……待ってるわ」
「レイ、自宅に戻って! 夕方には帰るから夕食を作って待っていて欲しい。エルウッド、レイと帰るんだ」
「ウォン!」
レイとエルウッドが下山を始めた。
ここはもう人間が滞在できる場所ではない。
空気は薄く、気温もかなり低い。
そもそも標高六千メデルトでモンスターと戦えるレイが凄いのだ。
だが、そのレイですら動きはかなり鈍くなっていた。
アトルスがレイの攻撃を防いだのもそのせいだろう。
地上であれば、レイの突きが決まっていたのは間違いない。
シド曰く、俺は心臓の鼓動が極端に低いため、空気が薄くても全く問題ないそうだ。
実はシドからこの話を聞いたあと、密かに風呂で呼吸を止める実験をした。
すると、あまりにも長風呂ということで、執事のステムが心配になって浴室へ来たほどだった。
「さて、掘るか」
俺はツルハシを振る。
静寂に包まれた天空の世界に、岩と鉄が衝突する甲高い音が鳴り響く。
「お、竜石だ! やっぱりフラル山の鉱石は高品質だな」
場所を変え、緑鉱石を探すとすぐに発見。
「よし、採掘終了だ。帰ろう」
これで目的の鉱石を採り終えた。
俺は自宅へ帰ろうと、岩場の山道を歩く。
すると、突然霧が出てきた。
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