鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第九章

第148話 墓参り

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 俺はレイの様子を見ながら山道を進む。
 しかし、いつもの登山ペースで問題なかった。

 途中の樹海では、この付近の主でCランクモンスターの赤頭熊グリーズと久しぶりの再会。
 モンスターとはいえ、このグリーズは俺に懐いていた。
 用意した肉の塊を渡す。
 喜んで食べるグリーズの様子を見ながら、レイが俺の肩に手を乗せてきた。

「アルって使役師の才能もあるのね」
「使役師?」
「ええ、モンスターに命令して使役する職業よ。高いレベルになるとネームドすら使役できるわよ」
「モンスター? そ、そんなの無理だよ!」
「何言ってるのよ。今も目の前でグリーズが懐いてるし、そもそもエルウッドとも共闘してるじゃない」
「エルウッドは家族だよ」
「ふふふ、そうね。アルの恐ろしいところって、自覚がないところよね」
「ちょっと!」
「ふふふ、本当にアルらしいわ」
「ウォウォウォ」

 エルウッドまで笑っていた。

 樹海を出ると本格的な登山となる。
 坂を超え、いくつもの崖を登る俺たち三人。
 レイは途中呼吸が乱れることもあったが、最後まで俺のペースについてきた。
 そして俺たちは、太陽が頭上に来る頃に自宅へ到着。

「レイ、まだ正午だよ。このペースで登山できるって本当に凄い。シドの言う通りだね」
「ふふふ、アルに負けないように頑張ってるのよ」

 自宅の中へ入る。
 さすがにこの場所には誰も来ないので、一年前と変わりはない。
 とはいえ埃は溜まっている。
 俺はまずは掃除を始めた。
 ベッドの布団も天日干しする。

「レイ、休んでいて」
「大丈夫よ。私も手伝うわ」

 部屋が綺麗になったところで、見晴らしのいい場所に建っている両親の墓へ向かった。

「父さん、母さん、帰ってきたよ。またすぐ出るけど、俺たちは元気にやってる。安心して。そうだ父さん。シドがよろしくって言ってたよ」

 しばらくの間、両親にここ一年の出来事を報告。
 レイも一緒に祈ってくれた。

 家に戻り水を確認すると新鮮な状態だった。
 どうやら常に雨水や雪水が入ってきており、循環していたようだ。
 風呂を沸かし、レイに入ってもらう。
 そして俺も風呂に入る。

 温暖な地域とはいえ、標高五千メデルトでは雪が積もる。
 暖炉に火を焚べ、食事を取る。

「明日は丸一日採掘だ。クリスの依頼通り竜石と緑鉱石を狙う」
「久しぶりの採掘でしょ? 勘は鈍ってない?」
「アハハ、大丈夫だよ。十二年間もここで採掘してたんだから」
「ふふふ、そうね。明日は私も一緒に行くわ。久しぶりにアルの採掘を見たいもの」
「分かった。明日中に採掘を終えたいから、ちょっと無理するかも。標高六千メデルトから採掘を始めて、採れなければ標高を上げていく」

 明日の予定を話し、レイとベッドへ入る。
 この家にはベッドが一つしかない。

「明日は日の出と同時に出発したい。ちょっと早く起きるね」
「分かったわ」
「じゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」

 ――

 翌朝、日の出前に起床。
 朝食を取り採掘の準備。
 そして、久しぶりに自分のツルハシを持つ。

 鍛冶屋のクリスに作ってもらった二十キルクの特注ツルハシだ。
 フラル山の希少鉱石は、これくらい重いツルハシじゃないと採掘するのが難しい。
 加えてこの標高だ。
 通常なら呼吸すらままならない。
 そのため、フラル山で希少鉱石を採掘できる人間は俺以外にいないのだった。

 支度をして出発。
 まず標高六千メデルトの採掘ポイントへ来た。
 さっそく採掘開始だ。

「この標高で二十キルクのツルハシを振り続けられるなんて。相変わらず凄いわね。ふふふ」

 レイが呟いていた。
 レイは腰くらいの高さの岩に座り、エルウッドと俺の採掘を見ている。
 以前もこんなシーンがあったと思う。
 するとエルウッドが唸り始めた。

「ウゥゥゥ! ウォンウォン!」
「どうしたのエルウッド?」

 レイがエルウッドに問いかける。
 同じタイミングで、何かが羽ばたくような大きな音が聞こえた。

「ん? 何の音だ?」

 頭上を見ると、巨大な影が恐ろしい勢いで迫っている。
 見えるのは大きな二枚の翼と、鉤爪がついた二本の足。

「まさか鉤爪鷲竜アトルス! アル! 伏せて!」

 レイの叫び声が聞こえるのと同時に、俺はとっさに地面へダイブ。
 俺を捕獲し損ねたアトルスが上空へ舞い戻る。
 だが、上空から俺の動きをしっかりと見ているのが分かる。
 アトルスは空の王と呼ばれている危険極まりないモンスターだ。

 以前、帝国の街道でアトルスに遭遇したことがある。
 同じ個体か分らないが、この大陸での目撃例は少なく、ましてやフラル山で見たことなんて一度もない。

「フラル山にアトルスが出現するなんて初めてだ!」

 ◇◇◇

 鉤爪鷲竜アトルス

 階級 Aランク
 分類 竜骨型翼類

 体長約五メデルト。
 二枚の巨大な翼を持ち、翼を広げると十メデルト以上にもなる大型の翼類モンスター。
 四肢型鳥類に見えるが、れっきとした竜骨型翼類。

 二本の太い足の先には三本の大きく鋭い鉤爪、踵には一本の大きな鉤爪を備えている。
 大きく湾曲したクチバシは先端が鋭く、強固なモンスターの甲殻も貫く。

 上空から獲物を狙い、鉤爪で獲物を捕獲する。
 人間や動物はもちろん、大型のモンスターですら簡単に捕獲し空中へ連れ去る。

 竜骨型翼類では頂点の存在。
 空の王と呼ばれる。
 生息地は南の海を超えたモンスターが生息する島と言われており、この大陸で目撃例は少ない。

 首から上は純白の羽毛に覆われ、胴体や羽は美しい群青色、腹部から尾羽は頭部と同じ白色。
 巨大なクチバシと二本の足は鮮やかな黄色、鉤爪は艶がある黒色をしている。

 美しい羽は王族や貴族、上級商人の高級服飾などに使われる。
 また、扇やペンとしても用いられ、非常に高値で取引される。

 ◇◇◇

 これまで標高六千メデルトのこの地で、モンスターなんて見たことがない。
 だが、大空を駆けるアトルスにとっては庭のようなものだろう。

「クソッ! どうする!」
「翼類は弓がないと厳しいわ! アル、ひとまず投石で対抗して! 接近されたら私が剣で対応する!」

 レイが星爪の剣ライックを抜き、俺の元へ走ってきた。
 背中合わせとなりお互いの背後を守る。

「牽制して逃げてくれればいいのだけど……」

 レイが背中越しに呟く。
 俺は地面から拳よりも大きな石を二つ拾い、いつでも投げられるように準備。

「来るわよ! 引きつけて投げて!」
「分かった!」

 アトルスが上空から再び攻撃を仕掛けてきた。
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