鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第九章

第145話 百六十倍の報酬

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 トレバーがレイに向かって敬礼する。

「まさかレイ様がラダーにいらっしゃったとは。気付かず大変失礼いたしました」
「いいのよ。挨拶してないんだもの。気にしないで」
「ハッ! お気遣いありがとうございます」

 トレバーは混乱している表情だ。
 貴族の別荘で火災が発生。
 消火のために急いで来ると、そこに名誉団長リ・テインのレイがいた。
 確かに状況を飲み込めないだろう。

「あの、状況をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 レイは今回の事情をトレバーに全て説明した。

「調査クエストだったのですね。しかも光蟷螂蟲アンティマントが巨大コロニーを作っていたとは……。貴族の別荘ですから騎士団にも護衛の責任があります。本件の事後処理は騎士団で行ってもよろしいですか?」
「ありがとう。お願いするわ。ギルドにも伝えておくわね。この大量のアンティマントの素材はギルドへ回してもらえるかしら」
「ハッ! かしこまりました」

 後処理は騎士団が行ってくれることになった。
 レイは隊員全員に直接お礼を伝える。
 名誉団長リ・テインのレイから直接声をかけられたということで、隊員たちは喜びを爆発させていた。

 深夜に開始した調査クエストも完全に朝を迎えている。
 俺たちはそのままギルドへ赴き、今回のクエスト結果を報告。
 ギルド主任も、まさかだたの調査がアンティマントのコロニーを駆逐することになるとは想像しておらず、ただひたすら恐縮していた。

 アンティマントのコロニーの駆逐になると、クエストランクはBになる。
 さらに、今回のような巨大なコロニーだとクエストランクはAに該当。
 そのため報酬も跳ね上がるとのことだった。

 また、アンティマントの素材は人気がある。
 外骨格は冒険者用の安価な鎧に使用されることが多く、低ランクの冒険者には特に人気だ。
 鎌状の前足は、草刈り用の大鎌として使用できる。
 この大鎌は農家に人気があった。

 今回のクエストは、調査からコロニーの駆除へ変わってしまった。
 通常であればクエスト報酬が見直される。
 だが、俺たちにそれを待つ時間はない。
 そこでギルド主任は、大量のアンティマントの死骸を買い取るということで金貨八十枚を支払ってくれた。
 この素材があれば、ギルドの大きな収入になると主任は感謝してくれたほどだ。

 銀貨五枚の調査クエストから金貨八十枚だ。
 危険があったとはいえ、結果的に百六十倍もの報酬となった。
 これはパーティーの旅代に当てるつもりだ。

 徹夜のクエストになったことで、シドやオルフェリアからはもう一泊することを勧められた。
 だが、風呂だけ入りチェックアウト。
 一日くらいの徹夜は問題ないし、移動中にキャラバンの寝台で寝られるからだ。
 パーティーはそのままラダーを出発することにした。

 俺とレイは、最後に騎士団の駐屯地でトレバーへ挨拶。
 レイは今後について、トレバーへいくつか指示を出していた。

「トレバー、本件は騎士団から男爵へ説明してもらえるかしら。火災の修繕費は男爵家の自費。またギルドへ討伐費用を払うように伝えなさい。命令は私の名を出していいいわ」
「かしこまりました!」
「男爵は本当に優しくて高齢の方だから、失礼のないように。よろしく伝えてね」
「ハッ! 承知いたしました! レイ様のお気遣いに男爵も救われることでしょう」

 トレバーは騎士団団長だったレイを心酔している。
 どうやらそれは今も変わらないようだ。

「レイ様、準備もなくアンティマントのコロニーを駆逐されるとは感服いたしました。レイ様はギルド初のSランク冒険者と伺っておりますが、どこまで強くなるのやら……見当もつきません」
「ふふふ、ありがとう。でもね、アルが凄いのよ。今後のアルの活躍を見てなさい」
「ハッ! レイ様もアルも、ありがとうございました!」

 俺たちはトレバーに別れを告げ、ラダーを出発。
 次の目的地は、ついに俺の地元であるラバウトになる。
 皆に会えるのがとても楽しみだ。

 ラダーからラバウトまでは二百キデルト。
 寝台荷車キャラバン甲犀獣ケラモウムのネームドであるジャオ・ロンが引く。
 今回は街道を進むので、一日半もかからず到着するだろう。

 御者席に座るシドが、ここ最近のモンスター出現状況について話してきた。

「昨日の光蟷螂蟲アンティマントだが、街の郊外とはいえ市街地に巨大なコロニーを作ることは珍しい」
「え? そうなんだ」
「普通は人がいない山や森、雑木林にコロニーを作るんだ」

 シドは手綱を持ってジャオ・ロンを操縦している。

「そもそも人類の領地は、モンスターの活動領地と被らないように調整している。そのため、世界には人が領地を主張しない土地がたくさんあるのだ」
「ああ、いわゆるモンスター領だよね」
「うむ。国家で取り決めされている世界の理と条約ログ・ロックだ。条約の内容は各国の王族しか知らないことだがな」

 二千年も生きているシドの話は、いちいち壮大になりがちだ。
 凄すぎてよく分からない。
 だが、アンティマントの話を聞いて、俺は数ヶ月前に起こったことを思い出した。

「そういえば、以前もフォルド帝国内では見かけない鉤爪鷲竜アトルスが帝国の街道に出現したな……」
「アトルスが帝国に出現するとは珍しいな」
「やっぱりそうなんだ!」
「アルが拾った竜種ヴェルギウスの鱗もそうだ。王国内で見つかるなんて非常に珍しい」
「よく考えると、ダーク・ゼム・イクリプスの活動や、ウォール・エレ・シャットの出現もそうだよな」

 シドが右手を顎に押し当て考え込む。

「ふむ。世界的にモンスターが活発化してるのか。どうも不自然さを感じるな……」

 シドが何やら呟いている。
 これまでと何かが変わってきているのだろうか。
 しかし、世界レベルのことなんて俺には分からない。
 俺に分かることは、モンスターが活発になると人々の暮らしが危険にさらされるということだけだ。
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