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第九章
第143話 調査クエスト
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ラダーは宿場町なので、宿の呼び込みが激しい。
宿泊街を進んでいると、赤毛の女性が話しかけてきた。
「あれ? お兄さん! 以前も泊まってくれましたよね!」
「あ! あの時の!」
二年前にラダーへ寄った際、この赤毛の女性に声をかけられた。
よく覚えているなと感心する。
そういった記憶力も商売の秘訣なのか。
「狼牙ちゃんも久しぶりですね。宿をお探しならぜひうちで! 甲犀獣と荷車も停められますし、サービスしますよ!」
「そうだね。じゃあ、またお世話になるよ」
早々に宿を決め、俺たちはギルドへ向かった。
ギルドの素材買い取り窓口で猛火犖と毒甲百足の素材を売却。
バルファの買取金額は金貨三枚。
特に角は喜ばれ、角だけでなんと金貨二枚の値段がついた。
アロプレラは毒腺込みで銀貨八枚の金額だった。
頭部がなくなっていることで、金額が下がってしまった。
だがモンスター二頭で、金貨三枚と銀貨八枚の売上だ。
まずまずだろう。
そして、討伐スコアも更新してもらった。
ギルドの受付嬢は、俺たちがギルド初のSランク冒険者ということで大変緊張している様子。
そこへ俺たちが来たと話を聞きつけたギルドのラダー主任が、クエスト依頼書を持って来た。
冒険者ギルドの主任は街単位のトップだ。
しかしギルドの主任もまた、Sランク冒険者で名誉団長のレイを目の前にして緊張していた。
なお、シドはギルマスだったことを隠している。
主任レベルには、シドの顔は知られていないとのことだった。
◇◇◇
クエスト依頼書
難度 Dランク
種類 調査
対象 カーション男爵別荘
内容 イペル・カーション男爵別荘の調査 及び 現状報告
報酬 銀貨五枚
期限 本日中
編成 Cランク二人以上
解体 なし
運搬 なし
特記 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み
◇◇◇
主任はレイに向かって一礼。
「Dランクのクエストをレイ様にお願いするのは気が引けるのですが、本日が期限のクエストなのに冒険者が未だ見つかっておりません」
「そうなのね。内容は?」
「カーション男爵の別荘調査です」
「別荘の調査?」
「はい、不可解な現象が起こるそうです。そのため別荘管理人は一週間前から避難し、本件を男爵へ報告。ギルドに調査依頼が来ました」
レイは受け取ったクエスト依頼書に目を通している。
「分かったわ。いいでしょう。クエストを受けます。本日中だしもうこのまま行くわ」
「あ、ありがとうございます。調査だけなのでそれほど大変ではないと思います。なお、その現象は夜に起こるそうです」
「夜! そ、そうなのね。じゃ、じゃあ深夜に調査開始して、明日の報告でいいかしら?」
「もちろんです。よろしくお願いいたします」
一旦宿へ戻り仮眠を取った。
深夜になり、俺とレイとエルウッドは別荘へ出発。
今回はモンスターが出現しない調査クエストだ。
そのため、シドとオルフェリアは宿で休んでいる。
別荘はラダー郊外の丘の上だ。
ラダーの街を見渡せる抜群の立地だが、周辺には建物がないため街灯もなく暗い。
別荘管理人は発生している不可解な現象を怖がり、冒険者に一任するということで不在だ。
俺たちは別荘の見取り図だけ貰っていた。
「レイ、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。アルと一緒だしね。でも、お願い……離れないでね」
完璧人間に見えるレイにも苦手なものがあった。
それが暗い場所だ。
俺とレイは燃石のランプを片手に、街外れの道を歩く。
しばらくして丘の上にある別荘の門の前に到着した。
「カーション男爵は王城で何度かお会いしたことがあるわ。もう高齢でね。とても優しい人物よ。本件も騎士団へ依頼すればいいものに。きっと今の騎士団が大変だから、気を使ってギルドへ依頼したのね」
「へえ、貴族ってもっと偉そうな人たちばかりだと思っていたよ」
「もちろん酷い貴族もいるけど、全員が全員そうではないわ。特に男爵は人格者よ。見習いたいわね」
預かった鍵で門を開ける。
暗闇にランプをかざすと、目の前には整備された庭が広がっていた。
さすが貴族の別荘だ。
庭の外灯に火を灯しながら進む。
特に不審な点はない。
念のために裏庭に回る。
「ちょ、ちょっとアル。あまり先に行かないで」
「ウゥゥ! ウォウウォウ!」
突然エルウッドが俺たちの前まで進み、暗闇に向かって吠えた。
すると、暗闇から木が軋みながら擦れるような音が聞こえる。
まるで短毛猿の甲高い鳴き声のようだ。
さらに耳障りな低音が鳴り響く。
「や、やだ。何この音」
「短毛猿? いや、違うぞ」
その瞬間、暗闇に明るく光る白い玉が浮かんだ。
「きゃっ!」
「大丈夫だよ、レイ」
「ウォウウォウ」
突然現れた白く光る玉に、虫が集まり始めた。
「あれは……蛾が集まってる?」
「え? 蛾? 暗闇に光……そして蛾。じゃあ低音は……羽音か。分かったわ」
「何が?」
「あれはモンスターよ。どうする? 依頼は調査だけど、討伐までする?」
「モンスターなら危険だ。討伐しよう」
「分かったわ。アルならそう言うと思った」
「ところで、モンスターの名前は?」
「光蟷螂蟲よ」
◇◇◇
光蟷螂蟲
階級 Cランク
分類 節足型蟲類
体長約三メデルト。
大型の蟲類モンスター。
節を持つ六本の足、鋭い鎌のような二本の前足を持つ。
背には四枚の羽を折りたたんでおり、中距離の飛行が可能。
昼夜問わず活動する。
獰猛な肉食で、昼は動物や小型モンスターを襲う。
鎌状の前足で獲物を仕留め、そのまま鎌で挟み、強力な顎で喰いちぎっていく。
頭部には三十セデルトほどの半球状の突起物があり、ぼんやりと白く光る。
夜はこの光に集まってくる虫や小型動物を捕食する。
最大の特徴は、頭部の半分を占める大きな四つの目。
同時に四つの眼球は使用できず、二つずつ昼用と夜用で交互に使用する。
コロニーと呼ばれる巨大な巣を作り、集団で生活する。
巨大コロニーになると数万匹が繁殖し、小さな街なら壊滅させるほどの脅威となる。
アンティマントの鎌は、農作業の道具として使われる。
比較的安価なため人気が高い。
◇◇◇
俺はモンスター事典を思い出した。
「光の数から三匹はいるわね」
木が軋むような甲高い音は、節足が動く音だった。
正直、俺は蟲類のモンスターが苦手だ。
見た目がとにかく気持ち悪い。
宿泊街を進んでいると、赤毛の女性が話しかけてきた。
「あれ? お兄さん! 以前も泊まってくれましたよね!」
「あ! あの時の!」
二年前にラダーへ寄った際、この赤毛の女性に声をかけられた。
よく覚えているなと感心する。
そういった記憶力も商売の秘訣なのか。
「狼牙ちゃんも久しぶりですね。宿をお探しならぜひうちで! 甲犀獣と荷車も停められますし、サービスしますよ!」
「そうだね。じゃあ、またお世話になるよ」
早々に宿を決め、俺たちはギルドへ向かった。
ギルドの素材買い取り窓口で猛火犖と毒甲百足の素材を売却。
バルファの買取金額は金貨三枚。
特に角は喜ばれ、角だけでなんと金貨二枚の値段がついた。
アロプレラは毒腺込みで銀貨八枚の金額だった。
頭部がなくなっていることで、金額が下がってしまった。
だがモンスター二頭で、金貨三枚と銀貨八枚の売上だ。
まずまずだろう。
そして、討伐スコアも更新してもらった。
ギルドの受付嬢は、俺たちがギルド初のSランク冒険者ということで大変緊張している様子。
そこへ俺たちが来たと話を聞きつけたギルドのラダー主任が、クエスト依頼書を持って来た。
冒険者ギルドの主任は街単位のトップだ。
しかしギルドの主任もまた、Sランク冒険者で名誉団長のレイを目の前にして緊張していた。
なお、シドはギルマスだったことを隠している。
主任レベルには、シドの顔は知られていないとのことだった。
◇◇◇
クエスト依頼書
難度 Dランク
種類 調査
対象 カーション男爵別荘
内容 イペル・カーション男爵別荘の調査 及び 現状報告
報酬 銀貨五枚
期限 本日中
編成 Cランク二人以上
解体 なし
運搬 なし
特記 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み
◇◇◇
主任はレイに向かって一礼。
「Dランクのクエストをレイ様にお願いするのは気が引けるのですが、本日が期限のクエストなのに冒険者が未だ見つかっておりません」
「そうなのね。内容は?」
「カーション男爵の別荘調査です」
「別荘の調査?」
「はい、不可解な現象が起こるそうです。そのため別荘管理人は一週間前から避難し、本件を男爵へ報告。ギルドに調査依頼が来ました」
レイは受け取ったクエスト依頼書に目を通している。
「分かったわ。いいでしょう。クエストを受けます。本日中だしもうこのまま行くわ」
「あ、ありがとうございます。調査だけなのでそれほど大変ではないと思います。なお、その現象は夜に起こるそうです」
「夜! そ、そうなのね。じゃ、じゃあ深夜に調査開始して、明日の報告でいいかしら?」
「もちろんです。よろしくお願いいたします」
一旦宿へ戻り仮眠を取った。
深夜になり、俺とレイとエルウッドは別荘へ出発。
今回はモンスターが出現しない調査クエストだ。
そのため、シドとオルフェリアは宿で休んでいる。
別荘はラダー郊外の丘の上だ。
ラダーの街を見渡せる抜群の立地だが、周辺には建物がないため街灯もなく暗い。
別荘管理人は発生している不可解な現象を怖がり、冒険者に一任するということで不在だ。
俺たちは別荘の見取り図だけ貰っていた。
「レイ、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。アルと一緒だしね。でも、お願い……離れないでね」
完璧人間に見えるレイにも苦手なものがあった。
それが暗い場所だ。
俺とレイは燃石のランプを片手に、街外れの道を歩く。
しばらくして丘の上にある別荘の門の前に到着した。
「カーション男爵は王城で何度かお会いしたことがあるわ。もう高齢でね。とても優しい人物よ。本件も騎士団へ依頼すればいいものに。きっと今の騎士団が大変だから、気を使ってギルドへ依頼したのね」
「へえ、貴族ってもっと偉そうな人たちばかりだと思っていたよ」
「もちろん酷い貴族もいるけど、全員が全員そうではないわ。特に男爵は人格者よ。見習いたいわね」
預かった鍵で門を開ける。
暗闇にランプをかざすと、目の前には整備された庭が広がっていた。
さすが貴族の別荘だ。
庭の外灯に火を灯しながら進む。
特に不審な点はない。
念のために裏庭に回る。
「ちょ、ちょっとアル。あまり先に行かないで」
「ウゥゥ! ウォウウォウ!」
突然エルウッドが俺たちの前まで進み、暗闇に向かって吠えた。
すると、暗闇から木が軋みながら擦れるような音が聞こえる。
まるで短毛猿の甲高い鳴き声のようだ。
さらに耳障りな低音が鳴り響く。
「や、やだ。何この音」
「短毛猿? いや、違うぞ」
その瞬間、暗闇に明るく光る白い玉が浮かんだ。
「きゃっ!」
「大丈夫だよ、レイ」
「ウォウウォウ」
突然現れた白く光る玉に、虫が集まり始めた。
「あれは……蛾が集まってる?」
「え? 蛾? 暗闇に光……そして蛾。じゃあ低音は……羽音か。分かったわ」
「何が?」
「あれはモンスターよ。どうする? 依頼は調査だけど、討伐までする?」
「モンスターなら危険だ。討伐しよう」
「分かったわ。アルならそう言うと思った」
「ところで、モンスターの名前は?」
「光蟷螂蟲よ」
◇◇◇
光蟷螂蟲
階級 Cランク
分類 節足型蟲類
体長約三メデルト。
大型の蟲類モンスター。
節を持つ六本の足、鋭い鎌のような二本の前足を持つ。
背には四枚の羽を折りたたんでおり、中距離の飛行が可能。
昼夜問わず活動する。
獰猛な肉食で、昼は動物や小型モンスターを襲う。
鎌状の前足で獲物を仕留め、そのまま鎌で挟み、強力な顎で喰いちぎっていく。
頭部には三十セデルトほどの半球状の突起物があり、ぼんやりと白く光る。
夜はこの光に集まってくる虫や小型動物を捕食する。
最大の特徴は、頭部の半分を占める大きな四つの目。
同時に四つの眼球は使用できず、二つずつ昼用と夜用で交互に使用する。
コロニーと呼ばれる巨大な巣を作り、集団で生活する。
巨大コロニーになると数万匹が繁殖し、小さな街なら壊滅させるほどの脅威となる。
アンティマントの鎌は、農作業の道具として使われる。
比較的安価なため人気が高い。
◇◇◇
俺はモンスター事典を思い出した。
「光の数から三匹はいるわね」
木が軋むような甲高い音は、節足が動く音だった。
正直、俺は蟲類のモンスターが苦手だ。
見た目がとにかく気持ち悪い。
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