鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第九章

第138話 キャラバン

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 出発当日の早朝、ウグマ郊外にあるギルドのクエスト基地に集合した。
 ここは恥ずかしながら、俺の名前からパート基地と名付けられている。
 久しぶりに訪れたのだが、以前よりもさらに発展していて驚いた。

 ギルドの出張所やモンスターの素材買取窓口を中心に、宿や商店が立ち並ぶ。
 いくつかの屋台が並んでいた場所は、今や市場のようにたくさんの屋台が出ていた。
 クエストに必要な食料、武器や防具、各種道具類、薬草、キャンプ用品、トーマス工房の折りたたみ椅子やテーブルを売っている。
 小さな街の繁華街と同じくらいの繁栄ぶりだ。

「アル、レイ、おはようございます」
「おはよう、オルフェリア。いよいよ出発だね」
「はい、楽しみです」

 レイが辺りを見渡す。

「ところで、シドはまだかしら?」

 そこへトーマス兄弟が新しい荷車を運んで来てくれた。
 よく見るとシドが寝台の窓から顔を出している。

「待たせたな。ハッハッハ」

 そして早朝にもかかわらず、冒険者ギルドのウグマ支部長リチャード・ロート、研究機関シグ・セブン支部長ギル・リージェン、開発機関シグ・ナイン支部長ウォルター・ワイヤが見送りに来てくれた。

「アルよ、無事で帰ってくるのだぞ。お前にはまだまだやって欲しいクエストがたくさんあるのだ」
「はい、リチャードさん。無事に戻ってきます」
「そして、シド様をよろしく頼む」

 リチャードはシドの顔を見た。

「シド様、お帰りをお待ちしております」
「ああ、リチャード。もちろんだ。新ギルマスのルイスのフォローも頼むぞ。君たちは昔同じパーティーだったのだからな」
「かしこまりました。ルイスと協力してギルドをより良い方向へ導きます」
「うむ、よろしく頼む」

 ギルとオルフェリアは握手をしている。

「オルフェリア、道中気をつけてください」
「はい。無事に戻ってモンスター事典に貢献します」
「ええ、楽しみにしてます。局長共々、無事に帰ってくることを祈ってますからね」

 ウォルターは相変わらず大声で笑っていた。

「ガハハハハ。レイよ、装備の手入れや補給は各地のシグ・ナインへ寄れ。Sランクの冒険者カードを見せれば、お前たちの分は全て無料で提供するように手配している」
「分かったわ。ありがとうウォルター」
「それとな……。もしラバウトに寄ったら、その、娘のシーラをだな……」
「ふふふ、分かってるわよ。ラバウトには必ず寄るから、シーラの様子を見ておくわ」
「す、すまんな」

 俺はトーマス兄弟の二人と握手した。

「アルさん、いってらっしゃい!」
「二人とも色々とありがとうございます! 会社のことはお任せしますね」
「もちろんです! ご安心ください!」

 そして、改めて全員と挨拶を交わす。
 俺はウグマに住んでまだ一年も経ってない。
 しかし、ここの人たちは俺にとってかけがえのない仲間だ。
 無事に帰ってきて、また皆に会いたいと心から願う。

「皆さんありがとうございます! 行ってきます!」

 俺たちはついにウグマを出発した。

 ――

 俺たちパーティーは、まず国境の街モアを目指す。

 ウグマからモアまでは、整備された街道が通っている。
 距離は約五百キデルトだ。
 通常移動だと十日ほどかかる。
 しかし、俺たちの荷車はシドが設計し、トーマス工房で作成した特別な一台だった。

「この荷車は寝台荷車キャラバンと呼ぶがいい。世界で一台しかない特別な乗り物だ」

 さらに寝台荷車キャラバンを引っ張る甲犀獣ケラモウムは、シドが飼育しているネームドのジャオ・ロン。
 名前の意味は動く砦。
 強固な鱗は弓や剣でも傷付けることはできない。

 ジャオ・ロンはパワーやスタミナが通常個体の数倍もあり、キャラバンを引いて三日間歩き続けることができる。
 睡眠は三日に一回とのこと。
 そのため、たった三日でモアに到着する予定だ。

 この寝台荷車キャラバンは長さが五メデルト、幅三メデルトと荷車の中では中型の部類に入る。
 だが、荷台はトーマス兄弟発明の折りたたみ機能がついており、縦方向に最大約十二メデルトまで拡張可能。
 これで大型モンスターや、複数体のモンスターも運ぶことができる。

 寝台に関しては、もう完全に家と同じだった。
 小さいながらソファーやテーブルがあり、ミーティングや食事もできる。
 ベッドは折りたたみの二段式で、最大四人が同時に就寝可能。
 また、折りたたみのキッチンがあり、走行中に調理も可能だ。
 宿泊や調理のために停止する必要がないので、その分移動時間が短縮される。

 最も驚いたのが、シドが開発した緩衝装置サスペンションという車輪に連結した装置だ。
 緩衝装置サスペンションのおかげで路面の衝撃がほとんど伝わってこない。
 悪路でも快適に過ごせるのだった。

 俺とシドは、キャラバンの前方にある御者席に並んで座っていた。
 その御者席も通常の荷車とは違い、肘掛け付きのクッションを敷いた独立シートが二席ある。
 屋根がついており雨にも濡れず、快適に運転できる仕様だ。

 俺は隣でジャオ・ロンの手綱を持つシドの顔に目を向ける。

「この寝台荷車キャラバンは荷車の革命だよ。シドって本当に凄いんだな」
「何を言っておる。当たり前だろう? 伊達に二千年も生きておらん」
「だからってこんな発明できないでよ。シドって実は元々有能だったんじゃないの?」
「なんだアル。褒めても何も出んぞ。まあ、ここだけの話、私は失われた古代文明を知ってる。というか、その国家の王族だったからな」
「え! シドって王族だったの!」
「そうだ。だが、国は滅びてるから何の意味もない」

 シドが王族だったとは驚いた。
 シドの数々の発明は、失われた古代文明の遺産なのだろうか。
 とはいえ、シドは簡単に設計図を書く。
 それにトーマス兄弟の新しい技術を柔軟に取り入れるあたり、シド本人が飛び抜けて優秀なのだろう。
 
 そもそも冒険者ギルドを世界最大の組織にしたのもシドだ。
 恐らくシドは、世界でも数少ない天才と呼ばれる人類なのだろう。
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