鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第九章

第137話 ミーティング

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 冒険者ギルドのマスター退任は世界に衝撃を与えた。
 かと思いきや、衝撃どころか影響すらなかった。
 サブマスターのルイス・フィンズが実質的な実務を担っていたからだ。
 不老不死のシドは、世間に印象を残さないように無能なギルマスを演じていたようだ。
 シドは数々の功績を全て他者に譲っていた。

 そのシドは、運び屋として俺たちのパーティーに加入。
 新たに導入された運び屋のランク制度では、Aランクの試験に合格。
 それもそのはず、シドは数百年も世界を旅したことで、世界中の地形を知っているのだった。
 運び屋に必要な知識は誰よりも持っている。

 シドが俺たちパーティー全員の顔を見渡す。

「さて、君たちに集まってもらったのは今後の計画を伝えるためだ」
「いや、ここは俺とレイの家なんだけど……」

 俺とレイが住んでいる家に、シドとオルフェリアが来ていた。

「ギルドの持ち家だ。すなわち私の家だ」
「シドはギルマス辞めたじゃん」
「ハッハッハ、ギルドの財産はほとんど私のものなのだよ。もちろんこの家の実質の所有者も私だ。というか、このウグマの土地は全て私のものだからな」

 シドは国家レベルで資産を持っていると言っていたが、こういうことだったのか。
 この大都市の土地が全てシドの所有物というところが凄い。
 
「あなたの自慢話は別に聞きたくないわ。それより計画とやらを話してよ」
「ムッ、レイはもう少し心に余裕というものを持つべきだな。ハッハッハ」
「うるさいわね!」

 シドが改めて全員の顔を見渡した。

「軽い空気の件だが、私が知ってる発生地は大陸の南にある火山地帯だ。イーセ王国の国境を超えた先にある」
「あの南の火山地帯か!」
「そうだ、アルが住んでいたラバウトの南西にあるアフラ火山だ」
「アフラ火山は一回噴火したことがあるけど、火山灰がラバウトまで飛んできたんだ」
「うむ。今も活火山として生きている。だが、危険はそれだけだけじゃないぞ」
「ど、どういうこと?」
「ラバウトがあるクラップ山脈から南は、どの国も領地を主張していない無国家地帯だ。そのため、モンスターの楽園でもあるのだ」

 世界には人類が住んでいない土地がある。
 そこはどの国の領地にも属していない、完全な無国家地帯だ。
 そういった土地は人類が住むには厳しい環境だが、モンスターにとっては快適な環境らしい。

「そして、このアフラ火山には竜種がいる」
「りゅ、竜種が!」

 この世界の生物の頂点にして、最も危険な種。
 それが竜種だ。

「私が知る限り、世界には三十一体の竜種が存在する。そのうちの一体が住んでいるはずだ」
「竜種が住んでいるのか……」
「何よりアフラ火山には、世界に十三柱しかいない始祖の住処でもある」
「なっ! し、始祖だって!」

 その言葉を聞いて、全員が無言になる。
 俺も、地元ラバウトから約千キデルトの距離にある火山に、まさか竜種や始祖が住んでいるとは知らなかった。

「竜種や始祖を避けて軽い空気を探さなければならない。いや、遭遇しても探すのだ」
「そ、そんなことができるのですか?」
「やならければ君の夢には届かないぞ、オルフェリア」

 オルフェリアが神妙な顔をしている。

「あ、あの、みなさんに危険が及ぶのであればやめましょう。命よりも大切なものはありません」
「ふふふ。いいのよ、オルフェリア。これは私たちの夢でもあるもの。それに厳しいからこそ挑戦する価値があるでしょ? 私は楽しみだわ」

 レイが笑顔でオルフェリアに答えた。

「君は勇敢だな。だが、レイの言う通りだ」
「そうだよ。これは俺たち全員の夢だ。それに、この四人なら絶対に実現できるはず。俺は……竜種にも負けない」
「ハッハッハ、アルは凄いな。だがその心意気だ。気持ちで負けていたら勝てる勝負にも勝てぬからな」

 全員でアフラ火山へ行く。
 危険は承知だが、それを乗り越えて軽い空気を手に入れ、オルフェリアの、いや俺たち全員の夢である空路を開拓する。
 シドが言うには、世界に三十一体いる竜種はネームドを遥かに凌ぐ強力なモンスターで、その存在はもはや自然の大災害と同じだそうだ。
 それでも俺は竜種に立ち向かう。

 シドが一冊のノートを出した。

「さて、出発はいつにする? アルとレイの予定はどうだ?」
「俺とレイは、ギルドへ長期間の旅に出ると伝えたよ。いつでも行ける」
「分かった。オルフェリアの予定は?」
「私も同じです。いつでも行けます。研究機関シグ・セブンにはすでに伝えていて、スケジュールの調整も終わっていますから」
「よし。では一週間後に出発するとしよう」

 シドはノートに様々なことを書いている。
 スケジュール、必要な食料や水の量、補給地。
 何かの数字も書いている。
 恐らく費用だろう。

「火山まで行って戻ってくるだけなら三ヶ月もあれば十分だが、恐らくもっとかかるだろう。余裕を持たせて半年以上。一年は見ておくべきだな。さらに、しばらく現地に滞在することにもなるはずだ」
「分かった」
「旅の費用はどうするのだ? 荷車で宿泊するから宿代はそれほどかからないが、それでも長期間の旅だ。一年だと四人で金貨百枚はかかるだろう」
「そんなにかかるのか……。クエストじゃないから報酬もないしな。分かった。費用は俺が出すよ」

 するとオルフェリアが立ち上がった。

「アル、それはダメです! 私もアルと行ったクエスト報酬と研究機関シグ・セブンの講師報酬があるので払います!」

 俺の意見にオルフェリアが反論した。
 レイもオルフェリアと同じ意見のようだ。

「そうね。皆で出して、皆で山分けが冒険者の基本だもの」
「まあ私は金なぞいらんがな」
「話の腰を折らないの!」

 シドがレイに怒られていた。
 結局、一人金貨二十五枚を出し、合計百枚の金貨で旅をすることになった。

 俺やレイはかなりの貯金があるので問題ない。
 シドは国家レベルの資産を持っているので問題外。
 オルフェリアは元々稼ぎの少ない解体師だったので、現在の講師報酬があるとはいえ金貨二十五枚は相当厳しいはずだ。
 しかし、パーティーのメンバーとして払いたいということだった。

「ねえ、レイ。もし金に困ったら、途中で狩猟やクエストで報酬を稼ごうよ」
「そうね。冒険者らしくクエストで報酬を得ましょう」

 俺たちは冒険者だ。
 金を稼ぐ手段はいくらでもある。
 それに、本当に資金が尽きた時のために、俺は多めに持って行くつもりだ。
 きっとレイもシドも同じ考えだろう。
 口ではあのように言っていたが、本当はレイもシドも全額出すつもりだったと思う。
 それよりも、長期間の旅ということで自宅のことが気になった。

「レイ、この家はどうする? 当面は帰って来ないよね?」
「そうね、ギルドに返しましょうか。使用人もギルドから派遣されてるもの。……でも皆と別れるのは辛いわね。それに私たちの荷物や全資産を持ち歩くわけにもいかないし」
「そうなんだよ。ステムもミックも、エルザもマリンもみんな仲間だ。これからも一緒にいたい」
「じゃあ、ギルドに言ってこの家買い取る? 金額は……そうね、金貨八百枚ってところかしらね。使用人も私たちが直接雇う形になるけど、いいんじゃないかしら」

 シドの珈琲を持つ手が止まる。

「買い取りはやめておけ。将来的に君たちは活動拠点を変えることになるはずだ」
「そうか……。じゃあどうしよう」
「ギルドとしても君たち以外にこの家を貸す気はない。そもそも所有者の私が許すのだから、使用人も含めて今のまま借りておくがよい」
「分かった。ありがとう」

 俺たちの家のことは解決したが、オルフェリアが少し困った表情している。

「あの、私はシグ・セブンの宿舎を借りてるのですが、長期間空けるとなると返却したいと思います。アル、大変申し訳ないのですが、私の荷物を預かっていただいてもよろしいですか?」
「もちろん構わないよ! というか、部屋が余ってるから帰ってきたら住んでもいいよ? ねえレイ」
「ええ、もちろんよ。今やあなたもギルドのエースだもの。誰も異論はないはずよ」

 シドが珈琲カップをテーブルに置く。

「ハッハッハ、帰ってきたら私がオルフェリアの家を用意する。心配するな」
「え? シドが?」

 驚くオルフェリアに答えるシド。

「私はウグマに家を持ってるからな。オルフェリアに提供する。まあその話は帰ってからだ。予定が変わるかもしれん」
「そうね。まずは無事に帰ってきましょう」

 話が一段落したところで、レイがシドに目線を向ける。

「ところで。ねえ、なぜシドが仕切ってるの?」
「ハッハッハ、パーティーのリーダーというものは年功序列だろう?」
「二千歳か……。まあいいけど」

 全員で笑った。
 これで旅に関することは全て決定し、ミーティングは終了。
 その夜、俺とレイは使用人たちと食事へ出掛けた。

 そこで長期間不在になることを説明。
 だが、仕事内容や給与は何も変わらず、ウグマの自宅で住み込みをしながら、俺たちの帰りを持っていて欲しい旨を伝える。
 ありがたいことに、皆納得してくれた。

 これで旅の準備は完了。
 後は出発の日を待つだけだ。
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