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第136話 それぞれの食事会

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 帝都サンドムーンの冒険者ギルド総本部。
 広大な敷地内には、ギルドの主要機関九つが全て揃っている。

 その主要機関に若い冒険者たちが訪れた。

 研究機関シグ・セブンでは、オルフェリアにギルド初となるAランクの解体師カード発行。
 人事機関シグ・フォーでは、アルとレイのために新設されたSランクの冒険者カード発行。
 開発機関シグ・ナインでは、ネームド二頭から製作された新装備のフィードバックと調整。

 それぞれ各機関のトップである局長自ら対応。
 それらの用件が終わると各機関の局長たちは、帝都へ訪れた若者と食事へ行くことにした。

 多忙な局長だが喜んで出掛ける。
 なぜならば、この若者たちは世界を変えるほどの才能を持った若者だったからだ。

 ◇◇◇

「まさか、こうしてジョージ様と食事ができるなんて夢のようです」
「フォフォフォ、儂もお主のような若い娘と食事なんて久しぶりじゃ。それに開発機関シグ・ナインのローザと行くと文句ばかり言われるからな」

 研究機関シグ・セブンで表彰をしていただいたあと、私は局長のジョージ・ウォーター様と食事に来た。

 入った店はモンスター亭という名のレストランだ。
 店内は壁や天井にまでモンスターの素材が飾られている。

「これは大牙猛象エレモスの牙! あっちは大挟甲蟹アキュラータの爪も! あ、あれはまさか砂泳角竜セントラウスの角?」
「フォフォフォ、お主なら喜ぶと思っておったのじゃ」
「このお店凄いです! 楽しいです!」
「面白いじゃろ。ここはシグ・セブンの元職員が作った店じゃ。帝都でも数少ないモンスター料理専門のレストランじゃぞ」

 フォルド帝国はモンスターを食材として扱う。
 私の出身であるイーセ王国ではモンスター食の文化はない。
 だが、私は解体師としてモンスターを食べていた。
 勉強のため、収入が少ないためと理由はあるが、毒の耐性をつけるのが最大の目的だった。

「料理はおまかせで予約してあるが、好きなものを頼むといい」
「あ、ありがとうございます!」
「この季節はアキュラータじゃろ」
「美味しいですよね! この間、アルが狩猟したアキュラータを食べました。アルったら、一匹でいいのに五匹も狩猟したんです。フフ」
「相変わらずの化け物じゃな。フォフォフォ」

 年配の店員が飲み物を運び、ジョージ様に一礼する。

「局長、いつもご来店ありがとうございます」
「フォフォフォ、今日は解体師のオルフェリアを連れてきたのじゃ」
「お噂はかねがね伺っています。ウグマに凄腕の解体師がいると。お会いできて光栄です」

 どうやらこの方がシグ・セブンの元職員で、この店のオーナーのようだ。

「オルフェリアさん、今日はいい猛火犖バルファが入ってます」

 挨拶を交わすと、今日のオススメを教えてくれた。
 バルファはCランクモンスターで、食材として人気だ。
 濃厚で旨味が凝縮された赤身肉は、脂身が少なくサッパリしている。
 一度食べたら病みつきになるほど美味しい。

「それと非常に珍しい食材が入荷しました。一角虎ガーラの肉です」
「え! ガ、ガーラ!」
「ええ、先日討伐したそうです。帝都にも優秀な冒険者パーティーがいるんですよ」
「ガーラを討伐って……。す、凄いですね」

 ガーラは密林の王と呼ばれるAランクモンスターで、密林地帯の食物連鎖で頂点に立つ。
 槍豹獣サーべラルと並び、Aランクでも上位に属するモンスターだ。

「アルやレイ以外にも腕が立つ冒険者はおるのじゃ。じゃがこれの討伐には一ヶ月かかったそうじゃぞ。サーべラルを一瞬で倒すアルは規格外じゃな。フォフォフォ」

 料理はバルファのフィレステーキ、ガーラの葡萄酒煮込み、アキュラータのクリームペンネなど大満足の内容だった。

 食事の最中、ジョージ様はたくさん話をしてくださった。
 モンスター事典の著者であるジョージ様の話はとても勉強になる。
 もっとたくさん話を聞きたい。
 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 最後に私は用意していた質問を投げかける。

「ジョージ様は竜種に遭遇したことはありますか?」
「竜種か。……一度遭遇したことがある。儂は元々解体師でな。同行していたパーティーは全滅。儂だけなんとか生き残ったのじゃ」
「ジョージ様が解体師?」
「そうじゃ。竜種に遭遇してから解体師は辞めたがの。あれはまさに悪夢じゃった。その後、解体師の経験を元にモンスターのイラストを描いていたら、運良く当時のシグ・セブン関係者に誘われての。そしてモンスター事典を作ったのじゃ」
「そうだったんですね」

 まさか尊敬するジョージ様が解体師だったとは知らなかった。
 しかも、その経験がモンスター事典に役立っているとは驚きだ。
 私は小さい頃からモンスター事典を読んで育ってきた。
 そのため、モンスター事典の制作に携わることが私の夢だった。
 だけど、アルとレイに会ってから、私は別の夢も持つことになる。

「オルフェリアよ。お主は将来局長としてシグ・セブンを引っ張るのじゃ。だからの、お主が希望するならシグ・セブンの教授部長として迎え入れるぞ?」
「え! あ、ありがとうございます。でも……あの……私はアルとレイと旅に出たいと思っています。二人なら竜種や始祖にも届くかもしれません」
「……そうか。残念じゃが、気が向いたら来るがよい。お主ならいつでも大歓迎じゃ」
「ありがとうございます!」
「人間が竜種に敵うはずないが……アルならあるいわ。フォフォフォ」

 ジョージ様はそう呟くと、笑顔で私の顔を見た。

「オルフェリア。旅では珍しいモンスターにも遭遇するじゃろう。特徴を記録してイラストを描いておくのじゃ」
「あ、あの……。私、イラストは……全然だめで」
「フォフォフォ、分かったのじゃ。では、お主から話を聞いて儂がイラストを描こう。それをモンスター事典に掲載するのじゃ」
「え! いいのですか! 私の記録がモンスター事典に掲載されるなんて!」
「そうじゃぞ。じゃから、必ず帰って来るのじゃぞ」
「かしこまりました。無事に……、必ず無事に帰ってまいります」
「じゃが羨ましいのう。儂があと三十歳若ければ、アルについていくのじゃが。フォフォフォ」
「まあ、ジョージ様ったら。フフ」

 ジョージ様の気遣いと励ましだろう。
 私はモンスター事典の制作に携わる夢を叶えるために、必ず軽い空気を探して帰って来ると誓った。

 ◇◇◇

 テーブルに座るとソムリエが葡萄酒を注いでくれた。
 真っ赤な葡萄酒からは、バラのような芳醇な香りが広がる。

「レイ、あなたとここへ来るのも久しぶりね」

 人事機関シグ・フォー局長ユリア・スノフと帝都の老舗レストランへ来た。
 私が冒険者で帝都にいた頃、よく連れて来てもらった店だ。

「私も大人になったからお酒も飲めるようになったわよ」
「冒険者時代のあなたは十五歳だったものね」
「そうね……若かったわ」

 ユリアと乾杯した。
 高級なグラスは、美しく余韻のある音を奏でる。

「さて、何をお祝いしていいか分からなくなるほどたくさんあるけど……。クロトエ騎士団名誉団長リ・テイン就任とSランク昇格おめでとう」
「ありがとう」
「やっぱりヴィクトリア女王陛下はあなたを手放さないわね」
「たまたまよ。女王陛下とお茶仲間だったから」
「謙遜しちゃって。知ってるわよ? ネームドのシーク・ド・トロイを討伐して、有名な犯罪者二人確保したってね」

 ギルドの局長ともなると、様々な情報が入って来るのだろう。
 王国での出来事を把握していた。
 私は冷静を装いながら、葡萄酒を口に含む。
 そして話題を変えた。

「それにしても、ユリアはこのところ忙しかったんじゃないの?」
「そうなのよ。たった半年でアルが物凄いことをやったせいよ。ネームド二頭の討伐、Sランクの創設、解体師と運び屋のランク導入だもの。あの子のおかげで異常なほど忙しかったわ」
「そうよね。私だってアルに驚いてるもの」
「自分で言うのもなんだけど、私は仕事ができると自負してるの。それでもキツかったわ。レイがいたら楽だったのに」

 シグ・フォーは冒険者やギルド職員の管理を行っている。
 冒険者試験の実施、教育、育成、ランク認定、ギルドカードの発行、討伐スコアの記録と業務は多岐に渡る。
 さらに、新しく解体師や運び屋の試験にランク管理が加わった。
 ギルド機関の中でもトップクラスの仕事量を誇る。

 ユリアはその局長ということで、恐ろしく優秀だ。
 ユリアと同格なのは、ギルド内で最も高い知識を持つ天才集団と呼ばれる格付機関シグ・エイトの局長マリシャ・ハントだけだろう。

「ねえレイ。あなたシグ・フォーに来ない?」
「嫌よ。私は冒険者を続けるの」
「でも、名誉団長リ・テインになったじゃない」
「それは仕方なくよ。それに名誉団長リ・テインは冒険者をやっていても問題ないわ。シグ・フォーに入ったら冒険者なんてできないもの」
「あなたの処理能力は私以上なのよ? 今すぐにでもシグ・フォーの局長を任せられるわ」
「じゃあユリアはどうするの?」
「私はね……アルと旅に出るの!」
「だ、だめよ! 私がアルと旅に出るのよ!」

 目の前のユリアがいたずらな表情をしている。

「ねえ、レイ。アルとはどうなの?」
「どうって……。アル次第よ」

 ユリアは頬杖をつきながらグラスを片手に持つ。
 グラスを少し回し、葡萄酒を空気に触れさせている。

「世界で最もモテると言われているあなたがねえ。相手を待つ立場になるとは」
「いいのよ。私たちはちゃんと愛し合ってるもの」
「へえ、そうなのね。ウフフフ、あの氷のように冷たかった女の子が、恋愛できるようになるとはね。本当に良かったわ。おめでとう」

 ユリアが優しく微笑んでくれる。
 四十九歳にしてこの美貌だ。
 ユリアに憧れる冒険者は山のようにいる。

「それよりユリアはどうなのよ? まだ独身でしょ?」
「私はいいの。仕事が生きがいだもの」
「そんなこと言わないの! 仕事以外にも楽しいことはたくさんあるわ」
「騎士団団長で仕事人間だったレイに言われたくないわよ」
「そ、それは昔の話よ! 今の私にはアルがいるもの」
「ウフフフ。そうね、私も今やあの子の活躍を聞くのが楽しみになってるわ。もしギルドを退職したら、アルの会社で雇ってもらおうかしら。あの子、運び屋と会社を立ち上げたでしょ? ギルドでも話題になってるのよ」
「ユリアが就職したら大変なことになりそうね。ふふふ」
「どういう意味よ?」

 たった一人で数十人分の仕事を余裕で捌くユリアだ。
 トーマス工房に就職したら、会社はさらに大きくなるだろう。
 しかし厳しいことでも有名だから、アルやトーマス兄弟は毎日胃を痛くするかもしれない。

 ユリアがグラスの葡萄酒を飲み干した。
 いつもより少しペースが早いようだ。
 ユリアはその美しい黒髪を耳にかける。
 自然な動作なのに、とても美しい。

「ふうう……。冒険者ギルドは大きくなりすぎたのよ。今や国家クラス、いや、国家を超える規模だもの。私がいなくてもギルドは成立するわ」
「そんなことないわよ。ユリアはギルドで最も必要な人材の一人よ」
「そうでもないのよ……」

 ソムリエがユリアのグラスに葡萄酒を注ぐ。

「ねえ、ちょっと飲み過ぎじゃない?」
「はあ……。私はね、あなたたちと一緒にいたいのよ」
「それが本音?」
「そうね。今の仕事は……楽しくないのよ。アルとレイとなら毎日刺激的な仕事ができそうだもの」

 ユリアの愚痴なんて初めて聞いた。
 そこでユリアが我に返ったような表情をする。

「ごめんなさい。少し酔ったみたい。愚痴ってしまったわね」
「ふふふ、嬉しいわ。ユリアが人に愚痴ってるところなんて初めて見たもの」
「私も人に愚痴るなんて初めてよ。レイが一人前になったからつい……ね。五十年近く生きてきたけど、私より優秀な人間はあなただけだもの」
「光栄だわ」

 私から見ればユリアのほうが遥かに優秀だ。
 これほど優秀なユリアでも仕事の愚痴が出るのか、いや優秀すぎるから今の仕事がつまらないと感じるのか。
 だけど、ユリアの気持ちは痛いほど分かる。
 騎士団団長だった私も、時に愚痴を吐きたい時はあったから。

 そして、騎士団を退団したのはアルと出会ったからだ。
 アルとの毎日は新鮮でとても楽しい。

「ねえユリア。将来的にアルを助けてくれる?」
「何? どういうこと?」
「アルは冒険者だけに納まらない人間よ。もっと大きなことをすると思うの」
「そうね。私もそう思う」
「ええ、だからその時が来たら、ユリアの力を貸して欲しい」
「ウフフフ、分かったわ。楽しみができたわね。それまで頑張るわ」

 私自身がそうだったように、皆がアルに惹かれていく。
 それほどアルの人間性は、人を引きつける魅力を持っている。

 シドの話だとアルの寿命は長くなったようだ。
 しかし寿命など関係なく、私は一生アルについていくと決めている。
 アルと一緒にいることは私の夢だから。

 私たちはアルの将来に乾杯した。

 ◇◇◇

 俺は開発機関シグ・ナイン局長ローザ・モーグと大衆酒場へ入った。
 店内は広く、とても賑やかだ。

 労働者が一日の疲れを癒やすような店で、俺にとっては親しみやすい場所に感じる。

「ローザさん、いらっしゃい!」
「お! なんだよ! ローザさん、今日は若くて良い男を連れてるじゃねーか」

 ローザは店員や常連と思しき連中に声をかけられていた。

「アホか。部下だよ、部下」

 ローザが答えながら俺の顔を見た。

「面倒だから部下ということにしておくぞ」
「アハハ、全然構わないよ。っていうか、ギルドの立場では部下みたいなものでしょ?」
「ククク、そうだな。違いない」

 俺たちは二人がけのテーブルにつく。
 エルウッドは俺が座る椅子の横で伏せている。

「ここの麦酒と料理が美味いんだ」
「へえ、そうなんだ。ローザはよく来るの?」
「ああ。ここは一人で気軽に飲めるからな」

 麦酒といくつかの料理を注文した。
 そして、再会に乾杯。 

「ローザ。さっきは黒爪の剣レリクス黒靭鎧ウォルムの調整をありがとう」
「あれも仕事の内だ。気にするな」
「本当に凄い装備だよ」
「当たり前だ。ネームドの素材、シグ・ナインの特許、そして私の技術を全て注ぎ込んだんだぞ。だが、それでも強靭なモンスターを一撃で葬るお前はおかしいけどな。ククク」

 注文した牛鶏クルツの串焼きが来た。
 絶妙な塩加減でとても美味しい。
 ローザの言う通り、麦酒との組み合わせは最高だ。
 もちろん、エルウッドの分も注文している。

「エルウッド、これ美味しいな」
「ウォン!」

 目の前のローザも麦酒を飲んでいる。

「それにしても、大挟甲蟹アキュラータの大鋏に対して、わざと挟ませる戦い方なんてどうかしてるぞ」
「い、いや、あれは仕方がなく……」
「鎧の性能を信頼してくれるのは嬉しいが、あまり過信するな」
「分かった」
「特にネームドクラスを相手にしたら分からんぞ」
「気をつけるよ。ねえローザ。……竜種はどうかな?」
「アホか。竜種に人類が作った武器なぞ効くものか」
「そうなんだ……」
「ま、まさかお前。竜種の討伐を考えてるのか?」
「い、いや、そんな大それたことは考えてないさ。だけど冒険者をやっていたら、竜種に遭遇する可能性だってあるでしょ?」
「竜種に遭遇したら逃げろ。武器や防具なんか捨てていい。とにかく逃げろ。命あってのものだ」
「わ、分かった」

 ローザが麦酒を一気に煽る。
 年齢よりも若く見えるので、可愛らしい女性が麦酒を豪快に一気飲みしてるようだ。
 だが、ローザは俺よりも遥かに年上だった。

「実は私も冒険者上がりなのだよ」
「え! ローザが冒険者?」
「ああ。私は鍛冶師をやりながら、Bランク冒険者だった。当時、知り合いのパーティーに武器のメンテナンス係兼、冒険者として誘われたんだ」
「へえ、ローザが冒険者だったとは。しかもBランクって凄いね」
「何を言うか。この世でたった二人しかいないSランクのくせに」

 ローザは炙った大挟甲蟹アキュラータを食べていた。
 足の身は肉厚でとても美味しそうだ。
 俺も注文しよう。

「実はな、私は一回だけ竜種に遭遇したことがある。必死に逃げたよ。あれは無理だ。まあそもそも戦う気もなかったが」
「え? 遭遇したの?」
「ああ、あの時は本当に死を覚悟した。偶然遭遇しただけだから運良くパーティー全員逃げ切れたけどな。ジイさんに言ったら根掘り葉掘り聞かれたよ」
「ジイさんって、研究機関シグ・セブンのジョージさん?」
「そうだ。竜種は不明な点が多いからな。少しでも情報が欲しいんだとさ」

 ローザが麦酒を飲む。
 口の周りにうっすらと泡がついていた。

「しかし、旅は楽しかったな。辛いこともあったが……楽しかった。私もあと十歳若ければ、お前について行くのに」
「ローザも一緒に来る?」
「アホか。もう無理だ。お前の帰りを待つよ」

 ローザが二杯目の麦酒を飲み干した。

「もし何かの間違いでお前が竜種を討伐したら、絶対私に声をかけろよ。竜種の素材で最高の装備を作ってやる」
「アハハ、その時が来たらね」
「お前は本当に凄いやつだ。でたらめな強さで頭も良い。見た目も整ってるしな。レイをも凌ぐ冒険者になるだろう。これからお前の装備は全て私が作ってやる。お前の専属鍛冶師だ」

 ローザが急に褒めてきた。
 酔ってるのだろうか?
 顔はいつもと変わらないが……。

「アルはレイのことが好きなのか?」
「え? ど、どうしたの急に。えーと。……そ、そうだね。レイのことは……す、好きだよ」

 そう答えるも、ローザはテーブルに顔を伏せていた。

「え? ね、寝てる?」

 どうやらローザは酒に弱いようだ。

「こんなに可愛いのになあ。どうしよう、ローザの家は知らないぞ」
「兄さん、大丈夫だ。いつものことだから。ローザさんの恋人たちが迎えに来るよ」

 店員の一人が声をかけてきた。

「たち? た、たくさんいるのかな。まあローザは可愛いからな。恋人さんが来るなら安心だ」

 しばらくすると五匹の猫がやって来た。
 テーブルで寝てるローザの頭や背中に乗る。

「もしかして、君たちがローザの恋人?」
「ニャー」

 猫たちが一斉に答えた。

「おっと、いつもは猫ちゃんと一緒にフラフラと帰るんだが、今日は無理そうだな。兄さん、送ってやってくれ。家は猫ちゃんが案内してくれるぞ」
「分かりました。じゃあお代を払いますね」
「ローザさんの部下なんだろ? ローザさんにつけておくよ」
「いやいや、ちゃんと払いますよ。いつもお世話になってるんで」
「あんた良い男だな」

 支払いを済ませローザをおぶる。
 すると四匹の猫が、俺を囲うように歩き始めた。

 もう一匹はエルウッドの背中に乗っている。

「君たちは賢いな。じゃあ案内頼むよ」
「ニャー」

 俺とエルウッドは猫に案内され、ローザを無事送り届けた。

 ◇◇◇

 ギルドへ戻ると、入り口でレイとオルフェリアに遭遇。

「アル! 今帰りですか?」
「オルフェリア! レイも?」
「あなたたちも今帰ってきたの?」

 三人で顔を合わせると、自然と笑いが出てきた。

「フフ」
「アハハ」
「ふふふ」

 このメンバーはとても落ち着く。
 パーティーの仲間というのはこういうものなのだろうか。

「なんだかちょっと飲み足りないんだよね」
「そうね、私も」
「じ、実は私もです……」
「ウォンウォン」

 全員の意見が一致した。

「じゃあ、四人で軽く飲もうか」
「いいわね」
「そうしましょう」
「ウォン」

 俺たちはギルドに併設されている酒場で乾杯した。
 酒を飲みながら、パーティーの今後について語り合う。

 俺はこの四人なら、どんなクエストでもできるような気がしていた。
 そして、このパーティーで本格的な旅に出たいと考えていた。

 ◇◇◇

 この時のアルは、まさか翌日にもう一人パーティーが増えるとは想像もしていなかった。

 その一人である不老不死のシドが、運び屋でパーティーに参加。
 それにより、軽い空気を探す旅が現実になるのだった。

 ◇◇◇
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