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第八章

第134話 新たなパーティー

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 翌日、俺とレイとオルフェリアの三人はシドに呼び出された。
 ギルド最上階にあるシドの部屋へ向かう。
 部屋に入るとシドが立っていた。

 よく見るとシドの右腕が復活している。
 俺もレイも驚いたが、オルフェリアの手前何も言わなかった。

「オルフェリア、改めて私がギルドマスターのシド・バレーだ」
「は、はい。オ、オルフェリア・コルトレと申します。よ、よろしくお願いいたします」
「ハッハッハ、そう緊張しなくともいいぞ」

 そう言われても無理だろう。
 シドはオルフェリアの緊張をほぐすために、帝都のケーキ職人が作った特別なスイーツを出してくれた。
 そしてしばらく雑談すると、オルフェリアも緊張が解けた様子。
 そんなオルフェリアに、俺は小声でそっと話しかけた。

「オルフェリアが探している軽い空気のことをシドに聞いてみたら?」
「確かに! マスター様なら……」

 オルフェリアがシドの顔を真っ直ぐ見つめる。

「マスター様は軽い空気というものをご存知ですか?」

 オルフェリアは以前から調べている軽い空気のことをシドへ質問した。
 二千年も生きているシドなら、何か知ってるかもしれない。

「軽い空気か。久しぶりにその名を聞いたな。もちろん知っているぞ。だが、オルフェリアもよく知ってるな」
「はい。以前、研究機関シグ・セブンの職員の方に教えていただきました。しかし、噂レベルの情報しかなく、王国や帝国の図書館で調べても、なかなか情報が出てこないのです」
「それを調べてどうするのだ?」
「私は空路でクエストの移動を実現したいと思っています」

 オルフェリアは、夢である空路について説明。
 空の移動による移動時間短縮、モンスター運搬効率向上、これまで行けなかった場所でのクエストの実現等々、考えていることを全て伝えた。
 それを聞いてシドの表情が変わる。

「ふむ、確かにな。空の移動は考えてなかった。なるほど……」

 シドはしばらく考え込んだ。
 そして何かを決断するかのように手を叩いた。
 乾いた音が部屋に響く。

「今日、君たちを三人を呼んだ理由なんだが、君たちパーティーの今後について聞きたかったのだ。しかし、オルフェリアの発言を聞いて決めたぞ」
「どういうことよ?」

 レイが反応した。

「君たち三人のパーティーに私も加わろう」

 シドの突然の発言に皆驚く。

「え! シドが?」
「アルとオルフェリアのパーティーにいた運び屋は、会社を立ち上げたんだろう? だから私が運び屋になろう」
「ちょ、ちょっと待ってよシド。運び屋なんてできるの?」

 俺はさすがに無理があると思った。
 すると、シドは全員の顔を見渡す。

「もちろんだ。私はこの世界の全てを旅したことがあるからな。土地や地形、モンスターの生息地は誰よりも知ってるぞ」
「あ! そうだった!」

 シドは為政者から逃げるために、五百年もの間エルウッドと世界を旅していた。

「じゃあ、ギルマスの仕事はどうするんだよ?」
「サブマスターのルイス・フィンズがいる。彼は優秀だから私が不在でも問題なかろう」
「そうは言っても……」
「大丈夫だ。それに私は軽い空気がある場所を知っているぞ」
「え! 場所を知ってるの?」
「そうだ。皆でオルフェリアの夢を叶えようではないか」

 レイもオルフェリアも驚いていたが、軽い空気の場所を知っていること、そしてオルフェリアの夢を叶えるという一言で、シドの同行を全員が了承した。

 だが問題なのはシドの身体のことだ。
 それをどう伝えるべきかと悩んでいたら、シドはオルフェリアにあっさりと不老不死を伝えてしまう。
 オルフェリアは当初戸惑っていたが、シドの真剣な眼差しや、俺とレイからも事実と説明され受け入れた。
 これで俺たちは四人パーティーとなった。

「シド様。運び屋は基本的に二人一組ですが、その点はいかがなさいますか?」
「ふむ、オルフェリア。まずは私のことはシドと呼ぶように」

 さすがにオルフェリアはシドを呼び捨てにできないと粘ったが、同じパーティーということで説得されて折れた。

「で、運び屋の件だが、一人でも運行可能な荷車を作るつもりだ。それに運搬の甲犀獣ケラモウムは私のネームドを使用する」
「え? ケラモウムのネームドですか! まさかあの?」
「ああ、ジャオ・ロンだ。名前の意味は動く砦。強固な鱗は弓や剣で傷付けることはできない。パワーもスタミナも通常個体の数倍あり、睡眠も三日に一度で平気だ。だから荷車を引いて三日間歩き続けることができるぞ」
「シドが飼っていたんですね」
「ああ、二十年ほど前に捕獲してね。私も少しだけモンスター使役ができるんだ」

 モンスター好きなオルフェリアは大興奮していた。
 それに気を良くしたシドは、俺たちに向かって威張ったような顔をする。

「ちなみに、私は戦闘が一切できないから期待するなよ」
「もう、なんで威張ってるのよ。そんなの分かってるわ」
「ああ、俺たちが守るよ」
「ウォン!」

 レイと俺とエルウッドが応えた。

「ではさっそく荷車の設計図を書こう。三日はかかる。君たちはその間、帝都を観光してくれ」

 ――

 三日後、俺たちはシドの部屋に呼ばれた。

「待たせたな。設計図が完成したぞ」
「凄いね。シドって設計図が書けるんだ」
「何を言ってる。開発機関シグ・ナインのウグマ鉱山にあるリフトは私が設計したのだぞ」
「え! そうなの?」
「二千年も生きていれば様々なアイデアが浮かぶ。だが、トーマス工房の折りたたみシリーズは盲点だった。あれは素晴らしい。だからな、この設計図はトーマス工房で製作を依頼するつもりだ」

 トーマス兄弟が起こした会社の名前はトーマス工房という。
 発売したばかりの折りたたみの椅子が好評で、家具メーカーと思われているがオーダーメイドで何でも作る。
 それに運び屋だった彼らにとって、荷車製作は最も得意な分野だ。
 俺は設計図を見ても分からないが、シドの設計でトーマス工房が製作すれば凄いものができるだろう。

「トーマス工房はウグマにあるのだろう? 早く製作したいから出発しよう」
「そんな急で大丈夫なのか? ギルマスの仕事はどうするんだよ?」
「辞めた」
「ん? どういうこと?」
「だから、ギルマスを辞めたんだ」
「ええ!」

 シドの発言に、俺たち三人は驚いた。

「実はユリアに頼んで、運び屋の学科試験だけ受けさせてもらった。もちろん満点だ。技能試験は受ける時間がないが、そこは特例ということでAランクにしてもらったぞ。これで君たちパーティーに専念できる」
「そ、それは凄いことだけどさ。シドが辞めてギルドは大丈夫なの?」
「ああ、そろそろギルマスを交代しようと思ってたところだったからな。タイミング的には全く問題ない。ギルマスはルイスに譲ってきた。それも間もなく発表となるだろう」
「じゃあ完全に俺たちと旅をするってこと?」
「もちろんだ。数百年ぶりの旅に胸が高鳴っているぞ」

 そこへ、ちょうど新たにギルマスとなったルイスが入ってきた。

「ルイスか。色々と苦労をかけるな」
「とんでもないことでございます。シド様、ギルマス交代の件は近日中に発表します。各機関の局長にはすでに通達しました。取引のある国家にもこれから連絡します」
「うむ、ありがとう。あとのことはよろしく頼む」
「かしこまりました。ただし、私が死ぬまでには一度必ずお戻りください。お願いがございますので」
「お願い? 分かったよルイス。ハッハッハ」

 ギルド内で唯一シドの不老不死を知っているルイス。
 そのルイスが真剣な眼差しで俺たちの顔を見る。

「アル、レイ、オルフェリア。シド様をよろしく頼む」
「もちろんよ。ルイスもこれから頑張ってね」
「ワッハッハ。任せておけレイ。そして、私も何とか長生きするよ。またシド様と会うためにな」

 この日はシドとルイス、俺とレイとオルフェリア、エルウッドの六人で夕食を楽しんだ。
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