鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第八章

第133話 Sランクの特権

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 支度を終え、朝食のために客室専用のレストランへ向かう。
 すでにレイとオルフェリアがテーブルについていた。

「おはよう。レイ、オルフェリア」
「おはよう、アル」
「アル、おはようございます」

 オルフェリアは昨日の出来事を知らない。
 俺とレイはこれまで通り普通にオルフェリアと接する。

 三人で朝食を取り、オルフェリアの表彰のため研究機関シグ・セブンへ移動。

 シグ・セブンの会議室に入ると、局長のジョージ・ウォーターが待っていた。
 白く長い髭を蓄えたジョージは、モンスター研究の第一人者で世界的権威だ。
 モンスター図鑑の著者でもある。
 オルフェリアは緊張しながら、尊敬するジョージと挨拶を交わす。
 そして、秘書が淹れてくれた紅茶を口にし、大きく深呼吸した。

「そう緊張するなて。こんな爺さんを相手にするより、クエストに行く方が緊張するじゃろ?」
「そ、そんなこと……」
「アルのクエストは非常識じゃからな。パーティーを組むオルフェリアも大変じゃろうて」
「それはありますね、フフ」

 オルフェリアの表情が少し柔らかくなった。

「フォフォフォ、それにしてもオルフェリアよ。ウォール・エレ・シャットの解体は見事じゃったぞ。講師もやってくれていて助かっておるのじゃ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、オルフェリアにはこれまでの実績から、特別に無試験で解体師のAランクを授けることとする」
「あ、ありがとうございます」

 ジョージはオルフェリアに、新しく導入された解体師カードを渡す。

「オルフェリアよ。今後も知識と経験を重ね、技術を磨き、講師として後進を育て、解体師全体のレベルを上げて欲しいのじゃ」
「か、かしこまりました」
「ちなみにじゃが、解体師のAランクは今のところオルフェリアのみじゃぞ。フォフォフォ」
「そ、そうなんですね。その名に恥じぬよう精進いたします」

 さらにジョージは、ナイフや鎌などの解体師専用の道具セットをオルフェリアに送った。
 この道具セットは俺が討伐したネームド二頭の素材で作ったそうだ。

「これは開発機関シグ・ナインのローザに作ってもらったんじゃ。あの小娘、とんでもないものを作ったぞ」

 俺の黒爪の剣レリクスと同じダーク・ゼム・イクリプスの素材で作られたナイフや鎌やノコギリ。
 そして、ウォール・エレ・シャットの黒深石で作られたハンマー。

 それらを一つ一つ手に持って確認するオルフェリア。

「こ、これは……。本当に凄い……」
「そうじゃろ。ローザは神の金槌シャイオンの称号を持つ最高の鍛冶師じゃからな。この道具があればどんなモンスターも簡単に解体できるじゃろ」
「はい! この道具に見合う解体師になります!」
「うむ。それとな、これは個人的なプレゼントじゃ」

 ジョージが一冊の本を取り出した。

「お主、カラー版のモンスター事典を買ったじゃろ? あれは個人が買えるものではないが、弟子のギルに頼まれてお主に売るのを許可したんじゃよ」
「申し訳ございません。ギル様に無理を言ってお願いしてしまいました」
「それはいいのじゃ。しかしな、アルやレイがどんどんモンスターを討伐するから困っておるのじゃ」

 ジョージが俺やレイの顔を横目で見る。

「特にアルが捕獲したネームド候補の王鰐ルクコスや、レイのシーク・ド・トロイ討伐は衝撃じゃったぞ」
「はい。私もアルのルクコス捕獲は立ち会っていましたが、まさに衝撃でした」
「だからな、それらの新しいモンスターや、新たに分かった情報などを掲載した別冊を作ったのじゃ。それをお主にプレゼントする。もちろんイラストは儂で、限定のカラー版じゃ」
「え! そ、そんな貴重な本を? い、いいのですか!」
「もちろんじゃ。この別冊で最新版のモンスター事典は完成じゃ」
「あ、ありがとうございます! 家宝にします!」
「だが、アルとレイのことだがら、またネームドの討伐もあるやもしれんがな。フォフォフォ」

 オルフェリアは喜びのあまり涙を流していた。

「オルフェリア、良かったね」
「これも全てアルのおかげです。本当にありがとうございます」
「そんなことないって。オルフェリアの実力だよ」

 その後もオルフェリアは尊敬するジョージと、モンスターのことや解体師の未来について話し合っていた。

 ――

 研究機関シグ・セブンでオルフェリアの表彰式が終わり、続いてギルドの敷地内にある人事機関シグ・フォーへ移動。
 シグ・フォーでは局長のユリア・スノフが出迎えてくれた。

 凛とした佇まいで、厳しさや強い意志を感じる長い黒髪が印象的な女性だ。
 以前より、美しさと迫力が増しているように感じる。
 とても四十九歳には見えない輝きを放つ麗人だ。

 だが、ユリアは前冒険者の成績を管理することから、ギルドで最も恐れられている。
 そのユリアが俺の瞳を真っ直ぐ見つめていたため、思わず緊張してしまった。

「アルが解体師や運び屋とパーティーを組んでくれたおかげで、ギルドに蔓延っていた悪しき風習が一気に改善したのよ。感謝してるわ」
「そ、そんな! とんでもないです!」
「ウフフフ、そう緊張しないでアル。そこの美人さんの落ち着きを見習いなさい」

 レイの表情がムッとした。

「ちょっと! 私も緊張してるわよ!」
「嘘ばっかり。それよりレイ。あなたイーセ王国で名誉団長リ・テインになったそうね。公式発表されてたけど、団長として接するべきかしら?」
「気にしないで。名前だけだもの」
「嘘おっしゃい。王国の外交権限もあるって聞いたわよ」
「それをどうして……」
「そういう情報は入ってくるのよ、名誉団長リ・テイン様」
「もうやめてよ!」

 俺とオルフェリアは、ハラハラしながら二人のやり取りを見守る。
 ひとまずソファーに座ると、職員が紅茶を淹れてくれた。
 そして、別の職員がトレーを持って入室。

「これがあなたたちのために作った新しいSランクの冒険者カードよ。この特権が凄いのよ」

 トレーには二枚のカードが乗っている。
 ユリアはそのカードを眺めながら、Sランクの特権を説明してくれた。

 冒険者ランクに関係なく、全てのクエストを受注可能。
 直請けクエストも自由に受注可能、報酬金額の設定も自由。
 モンスターの討伐、及び捕獲数に一切の制限なし。
 冒険者ギルドがある国は無条件で国境を超えられる。
 違法行為を犯した冒険者の逮捕権を持つ。
 全ての機関で資料閲覧可能。
 全ての施設を利用可能。

 これを聞いて、さすがにレイも驚いていた。

「ねえ、ユリア。特権が凄すぎるんだけど……」
「そうね。ギルマスのシド様が嬉々として特権を盛り込んでいたわよ」
「でもこの逮捕権って、ギルドハンターの仕事でしょ?」
「もちろんそうだけど、あなたたちも持っていると何かと便利よ」
「確かにそうね。モンスターの密猟は未だに蔓延ってるし、鉱石詐欺なんかもまだあるみたいだものね」

 モンスターの素材は金になるし、モンスター自体が売買される。
 犯罪組織が麻薬のために霧大蝮ネーベルバイパーを売買した事例はいくつもあるほどだ。
 それに以前、冒険者が鉱石詐欺を行った事例もある。
 俺はその事件に関わったことで、ギルドハンターの存在を知った。

「ねえユリア。全ての機関で資料閲覧可能って、ギルドにとっては情報流出の危険があるでしょう?」
「逆よ。あななたち二人が極秘資料も閲覧可能となると、各機関は不正できないわ。Sランクはギルドの不正監視も担うのよ。と言っても、あなた達以外にSランクは認定しないと思うけどね」
「そうなのね。でも私、イーセ王国と繋がりがあるわよ? もしギルドの極秘情報を王国に流したら?」
「信頼してるわ」
「ふふふ、そう言われると何も言い返せないわね。今後もギルドのために行動しますわ。ユリア・スノフ局長」
「では後ほど正式発表するわね。全世界の冒険者ギルドで公示するから話題になるでしょう」

 俺とレイは、ユリアから新しい冒険者カードを受け取った。

 その後、開発機関シグ・ナインへ顔を出し、局長のローザ・モーグに挨拶。
 新装備の使用感をフィードバックした。
 ローザはそれらの意見を今後の開発に活かすそうだ。
 さらに新装備の微妙な調整も行ってくれた。

 そしてこの日の夜、俺はシグ・ナイン局長ローザと、レイはシグ・フォー局長ユリアと、オルフェリアはシグ・セブン局長のジョージと、それぞれ食事へ行った。

 これで帝都へ来た用件は全て終了。
 俺はこの世で二人しかいないSランク冒険者に昇格した。
 Sランクの特権は凄まじいが、その分責任も重い。
 ギルドの期待に応え、Sランクの名に恥じない冒険者になろうと心に誓った。
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