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第八章
第132話 昨夜の出来事
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俺はギルドの客室で目を覚ました。
顔を洗いながら昨日の話を思い出す。
シドの不老不死は強烈だったが、一旦受け入れてしまえば不思議と気にならない。
もちろん、この話は当然ながら極秘事項だ。
ギルドでも知っている人間は、サブマスターのルイスだけだという。
シドはギルマスという職務を百年に一回、約二十年くらいの任期で交代しているらしい。
理由は二つ。
百年経つと寿命で人員が変わっているため、不老不死を疑う者がいなくなること。
そして、老けないことを疑問に思わないのは、大体二十年が限度らしい。
今はちょうど百年に一回の、シドがギルマスを行う時期だった。
なお、ギルド創設の伝説となっている自治体との仲介を始めたのは、当然ながらシドだった。
それが今日の冒険者ギルトへ発展。
ギルドが形になってから約千年経過しているそうだ。
そして、シドによるレイの求婚騒動の件にも話が及んだ。
ギルド創設者のシドから見ても、レイは史上最高の冒険者と言っていいほどで、初めて会った時はその実力に衝撃を受けたそうだ。
また、レイの容姿に懐かしさを感じたこともあり、暇なシドはレイをからかって遊ぶことにした。
帝国の初代皇帝が女性だったことは有名だが、約千五百年前に初代皇帝が国を興した際、シドが手助けしたことでシドと恋仲になった。
そして、先に死んでいく皇帝がシドとの繋がりを永遠に残したいと、シドの名前から国名を名付けたのだった。
とてもロマンス溢れる話で、その話を聞いたレイは感動していた。
しかし、求婚騒動に関して、思わぬところでシドはレイに復讐されることになった。
◇◇◇
「シド、あなたにもそんな時代があったのね」
「ハッハッハ、人に歴史ありだ。レイは初代皇帝に似ていてな。君を見た時は驚いたものさ。彼女はレイにも引けを取らないほど美しかったんだぞ」
「ふふふ、お会いしたかったわ」
「その肖像画が彼女だ」
壁に飾ってあるレイに似た女性は初代皇帝だったのか。
確かに美しい女性だ。
「だけど……。ね、ねえ、あれはどう見ても私よね?」
「し、しまった!」
レイが部屋の奥にある絵画を指差した。
俺は気付かなかったが、よく見るとレイに似た女性の絵画がいくつも飾られている。
レイに似たというか、どう見てもレイの肖像画だ。
ギルドの主要機関は九つあるが、十番目の秘密結社が存在するという都市伝説がギルド内にはあった。
しかも人物画を集めているという噂だ。
俺はその都市伝説を思い出していた。
どうやらレイも同じようだ。
「もしかして、これがシグ・テンの正体? ということは、シグ・テンはあなたがやっていたの?」
「ちちちち、違うのだよ」
「何よ? 何が違うのよ? じゃあこの絵画は何よ? 説明してくださるかしら? マスター様」
この状態になったレイは止められない。
シドは完全に動揺している。
「さ、最初は暇つぶしだったのだが、その内、君の美しさは芸術作品だと思うようになってな……。それで絵画を描いてもらっていたら……。き、気付いたらこんな数になってたんだ」
「へえ、それは光栄だわ」
レイは微笑んでるが、これは絶対に怒っている。
「これは全部没収よ!」
「ダメだ! 有名な画家に描いてもらったんだぞ! 美術品としての価値が非常に高いんだ!」
「アル、これはあなたが持っていて。あなたなら私も嬉しいわ」
「クソッ! 史上最高の画家ロズ・ディールの作品もあるんだぞ!」
「あら、そんな凄い画家の作品をプレゼントしてくださるなんて、さすがはギルドマスター様ね」
ここは逆らわないほうが賢明だ。
「ありがとう。俺の部屋に飾らしてもらうね」
「アルよ! なんとかしてくれ!」
シドが泣きそうな顔になっている。
しかしこれはシドの自業自得だろう。
「ねえ、シド。シグ・テンはあなただけの組織なのかしら?」
「そ、そうだ。ちゃんとギルドの予算もある」
「へえ、ギルドの予算でこんな絵を描かせていたのね。これからはもっとギルドや冒険者のためになることをしなさい。そうでなければシグ・テンは解散よ」
「なっ! 横暴だ!」
「横暴と言われてもね。これは誰のせいなのかしら?」
「むぐぐ……わ、分かった」
シドの求婚騒動の復讐を果たしたレイが、勝ち誇った顔をしていた。
シドも素直に認めたようだ。
「まあなんだ。あの当時のレイをからかって悪かったと思っている。あの頃の君は大変だったのにな。申し訳なかった」
シドが素直に頭を下げた。
「お詫びではないが、君たちの結婚は盛大に祝うことにしよう」
「ちょっと! 結婚なんてまだ分からないよ!」
俺はシドに反論した。
「え? 分からないの……?」
「い、いや、レイ! そ、そういう意味じゃなくて!」
「ハッハッハ。アルはまだまだだな」
その後、レイの機嫌を取るのが大変だった。
◇◇◇
エルウッドが起きてきた。
「おはよう、エルウッド」
「ウォウ!」
俺はエルウッドの顔を見る。
エルウッドは最後の銀狼牙になったことで、二千年前の固有名保有特異種リストに載ったそうだ。
だが、シドはこのリストからエルウッドの名前を削除した。
さらにシドは、不老不死に関わる文献を全て処分。
だが、どうやらシドのメモ書きのような日記が残ってしまい、それをあの宰相が発見したようだ。
さすがにシドも焦ったが、これでもう不老不死にまつわる文献や記録は残ってないとのこと。
シドは俺の父に、不老不死のことを一切話さなかった。
しかし、父はシドが普通ではない点に気付いていた模様。
それでも父はシドと普通に接していたそうだ。
ある日、父がフォルド帝国からイーセ王国へ移住を決意。
理由は以前ラバウト出張で知り合った女性、つまり俺の母に再会するため。
シドは移住を止めたかったが、祝福すべきだと送り出した。
さらに、父に懐いていたエルウッドを護衛とし、紫雷石も渡したそうだ。
父は紫雷石を世間から隔離するかのように、標高五千メデルトの山中に住み始めた。
俺のこと、エルウッドのこと、父のこと、これまで不明だった全てのことが判明した。
そして、レイは俺の寿命のことを受け入れてくれた。
レイとの別れは確実だ。
「私はアルと永遠に一緒よ」
そう口にするレイの表情は、まるで女神そのものだった。
その美しい微笑みに心を奪われながら、俺は改めてレイと知り合って良かったと、この人を好きになって本当に良かったと思っていた。
俺はこの時のレイの表情を絶対に忘れない。
いつか時が来たら、レイを幸せにする。
顔を洗いながら昨日の話を思い出す。
シドの不老不死は強烈だったが、一旦受け入れてしまえば不思議と気にならない。
もちろん、この話は当然ながら極秘事項だ。
ギルドでも知っている人間は、サブマスターのルイスだけだという。
シドはギルマスという職務を百年に一回、約二十年くらいの任期で交代しているらしい。
理由は二つ。
百年経つと寿命で人員が変わっているため、不老不死を疑う者がいなくなること。
そして、老けないことを疑問に思わないのは、大体二十年が限度らしい。
今はちょうど百年に一回の、シドがギルマスを行う時期だった。
なお、ギルド創設の伝説となっている自治体との仲介を始めたのは、当然ながらシドだった。
それが今日の冒険者ギルトへ発展。
ギルドが形になってから約千年経過しているそうだ。
そして、シドによるレイの求婚騒動の件にも話が及んだ。
ギルド創設者のシドから見ても、レイは史上最高の冒険者と言っていいほどで、初めて会った時はその実力に衝撃を受けたそうだ。
また、レイの容姿に懐かしさを感じたこともあり、暇なシドはレイをからかって遊ぶことにした。
帝国の初代皇帝が女性だったことは有名だが、約千五百年前に初代皇帝が国を興した際、シドが手助けしたことでシドと恋仲になった。
そして、先に死んでいく皇帝がシドとの繋がりを永遠に残したいと、シドの名前から国名を名付けたのだった。
とてもロマンス溢れる話で、その話を聞いたレイは感動していた。
しかし、求婚騒動に関して、思わぬところでシドはレイに復讐されることになった。
◇◇◇
「シド、あなたにもそんな時代があったのね」
「ハッハッハ、人に歴史ありだ。レイは初代皇帝に似ていてな。君を見た時は驚いたものさ。彼女はレイにも引けを取らないほど美しかったんだぞ」
「ふふふ、お会いしたかったわ」
「その肖像画が彼女だ」
壁に飾ってあるレイに似た女性は初代皇帝だったのか。
確かに美しい女性だ。
「だけど……。ね、ねえ、あれはどう見ても私よね?」
「し、しまった!」
レイが部屋の奥にある絵画を指差した。
俺は気付かなかったが、よく見るとレイに似た女性の絵画がいくつも飾られている。
レイに似たというか、どう見てもレイの肖像画だ。
ギルドの主要機関は九つあるが、十番目の秘密結社が存在するという都市伝説がギルド内にはあった。
しかも人物画を集めているという噂だ。
俺はその都市伝説を思い出していた。
どうやらレイも同じようだ。
「もしかして、これがシグ・テンの正体? ということは、シグ・テンはあなたがやっていたの?」
「ちちちち、違うのだよ」
「何よ? 何が違うのよ? じゃあこの絵画は何よ? 説明してくださるかしら? マスター様」
この状態になったレイは止められない。
シドは完全に動揺している。
「さ、最初は暇つぶしだったのだが、その内、君の美しさは芸術作品だと思うようになってな……。それで絵画を描いてもらっていたら……。き、気付いたらこんな数になってたんだ」
「へえ、それは光栄だわ」
レイは微笑んでるが、これは絶対に怒っている。
「これは全部没収よ!」
「ダメだ! 有名な画家に描いてもらったんだぞ! 美術品としての価値が非常に高いんだ!」
「アル、これはあなたが持っていて。あなたなら私も嬉しいわ」
「クソッ! 史上最高の画家ロズ・ディールの作品もあるんだぞ!」
「あら、そんな凄い画家の作品をプレゼントしてくださるなんて、さすがはギルドマスター様ね」
ここは逆らわないほうが賢明だ。
「ありがとう。俺の部屋に飾らしてもらうね」
「アルよ! なんとかしてくれ!」
シドが泣きそうな顔になっている。
しかしこれはシドの自業自得だろう。
「ねえ、シド。シグ・テンはあなただけの組織なのかしら?」
「そ、そうだ。ちゃんとギルドの予算もある」
「へえ、ギルドの予算でこんな絵を描かせていたのね。これからはもっとギルドや冒険者のためになることをしなさい。そうでなければシグ・テンは解散よ」
「なっ! 横暴だ!」
「横暴と言われてもね。これは誰のせいなのかしら?」
「むぐぐ……わ、分かった」
シドの求婚騒動の復讐を果たしたレイが、勝ち誇った顔をしていた。
シドも素直に認めたようだ。
「まあなんだ。あの当時のレイをからかって悪かったと思っている。あの頃の君は大変だったのにな。申し訳なかった」
シドが素直に頭を下げた。
「お詫びではないが、君たちの結婚は盛大に祝うことにしよう」
「ちょっと! 結婚なんてまだ分からないよ!」
俺はシドに反論した。
「え? 分からないの……?」
「い、いや、レイ! そ、そういう意味じゃなくて!」
「ハッハッハ。アルはまだまだだな」
その後、レイの機嫌を取るのが大変だった。
◇◇◇
エルウッドが起きてきた。
「おはよう、エルウッド」
「ウォウ!」
俺はエルウッドの顔を見る。
エルウッドは最後の銀狼牙になったことで、二千年前の固有名保有特異種リストに載ったそうだ。
だが、シドはこのリストからエルウッドの名前を削除した。
さらにシドは、不老不死に関わる文献を全て処分。
だが、どうやらシドのメモ書きのような日記が残ってしまい、それをあの宰相が発見したようだ。
さすがにシドも焦ったが、これでもう不老不死にまつわる文献や記録は残ってないとのこと。
シドは俺の父に、不老不死のことを一切話さなかった。
しかし、父はシドが普通ではない点に気付いていた模様。
それでも父はシドと普通に接していたそうだ。
ある日、父がフォルド帝国からイーセ王国へ移住を決意。
理由は以前ラバウト出張で知り合った女性、つまり俺の母に再会するため。
シドは移住を止めたかったが、祝福すべきだと送り出した。
さらに、父に懐いていたエルウッドを護衛とし、紫雷石も渡したそうだ。
父は紫雷石を世間から隔離するかのように、標高五千メデルトの山中に住み始めた。
俺のこと、エルウッドのこと、父のこと、これまで不明だった全てのことが判明した。
そして、レイは俺の寿命のことを受け入れてくれた。
レイとの別れは確実だ。
「私はアルと永遠に一緒よ」
そう口にするレイの表情は、まるで女神そのものだった。
その美しい微笑みに心を奪われながら、俺は改めてレイと知り合って良かったと、この人を好きになって本当に良かったと思っていた。
俺はこの時のレイの表情を絶対に忘れない。
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