133 / 355
第八章
第128話 シドの秘密
しおりを挟む
シドはエルウッドと面識がある?
俺は思わず声が出た。
「え! ど、どういうことですか?」
「私はエルウッドと家族同然なのだよ。それとな、私に敬語は不要だ。友人と思って接してくれ」
「し、しかし」
「まあ座るがよい。君の地元ラバウトから取り寄せた珈琲だ」
俺はソファーに座り、珈琲に口をつけた。
確かにラバウト産の珈琲だ。
「アルよ。私はな、君の父親と友人だったのだよ。まさか君という子供ができるとは思わなかったがな」
「え? 父さんと友人!」
「ああ。バディはギルドで医師をやっていた」
衝撃的な話を聞いた。
バディ・パートが父の名前だ。
「バディは医療機関の局長だった。その前は帝国の宮廷医師だったぞ。バディが帝国やギルドの医療レベルを引き上げたんだ」
父さんがギルドの医師?
さらに宮廷医師だった?
薬師とは聞いていたが、医師だったとは知らなかった。
局長ということはシグ・シックスのトップだし、宮廷医師ともなると国家の要職だ。
それより驚いたのが、ギルドにいた頃の父さんと友人という点だ。
シドはどう見ても俺と同年代だ。
当然ながら、父さんがギルドにいた頃なんて俺は生まれていない。
シドは若く見えるだけで相当な年齢なのか?
頭が混乱してきた。
「アルよ。君はエルウッドの秘密を知ったようだな」
「え?」
「イーセ王国での事件の真相は知っているぞ」
「な、なぜ!」
「私も色々とツテがあるのさ」
シドはエルウッドと家族同然で、エルウッドの秘密も知っている?
ダメだ、突然過ぎて全く理解できない。
「銀狼牙の角、心臓と血液、そして紫雷石が揃うと、雷の道が発生し不老不死の石を作ることができる」
「なぜそれを! ぶ、文献を読んだのか?」
王都での事件では、首謀者である宰相が偶然文献を発見し、取り憑かれたように不老不死を求めたのだった。
「ハッハッハ。文献も何も、あれを書いたのは私だ。ただの日記なので恥ずかしい限りだがな」
「え? ……ど、どういう」
「しかしな、あの日記は本当にただのメモに過ぎぬ。全くもって不完全なのだよ。銀狼牙の角は生え変わるんだ。角が生え変わることで銀狼牙は成体となる。成体の銀狼牙ではないと不老不死の石は発生しない」
「な、何を言って?」
「実はな、エルウッドはまだ幼体なんだ。角が生え変わっていない。だからあの時、角を抜いたのはある意味正解とも言える。抜いた角の場所に、紫雷石を埋め込むと新たな角に変化する。自然の生え変わりを待てない場合は、これで強制的に成体へ進化させるのだ」
「ちょっ、ちょっと……」
「落ち着け、アルよ」
落ち着けと言われても無理だ。
シドは俺の顔を真っ直ぐ見つめている。
「改めて名乗ろう。シド・フロイド・バレーが私の名だ」
「フロイド?」
「ああ、フォルド帝国の国名は私の名から来てるのだよ」
「ま、ま、ま、ま、まさか……まさか……」
「そのまさかだ。私は不老不死だ」
「バカな!」
「私は二千年前に不老不死となった」
「ほ、本当……なのか?」
「何だったら証拠を見せてもいいぞ」
あまりにも衝撃の内容だった。
俺は騙されているのだろうか。
しかし、父さんの話は信憑性があるし、不老不死の石の話は、あの事件で宰相が言っていたこと以上の内容だ。
「アルよ。現在、この世界に残ってる銀狼牙はエルウッドだけだ。しかし、二千年前には小さな群れがあった。そのうちの一頭を使って私は実験台にされたのだ」
「え? 自らの意志じゃないのか?」
「もちろんだ。誰が好んで不老不死になると思う?」
「でも、先王と宰相が不老不死になろうと……」
「彼らは知らないのだよ。不老不死の本当の不幸をな」
シドがエルウッドを見つめた。
「私の不老不死を確認して、当時の為政者たちは銀狼牙を狩った。しかし全員失敗した。簡単なものではないからな。身体との相性もある。私は最後の一頭となったエルウッドと必死に逃げた。人々が私のことを忘れるまで、約五百年間はエルウッドと逃げ回ったものだ。なあエルウッド」
「ウォン!」
「三十年前にエルウッドがバディと出ていくまで、私は二千年間エルウッドと一緒にいたぞ。ハッハッハ」
「ウォウォウォ!」
「じゃ、じゃあ、エルウッドの年齢は本当に……」
「ああ、私が生まれる前から生きている。二千五百歳は超えているはずだ。それでもまだ幼体だがな。エルウッドは私も分からない部分が多い。よく分からん。ハッハッハ」
シドが珈琲を飲むと部屋に静寂が訪れた。
話が急すぎて理解が追いつかない。
あまりにも非現実的なことばかりだ。
だが俺はシドの話を信じることにした。
王国での事件は当事者しか知らないし、父の話にしても不審な点は一つもない。
そもそも、俺にこんな嘘をつくメリットがない。
それにエルウッドの様子を見ても分かる。
エルウッドは人語を完全に理解している。
そのエルウッドが、シドの話を聞いて一切反論しない。
エルウッドが嘘をつくわけないから、全て本当のことだろう。
それにしても……。
この世に不老不死の人間が存在したとは……。
俺は珈琲を飲み、大きく深呼吸する。
飲み慣れた地元の珈琲を飲むと少し落ち着く。
きっとシドがこうなることを予想して、ラバウト産の珈琲を用意してくれたのだろう。
俺は思わず声が出た。
「え! ど、どういうことですか?」
「私はエルウッドと家族同然なのだよ。それとな、私に敬語は不要だ。友人と思って接してくれ」
「し、しかし」
「まあ座るがよい。君の地元ラバウトから取り寄せた珈琲だ」
俺はソファーに座り、珈琲に口をつけた。
確かにラバウト産の珈琲だ。
「アルよ。私はな、君の父親と友人だったのだよ。まさか君という子供ができるとは思わなかったがな」
「え? 父さんと友人!」
「ああ。バディはギルドで医師をやっていた」
衝撃的な話を聞いた。
バディ・パートが父の名前だ。
「バディは医療機関の局長だった。その前は帝国の宮廷医師だったぞ。バディが帝国やギルドの医療レベルを引き上げたんだ」
父さんがギルドの医師?
さらに宮廷医師だった?
薬師とは聞いていたが、医師だったとは知らなかった。
局長ということはシグ・シックスのトップだし、宮廷医師ともなると国家の要職だ。
それより驚いたのが、ギルドにいた頃の父さんと友人という点だ。
シドはどう見ても俺と同年代だ。
当然ながら、父さんがギルドにいた頃なんて俺は生まれていない。
シドは若く見えるだけで相当な年齢なのか?
頭が混乱してきた。
「アルよ。君はエルウッドの秘密を知ったようだな」
「え?」
「イーセ王国での事件の真相は知っているぞ」
「な、なぜ!」
「私も色々とツテがあるのさ」
シドはエルウッドと家族同然で、エルウッドの秘密も知っている?
ダメだ、突然過ぎて全く理解できない。
「銀狼牙の角、心臓と血液、そして紫雷石が揃うと、雷の道が発生し不老不死の石を作ることができる」
「なぜそれを! ぶ、文献を読んだのか?」
王都での事件では、首謀者である宰相が偶然文献を発見し、取り憑かれたように不老不死を求めたのだった。
「ハッハッハ。文献も何も、あれを書いたのは私だ。ただの日記なので恥ずかしい限りだがな」
「え? ……ど、どういう」
「しかしな、あの日記は本当にただのメモに過ぎぬ。全くもって不完全なのだよ。銀狼牙の角は生え変わるんだ。角が生え変わることで銀狼牙は成体となる。成体の銀狼牙ではないと不老不死の石は発生しない」
「な、何を言って?」
「実はな、エルウッドはまだ幼体なんだ。角が生え変わっていない。だからあの時、角を抜いたのはある意味正解とも言える。抜いた角の場所に、紫雷石を埋め込むと新たな角に変化する。自然の生え変わりを待てない場合は、これで強制的に成体へ進化させるのだ」
「ちょっ、ちょっと……」
「落ち着け、アルよ」
落ち着けと言われても無理だ。
シドは俺の顔を真っ直ぐ見つめている。
「改めて名乗ろう。シド・フロイド・バレーが私の名だ」
「フロイド?」
「ああ、フォルド帝国の国名は私の名から来てるのだよ」
「ま、ま、ま、ま、まさか……まさか……」
「そのまさかだ。私は不老不死だ」
「バカな!」
「私は二千年前に不老不死となった」
「ほ、本当……なのか?」
「何だったら証拠を見せてもいいぞ」
あまりにも衝撃の内容だった。
俺は騙されているのだろうか。
しかし、父さんの話は信憑性があるし、不老不死の石の話は、あの事件で宰相が言っていたこと以上の内容だ。
「アルよ。現在、この世界に残ってる銀狼牙はエルウッドだけだ。しかし、二千年前には小さな群れがあった。そのうちの一頭を使って私は実験台にされたのだ」
「え? 自らの意志じゃないのか?」
「もちろんだ。誰が好んで不老不死になると思う?」
「でも、先王と宰相が不老不死になろうと……」
「彼らは知らないのだよ。不老不死の本当の不幸をな」
シドがエルウッドを見つめた。
「私の不老不死を確認して、当時の為政者たちは銀狼牙を狩った。しかし全員失敗した。簡単なものではないからな。身体との相性もある。私は最後の一頭となったエルウッドと必死に逃げた。人々が私のことを忘れるまで、約五百年間はエルウッドと逃げ回ったものだ。なあエルウッド」
「ウォン!」
「三十年前にエルウッドがバディと出ていくまで、私は二千年間エルウッドと一緒にいたぞ。ハッハッハ」
「ウォウォウォ!」
「じゃ、じゃあ、エルウッドの年齢は本当に……」
「ああ、私が生まれる前から生きている。二千五百歳は超えているはずだ。それでもまだ幼体だがな。エルウッドは私も分からない部分が多い。よく分からん。ハッハッハ」
シドが珈琲を飲むと部屋に静寂が訪れた。
話が急すぎて理解が追いつかない。
あまりにも非現実的なことばかりだ。
だが俺はシドの話を信じることにした。
王国での事件は当事者しか知らないし、父の話にしても不審な点は一つもない。
そもそも、俺にこんな嘘をつくメリットがない。
それにエルウッドの様子を見ても分かる。
エルウッドは人語を完全に理解している。
そのエルウッドが、シドの話を聞いて一切反論しない。
エルウッドが嘘をつくわけないから、全て本当のことだろう。
それにしても……。
この世に不老不死の人間が存在したとは……。
俺は珈琲を飲み、大きく深呼吸する。
飲み慣れた地元の珈琲を飲むと少し落ち着く。
きっとシドがこうなることを予想して、ラバウト産の珈琲を用意してくれたのだろう。
25
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる