鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第七章

第121話 誓い

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 ギルドへ入ると、本部長のモラーツ・トリックが対応。

「皆様、クエストお疲れ様でした」
「ありがとうございます。おかげさまで無事完了しました」
「先ほど研究機関シグ・セブンから、シーク・ド・トロイを受け取ったと連絡が入りました。三人の討伐スコアも更新します」
「ありがとうございます」
「シーク・ド・トロイはギルドが買い取ります」
「え? それはクエスト報酬に含まれているのでは?」
「いえ、今回のクエストは騎士団からの依頼を仲介しただけなので、単純に騎士団からの報酬です。ですので、シーク・ド・トロイの買取料金は含まれてません」
「そうだったんですね」
研究機関シグ・セブンの局長に、シーク・ド・トロイの素材が手に入ったと伝えたら歓喜するでしょうね」
「確かに、ジョージ局長なら大興奮しますね。ふふふ」
「金貨八百枚で買い取りますが、いかがですか?」
「分かりました。ありがとうございます」

 私はウィルに視線を向けた。

「ウィル、これもいる?」
「いや、オイラは金貨千枚もらえるからいいよ。これ以上はいらないって。レイさんがもらってよ」
「分かったわ。ありがとう」

 モラーツがクエスト報酬の金貨千枚と、シーク・ド・トロイの買取料金で金貨八百枚を支払ってくれた。
 金貨千枚はウィルに渡し、買取代の金貨八百枚は私が受け取る。
 リマは騎士団から報酬を受けているので、受け取ることができない。

 その後、討伐スコアを更新。
 私たち三人のスコアに、二種類目のネームドが記録された。

「ふふふ。これでアルに並んだわ」
「ネームドはな。でも、単純なスコアではレイの方が種類も数も上だろ」
「それはそうよ。冒険者の活動期間が違うもの。でも、アルもクエストをやってるようだし、討伐スコアを伸ばしてるんじゃないかしら」
「アル君のことだから楽しみだな」
「そうね。ふふふ」

 これで全ての手続きが終わり、ウィルと別れることになる。

「ウィル、本当にありがとう」
「こちらこそ。金貨千枚も稼がせてもらったもん。感謝してるさ」
「ねえ。あなた、まだギルドハンターを続けるの?」
「まあね。しばらくは続けるさ」
「そうなのね。じゃあ、また何かあったらよろしくね」
「もちろん。あっ、レイさん。アル・パートによろしく伝えて」
「ふふふ。分かったわ」

 ウィルが人差し指で鼻を触りながらリマの顔を見つめていた。
 戦友に向ける表情ではないような気がする。

「リマ、冒険者に戻ったら教えろよ」
「なんだウィル。やっぱりオマエ、アタシのことが好きなのか?」
「ち、ちげーよ! アンタみたいな筋肉女を誰が好きになるかっての! でもアンタの腕は一流だ。パーティー組む相手がいなかったら組んでやるよ」
「フハハハ! 分かったよ! ありがとうな、ウィル!」

 私たちはウィルと握手をした。

「じゃあね! レイさん! リマ! またどこかで!」
「ウィルの未来に祝福をリ・クロトエ!」

 ウィルと別れ、私たちは王城へ戻った。
 団長室でジル・ダズに事件の内容を全て報告。

「レイ様、この度はありがとうございました」
「時間がかかってしまい申し訳なかったわね。ジョディの暗殺を止められなかった」
「確かにジョディの件は残念でしたが、我々は騎士です。こういうことは覚悟しています。それに今回のレイ様は、幻のネームドを解明して討伐。王の一撃ヴァリクスを奪還。そして主犯格の身柄を拘束です。これ以上の結果はありません」
「あなたが褒めると気持ち悪いわね?」
「何を仰いますか。私はいつも褒めておりますよ」
「ふーん。まあいいけど。そうそう、クエストで借りた屋敷の処理を頼めるかしら?」
「もちろんです。クエストの後処理は全てお任せください」
「ありがとう。で、主犯の二人はどうするの?」
「治療が終わり次第、本格的に取り調べを行います」
「暗殺の首謀者とはいえ、非人道的な取り調べはやめなさいよ?」
「承知しております。しかし、一人は片腕を切られ、一人は両腕の腱を切られてます。これは非人道的では?」
「それはリマがやったのよ」

 リマがテーブルを叩き立ち上がった。

「おい! 片腕はアタシだが、両腕の腱はレイだろ! 一回でいいところを三回も突きやがって!」
「私はウィルを守ったのよ」

 ジル・ダズが真剣な表情で私を見つめていた。

「レイ様。私が見たところ、やはり強くなってますよ?」

 ジル・ダズは、見た相手の筋肉量などで力量が分かるという特技を持っている。

「忘れてたわ。あなたのその気持ち悪い特技を」
「ははは、酷い言われようですね。しかし、今回の作戦も相手の行動を完全に読み切ってました。やはり全てにおいて騎士団最強はレイ様です。いつでもお帰りをお待ちしております」
「ふふふ、ありがとう」

 これで全て片付いた。
 リマの処遇はどうするつもりなのだろう。

「リマはどうなるの?」
「近衛隊隊長に戻します」
「それは良かったわ。リマは騎士団に必要だものね」
「もちろんです」

 そこへヴィクトリアが入室。
 全員起立し、敬礼で出迎える。
 ヴィクトリアが座るのを見て、私は着席の合図を出した。

「どうしたの? 女王陛下がこんなところへ来て」
「レイとリマが危険な任務から帰ってきたのですもの。労うのが当たり前じゃない」
「幸甚に存じます。ヴィクトリア女王陛下」
「もうやめてよ。私たちは親友でしょ?」
「ふふふ。あ、そうだヴィクトリア。ちょうどいいところに来てくれたわね。問題は全て解決よ。これで騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスも終わりよね?」
「そうね。残念だけど、そういう契約だもの。騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスは終了ね」

 メイドのマリアが全員分の紅茶と茶菓子を用意してくれた。
 少しの間紅茶を楽しむと、ジル・ダズの表情が引き締まる。

「さて、レイ様。クエスト報酬は騎士団からでしたが、国家からも報酬をお支払いします」
「え? いらないわよ」
「いえ、受け取っていただきます。まずは金貨千枚です。これは古金貨で支払います」
「シーク・ド・トロイの売却で金貨はいただいたわ。不要よ」
「国家の報酬を断ることはできません。それに、クエスト報酬を受け取ってないと聞き及んでおります」
「ふうう。分かったわ。ありがとう」
「そしてもう一つ」

 そう言いながら、ジル・ダズがヴィクトリアにお辞儀をする。
 ヴィクトリアが飲んでいた紅茶のカップをソーサーに置いた。

「騎士団史を調べていたら、名誉団長リ・テインという職があったのよ。あなたへ正式に授けるわ」
「それはどういうものなの?」
「これはただの名前だけよ。騎士団を忘れずにいて欲しいだけ」
「それならいいけど、本当にそれだけ?」
「えーと……。一応、団長権限と同等のものは残ってたり、国使として外交権限もある……かな」
「ちょっと! 騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスより強い影響力と決定権があるじゃない!」
「うふふふ。安心して。騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスと違って、こちらから命令することはないわ。本当にあなたを縛るものは何もないのよ」
「まったくもう……仕方ないわね。分かったわよ。ありがたく頂戴します。女王陛下」
「一応聞くけど、レイ。イーセ王国の貴族称号はいる?」
「ふふふ、それはいらないわ」
「そう言うと思ったわよ。うふふふ」

 ジル・ダズが笑っていた。

「ははは。貴族称号を断る人を初めて見ましたよ。さすがはレイ様です」

 ヴィクトリアが満面の笑みで私の手を取る。

「でも、あなたはいつでも国賓だからね。もちろん、エルウッドもアルも大歓迎よ!」
「ウォウ!」
「エルウッドは本当にいい子ね。もうエルウッドと離れたくないわ。ねえエルウッド、アルと一緒に私のところへ来る?」
「ダメよ!」

 ヴィクトリアが本気か冗談か分からないことを言っていた。

 ――

 その日の夜は、ヴィクトリアがささやかな祝宴を開催。
 そして翌日の早朝、私は騎士団墓地へ行き、暗殺されたピーター・バルスとジョディ・ペリーを弔う。
 そして、ザイン・フィリップの墓にも顔を見せる。

「また来るわね」

 数日後、名誉団長リ・テインの授与式が行われた。
 騎士の責務と交換条件アズ・イノー・ディグレスは極秘扱いだったが、名誉団長リ・テインは国家として発表された。

 私と騎士団との関係性が、正式に公表されたようなものだった。
 そのことで私を狙う者が増えたり、懸賞金額が上がるかもしれない。

 だけど、私のために古い文献から名誉団長《リ・テイン》を調べてくれたヴィクトリアの気持ちが嬉しかった。
 もし今回のように狙われても、撃退すればいいだけの話。

 ヴィクトリアは私にとって、親友でもあり妹のような存在だ。
 彼女が喜ぶなら私にとってそれ以上の幸せはない。

 今回の事件の調査書や報告書の作成、ジル・ダズへの引き継ぎなどの雑務に数週間を要し、ようやくウグマへ帰還することになった。

 帰路に関しては、ヴィクトリアが王国の馬車を用意。
 さらにフォルド帝国へ通行許可を申請したそうだ。

 騎士による護衛も申し出てくれたが、これは丁重に断った。
 二人の隊長を失った騎士団は、これから大変な時期に入る。
 一騎たりとも余力はない。

 そのため、私は冒険者ギルドに護衛を依頼した。
 それに私にはエルウッドもいる。

 騎士団再編成はジル・ダズがしっかりと行うだろう。
 私が介入すべきではないし、介入しなくとも問題ないはずだ。

「ヴィクトリアとお茶会をするため、たまに帰るくらいかな」

 皆に別れを告げ、私とエルウッドは王都を出発。
 これからまた一ヶ月以上かけてウグマへ戻るのだった。

 王国は気心知れた仲間がいる。
 とても居心地が良い。
 だけど、私はアルと冒険者の道を進む。
 アルの成長を見るのが何よりの楽しみだった。

「やっとアルに会えるわね」
「ウォウ!」
「エルウッドも長い間アルと離れて寂しかったでしょ? ごめんね。本当にありがとう」
「ウォウウォウ!」
「あ! いけない! 私がいない間にアルは二十歳になってるわ。帰ったらお祝いしなきゃ」
「ウォン!」

 アルは絶対世界一の冒険者になる。
 いや、すでにそうなっていると言っても過言ではない。

 そんなアルに離されないように、私はアルと共に生きて行こうと心の中で誓った。
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