鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第七章

第120話 決着

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 ウィルと剣を交えているニルスに向かって問いかける。
 私の調べによると、使役師のニルスがリーダー格だからだ。

「さて、もうこちらの勝ちは決まったけど降参する?」

 返事はない。

 リマやウィルという一流の剣士と戦って、会話できる余裕なんてあるはずもない。
 それでも私は話を続ける。
 焦りを煽るためだ。

「シーク・ド・トロイの粘着質は無効にできるのよ。ネームドとはいえ、あまり過信しないほうがいいわよ?」

 中和液の存在は話さない。
 余計なことを考えさせるためだ。
 それに、こちらの切り札を安易に話すようなことはしない。

 部屋に響く剣と剣がぶつかる甲高い金属音。
 激しい戦いが繰り広げられている。

「そうそう、私はアルと別れてないわ」

 私は話しながらも、二組の戦いから目を離さない。
 リマやウィルが怪我をしないように、いつでも攻撃できる準備はしている。

「じゃあ、まず王の一撃ヴァリクスから返してもらいましょうか」
「分かってるよ! 意外とこいつが強いんだよ! 壊し屋ロヴィチ!」

 答えたのはリマだった。

 パワー系同士の戦いは迫力がある。
 一撃一撃が重い。

 しかし、リマはスピードもある。
 ロヴィチのパワーは凄まじいが、剣術ではリマに分があるようだ。
 いくら国宝の王の一撃ヴァリクスでも、使いこなせなければ意味がない。

 リマは重いはずの両手剣グレートソードで、巧みに王の一撃ヴァリクスの剣撃を捌いている。
 王の一撃ヴァリクス片手剣ロングソードだが、この性能があればリマの両手剣グレートソードだって簡単に叩き折ることができるだろう。
 しかし、それをさせないリマ。

「オマエのせいで! オマエのせいで!」

 リマの怒りはもっともだ。
 ヴァリクスが盗まれて、全ての責任を取らされているのだから。

「オマエのせいで、アタシが唯一勝ってた賭博場が潰れたんだ!」

 肉を切り裂く鈍い音が響く。
 リマ渾身の一撃が入った。
 王の一撃ヴァリクスを掴んだまま、ロヴィチの右腕が宙を舞い、血飛沫が飛ぶ。

「ぐおおおおおおお!」

 ロヴィチは右腕を失い倒れ込んだ。

「ねえリマ。怒りの理由を間違えてない?」
「コイツのせいで勝てなくなったんだ! アタシの金を返せ!」

 リマは怒りながらも、ロヴィチの止血を行い、手足を縛り身柄を確保した。
 私はニルスに向かって話しかける。

「ロヴィチは確保したわよ?」
「クソオオオオオ!」

 ニルスが叫んだ。

 ニルスは二刀流だった。
 しかもニルスは短剣ダガー使いだ。

 私も戦ったことがある。
 達人クラスの短剣ダガー使いは恐ろしく厄介だ。
 剣撃は速く、軌道も読めない。
 それでもウィルは確実に対処している。
 さすが世界最高レベルの二刀流で、双竜の異名を持つウィルだ。

 超接近戦で戦う二人。

「ウィル、気をつけて。ニルスのダガーは毒が塗ってあるわよ。それと毒塗りの投げナイフを何本も持ってるわ」
「クソ女がっ!」

 ニルスが吐き捨てる。

「私に投げても無駄よ?」

 徐々にニルスの動きが鈍くなってきた。
 心が折れてきているのだろう。

「ねえ、私たち三人と狼牙に勝てると思う? しかも、あなたの相手はウィル・ラトズよ? 知ってるでしょ?」
「なっ! 双竜か! クソッ! 生きてたのか!」

 ギルドハンターになったウィルは、冒険者としての存在を消していた。
 しかし、Aランク時代はネームドも討伐したほどの高名な冒険者だった。

「そうそう、一応言っておくけど私はその二人より強いわよ? ロヴィチみたいに腕の一本でも斬る? 足でもいいけど? 今なら降参を受け入れるわよ?」

 ついにニルスの動きが止まった。
 完全に棒立ちとなり、両手のダガーを床に落とす。
 すぐにウィルがダガーを蹴り飛ばし、確保するためニルスへ近付く。

「ウィル! まだよ!」

 私は細剣レイピアを抜き、ニルスに突きを放った。
 急所は外している。

「一人でも道連れにしようとする根性は大したものだけど、私は欺けないわよ。残念だったわね」
「ぐううう」

 ニルスは床にうずくまる。

「ウィル。ニルスは腰の毒ナイフであなたを斬ろうとしていたわよ?」
「マジか! レイさんごめん。ありがとう」
「ふふふ。でもこれは相手を褒めるべきかな。最後まで諦めない気持ちは素晴らしいわ」
「って、レイさん。コイツ三箇所突かれてるんだけど?」
「そうよ。三回突いたもの」
「え! 嘘だろ? 一回しか見えなかったよ」
「あなたもまだまだね。ふふふ」

 私は両肩の腱を斬り、右手の手のひらを突いていた。
 これでもう両腕は動かないはずだ。
 改めてウィルがニルスの手足を縛った。

「任務は完了かしら?」
「相変わらずレイはエゲツないな」
「ほんとだよ。レイさん、また強くなったんじゃないの?」
「どうかしら? でもいつもアルを見てたし、アルと行動してたから私も強くなったのかな?」
「愛の力だな。フハハハ」
「もう、茶化さないでくれるかしら?」

 私はレイピアの柄に手を乗せる。

「じょ、冗談だろ!」
「ふふふ」

 そして私はエルウッドに抱きつく。

「エルウッドもありがとう。あなたがいなかったら、シーク・ド・トロイの攻撃をまともに受けていたわ」
「ウォウ!」

 続いて私は捕獲した二人に目を向ける。

「さて、あなたたちの身柄は騎士団に渡す。新組織のこととか色々と聞きたいことがあるもの。覚悟してね」

 舌を噛み切ることができないように猿ぐつわをしているので、今は話すことができない。

 夜が明けると、騎士団の護送車が来た。
 二人の身柄を明け渡す。

 ここへ来た騎士は近衛隊で、私もリマも知った顔だ。
 犯罪組織のなりすましではないことを確認。
 稀にニセの護送車で、そのまま逃げることもある。

「おお、オマエたちご苦労様」
「リマ様! 護送はお任せください! リマ様のお帰りをお待ちしております!」
「ありがとう。よろしくな」

 さらに研究機関シグ・セブンの荷車も来た。
 シーク・ド・トロイはネームドなので、運び屋ではなく開発機関シグ・ナインの担当だ。

「レイ様、シーク・ド・トロイの討伐、ありがとうございます」
「ここの処理が終わり次第、ギルドへ行くと伝えてください」
「かしこまりました」

 護送車や荷車を見送り、私たちは部屋を片付ける。

「レイ、この屋敷のことは騎士団が処理する。まずはギルドへ行ってクエスト終了を報告しよう。そこでウィルを解放してあげようぜ? で、アタシたちは王城へ帰ろう」
「あら、あなたにしてはちゃんと考えてるのね?」
「あのな、アタシだって近衛隊隊長だぞ? 今は違うけど」
「ふふふ。やっぱり騎士団にあなたは必要よ。これからも続けてね」
「分かってるよ。でもいつか一緒に冒険者やらせてくれよ?」
「そうね。ちゃんと後任を育てて円満退団したらいいわよ」
「いるんだよ! 昨年入団した元気な子が。リアナっていうんだけど、今はそいつを育ててるんだ!」
「楽しみね。ふふふ」

 リマの話を聞きながら、私たちはギルドへ戻った。
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