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第七章
第118話 情報戦
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私は王都の不動産屋へ出向く。
作戦の一環で、屋敷を借りることにした。
「こ、これはこれは、レイ・ステラー様。まさか当店へお越しいただけるとは……」
「知っての通り、私は騎士団を引退しました。静かな場所でゆっくりと過ごしたいので、小さな屋敷をお借りしたい。できれば周りに家がない場所でお願いします」
「承知いたしました。ちょうど郊外の湖畔にある中規模の屋敷が空いてます。周囲は湖と森だけ。最高の環境です」
「いいですわね。その屋敷の詳細を教えて下さい」
本来、元とはいえ騎士団団長が自ら家を借りる手続きなんてするはずがない。
しかし、ここは黒い噂が立つような不動産屋だった。
私が来たことで、店主は私を最大限利用しようと目論んでいるだろう。
過剰な欲は目を曇らせる。
恐らく騎士団と繋がりたいと思っているはずだ。
店主の打算的で、卑しく笑う表情が物語っている。
騎士団との繋がりは諦めさせて、私個人に狙いを持ってくるように誘導する。
出された紅茶も飲む振りをする。
普段なら、信用できない者が出したものを口にすることはない。
「私は完全に騎士団と関係を断っています。それもあり、自ら屋敷を探しているんです。お恥ずかしい限りですわ。ふふふ」
「さ、左様でございましたか。ご安心ください。私はレイ・ステラー様に素晴らしいお屋敷を仲介するだけです」
「まあ、ありがとうございます。頼りにしていますわ」
「ただし、このお屋敷の仲介はそれなりにかかるかと。仲介料は最低でも金貨五十枚はいただくことになるでしょう」
「分かりました。用意しておきますわ。今後ともよろしくお願いいたします」
◇◇◇
レイが店から出ると、店主はレイが座った椅子に移動。
中年太りの肥えた腹を擦る。
「ちっ、使えんな。騎士団と繋がれると思ったのだが」
そして、レイが座った椅子の匂いを嗅ぐ。
「それにしても、引っ越しで金貨五十枚もかかるわけがなかろう。元団長様は世間知らずだな。もっとぼったくってやるわ。レイ・ステラーが住んでるという情報も売れるだろう」
店主はレイが使った紅茶カップに口をつける。
「しかし信じられないほどの美人だった。遠巻きに見たことはあったが、あれほどとは。あの目は儂を信用したようだし、今後も仲良くしたいものだ。グフフフ」
店主はレイで一儲けできると下衆な笑い声を上げながら、レイが口をつけた部分を舐め回した。
◇◇◇
その後も私は何度か不動産屋へ行き、王都郊外の湖畔にある中規模の屋敷を借りた。
契約金や前家賃などで金貨八十枚を支払う。
完全に違法な高額請求なのは分かっている。
だが、これほどの高額な資金を使うのも、相手を油断させ信じ込ませるためだ。
あの不動産屋は叩けば埃しか出ないだろう。
全てが片付いたら即逮捕し、資金は回収する。
数日後、私の宿でリマとミーティングを行う。
「レイ自ら不動産屋で借りるとはな。お疲れ様」
「もう、あの不動産屋の店主の目といったら。何度も殺意が沸いたわよ」
「フハハハ。よく我慢したな」
「もちろんよ。あの男、噂通り色々と使えそうだもの。それとなくニセの情報を流しておいたから、こちらの思惑通り動くわ」
「レイという超美味しいな餌だからな。簡単に食いつくだろうさ」
「あの不動産屋は相当汚いこともやってるわ。全てが終わったら摘発してね」
「利用するだけしといて捨てるのか。相変わらず恐ろしいな」
「変な言い方しないでよ! もう」
私たちは準備や引っ越しに約一ヶ月かけた。
リマとウィルは変装させて、引っ越し当初から住み込みの使用人に扮している。
今回は失敗が許されない。
私を狙う隙を与え、たった一度のチャンスで全てを片付ける。
ウグマを出発して、三ヶ月が経っていた。
季節はもう夏の終わりだ。
◇◇◇
王都の賭博場。
客層のガラは悪く、時折怒号が飛ぶ店内。
バーカウンターで酒を飲む男二人の姿があった。
大男ロヴィチと使役師ニルスだ。
「ニルスよ。レイ・ステラーの居所は掴めたのか?」
「ああ。王都の高級宿に滞在していたが、一ヶ月前に王都郊外にある湖畔の屋敷に引っ越した。どうやら定住するようだ。アル・パートとは完全に別れたな。間取り図も手に入れたから、この屋敷を狙うぞ」
「屋敷には何人住んでるんだ?」
「若い使用人が二人。合計三人で住んでる。それと狼牙もいる」
「厄介なのはレイ・ステラーと狼牙か」
「そうだな。だが、もしかしたら使用人もある程度腕が立つかもしれん。なにせ元団長の家だ。いくら治安が良い王都でも、それなりに警備はしてるだろう」
「分かった。用心しよう」
「それに向こうもこちらの調査をしている。俺の予想だと、騎士団は隊長暗殺の調査をレイ・ステラーに任せたな」
「それは厄介だな」
「だが、俺たちの存在には気付いてない」
「そりゃそうだろ。シーク・ド・トロイがバレるわけない。見えない侵入者だぞ」
「もちろんだ。俺はシーク・ド・トロイの捕獲作戦に参加したが、姿が見えないことでかなりの犠牲者を出した。捕獲は奇跡と言われたほどだからな」
シーク・ド・トロイの強さはネームドの中で下位に位置する。
しかし、姿を消すというその特殊過ぎる能力で、圧倒的な被害を出していた。
「ちなみにニルスよ。シーク・ド・トロイ以外のモンスターの使役は無理なのか?」
「厳しいな。ネームド一頭で手一杯だ。だからレイ・ステラーは俺が捕獲する。他は全てお前に任せるぞ? 壊し屋ロヴィチ」
「任せろ。狼牙と使用人二人なんて簡単だ。この剣があるしな」
ロヴィチの腰には王の一撃があった。
「襲撃用に駒を雇うか?」
「雇いはしないが、盗賊団にダミーの盗難依頼を出す」
「これで万全だな。ドワッハッハ」
「来月の新月に決行する。レイ・ステラーを捕獲して本部へ凱旋だ。くっくっく」
ニルスとロヴィチは、自らの明るい未来に祝杯を上げた。
◇◇◇
私が屋敷に引っ越して一ヶ月。
ウグマを出発して四ヶ月が経過していた。
じっくり時間をかけ、不自然な点がないように、こちらの動きを掴ませている。
そこへ盗賊団を雇った男がいるという情報が入った。
どうやら雇い主はニルスのようだ。
そろそろ私を狙って来る頃だろう。
私がギルドから帰宅すると、リマとウィルがリビングでケンカをしていた。
「ウィル君。紅茶を淹れてくれたまえ」
「ふざけんなリマ!」
「オマエは使用人だろう?」
「リマだってメイドだろ! しかも全く似合ってねーし! そんな筋肉質なメイドいないっつーの!」
「う、うるせー!」
「飯だってレイさんが作ってくれてるじゃねーか!」
「アタシは料理できないんだよ!」
面白いから見ていたが、そろそろ仲裁に入ろう。
「二人とも使用人の服は似合ってるわよ?」
「クソ! メイド服なんて任務じゃなきゃ着ねーわ!」
「そうだ! 執事服なんて窮屈過ぎる!」
「ふふふ、二人とも仲良しね」
「「良いわけないだろ!」」
このやり取りも懐かしい。
ここに引っ越してから、毎日使用人の服を着ている二人。
その甲斐があったようだ。
「ふふふ、どうやら上手く引っかかってくれたみたいよ」
「そうか! もうメイド服が嫌いになってたんだよ」
「それとね、使役師ニルス・ハンスの他にもう一人、ロヴィチ・ヴァトフという男がいることも分かったわ」
「ロヴィチ・ヴァトフ? 聞いたことがあるような……」
「この男も騎士団が潰した組織にいたわ。壊し屋という異名を持つ大男よ」
「壊し屋……。あ! 思い出した! 壊し屋ロヴィチ。昔、帝国の賭博場で大暴れして、店員も客も皆殺しにしたヤツだ!」
「ニルス・ハンスとロヴィチ・ヴァトフの二人が主犯と見て間違いないわ。それと、六人ほどの小さな盗賊団も雇ったようね。襲撃の際には使い捨てで起用してくるでしょう」
「やっと来るか。ここまで長かったな」
「あなたたちが毎日使用人のフリをしてくれたおかげよ。ふふふ」
そして、もう一つの報告も二人に伝えた。
「研究機関に依頼していた分析の最終結果も出たわよ。さらにシーク・ド・トロイの詳細も送ってくれたわ」
◇◇◇
分析結果
砂潜竜と、そのネームドであるシーク・ド・トロイの粘液は全く同じ成分であった。
サンキロスの粘液に、特定の素材を配合することで粘着質の中和に成功。
中和液を塗った物質は、サンキロスの粘着力を無効化する。
◇◇◇
シーク・ド・トロイ
Cランクモンスター砂潜竜の固有名保有特異種。
名前の意味は見えない侵入者。
体長約四メデルト。
周囲の景色と同じ色に変化させる皮膚を持つ。
また、全身から分泌する特殊な体液の反射を利用して擬態し、周囲と完全に同化するため、人間の目で発見は不可能。
擬態が可能なため、通常種のように砂に潜ることはない。
体長の五倍もある伸びる舌で獲物を狩る。
舌の粘液は、通常個体のサンキロスより分泌量が多く、高い粘着力を誇る。
粘液は手足からも分泌可能なため、岩壁や大木も登ることができる。
建物であれば天井を歩くことも可能。
獲物を体内に飲み込むと、外から見えなくなる。
突然目の前から消える現象はシーク・ド・トロイに捕獲された可能性が高い。
出現を認識することができず目撃数が著しく少ない。
そのため、幻のネームドと呼ばれている。
◇◇◇
リマが書類に目を落とす。
「なるほど。王の一撃は飲み込んで盗んだのか」
「ええ、そうでしょうね」
「粘着を無効化する中和液もあるのか。いくら見えないシーク・ド・トロイでも、これだけ情報が揃って準備すりゃ余裕だろ?」
「そうね。油断は禁物だけど、討伐方法はもう思い浮かんでるわ」
そして、手紙に書いてあったことをリマに伝える。
「実際にサンキロスを捕獲して粘液を分析したそうよ。それで大量の中和液を作ることができたみたいね。ビックリしたのが、捕獲はアルに依頼したんだって。手紙にアル・パートが捕獲したって書いてあるもの」
「あの子、もう何でもありだな」
「ふふふ。アルが元気そうで良かったわ」
ソファーに座り腕を組んでいるウィル。
「詳細は分かったよ。で、レイさん。いつ来るんだ? さすがにもう使用人の真似事はゴメンだよ?」
「そうね。恐らく次の新月に来ると思うわ」
「了解。準備するよ」
私たちは全員で迎撃の準備に取りかかった。
作戦の一環で、屋敷を借りることにした。
「こ、これはこれは、レイ・ステラー様。まさか当店へお越しいただけるとは……」
「知っての通り、私は騎士団を引退しました。静かな場所でゆっくりと過ごしたいので、小さな屋敷をお借りしたい。できれば周りに家がない場所でお願いします」
「承知いたしました。ちょうど郊外の湖畔にある中規模の屋敷が空いてます。周囲は湖と森だけ。最高の環境です」
「いいですわね。その屋敷の詳細を教えて下さい」
本来、元とはいえ騎士団団長が自ら家を借りる手続きなんてするはずがない。
しかし、ここは黒い噂が立つような不動産屋だった。
私が来たことで、店主は私を最大限利用しようと目論んでいるだろう。
過剰な欲は目を曇らせる。
恐らく騎士団と繋がりたいと思っているはずだ。
店主の打算的で、卑しく笑う表情が物語っている。
騎士団との繋がりは諦めさせて、私個人に狙いを持ってくるように誘導する。
出された紅茶も飲む振りをする。
普段なら、信用できない者が出したものを口にすることはない。
「私は完全に騎士団と関係を断っています。それもあり、自ら屋敷を探しているんです。お恥ずかしい限りですわ。ふふふ」
「さ、左様でございましたか。ご安心ください。私はレイ・ステラー様に素晴らしいお屋敷を仲介するだけです」
「まあ、ありがとうございます。頼りにしていますわ」
「ただし、このお屋敷の仲介はそれなりにかかるかと。仲介料は最低でも金貨五十枚はいただくことになるでしょう」
「分かりました。用意しておきますわ。今後ともよろしくお願いいたします」
◇◇◇
レイが店から出ると、店主はレイが座った椅子に移動。
中年太りの肥えた腹を擦る。
「ちっ、使えんな。騎士団と繋がれると思ったのだが」
そして、レイが座った椅子の匂いを嗅ぐ。
「それにしても、引っ越しで金貨五十枚もかかるわけがなかろう。元団長様は世間知らずだな。もっとぼったくってやるわ。レイ・ステラーが住んでるという情報も売れるだろう」
店主はレイが使った紅茶カップに口をつける。
「しかし信じられないほどの美人だった。遠巻きに見たことはあったが、あれほどとは。あの目は儂を信用したようだし、今後も仲良くしたいものだ。グフフフ」
店主はレイで一儲けできると下衆な笑い声を上げながら、レイが口をつけた部分を舐め回した。
◇◇◇
その後も私は何度か不動産屋へ行き、王都郊外の湖畔にある中規模の屋敷を借りた。
契約金や前家賃などで金貨八十枚を支払う。
完全に違法な高額請求なのは分かっている。
だが、これほどの高額な資金を使うのも、相手を油断させ信じ込ませるためだ。
あの不動産屋は叩けば埃しか出ないだろう。
全てが片付いたら即逮捕し、資金は回収する。
数日後、私の宿でリマとミーティングを行う。
「レイ自ら不動産屋で借りるとはな。お疲れ様」
「もう、あの不動産屋の店主の目といったら。何度も殺意が沸いたわよ」
「フハハハ。よく我慢したな」
「もちろんよ。あの男、噂通り色々と使えそうだもの。それとなくニセの情報を流しておいたから、こちらの思惑通り動くわ」
「レイという超美味しいな餌だからな。簡単に食いつくだろうさ」
「あの不動産屋は相当汚いこともやってるわ。全てが終わったら摘発してね」
「利用するだけしといて捨てるのか。相変わらず恐ろしいな」
「変な言い方しないでよ! もう」
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今回は失敗が許されない。
私を狙う隙を与え、たった一度のチャンスで全てを片付ける。
ウグマを出発して、三ヶ月が経っていた。
季節はもう夏の終わりだ。
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客層のガラは悪く、時折怒号が飛ぶ店内。
バーカウンターで酒を飲む男二人の姿があった。
大男ロヴィチと使役師ニルスだ。
「ニルスよ。レイ・ステラーの居所は掴めたのか?」
「ああ。王都の高級宿に滞在していたが、一ヶ月前に王都郊外にある湖畔の屋敷に引っ越した。どうやら定住するようだ。アル・パートとは完全に別れたな。間取り図も手に入れたから、この屋敷を狙うぞ」
「屋敷には何人住んでるんだ?」
「若い使用人が二人。合計三人で住んでる。それと狼牙もいる」
「厄介なのはレイ・ステラーと狼牙か」
「そうだな。だが、もしかしたら使用人もある程度腕が立つかもしれん。なにせ元団長の家だ。いくら治安が良い王都でも、それなりに警備はしてるだろう」
「分かった。用心しよう」
「それに向こうもこちらの調査をしている。俺の予想だと、騎士団は隊長暗殺の調査をレイ・ステラーに任せたな」
「それは厄介だな」
「だが、俺たちの存在には気付いてない」
「そりゃそうだろ。シーク・ド・トロイがバレるわけない。見えない侵入者だぞ」
「もちろんだ。俺はシーク・ド・トロイの捕獲作戦に参加したが、姿が見えないことでかなりの犠牲者を出した。捕獲は奇跡と言われたほどだからな」
シーク・ド・トロイの強さはネームドの中で下位に位置する。
しかし、姿を消すというその特殊過ぎる能力で、圧倒的な被害を出していた。
「ちなみにニルスよ。シーク・ド・トロイ以外のモンスターの使役は無理なのか?」
「厳しいな。ネームド一頭で手一杯だ。だからレイ・ステラーは俺が捕獲する。他は全てお前に任せるぞ? 壊し屋ロヴィチ」
「任せろ。狼牙と使用人二人なんて簡単だ。この剣があるしな」
ロヴィチの腰には王の一撃があった。
「襲撃用に駒を雇うか?」
「雇いはしないが、盗賊団にダミーの盗難依頼を出す」
「これで万全だな。ドワッハッハ」
「来月の新月に決行する。レイ・ステラーを捕獲して本部へ凱旋だ。くっくっく」
ニルスとロヴィチは、自らの明るい未来に祝杯を上げた。
◇◇◇
私が屋敷に引っ越して一ヶ月。
ウグマを出発して四ヶ月が経過していた。
じっくり時間をかけ、不自然な点がないように、こちらの動きを掴ませている。
そこへ盗賊団を雇った男がいるという情報が入った。
どうやら雇い主はニルスのようだ。
そろそろ私を狙って来る頃だろう。
私がギルドから帰宅すると、リマとウィルがリビングでケンカをしていた。
「ウィル君。紅茶を淹れてくれたまえ」
「ふざけんなリマ!」
「オマエは使用人だろう?」
「リマだってメイドだろ! しかも全く似合ってねーし! そんな筋肉質なメイドいないっつーの!」
「う、うるせー!」
「飯だってレイさんが作ってくれてるじゃねーか!」
「アタシは料理できないんだよ!」
面白いから見ていたが、そろそろ仲裁に入ろう。
「二人とも使用人の服は似合ってるわよ?」
「クソ! メイド服なんて任務じゃなきゃ着ねーわ!」
「そうだ! 執事服なんて窮屈過ぎる!」
「ふふふ、二人とも仲良しね」
「「良いわけないだろ!」」
このやり取りも懐かしい。
ここに引っ越してから、毎日使用人の服を着ている二人。
その甲斐があったようだ。
「ふふふ、どうやら上手く引っかかってくれたみたいよ」
「そうか! もうメイド服が嫌いになってたんだよ」
「それとね、使役師ニルス・ハンスの他にもう一人、ロヴィチ・ヴァトフという男がいることも分かったわ」
「ロヴィチ・ヴァトフ? 聞いたことがあるような……」
「この男も騎士団が潰した組織にいたわ。壊し屋という異名を持つ大男よ」
「壊し屋……。あ! 思い出した! 壊し屋ロヴィチ。昔、帝国の賭博場で大暴れして、店員も客も皆殺しにしたヤツだ!」
「ニルス・ハンスとロヴィチ・ヴァトフの二人が主犯と見て間違いないわ。それと、六人ほどの小さな盗賊団も雇ったようね。襲撃の際には使い捨てで起用してくるでしょう」
「やっと来るか。ここまで長かったな」
「あなたたちが毎日使用人のフリをしてくれたおかげよ。ふふふ」
そして、もう一つの報告も二人に伝えた。
「研究機関に依頼していた分析の最終結果も出たわよ。さらにシーク・ド・トロイの詳細も送ってくれたわ」
◇◇◇
分析結果
砂潜竜と、そのネームドであるシーク・ド・トロイの粘液は全く同じ成分であった。
サンキロスの粘液に、特定の素材を配合することで粘着質の中和に成功。
中和液を塗った物質は、サンキロスの粘着力を無効化する。
◇◇◇
シーク・ド・トロイ
Cランクモンスター砂潜竜の固有名保有特異種。
名前の意味は見えない侵入者。
体長約四メデルト。
周囲の景色と同じ色に変化させる皮膚を持つ。
また、全身から分泌する特殊な体液の反射を利用して擬態し、周囲と完全に同化するため、人間の目で発見は不可能。
擬態が可能なため、通常種のように砂に潜ることはない。
体長の五倍もある伸びる舌で獲物を狩る。
舌の粘液は、通常個体のサンキロスより分泌量が多く、高い粘着力を誇る。
粘液は手足からも分泌可能なため、岩壁や大木も登ることができる。
建物であれば天井を歩くことも可能。
獲物を体内に飲み込むと、外から見えなくなる。
突然目の前から消える現象はシーク・ド・トロイに捕獲された可能性が高い。
出現を認識することができず目撃数が著しく少ない。
そのため、幻のネームドと呼ばれている。
◇◇◇
リマが書類に目を落とす。
「なるほど。王の一撃は飲み込んで盗んだのか」
「ええ、そうでしょうね」
「粘着を無効化する中和液もあるのか。いくら見えないシーク・ド・トロイでも、これだけ情報が揃って準備すりゃ余裕だろ?」
「そうね。油断は禁物だけど、討伐方法はもう思い浮かんでるわ」
そして、手紙に書いてあったことをリマに伝える。
「実際にサンキロスを捕獲して粘液を分析したそうよ。それで大量の中和液を作ることができたみたいね。ビックリしたのが、捕獲はアルに依頼したんだって。手紙にアル・パートが捕獲したって書いてあるもの」
「あの子、もう何でもありだな」
「ふふふ。アルが元気そうで良かったわ」
ソファーに座り腕を組んでいるウィル。
「詳細は分かったよ。で、レイさん。いつ来るんだ? さすがにもう使用人の真似事はゴメンだよ?」
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