鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第七章

第115話 暗殺の目的

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 話題が一段落したところで、七番隊隊長アリナ・レンデが挙手した。

王の一撃ヴァリクス盗難に関しては分かりました。しかし警備担当だったリマの責任はどうなるんですか? リマは一応団長代理ですよ?」

 ジル・ダズがアリナに目線を向ける。

「その件ですが、ヴィクトリア女王陛下とリマ本人とも話し合いました。リマへの命令はヴァリクス奪還。それまでの間、近衛隊隊長を剥奪とします」

 私は感心した。
 責任を取らせるように見せかけながら、リマを自由に行動させるつもりだろう。

「私も行く!」
「そうだ! 我々もリマと一緒に行動する!」

 何人かの若い隊長たちが声を上げた。
 その言葉をジル・ダズが制する。

「却下します。皆様は隊長の通常職務がありますし、ピーター隊長が亡くなり三番隊の再編成もあります。前陛下が崩御されて以来、依然として国際状況は不安定です。これ以上騎士団から人員を裂くことができません。ですので、二人に行動していただきます」
「二人?」
「まさか、レイ様か!」
「レイ様を何だと思ってる!」

 若い隊長たちの怒号が飛んだ。
 私はこうなることを予想していたし、元々そのつもりだった。
 隊長全員を見渡す。

「皆聞きなさい。私はリマと二人で王の一撃ヴァリクスを奪還する。新組織も暴く。ピーターの仇も討つ。そうすればリマも近衛隊隊長に戻る。私とリマはジョンアー陛下に拾われた身。陛下には恩しかないもの。これが私の最後の奉公よ」

 若い隊長たちが立ち上がる。

「最後なんて言わないでください!」
「戻ってきてください!」
「皆様静粛に!」

 司会役のシャル・ウッドが声を上げた。

「ヴァリクス奪還と暗殺の件は、レイ様とリマに対応していただきます。異論は認めません。続いて次期騎士団団長についてです。今回は投票制ではありません。騎士団の意見を元に、女王陛下にお決めいただきます」

 話し合いが始まった。

「今の状況では、やはりジル・ダズが最良かと」
「ハウ様の団長はどうか?」
「レイ様の復帰はないのですか?」
「そうだ! やはりレイ様が必要だ」

 私の名前も上がったので、思わず苦笑いしてしまった。

「ありがとう。でも私の復帰はないわ」
「そ、そんな。それでは本格的に冒険者に戻られるのですか? 騎士団に戻ってきてくださると思っていたのに」

 気持ちは嬉しいが、私が騎士団に戻ることはない。
 その後もしばらく討論が続き、ヴィクトリアが決定を下す時間となった。

「新団長はジル・ダズとします。皆もジル・ダズの能力には納得できるでしょう。その調査能力や分析力、洞察力を遺憾なく発揮して、騎士団をより良い方向へ導いてください。叙勲式は明日行います」
「ハッ! ありがたき幸せ!」

 あれほど団長を拒否していたジル・ダズがすんなりと受け入れた。
 恐らくヴィクトリアやハウたちと話し合い、事前に了承していたのだろう。
 全ての事柄が決定し、隊長会議は無事終了。

 翌日、ジル・ダズの団長就任を正式に発表。
 隊長が空席となった近衛隊、三番隊には別の隊長が代理として就任。
 全てが解決したら、新しい隊長を任命する予定だ。

 そして、ジル・ダズの団長叙任式が行われた。

 これで騎士団公式行事は終了。
 各地方の隊長は明日帰還するため、私は隊長たちに食事会を提案した。

 ――

 叙任式のあと、私は団長室でジル・ダズに引き継ぎを行う。

「ねえ、私はもう退団してるんだけど? なぜ私が引き継ぎしなければならないの?」
「お言葉ですがレイ様。リマから引き継ぐよりも、レイ様から引き継いだ方が確実なのです」
「まあ確かにそうね。団長代理って、常に王都にいる近衛隊隊長が就任するのが通例だものね。リマはやりたくなかったでしょう。まったく……最初からジル・ダズが引き受けていれば良かったのよ」
「私も色々と事情というものがあるのです。しかし、拝命したからには全力で取り組みます」
「……そう願うわ」

 その日の夜は、騎士団御用達のレストランを貸し切った。
 ピーターの献杯を行い、彼を偲ぶ。
 そして、久しぶりに隊長たちとたくさん話す。
 悲しくも楽しい食事会となった。

「各地方の隊長は明日帰還でしょ? 見送らせてね」

 私は笑顔で皆の顔を見回した。

「これがレイ様と最後のような感じだな……」
「不吉なことを言うな!」
「というか、レイ様が優しくなっている……」
「あの氷のレイ様が、これほどおしとやかになられるとは」
「まだ二十歳そこそこなのに、迫力は騎士団一だったレイ様が?」
「レイは隊長の中で最も若いからな。若人は変わっていくものだ」
「まさか、レイ! アンタ恋して変わったのか?」

 皆好き勝手言っているけど、悪い気はしない。

「もう、あなたたち好き勝手言い過ぎよ?」
「し、失礼いたしました!」

 何人かは泣いていた。
 私もこの騎士団は本当に愛着がある。
 しかし、私はアルと冒険者の道へ進むと決心していた。

 ふと最後に、新団長であるジル・ダズへ伝えることを思い出す。

「そうそう、大切な引き継ぎを忘れてたわ。隊長の食事会は団長が全て支払うのよ?」
「グッ、分かっております」
「ふふふ、ごちそうさまでした。ジル・ダズ新団長」

 ◇◇◇

 レイたち隊長が食事会をしているレストランから、約五キデルトほど離れた区画の安い酒場。
 店の一番奥のテーブル席に、二人の男が座っている。

 以前、レイたちが霧大蝮ネーベルバイパーを討伐した時に監視していた二人組みだ。

 小柄の男ニルス・ハンスと、筋肉質な大男ロヴィチ・ヴァトフ。
 実はこの者たちが王の一撃ヴァリクスを盗み、三番隊隊長ピーター・バルスを暗殺したのだった。

「ニルスよ。三番隊隊長の暗殺は上手く行ったな」
「そうだな。これで懸賞金金貨二百枚ゲットだぜ。くっくっくっ」
「しかも近衛隊隊長まで追い出すことができたぞ。リマって言ったっけ? 俺らのせいなのに。かわいそうだぜ。ドワッハッハ」

 二人は麦酒で祝杯を上げる。
 麦酒を一気に飲み干したロヴィチ。

「くうう。良い仕事をすると酒がうめーぜ。それにしても、まさか本国からネームドを貸してもらえるとは思わなかったぞ」
「ああ、霧大蝮ネーベルバイパーと違って、シーク・ド・トロイは扱いやすいぜ。くっくっくっ」

 ニルス・ハンスはモンスターを使役する使役師だった。
 それもネームドを使役するほどの腕を持っている。

「そうだロヴィチ。さっき情報屋から仕入れたが、どうやらレイ・ステラーが王都にいるらしいぞ」
「なに! レイ・ステラーだと! とっくに騎士団を退団しただろ?」
「そうだと思ってたんだがよ。ネーベルバイパーの時もそうだったが、やはり騎士団との繋がりが残っていると考えるべきだな」
「どうする?」
「……チャンスだな」
「どういうことだ?」
「どうやら例の満点男はいないらしい。アル・パートって名前の冒険者だ」
「アル・パート? 聞いたことが……。もしかして、ネームドを二頭討伐したっていう化け物か?」
「そうだ。レイ・ステラーのパートナーらしいんだが、そのアル・パートは今も帝国で冒険者をやってるらしい」
「そうか! では今はレイ・ステラーだけか!」
「狼牙も一緒にいるようだが、これを逃す手はない。当初の目的である隊長格の暗殺と、さらにレイ・ステラーも殺れるぞ!」
「うおおお! 積年の恨みを晴らす!」
「あの綺麗な顔をグチャグチャに切り刻める時が来たぜ。くっくっくっ」
「隊長格の懸賞金は金貨二百枚だが、レイ・ステラーは金貨二千枚だぞ! ドワッハッハ」
「いや、待て。そういえばレイ・ステラーって、生きたままだと懸賞金は倍だったはずだ」
「おっと、そうだった。あの容姿だしな。だからあの顔はそのままにしておけよ」
「分かったよ。くっくっくっ」
「これで俺たちは幹部に抜擢だ! レイ・ステラーを捕まえたら俺たちの未来は明るい! ドワッハッハ」
「そうだな。それに前の組織を潰された恨みも晴らせるしな。くっくっくっ」

 この二人が王の一撃ヴァリクスを盗んだ理由は、シーク・ド・トロイの能力を試すこと。
 そして、これまで苦汁をなめさせられた騎士団の名誉を傷付け、混乱に乗じて隊長格の暗殺が目的だった。

 そこへレイ・ステラーの誘拐も加わった。
 さらにニルスは、ロヴィチに向かって恐ろしいことを告げるのだった。

「隊長各はあと一人か二人は殺ってもいいな」

 ネーベルバイパーを討伐され、王国進出に失敗し組織内の立場が危うくなった二人。
 挽回すべく、一気に手柄を立てるつもりだ。

 ◇◇◇
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