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第六章
第107話 手をとりあって
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大挟甲蟹の狩猟から数日が経ち、祭り当日。
俺はオルフェリアと一緒に祭りに来ていた。
二人で広場を歩く。
「まさか、ここがクエスト基地になるとは思いませんでした」
「そうだね。俺らのパーティーは異質だったから、人目につかないここを集合場所にしたのにね」
「ええ。それが今や冒険者様と解体師と運び屋で、パーティーを組むことが当然になりましたからね」
「オルフェリアやトーマス兄弟が一緒に行ってくれたおかげだよ」
「違いますよ。全てアルのおかげですよ。フフ」
冒険者に忌み嫌われていた解体師と運び屋たち。
それが今では冒険者とパーティーを組み、この場所からクエストへ出発するのが通例となった。
会場にいるギルド支部長のリチャードが俺たちに気付いた。
笑顔でこちらに歩いてくる。
「アルよ、お前はついにギルドのルールも変えたぞ」
「どういうことですか?」
「解体師と運び屋をパーティーに入れた場合、彼らの費用はギルド負担ではなく、クエスト報酬に含まれることになった」
「そうなんですか!」
「ああ、報酬は冒険者と折半が主流となるだろう。もちろんクエスト失敗時は報酬が支払われない。解体師と運び屋にとってリスクは上がるが、それでも収入は格段と上がるはずだ」
リチャードはさらに説明を続けた。
「それとな、解体師と運び屋もランク制になることが正式に決定した。これはまずウグマ支部だけだが、しっかりと時間をかけて帝国内に浸透させ、ゆくゆくは世界の冒険者ギルドへ広げていく」
「ということは……」
「うむ。つまりだな、解体師と運び屋の地位が冒険者と同じになったんだ! 本当に凄いことだ!」
「つ、ついに! オルフェリアの夢だった解体師と運び屋の地位向上の夢が叶ったんですね!」
リチャードはオルフェリアの顔を見た。
「オルフェリア、君の解体技術の高さや、研究機関で講師をやってくれた影響もあるんだ。ありがとう」
「そ、そんな。私なんて……。で、でも嬉しいです」
オルフェリアが涙ぐんでいる。
「ちなみにな、オルフェリアはもうすでにAランクが決まっているぞ」
「そうなんですか!」
俺は思わず大声を出してしまった。
「もちろんだ。解体学の講師をしているんだぞ? しかもこれはシグ・セブン局長ジョージ・ウォーター氏の推薦だ。わっはっは」
「オルフェリア! 凄いじゃないか!」
オルフェリアは涙を流して喜んでいる。
言葉も出ないようだ。
俺も本当に嬉しい。
しばらくしてリチャードは祭り会場の中心地へ行き、演説を始めた。
「皆、聞いてくれ。今日はこの場所で発表がある!」
ざわつく広場。
「すでに解体師や運び屋とパーティーを組んでいる者もいるかと思うが、ついに解体師や運び屋にランク制が導入されることになった!」
会場から歓声が上がる。
「まずはウグマ支部から始める! 我々ウグマ支部が冒険者ギルドの歴史を変えるんだ!」
大きな歓声が上がり、会場の熱気がピークに達した。
「そして! その全てを作ったのがアル・パートだ! この基地もアル・パートのおかげで作ることができた! よってここをパート基地と名付ける!」
それを聞いたオルフェリアが歓喜の表情を浮かべる。
「アルの名前がつきましたよ!」
「ちょっ、こ、困るよ」
「フフ、凄いですね」
大歓声の中、リチャードは熱い演説を続けていた。
そろそろ演説の締めに入りそうだ。
「今日はアル・パートが狩猟したアキュラータで祝うぞ! 大量にあるから好きなだけ食べてくれ! ウグマ支部の発展に乾杯!」
「乾杯!」
乾杯の大合唱が起こった。
広場の中央では、大鍋で調理されたアキュラータの蟹鍋が振る舞わている。
俺はたくさんの人が食べている姿を見て感動していた。
その時、俺に気付いた冒険者たちが騒ぎ始める。
「アル・パートがいるぞ!」
「アルさん! 話を聞かせてください!」
「ファンです! サインください!」
俺は囲まれてしまい質問攻めに合う。
ネームド討伐の話や、アキュラータ討伐方法など色々と聞かれた。
しかし、俺の討伐方法はどれも参考にならないのだが……。
しばらくして落ち着いたところで、オルフェリアが蟹鍋を持ってきてくれた。
「フフ。お疲れ様です。有名人も大変ですね」
「ちょっと! やめてよ!」
オルフェリアから受け取った熱々の蟹鍋。
俺は恐る恐る口にする。
「美味い! オルフェリア! アキュラータってメチャクチャ美味しいね!」
「ええ。秋のアキュラータは本当に美味しいのですよ。それに、アルの仕留め方がよかったのです。下手な人が締めると味が落ちるんですよねえ。困ったものです」
「オルフェリアって料理に厳しいよね」
「え? もちろんですよ。食事は身体を作る上でとても大切ですから」
「確かに。クエスト中にオルフェリアが作ってくれる料理は本当に美味しいもんね」
「フフ、美味しいものを食べればクエストもスムーズに進みますもの」
「そうだね。これからも頼むよ!」
「もちろんです!」
広場ではどこから噂を聞きつけたのか、大道芸人も来ていた。
蟹鍋の行列は途切れず、祭りはまだまだこれからといった様子だ。
冒険者、解体師、運び屋、ギルド関係者、みんなが一緒に祭りを楽しんでいる。
少し前まで差別されていた職業だった解体師や運び屋。
差別の根本を辿れば、くだらない嫉妬や妬みだった。
それが噂になり、共通認識となり、長い年数をかけて取り返しのつかない負の伝統となってしまった。
しかし、冒険者にとって必要な職業だし、本来は尊敬の念を持って接するべき人たちだ。
何かのきっかけで手を取りあえば分かりあえるはずだった。
リチャードやオルフェリアは、そのきっかけを作ったのは俺と言うがそうではない。
差別されながらも、腐らず一生懸命技術を磨いてきたオルフェリアやトーマス兄弟のような素晴らしい職人がいたからだ。
失ったものは取り返せないが、新たな伝統を築き上げていくことは可能だ。
この新しい関係性が世界中のギルドに広がって行くことを切に願う。
「レイとエルウッドは元気かな……」
この光景を眺めながら、レイとエルウッドのことが頭に浮かんだ。
レイがイーセ王国に出発してから半年以上経過している。
俺は、レイにもこの光景を見て欲しいと考えていた。
「アル! また蟹鍋ありますよ!」
「え? ああ! まだ食べるよ!」
「フフ。祭りはまだまだこれからですよ!」
オルフェリアに誘われ、俺は祭り会場の中心地に入っていった。
俺はオルフェリアと一緒に祭りに来ていた。
二人で広場を歩く。
「まさか、ここがクエスト基地になるとは思いませんでした」
「そうだね。俺らのパーティーは異質だったから、人目につかないここを集合場所にしたのにね」
「ええ。それが今や冒険者様と解体師と運び屋で、パーティーを組むことが当然になりましたからね」
「オルフェリアやトーマス兄弟が一緒に行ってくれたおかげだよ」
「違いますよ。全てアルのおかげですよ。フフ」
冒険者に忌み嫌われていた解体師と運び屋たち。
それが今では冒険者とパーティーを組み、この場所からクエストへ出発するのが通例となった。
会場にいるギルド支部長のリチャードが俺たちに気付いた。
笑顔でこちらに歩いてくる。
「アルよ、お前はついにギルドのルールも変えたぞ」
「どういうことですか?」
「解体師と運び屋をパーティーに入れた場合、彼らの費用はギルド負担ではなく、クエスト報酬に含まれることになった」
「そうなんですか!」
「ああ、報酬は冒険者と折半が主流となるだろう。もちろんクエスト失敗時は報酬が支払われない。解体師と運び屋にとってリスクは上がるが、それでも収入は格段と上がるはずだ」
リチャードはさらに説明を続けた。
「それとな、解体師と運び屋もランク制になることが正式に決定した。これはまずウグマ支部だけだが、しっかりと時間をかけて帝国内に浸透させ、ゆくゆくは世界の冒険者ギルドへ広げていく」
「ということは……」
「うむ。つまりだな、解体師と運び屋の地位が冒険者と同じになったんだ! 本当に凄いことだ!」
「つ、ついに! オルフェリアの夢だった解体師と運び屋の地位向上の夢が叶ったんですね!」
リチャードはオルフェリアの顔を見た。
「オルフェリア、君の解体技術の高さや、研究機関で講師をやってくれた影響もあるんだ。ありがとう」
「そ、そんな。私なんて……。で、でも嬉しいです」
オルフェリアが涙ぐんでいる。
「ちなみにな、オルフェリアはもうすでにAランクが決まっているぞ」
「そうなんですか!」
俺は思わず大声を出してしまった。
「もちろんだ。解体学の講師をしているんだぞ? しかもこれはシグ・セブン局長ジョージ・ウォーター氏の推薦だ。わっはっは」
「オルフェリア! 凄いじゃないか!」
オルフェリアは涙を流して喜んでいる。
言葉も出ないようだ。
俺も本当に嬉しい。
しばらくしてリチャードは祭り会場の中心地へ行き、演説を始めた。
「皆、聞いてくれ。今日はこの場所で発表がある!」
ざわつく広場。
「すでに解体師や運び屋とパーティーを組んでいる者もいるかと思うが、ついに解体師や運び屋にランク制が導入されることになった!」
会場から歓声が上がる。
「まずはウグマ支部から始める! 我々ウグマ支部が冒険者ギルドの歴史を変えるんだ!」
大きな歓声が上がり、会場の熱気がピークに達した。
「そして! その全てを作ったのがアル・パートだ! この基地もアル・パートのおかげで作ることができた! よってここをパート基地と名付ける!」
それを聞いたオルフェリアが歓喜の表情を浮かべる。
「アルの名前がつきましたよ!」
「ちょっ、こ、困るよ」
「フフ、凄いですね」
大歓声の中、リチャードは熱い演説を続けていた。
そろそろ演説の締めに入りそうだ。
「今日はアル・パートが狩猟したアキュラータで祝うぞ! 大量にあるから好きなだけ食べてくれ! ウグマ支部の発展に乾杯!」
「乾杯!」
乾杯の大合唱が起こった。
広場の中央では、大鍋で調理されたアキュラータの蟹鍋が振る舞わている。
俺はたくさんの人が食べている姿を見て感動していた。
その時、俺に気付いた冒険者たちが騒ぎ始める。
「アル・パートがいるぞ!」
「アルさん! 話を聞かせてください!」
「ファンです! サインください!」
俺は囲まれてしまい質問攻めに合う。
ネームド討伐の話や、アキュラータ討伐方法など色々と聞かれた。
しかし、俺の討伐方法はどれも参考にならないのだが……。
しばらくして落ち着いたところで、オルフェリアが蟹鍋を持ってきてくれた。
「フフ。お疲れ様です。有名人も大変ですね」
「ちょっと! やめてよ!」
オルフェリアから受け取った熱々の蟹鍋。
俺は恐る恐る口にする。
「美味い! オルフェリア! アキュラータってメチャクチャ美味しいね!」
「ええ。秋のアキュラータは本当に美味しいのですよ。それに、アルの仕留め方がよかったのです。下手な人が締めると味が落ちるんですよねえ。困ったものです」
「オルフェリアって料理に厳しいよね」
「え? もちろんですよ。食事は身体を作る上でとても大切ですから」
「確かに。クエスト中にオルフェリアが作ってくれる料理は本当に美味しいもんね」
「フフ、美味しいものを食べればクエストもスムーズに進みますもの」
「そうだね。これからも頼むよ!」
「もちろんです!」
広場ではどこから噂を聞きつけたのか、大道芸人も来ていた。
蟹鍋の行列は途切れず、祭りはまだまだこれからといった様子だ。
冒険者、解体師、運び屋、ギルド関係者、みんなが一緒に祭りを楽しんでいる。
少し前まで差別されていた職業だった解体師や運び屋。
差別の根本を辿れば、くだらない嫉妬や妬みだった。
それが噂になり、共通認識となり、長い年数をかけて取り返しのつかない負の伝統となってしまった。
しかし、冒険者にとって必要な職業だし、本来は尊敬の念を持って接するべき人たちだ。
何かのきっかけで手を取りあえば分かりあえるはずだった。
リチャードやオルフェリアは、そのきっかけを作ったのは俺と言うがそうではない。
差別されながらも、腐らず一生懸命技術を磨いてきたオルフェリアやトーマス兄弟のような素晴らしい職人がいたからだ。
失ったものは取り返せないが、新たな伝統を築き上げていくことは可能だ。
この新しい関係性が世界中のギルドに広がって行くことを切に願う。
「レイとエルウッドは元気かな……」
この光景を眺めながら、レイとエルウッドのことが頭に浮かんだ。
レイがイーセ王国に出発してから半年以上経過している。
俺は、レイにもこの光景を見て欲しいと考えていた。
「アル! また蟹鍋ありますよ!」
「え? ああ! まだ食べるよ!」
「フフ。祭りはまだまだこれからですよ!」
オルフェリアに誘われ、俺は祭り会場の中心地に入っていった。
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