鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第六章

第101話 捕獲

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 王鰐ルクコスはゆっくりと陸に上がってきた。
 体長は約八メデルトほどで、ルクコスの中では比較的小さい。
 恐らくまだ若い個体のようだ。

 全身が水面から出てきた瞬間、餌である甲犀獣ケラモウムに飛びかかってきた。
 驚くほどの瞬発力だ。
 ケラモウムに噛み付くと一気に身体を回転。

死の輪舞曲デスロンドだ!」

 デスロンドの凄まじい回転力で、鉄と同じ硬度の鱗を持つケラモウムの身体が一瞬にしてちぎれた。
 そのまま鱗や骨を簡単に噛み砕き、飲み込んでいく。
 爬類最強と言われているこの咬合力は危険過ぎだ。

 ケラモウムを食べ終わったら、次は生きた餌である俺に襲いかかってくるだろう。
 しかし、俺はふと気付いた。

「これって、俺に襲いかかるまで待つ必要はないよな……。ハハ」

 当たり前のことに気付いて少し恥ずかしくなった。

 ルクコスのあまりの無防備さに、つい呆気にとられたがこれはチャンスだ。
 目の前にいる人間なんて、いつでも食べることができると思っているのだろう。
 この個体は人間を舐めている。

 ルクコスの鱗は、モンスターの分類上、最強と呼ばれる竜骨型に匹敵するほど硬い。
 しかし俺の黒爪の剣レリクスは硬度九。
 竜骨型の鱗ですら貫くだろう。
 顎を剣で刺し、地面に縫い付ければ、危険は噛みつきや死の輪舞曲デスロンドは避けられるはずだ。

 俺は斜め上段から下段に向けて、レイ直伝の神速と呼ばれる突きを放つ。
 ケラモウムを貪るルクコスは、俺の剣を避けようともしない。
 硬い鱗に守られている故の傲慢な自信と油断だろう。

 ルクコスの不幸は、俺の剣がこの世に二つとない性能を誇るものだったことだ。
 ルクコスの自信を砕くように、黒爪の剣レリクスは上顎を突き抜け、下顎を貫き、地面に突き刺さる。

「グゴォォォ!」

  剣は顎ごと地面に突き刺さっているため、閉じた口の隙間から唸り声が漏れる。
 ルクコスの咬合力は強いものの、逆に口を開く力は非常に弱い。
 そのため、死の輪舞曲デスロンドで身体ごと回転し、突き刺さった剣を引き抜くつもりだ。
 そうはさせまいと俺は剣から手を放し、素早く顎に覆いかぶさり、両腕で口を抱え込んだ。

「オルフェリア! ロープだ! ロープを持ってきてくれ!」

 遠くで見ていたオルフェリアが、急いでロープを持ってきてくれた。

「ありがとう。危険だからすぐに下がって」
「アル、何か手伝いますか?」
「大丈夫!」

 ルクコスは何度もデスロンドで逃れようとする。
 俺は回転させまいと、ルクコスの口を全力で抱え込む。
 すると骨が折れる鈍い音が響き、口が変な方向に曲がった。
 ルクコスは全身を使って暴れ回るが、俺は構わず抱え込む。

 骨が折れる音から砕ける音に変わり、ルクコスの口が完全に折れ曲がった。
 さすがのルクコスも動きが鈍くなる。

「グゴボォォォ」

 小さくうめき声を上げるルクコス。

 俺は上顎に全体重を乗せ、口にロープを巻きつけた。
 これで口は完全に塞いだ。
 あとは止めを刺すだけ。

「アル! もし可能であれば、ルクコスを捕獲してください!」

 暴れるルクコスの仕留め方を考えていたところ、オルフェリアの声が聞こえた。

「分かった! やってみるけど、どうすればいい!?」
「ルクコスは口を塞ぎ、裏返すと完全に大人しくなります!」

 俺は死の輪舞曲デスロンドを真似して、ルクコスの身体を回転させることに成功。
 巨体に苦労したが、何度かチャレンジしてようやく裏返すことができた。
 するとルクコスは一気に大人しくなり、手足を折り曲げている。

「両手と両足を縛ってください! さらにその両手足を一緒に縛れば荷台に乗せることができます!」

 俺は言われた通り、まず両手を縛り、次に両足を縛った。
 そして、両手と両足を繋いで縛ると、ルクコスの身体は二つに折れ曲がったかのようにコンパクトになった。

「アル! 凄いです! まさかルクコスの捕獲ができるとは!」
「オルフェリアのおかげだよ。君がいなかったら討伐してた」
「これは研究機関シグ・セブンで喜ばれますよ! ルクコスの生体は貴重なんです。しかもネームドを検討されていたほどの個体です!」

 高ランクモンスターの捕獲は難易度が一気に跳ね上がる。
 生け捕りするよりも、討伐してしまった方が遥かに簡単だからだ。

「討伐クエストで、Aランクモンスターを捕獲することはまずありません。捕獲は本当に難しいのです。これは凄いことですよ」
「まあ、このルクコスはまだ小さかったからね」
「小さいといっても八メデルトもあるルクコスですよ? アルと一緒にいると感覚が狂ってしまいます。フフ」

 オルフェリアが笑っている。

「このルクコスは若いですが、成長したら間違いなくネームドになっていたことでしょう。触ってみたところ鱗の硬さが異常です。あと、飛びつきの瞬発力も爬類のそれを完全に越えていました」
「そうなんだ。無事に捕獲できてよかったよ。オルフェリアのおかげだ」
「何を言ってるんですか! たった一人で捕獲してしまったのに!」

 そこでトーマス兄弟が声をかけてきた。

「アルさん。俺たちもルクコスの生体を運ぶのは初めてです。慎重に運びますので、ご協力をお願いします」
「もちろんです!」

 早々にクエストは終了。
 俺は村長に挨拶をした。

「結果的に捕獲となりましたが、こちらで責任を持って運びます。ご安心ください」
「アル様、ありがとうございます! これで安全に収穫を迎えられます! 本当にありがとうございます!」
「とんでもないです! こちらこそ甲犀獣ケラモウムを提供していただき、ありがとうございました! 収穫がんばってくださいね!」

 俺たちはすぐに農村を出発。
 荷車で宿泊できるので、村に泊まる必要がないからだ。
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