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第六章

第96話 狩猟開始

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 ついに槍豹獣サーべラルの生息地がある森林に入った。

 トーマス兄弟が森の中の開けた場所にキャンプを設営。
 こんな場所を知っているとは、やはり運び屋の土地の知識は凄い。

 俺もすぐに行動開始。

「では、調査に行ってきます」

 俺は一人で調査に出た。
 トーマス兄弟が作ってくれた周辺の地図を見ながら、サーベラルの生息地へ入る。

 そこで早くも痕跡を発見。
 モンスターの大きな骨が落ちていた。
 恐らくサーベラルが食べた残骸だろう。

 そして、近くの大木で大きく抉れた三本の傷を発見。
 間違いなくサーベラルの爪痕だ。
 これは縄張りを示す行為だと、オルフェリアから教わっていた。
 サーベルの生息を確認したので、一旦キャンプへ戻る。

「オルフェリア。サーベラルの痕跡を見つけた。おびき出したいから餌が欲しい」
「分かりました。角大羊メリノを用意してます」

 オルフェリアが用意してくれた角大羊メリノはなかなか大きく、百キルクほどはある。
 それを大きな麻袋に入れ持ち上げた。

「え? 一人で持つんですか?」
「これくらいなら簡単に運べるよ」

 オルフェリアもトーマス兄弟も驚いている。

「じゃあ、行ってくるね」

 俺は麻袋を担いで、改めて痕跡を発見した場所へ向かった。

 袋から角大羊メリノを出し、茂みに隠れる。
 今回は罠を仕掛けず、餌に飛びついてきたらそのまま討伐するつもりだ。
 原始的だが、これが一番早いだろう。
 俺一人なので討伐スピードを重視した。

 しばらくすると、モンスターの気配を察知。

「しまった! 赤頭熊グリーズだ!」

 現れたのはサーベラルではなく、Cランクモンスターのグリーズだった。
 体長は四メデルトほど。
 Cランクとはいえ、場所によっては森の主と呼ばれるほどの恐ろしいモンスターだ。

 人の頭よりも大きい手には五本の鋭い爪がある。
 その爪で攻撃されたら、人間なんて簡単に死ぬだろう。

 グリーズが餌に喰いついてしまった。

「仕方ない……」

 俺はグリーズに向かって走り出し剣を抜く。
 グリーズも俺に気付き、咆吼を上げ、大きな手を振りかぶる。

 構わず剣を振った。
 俺の剣、黒爪の剣レリクスはダーク・ゼム・イクリプスの爪を加工したものだ。
 凄まじい切れ味を誇る。
 それを証明するかのように、グリーズが振り下ろしてきた腕を斬り、そのまま首まで切り落とした。

「この剣は本当に凄いな。片刃の大剣ファラゴンよりも切れるぞ」

 為す術もなくその場で絶命したグリーズ。
 俺は討伐証明となる短い尻尾だけ切り取り、死骸をそのままにした。
 血の匂いもある新鮮なグリーズの方が、サーベラルを呼び寄せることができると思ったからだ。

 俺は再度茂みに隠れる。

 ――

 狩猟クエストは忍耐だ。
 ひたすら待つ。

 だが、サーベラルは現れず、だいぶ日が傾いてきた。
 陽の光が遮られる森の中は暗くなるのが早い。
 これ以上暗くなったら討伐は厳しいだろう。

 一旦キャンプ地へ戻ろうかと思った矢先に、モンスターの気配を感じた。

「これは! サーベラルだ! よし!」

 俺が知っているサーベラルは、漆黒のダーク・ゼム・イクリプスだけだ。
 目の前に現れたのは通常個体のサーベラル。
 黄金色の体毛に黒の斑点がある。
 その毛皮は非常に高値で取引されているらしい。

「初めて見たけど、確かに綺麗な柄だな」

 目の前のサーベラルは体長八メデルトほど。
 まだ若い個体のようだ。

 俺はサーベラルの後方からそっと近付く。
 餌に夢中になっているサーベラルは、こちらに気付いてない様子。
 だが、約十メデルトまで近付くと、さすがにサーベラルも俺に気付く。
 俺の姿を見た瞬間、唸り声を上げて飛びかかってきた。

「ガグォォォォォォォ!」

 さすが最強のAランクモンスターだ。
 一切の躊躇がない。
 モンスターの中でも圧倒的な瞬発力を誇るサーベラルの攻撃は恐ろしく速い。

 だが、ネームドであるダーク・ゼム・イクリプスには遠く及ばない。
 あの速さを体験した俺にとって、このサーベラルの動きは遅く感じる。

 飛びかかってくるサーベラルに向かって、剣を上段から下段へ振り下ろす。
 サーベラルは俺と交差し、そのまま俺の左右を通り過ぎ、地面に滑り落ちた。

 サーベラルは起き上がることができない。
 それもそのはず、俺は飛びかかってきたサーベラルを頭から尻尾まで、真っ二つに斬っていた。

「しまった! 素材鎧に使うんだった!」

 二つに別れたサーベラルの死骸を見つめ、どうしようか悩んでいるとオルフェリアとトーマス兄弟が来た。

 オルフェリアは縦に両断されたサーベラルを見て、声が出ないほど驚いている。

「ごめん、オルフェリア。今回はサーベラルの素材を鎧に使うんだけど、真っ二つに斬ってしまった。これ大丈夫かな?」
「え、ええ。そ、そうですね。鎧なら……大丈夫だと思います」
「そうか、良かった!」

 オルフェリアはすぐさまサーベラルを解体していく。
 凄まじい技術だ。
 俺はオルフェリアの一挙手一投足を見逃さない。

 トーマス兄弟が防腐加工をしながら荷台に積んでいく。
 あっという間に解体と積み込みが完了。

「それではギルドに報告しますね」

 オルフェリアはギルドから貸与されている連絡用の大鋭爪鷹ハーストを飛ばした。

 全てが片付きウグマへ帰還。
 荷台でくつろぐ俺に、オルフェリアが水出しの珈琲を淹れてくれた。

「サーベラルを一瞬で狩猟する人なんて見たことがありません」
「ぐ、偶然だよ」
「サーベラルクラスになると、狩猟は容易ではありません。現地で慎重かつ入念に調査して発見。そこから少しでも自分たちが有利になる場所へ誘導するんです。この誘導が難しいのですが、一流の冒険者様たちはこの誘導が上手いんです。誘導ができたら、役割を決めたパーティーで狩猟というのが一流の冒険者様の狩猟方法です。それでも成功率は六割、良くて七割程度でしょう」
「そ、そうなんだ」
「それをアルは場所なんて関係なく、たった一人で、それも一撃で狩猟してしまう。他の冒険者様から見たら理不尽の塊ですね。フフ」
「いや、あの……」

 オルフェリアが笑っていた。
 モンスターを解体していたとは思えない、とても美しく清楚な笑顔だ。

 俺は今回の狩猟で考えてたことを、オルフェリアに伝えることにした。

「オルフェリア。初めて解体師や運び屋と一緒にクエストへ来たけど、とてもやりやすかった。これからも一緒に行きたい」
「え?」
「運び屋は地形のプロだ。街道以外の道を簡単に進むことができるし、モンスターの出現地や危険地帯も知っている。キャンプ地だって把握している。こんなに素晴らしい知識を持ってる運び屋がいれば、冒険者は移動中に狩猟のことだけを考えることができる」
「そうですね」
「そして解体師がいれば、モンスターの弱点はもちろん、依頼の採取素材を傷付けないで狩猟する方法を教えてもらえる」
「仰る通りです」
「冒険者、解体師、運び屋がチームを組めば、狩猟クエストは絶対に早く、安全かつ確実に行うことができるはずだ」

 オルフェリアが大きく頷いた。

「アル、実は私もそれを考えていたんです。そして私は、それが空路で実現できないか考えています」
「空路? 空路って、空ってこと?」
「ええ、そうです」
「空で移動できれば、冒険者も、解体師も、運び屋も皆一緒に移動できます。時間も短縮可能。さらには今まで行けなかった地域へ、狩猟や討伐に行くことができます」
「それは確かに凄い。でも、空なんて飛べるの?」
「アルは軽い空気を知ってますか?」
「軽い空気? いや、初めて聞いた」
「世界のどこかに軽い空気というものがあるそうです。これを探して、私は絶対に空を飛ぶ」
「す、凄いよ、オルフェリア! 君はやっぱり天才だね!」
「あの……アルはこの話を聞いてバカにしないのですか?」
「バカになんかしないよ! だって実現したら革命だよ! 手伝えることがあったら何でも言って」
「あ、ありがとうございます!」

 オルフェリアの瞳が涙で潤んでいた。

 空を飛ぶなんて信じられないけど、オルフェリアならできるような気がする。
 俺は全力でオルフェリアを応援しようと思った。
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