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第六章

第95話 クエスト解禁

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 ギルドへ入ると、受付嬢が声をかけてきた。

「アルさん! リチャードさんからお話があるそうですよ!」
「分かりました。ありがとうございます」

 支部長室へ向かった。

「ああ、アル。来てくれたか」
「リチャードさん。ウォルターから聞きました」
「うむ。アル指名の討伐クエストだ。本来なら格付機関シグ・エイトの審査を通すのだが、アル指名なので私の権限で許可を出す。レイはいないが大丈夫か?」
「はい、新装備があるので大丈夫です。もし危険だと判断したら即中断します」
「そうだな。本来は槍豹獣サーべラルの狩猟を一人に任すことなど絶対にない。サーベラルのネームドを一人で討伐したアルだから許可を出すのだ。無理はしないように」
「分かりました。ちなみに、通常個体の強さってダーク・ゼム・イクリプスに近いですか?」
「正直に言うと天と地ほどの差はある。ダーク・ゼム・イクリプスは特別過ぎるんだ。なにせネームドでも上位に入る強さだったからな。通常個体とは比べ物にならんよ」
「そうなんですね」
「とはいえ、通常個体のサーベラルもAランクモンスターだ。間違いなく危険だから油断するな」
「分かりました」
「これがクエスト依頼書だ。確認してくれ」

 ◇◇◇

 クエスト依頼書

 難度 Aランク
 種類 【指名】狩猟 および 採取
 対象 槍豹獣サーべラル 
 内容 アル・パートによる狩猟 全ての素材
 報酬 金貨五十枚 + 指名料金貨二十枚
 期限 一ヶ月以内

 編成 アル・パート必須
 解体 ギルド手配
 運搬 ギルド手配
 特記 出現場所は指示書参照 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み

 ◇◇◇

 俺はこのクエストで、やってみたいことがあった。

「リチャードさん。解体師はオルフェリア・コルトレに依頼したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「イーセ王国から来てる解体師か。腕がいいと評判のようだな。しかし、冒険者が解体師を指名するなんて初めてのことだぞ」
「彼女の技術は超一流です。装備用に剥ぎ取りするなら、絶対に彼女が解体すべきです」
「確かにな。いいだろう、許可する」
「ありがとうございます」
「アルは冒険者ギルドの悪しき風習を変えてくれるかもな」
「そ、そんな大それたことではないです!」
「いいのだ。アルの好きなようにやってみるがいい。わっはっは」

 続いて俺は、研究機関シグ・セブンへ向かった。
 受付嬢に声をかける。

「こんにちは。オルフェリアはいますか?」
「アルさん! こんにちは! オルフェリアさんは……、えーと、今授業中ですね」
「分かりました。終わるまで待ってますね」

 ロビーのソファーに座ると、受付嬢が珈琲を淹れてくれた。
 しばらくして、授業が終わったオルフェリアが講義室から出てきた。

「オルフェリア! 授業お疲れ様」
「アル! どうしたのですか?」
「クエストに行くんだけど、オルフェリアに解体を依頼したい」
「私ですか?」
「ああ、君の解体技術が必要なんだ」
「あ、ありがとうございます」
「運び屋に心当たりはあるかな?」
「ウグマに来て仲良くなった運び屋さんがいるので、声をかけてみますね」
「ありがとう、頼むよ」
「それで、クエスト内容は?」
槍豹獣サーべラルの狩猟だ。素材は装備に使うので、全て綺麗に持ち帰る必要がある」
「分かりました。でも、今はレイ様がいらっしゃらないですよね? 冒険者様は何人ですか?」
「俺一人なんだけど……」
「え! い、いや、あの……サーベラルですよね?」
「そうなんだけどさ。新装備があるから大丈夫かなって……。無謀かな」
「フフ、アルならきっと大丈夫でしょうね。分かりました」

 オルフェリアが承諾してくれたので、クエスト依頼書を渡す。

「あ、そうだ。今回は俺も一緒に移動したいけど平気?」
「え? 私たちとですか? ダメではないと思いますが、私たちと一緒に移動する冒険者様はいませんよ?」
「でも普通に考えたら、一緒に狩猟地へ行って、一緒にキャンプして、一緒に帰ってくる方が効率良いと思うんだよ」

 オルフェリアが驚いたような顔をしている。

「あの……実は私もずっと同じことを考えていたんです! アルの言う通りです!」
「ほんと! 良かった! じゃあ一緒に行こう!」

 その後、正式なクエストの手続きを行い、オルフェリアとスケジュールを調整。
 そしてオルフェリアに運び屋を紹介してもらい、サーベラルの狩猟地を確認した。

 当日の早朝、俺はウグマの郊外へ向かう。
 人目につかない場所で集合するためだ。

 市街地から解体師や運び屋と行動するのは難しい。
 冒険者に見られると、トラブルが発生するかもしれないからだ。
 そのため、何もない街の郊外に集合することにした。

 日の出の時間に集合予定だったが、すでに運び屋とオルフェリアは待っていた。
 解体師のオルフェリア、運び屋のトーマス兄弟、俺の四名でクエストへ出発。

 トーマス兄弟が保有している荷車は四輪で、長さ七メデルト、幅三メデルトと運び屋の荷車の中でもかなり大きいものだった。
 その荷車を甲犀獣ケラモウムが引っ張る。

 運び屋の荷車は寝台完備だ。
 解体師や運び屋は、クエストへ出発すると宿で宿泊しない。
 この荷車の寝台か、キャンプ地で寝泊まりする。

 トーマス兄弟の荷車の寝台は、普通の宿とほとんど変わらなかった。
 寝台には小さなテーブルまで完備。

「凄い! 荷車ってこんな快適に移動できるだ!」

 狭いながらも、まるで部屋そのもので移動しているような感覚だ。
 俺は移動中、オルフェリアから解体について教わったり、トーマス兄弟から地形の説明や、道の進み方などをレクチャーしてもらう。
 とても勉強になり、俺は心の底から感動していた。

 今回初めて解体師や運び屋と行動を共にしているが、メリットしか感じない。
 今後も一緒にクエストへ行きたいと考えていた。

 ウグマを出て三日が経過。
 俺も皆と同じように寝台で就寝している。
 これが想像以上に快適で、旅のようで楽しかった。

「アル。あなた楽しそうにしてますけど、これからサーベラルの狩猟ですよ?」
「そ、そうだね。ごめん。あまりにもこの荷車の寝台が快適で、クエストだってこと忘れてたよ」
「本来なら命がけのクエストだというのに……。アルらしいですね、フフ」

 オルフェリアに笑われてしまった。
 当然遊びではないし、俺が失敗すると解体師や運び屋も危険にさらされる可能性がある。

 気を引き締めよう。
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