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第六章

第93話 完成した新装備

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 レイが旅立って三ヶ月が経過。

 季節は夏も終わる頃に差し掛かっていた。
 その間に俺は一つ年を重ね、二十歳を迎える。

 家の皆が祝ってくれた誕生日。
 いつも山の上で誕生日を過ごしていたので、両親が死んでから誰かに祝ってもらうのは初めてだった。
 そして、エルウッドがいない初めての誕生日。

「レイとエルウッドは元気かな」

 ここまでレイからの連絡はない。
 ただ、レイのことだ。
 問題ないだろう。

 ――

 俺は開発機関シグ・ナインへ向かった。
 ついに装備が完成したと連絡をもらっていたからだ。

「こんにちは。ウォルター」
「おお、来たかアル! 待っていたぞ!」

 ウォルターが出迎えてくれた。
 支部長室に入ると、シグ・ナインのトップである局長のローザがソファーに座っている。

「アル、ついに完成したぞ!」
「ありがとう、ローザ!」

 鎧立てに飾られている新しい鎧。
 ローザが鎧について説明を始めてくれた。

 ◇◇◇

 ダーク・ゼム・イクリプスとウォール・エレ・シャットの素材を使用。
 主要パーツはダーク・ゼム・イクリプスの爪と牙。
 素材は純白で光沢があるため、つや消しの黒色塗装を施した。
 各パーツはウォール・エレ・シャットの黒深石でさらに補強。 
 繋ぎの部分はダーク・ゼム・イクリプスの強靭な漆黒の革を使用。
 全身黒色で構成された鎧に仕上げた。
 重量は軽鎧ライトアーマーよりも軽く、硬度九と世界最高の性能を誇る。

 ◇◇◇

 説明を聞いて俺は興奮した。

「ローザ! これメチャクチャかっこいい! 凄い! 最高だよ! ありがとう!」 
「ククク、お前がそんなに興奮するとはな」

 俺はさっそく装着してみた。

「こ、これ凄い……。本当に軽鎧ライトアーマーより軽い。しかも繋ぎの部分が伸びるから、どんな動きも可能だ。可動域が通常の服と変わらないよ」
「ククク、そうだろう。この鎧は革命だ。新技術は国際特許も取った。デザインも最高だろ?」
「うん! かっこいいし性能は最高だ! 本当に嬉しいよ! ローザ、ウォルター、ありがとう!」
「ククク、アルよ。この鎧は黒靭鎧ウォルムと呼ぶがいい」
黒靭鎧ウォルム……」
「感動するのはまだ早いぞ」

 そう言ってローザは剣を取り出した。
 硬度九であるダーク・ゼム・イクリプスの爪から作られた剣だ。

 薄っすらと白く光る剣身。
 俺は剣の柄を握る。

「こ、これは! す、凄い……」
「ククク、持っただけで分かるか、アルよ」

 俺は盾を持たない。
 両手で剣を持つからだ。

 ツルハシを振る動作と同じ動きで、最大の効果を発揮できるように作成されたのが片刃の大剣ファラゴンだった。
 この剣は、それをさらに洗練し進化させている。
 持った瞬間に理解した。

片刃の大剣ファラゴンを進化させたような剣だね」

 ウォルターが太い腕を組みながら、俺の様子を見ていた。

「ああ、弟のクリスにも連絡を取った。さらに調査機関シグ・ファイブ研究機関シグ・セブンに出向いて、お前のダーク・ゼム・イクリプスとウォール・エレ・シャットの討伐資料を何度も読んだ。そして、局長と連日ミーティングを重ね作り上げたんだ。お前の戦い方に完全にフィットしているぞ」
「うん。持った瞬間に全てが理解できたよ。これは本当に凄い剣だ」

 ローザが俺の顔を見た。

「アルよ。この剣は黒爪の剣レリクスと呼べ。現存する剣の中でも、これほどの性能を誇る剣はないだろう。私の中でも最高傑作の一本だ」
黒爪の剣レリクスか。いいね! かっこいいよ! ありがとう!」

 俺たちは別室へ移動して、黒爪の剣レリクスの試し斬りをすることになった。
 三体の藁人形がシグ・ナイン特製の軽鎧ライトアーマーを装着している。

「ウォルター、この鎧は斬ってもいいのかな?」
「ん? まあいいが、シグ・ナインの鎧だ。簡単には斬れないぞ? まず剣に慣れろ」

 俺は息を整え、剣を構える。
 そして、軽く横払いを放った。

 剣の軽さも相まって、左から右へ流れるような美しい軌道を描く白刃。
 たったの一振りで、三体の藁人形が鎧ごと全て両断された。

 剣を見ると刃こぼれは一切なし。
 これほどまでに軽く、切れ味鋭い剣を俺は知らない。
 片刃の大剣ファラゴンも凄まじい剣だったが、これはそれ以上だ。

「す、凄い剣だな」

 俺は思わず声が出た。
 そして、改めて黒爪の剣レリクスを見つめる。

「ローザ! この剣なら何でも斬れる気がするよ!」
「う、うむ。か、かなりピーキーに仕上げてあるからな。取り扱いに注意しろ」

 ローザが説明してくれた。

 この剣の秘密は、硬度九のダーク・ゼム・イクリプスの爪に、硬度七のウォール・エレ・シャットの黒深石を配合している点だ。
 硬いだけでは折れやすくなるが、絶妙な配合をすることで粘りも持たせている。
 そのため硬くもあり、しなやかで折れない。

 切断時は押し込むことで最大の切れ味を発揮。
 これはツルハシの動きを意識したそうだ。
 確かに通常の剣とは違うため、俺にしか扱えない剣だった。

「レイにもこの素材で剣と鎧を作ってあるが、レイの特性を加味してチューニングしてある。レイが戻ったら細かい調整を行う。レイが帰ってきたらシグ・ナインへ来るように伝えてくれ」
「分かった!」

 レイがいつ帰ってくるか分からないが、この装備を早く見て欲しいと思った。
 新しい装備は本当にワクワクする。

「調整も完了している。もう持っていっていいぞ」
「ローザ、ウォルター、本当にありがとう!」

 俺は嬉しさのあまり、新装備を装着したままシグ・ナインを出た。

 ◇◇◇

 アルが出て行き、部屋に残ったローザとウォルター。

「あいつ、鎧を着たまま行っちまった。鎧ケースも作っていたのに……」

 ウォルターが呟く。
 横に立つローザは、額に流れる汗をハンカチで拭う。

「おい、ウォルター」
「はい」
「あいつは何なんだ」
「と言いますと?」
「いくら黒爪の剣レリクスといえども、藁が詰まったシグ・ナイン製の鎧三体をたった一振りで斬ったぞ?」
「俺もあれには驚きました。うちの鎧は高性能ですからね。それを一気に三体もダメにしやがって。いくらすると思ってるんだ。まったく……」
「アルなら一体くらいは斬れると思っていたが……」
「俺でもです。三体用意したのは予備のためですよ? 何も全部斬れってことじゃない。それを遠慮なく全て斬っていきましたな。しかも一振りで。ガハハハハ」

 ローザは自分で作った剣の限界を知っている。
 アルの筋力を想定しても、シグ・ナイン特製の鎧なら斬っても一体が限度と踏んでいた。

「あいつ、三ヶ月前より遥かに進化してるぞ」
「そのようですな」
「……あいつはダメだ」
「どういう意味で?」
「あんな怪物、誰も相手にできんよ。普通の女には無理だ。レイじゃなきゃダメだろう。レイもまた怪物だからな」
「そうですね。アルの強さが注目されてますが、総合力ではまだレイが格上でしょう」
「うむ、あの女は切れ過ぎるからな。剣も一流、頭脳も一流、そしてあの容姿だ。あの二人は本当に人間なのかと思うぞ」
「確かに。まあでも、局長も大概ですけどな。ガハハハハ」
「どういう意味だ?」
「その若さで神の金槌シャイオンの称号を得た鍛冶師はいないってことですよ」
「おい、ウォルター。褒めても何も出んぞ」
「ガハハハハ、本音ですぜ。でもボーナスは奮発してくださいよ」
「バカか! さて、私の役目はこれで終了だ。帝都へ帰るぞ」
「三ヶ月間お疲れ様でした。久しぶりに局長の鍛冶が見られて感動でしたよ。ガハハハハ」
「うむ、また機会があったら作りたいものだ、ククク」

 ◇◇◇
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