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第六章

第91話 新装備開発

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 レイがイーセ王国へ旅立って二週間が経過。
 俺はクエスト禁止期間のため、ひたすら身体を鍛えていた。 

 早朝のトレーニングを終え朝食。
 すると、執事のステムが一礼してリビングに入ってきた。

「アル様、今日は開発機関シグ・ナインへ行く予定となっています」
「そうだった。ありがとう、ステム」

 今日はシグ・ナインのウォルターに呼ばれている日だ。
 支度をして、さっそく家を出る。

 自宅からシグ・ナインはそれほど遠くない。
 徒歩で向かう。
 シグ・ナインの建物に入ると、受付嬢に支部長室へ案内された。

「おお、アル来たか!」
「こんにちは、ウォルター」

 シグ・ナイン、ウグマ支部長のウォルターだ。
 ソファーにはもう一人、女性が座っていた。

「アル、久しぶりだな。私のことを覚えているか?」
「もちろんです! シグ・ナイン局長、ローザ・モーグさん」
「ククク、お前記憶力いいな」

 ローザは三十五歳という若さで局長職についている。
 冒険者ギルドの局長は、ギルドマスター、サブマスターに次いでナンバースリーの地位だ。
 全世界にいる四十万人ものギルド構成員のトップと言っても過言ではない。

 その中でもシグ・ナインは特に特殊だった。
 ギルドで唯一予算を受け取っていない。
 独自に取得した国際特許や鉱山運営、装備品や道具の販売で莫大な収益があるからだ。
 そんな機関のトップなのだから、余程優秀な人材なのだろう。

「それにしても、ダーク・ゼム・イクリプスとウォール・エレ・シャットを一人で討伐するとはな。未だに信じられん」
「偶然です」
「お前、偶然でネームドを討伐できるわけがなかろう。この化け物め」
「それって褒め言葉ですか?」
「ククク、最上級だ」

 ローザの見た目は、口調と真逆でとても可愛らしい。
 薄い緑色のショートヘアで、毛先は無造作にカールしている。
 大きくつり上がった瞳の色は、綺麗な金糸雀色かなりあいろだ。
 メガネを掛けており年齢よりも遥かに若く見える。

 鍛冶師と聞いていたが、肌は白く手先まで綺麗だ。
 体格は華奢で、レイと同じくらいの身長。
 どう見ても局長なんて偉い人には見えない。

 ウォルターの娘のシーラもそうだったが、帝国の女性は年齢よりも若く見える人が多いようだ。

「アル。私のことはローザでいい。敬語もいらん。ウォルターと一緒でいい」
「分かり……、分かったよ。ローザ」
「ククク、アルとはこれから長いつき合いになるからな」

 ローザは、砂糖をたっぷり入れた珈琲を口に含んだ。
 そして俺の顔を見る。

「さて、アルとレイの新装備開発だが、さすがにこの二頭から作るとなると、私も参加したくなるってものだ。三ヶ月の出張で帝都を出てきた。部下に全て任せてきたぞ」

 ウォルターが俺の顔を見て、得意げな表情を浮かべる。

「アルよ。局長はな、鍛冶師として究極の称号、神の金槌シャイオンを皇帝陛下から授かったんだ。そんな局長が剣を打ってくれるんだぞ。俺も楽しみで仕方がない」
「そ、そんなに凄いんだ。見た目はこんなに可愛い女の子なのに」

 ローザが笑っている。

「ククク、アルも言うじゃないか。面白いやつだ」

 ローザは革袋から小さな白い欠片を出した。

「これが何か分かるか?」

 これは見覚えがある。

「ダーク・ゼム・イクリプスの爪の破片だよね?」
「そうだ。今回、剣と鎧に使うメインの部分は、このダーク・ゼム・イクリプスの爪と牙だ。これらの硬度を測ったら九だった」
「硬度九!」
「ああ、世界中探しても硬度九の剣と鎧などない」
「確かに。俺の片刃の大剣ファラゴンでも硬度八だったよ」
「うむ、間違いなく世界で最も優れた装備になるだろう。他にもダーク・ゼム・イクリプスの強くて伸びる漆黒の毛皮、ウォール・エレ・シャットが体内生成した黒深石も使うのだ。想像するだけでも身震いするぞ。ククク」

 不敵に笑うローザの笑顔が、何やら邪悪に見える。

「完成は予定通り三ヶ月後だ。どうせお前はクエスト禁止だろ?」
「そうなんだよね。特にやることもないから装備の完成が楽しみだよ」
「レイはどうした?」
「レイはちょっと用事があって、イーセ王国に戻ってる」
「そうか。では、レイの装備も開発だけは進めておこう」
「ありがとう!」
「しかし、ネームドを二頭も倒してしまったからクエスト禁止なんて理由、初めて聞いたぞ。本当にお前は化け物だな。ククク」

 これも褒め言葉だと捉えよう。

 俺たちは工房へ移動し、剣の大きさや形状について打ち合わせを行う。
 防具のサイズはすでに計測していたので、好みの色やデザインについて聞かれた。
 だが俺にはよく分からない。
 全てローザに任せすることにした。

「うむ。私に全て任せるとは、お前いいセンスしているぞ。最高にかっこいい装備を作ってやるからな」
「ありがとうローザ。俺はデザインとか分からないからさ。ローザなら全て任せられるよ。よろしく頼むね」
「任せろ。時間があったら頻繁に顔を出せ。私は常に工房にいる。いいな?」
「分かった! 本当にありがとう!」

 ウォルターが俺の肩に手を乗せてきた。

「アル。このあと研究機関シグ・セブンへ行け」
「シグ・セブン?」
「そうだ。ウォール・エレ・シャットの解体に時間がかかっているそうだ。お前は解体の勉強もしたいんだろ?」
「うん、解体は狩猟の勉強になるからね! 二人ともありがとう!」

 俺はシグ・ナインを出て、すぐ近くにあるシグ・セブンへ向かった。

 ◇◇◇

 アルが出て行き、部屋に残った二人。
 ローザの表情が珍しく笑顔だ。

「おい、ウォルター」
「はい」
「あいつは本当に真面目なんだな」
「そうですよ。バカがつくほど真面目な奴です」
「ククク、いい男じゃないか」
「なっ! ま、まさか局長が男を褒めるとは! 惚れましたか? ガハハハハ」
「アホなことを言うな。まだ子供だろう。まあ私があと十歳若かったら考えただろうな。ククク」
「愛に年齢は関係ないですぜ。アルはオススメ物件です。ガハハハハ」
「あいつにはレイがいるだろう。さあ、アルのために最高の装備を作るか」
「はい! やりましょう!」

 ◇◇◇
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