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第五章

第84話 衝撃の事実

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 俺は……岩食竜ディプロクスと戦ってたと思うんだけど。

 あれ?
 今何してるんだろう。
 記憶がない。

 レイ?
 エルウッド?
 二人の顔が見える。

「はっ! ディプロクス!」

 俺はすぐ起き上がった。

「無理しないで横になっていなさい」
「ウォン」
「え? レイ? エルウッド? え? え?」

 状況が全く理解できない。

「アル、落ち着いて聞いて。あなたはディプロクスを討伐したわ。シーラも無事よ。ただ、少しだけ意識を失ってしまったのよ。でももう大丈夫だから安心して」

 レイがゆっくりと語りかけてくれた。
 レイの声はとても心地良い。
 そして、レイが優しい顔で微笑んでくれている。

「そうか、俺はディプロクスを倒したのか」
「そうよ。横に倒れているでしょ?」

 首を動かすと、ディプロクスの死骸が見えた。

「で、でも、何でレイとエルウッドがいるの?」
「それはね」

 その時、登山道の下の方から声が聞こえた。

「おーい! おーい!」

 声の持ち主はウォルターだった。

「はあはあ。大丈夫か!」
「親父!」
「シーラ、お前の報告を見てすぐに動いたぞ。はあはあ」
「まさか親父が来るとは思わなかったよ」
「お前な! ディプロクスだぞ! アルがいたから良かったが一旦相談しろ!」
「いやー、まさか僕もこうなるとは思わなかったんだよ」
「全く、お前ってやつは。状況が分からないから、念のために解体師と運び屋を連れてきた。あとで全部説明しろよ。で、アルは大丈夫なのか」

 ウォルターは怒鳴りながらも、娘の姿を見て安心したようだ。

「ウォルター、俺は大丈夫だよ」
「大丈夫って、レイに抱きかかえられてるじゃねーか」
「アハハ、もう大丈夫。レイ、ありがとう」

 俺は立ち上がり、身体を伸ばした。

「うん、もう大丈夫」

 その俺を見て、レイが深く息を吐く。

「ふうう。さて、アルも無事なようだから言わせてもらうけどね……」

 レイが大きく息を吸う。
 美しい顔が豹変。

「あなたたち、なんてバカなことしたの!」

 レイが突然怒り始めた。

「ど、どうしたの、レイ?」
「どうしたもこうしたもないわよ! あなたね、自分が何をしたか分かってるの!」
「え? え?」
「このディプロクスはね! 固有名保有特異種ネームドモンスターなのよ!」
「ネ、ネームド?」
「そうよ! もっと慎重になりなさい!」

 しばらくの間、俺とシーラは尋常ではないほど怒られた。
 ウォルターが恐る恐る疑問を口にする。

「レ、レイよ。こいつがネームドだと?」
「ええ、そうよ。ディプロクスに黒い個体はいない。いるとしたら、このネームド一頭のみ」
「ま、まさか! 数々の鉱山を潰したという……」
「ええ、ウォール・エレ・シャットよ」
「こ、こいつがウォール・エレ・シャット?」
「崩せぬ黒壁という意味を持つ、正真正銘のネームドよ」
「そ、それをアルが一人で討伐したのか?」

 ウォルターも驚いている。

「アル! こんなことをしていたら命がいくつあっても足りない! 本当に慎重になりなさい!」
「ご、ごめん」
「シーラも責任者でしょ! 止める立場でしょ! あなたが止めなくてどうするの!」
「す、すみませんでした」

 怒ったレイは非常に恐ろしい。
 俺もシーラも完全に萎縮している。

「レ、レイよ。それくらいで……」

 ウォルターが萎縮しながらも声をかけた。
 レイが俺の正面に立つ。

「本当にもう。……この間ダーク・ゼム・イクリプスと死闘したばかりなのに、今度はウォール・エレ・シャットと意識を失うまで戦って……。本当に……死んじゃうわよ……」

 レイが俺の胸に額を押しつけてきた。
 少し涙ぐんでいるようだ。
 俺はレイの肩をそっと抱く。

「ごめん。気をつけるよ」

 そこへ遅れて解体師と運び屋もやってきた。

「解体師です。お声がけ失礼します。し、信じられないのですが、これはウォール・エレ・シャットではないでしょうか……」
「ええ、そのようです。俺も今知りました……」
「ディプロクスと伺っていたのですが……。こ、これは想定外です。ネームドの解体になると我々は資格を持ち合わせていません。ネームドは研究機関シグ・セブンの管轄です」
「そうなんですね」
「一旦このまま運びますが、よろしいでしょうか?」
「分かりました。ただ、尻尾だけは切ってあります」
「え! 尻尾を切ったんですか?」
「はい」
「ど、どうやって!」

 解体師はモンスターの革で作ったマスクを被っている。
 そのため表情は見えない。
 だが、明らかに驚いている声だ。

「俺の剣の素材は硬度八の黒紅石なんです。だから、一点を狙ってひと晩かけて亀裂を作り、そこから切りました」
「そうでしたか。ウォール・エレ・シャットは硬度六の黒深石を食べて不純物を吸収したのち、純度が高くなった黒深石を皮膚に排出します。ですので、皮膚の硬度は七以上と言われています」
「なるほど。じゃあ生半可な剣では対応できないんですね」
「はい、仰る通りです。ウォール・エレ・シャットの皮膚は、ツルハシですら削れないと伝説になっています」
「そ、それほど……」
「この目で見ても信じられません」
「この死骸はどうするんですか?」
「ウグマへ運びシグ・セブンへ引き渡します。シグ・セブンが中心となって解体と研究を行います」
「分かりました」

 ウォルターが会話に入ってきた。

「解体師よ。研究と解体は我々開発機関シグ・ナインも参加する。ウォール・エレ・シャットから排出された黒深石をアルの鎧に使いたい」
「承知いたしました。その旨もお伝えします。それでは我々はこれで。ウォルター様、帰りもリフトを使わせていただきますがよろしいですか?」
「もちろんだ。麓の駅にも、お前たちのことは伝えてある。安心しろ。気をつけて戻れよ」
「ありがとうございます」

 解体師と運び屋が荷車に死骸を乗せる。
 重量があるものは滑車を使って持ち上げるのだが、ウォール・エレ・シャットの重量は普通ではなく苦労していた。

「手伝いますよ」

 俺とウォルターも手伝い、なんとか荷車にウォール・エレ・シャットを載せることができた。
 解体師と運び屋は俺たちにとても感謝してくれて、ウォール・エレ・シャットを運んでいった。

 ウォルターが俺に声をかける。

「解体師があんなに話すのは珍しいな」
「あ、そうか。解体師と冒険者は会話をしないんだよね?」
「そうだ。まあ冒険者が一方的に嫌ってるんだけどな。お前は平気なのか?」
「もちろん。むしろ解体技術を学びたいと思っているよ」
「なるほどな。……お前はギルドに新しい風を吹き込むかもな。ガハハハハ」

 ウォルターは笑っていた。
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