鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第五章

第83話 夜明けの攻防

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 深夜から始まった戦い。
 俺はずっと尻尾を斬りつけていた。

 岩食竜ディプロクスは尻尾による薙ぎ払いしか攻撃パターンがないため、尻尾を斬り落とせば危険はなくなるはずだ。
 呆れるほど堅固な皮膚も、一点集中で狙い続ければ効果はあるだろう。

「体力勝負なら負けない!」

 何度も何度も片刃の大剣ファラゴンを打ち下ろす。

 空は完全に明けた。
 そろそろ日の出も迎えたようだ。
 その時、俺の攻撃を防ぎ続けた岩石の皮膚に変化が見えた。
 ようやく僅かな傷が入った。

 ここまでくれば一気に進むだろう。
 剣を打ちつけるごとに、少しずつ広がっていく亀裂。

「もう少しだ!」

 大きな亀裂となった尻尾の付け根に、渾身の一撃を放つ。
 これまでで最も大きな打撃音と火花。
 完璧な手応えがあった。

「ギャィィイエェェェェェェ!」

 ディプロクスの叫び声が響く。

 俺は狙い通りディプロクスの尻尾を切断。
 これで危険極まりない尻尾による薙ぎ払いがなくなった。

「よしっ!」

 しかし、怒り狂ったディプロクスの動きは俺の想定を超えていた。
 全身で突っ込んできたディプロクス。
 突然の猛スピードに一瞬だけ反応が遅れ、俺はディプロクスの突進を正面からまともに喰らってしまった。
 十メデルトは吹き飛ばされただろう。

「グホッ!」

 ディプロクスの岩石でできた皮膚による突進と、岩肌の地面に叩き付けられた衝撃。
 あまりに強烈で頭を打ってしまった。

「アル!」

 遠くから薄っすら声が聞こえた。

「う、ぐ、ぐ」

 目の焦点が合わない。
 肘をつき、起き上がろうとするも……。
 ダメだ……意識が……飛びそうだ。

「アル! 危ない!」

 もう一度声が聞こえた。

 顔を上げると、ディプロクスが大口を開けて俺の眼前に迫っている。
 岩をも簡単に砕く顎に噛まれたら、身体ごと喰いちぎられるだろう。
 俺は朦朧としながらも、咄嗟に片刃の大剣ファラゴンを握り、目の前に突き出した。

 口の中は剣が通る。
 俺は剣を突き出しただけだが、猛烈な突進の勢いでディプロクスの舌を突き破り、上顎を貫ぬく。
 俺は返り血を浴びながら朦朧とした意識の中で、必死に剣を突き刺す。
 どうやら脳まで達したようだ。

「ギギャ……ギャア……」

 ディプロクスのうめき声が聞こる。
 それでも俺を噛み砕こうとするディプロクス。

「ぐおおおお」

 俺は最後の力を振り絞って剣を押し込んだ。

「ィ……ゥ……」

 ディプロクスは声を振り絞るも、もはや音にならない。
 息絶えたようだ。
 だが俺も剣を抜くことができず、その場に横に倒れ込む。

「アル!」

 誰かが走り寄ってきたようだが、よく分からない。

 意識が遠のく……。

 ◇◇◇

 月が頭上を超える前から始まったアルと岩食竜ディプロクスの戦い。

 クリスおじさんが打った片刃の大剣ファラゴンは、ディプロクスの硬い皮膚でも折れない。
 あれ程の剣を打てるなんて、本当に尊敬する。
 僕もいつか、あんな剣を打ってみたい。

 そのためにも、この戦いは絶対に目を離してはいけない。
 剣が通らない相手にも通用する剣を考えるんだ。

 僕はアルの動きや剣の特性を注視。
 そこで一つ気付いた。
 アルは力に任せて剣を振り下ろしているようで、実は剣を庇っている。

「ウソでしょ? あの剣でもアルの力は出しきれないというの?」

 ギルドで化け物扱いされているアル。
 この目で見るとその意味がよく分かる。
 あまりにも凄まじい戦いだ。

 僕は何度かAランク冒険者の戦いを見たことがある。
 でも、ここまでの攻防は見たことがない。
 Aランク冒険者というより、アルが異常なのだろう。

 無限とも思える体力で、ひたすら攻撃を続けている。
 標高三千メデルトの山の上で、人間にそんなことが可能なのだろうか?
 いつの間にか東の空が明るくなっていた。

「アル! 頑張って!」

 僕にできることは応援しかない。
 夜中から始まった戦いは、ついに日の出を迎えた。
 そして、ディプロクスが凄まじい咆哮を上げる。
 よく見るとアルは尻尾を切っていた。

「す、凄い! あの尻尾を切るとは!」

 しかし、その直後ディプロクスの突進を受けて、アルは十メデルトほど吹き飛んだ。
 地面に投げ出されたアルの様子がおかしい。
 もしかしたら意識が飛んでるかもしれない。

「アル!」

 僕は精一杯叫んだ。

「気付いて! アル!」

 ディプロクスは倒れたアルに迫り、口を大きく開いた。

「危ない!」

 アルはそこへ剣を突き出した。
 顔面を貫かれたディプロクスは、その場に倒れ込む。

 僕は急いでアルの元へ走った。
 アルを見ると、目の焦点が合っていない。
 アルを抱きかかえ介抱する。

「アル! 大丈夫?」
「う……うう……うぅ」
「意識が朦朧としてるようだね。しかし、あの状況でディプロクスを倒すとは。君は本当に凄い」
「レ……レイ……」
「レイ? 誰の名前だろう?」

 アルの回復を待つしかない。
 水筒を出し、水を飲ませる。

「一晩中戦ってたもんね。ありがとうアル」

 少しの間アルを抱きかかえていると、登山道の下の方から何かが走ってきた。

「あれは……ろ、狼牙! ちょっ、ちょっと! 狼牙に襲われたら死んじゃうよ!」

 さっきはアルが僕を守ってくれた。
 今度は僕が守る番だ。
 アルだけは守ろうと、アルを庇うように力いっぱい抱きかかえる。

「クゥゥゥン」
「あれ? 何この狼牙」

 狼牙はアルの横へ来て、顔を舐めていた。

「アル!」

 女性の声が聞こえた。
 登山道を見ると、一人の女性が走ってきている。
 金色の長髪を後頭部で一本に結わっている若い女性だ。

「アル! アル! 大丈夫!」

 僕の前まで来た女性は、この標高で走ってきたのに全く息を切らしてない。
 そして僕の顔を見た。

「私はレイ・ステラー。冒険者をやってます。このアルのパートナーです。アルは、アルは大丈夫ですか!」

 女性は見るからに狼狽えている。

「え、ええ。ディプロクスを討伐した際に脳震盪を起こしたようで……」
「命に別状は?」
「ないと思います」
「そうですか。良かった……。代わりますね」

 女性がアルを抱きかかえた。
 狼牙も心配そうにアルを見ている。
 改めて女性の顔を見ると、信じられないほどの美しさだった。
 こんなに綺麗な女性は見たことがない。

 噂で聞いた、絶世の美女と名高いAランク冒険者のレイ・ステラーのようだ。
 レイ・ステラー……。

「え! あなたがレイ・ステラー!」
「ええ、そうです」
「失礼。僕はこの鉱山の主任をやってる開発機関シグ・ナインのシーラ・ワイヤです」
「あなたが大鋭爪鷹ハーストで送ってくれた手紙を読みました」
「え? シグ・ナインに送ったんですけど……」
「あなたのお父さん、ウォルターが知らせてくれたんです」
「親父が?」
「ええ。ウォルターも来てますよ」
「な、なんで!」
「あなたがディプロクス出現と書いてくれたでしょ? アルのことだから万が一討伐の可能性もあるって、ウォルターが急遽解体師と運び屋を手配してくれて、昨日ウグマを出発したんです。到着したのは深夜だったけど、ウォルターがリフトを動かしてくれたんですよ」
「だからここに来ることができたんですね」

 親父が来てるのか。
 僕がアルにクエストを依頼したから、その経緯を全て説明しないとな。

 アルを抱きかかえてるレイ・ステラーの様子を見ていたら、さっきのアルの言葉を思い出した。

「そういえば、アルは意識が朦朧としてる中でレイって呼んでたけど、あなたのことだったのね」
「え? アルが? やだ……」

 レイ・ステラーの顔が赤くなった。
 うわー。
 凄いものを見た。

 この子、とんでもなく可愛いんだけど。
 アルってこんなに可愛い子がパートナーなの。
 ちょっと引くわ。

 ◇◇◇
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